2014年12月18日

2014年12月17日

2014年12月16日


後藤弘茂のWeekly海外ニュース

次世代機PSP2の懸念と、マルチPPU版PS4のプラン



●勢いを失っている海外でのPSP

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、次世代の携帯ゲーム機「PSP2」の準備を進めている。しかし、仮想敵は、任天堂の「DS2」ではない。iPhoneに代表されるスマートフォン&携帯電話系デバイスが、PSP2の最大の敵だ。

 半導体的に見ても、PSP2はiPhoneに近い。現在のPSPは、独自設計GPUコアとMIPS系CPUコアを載せていた。しかし、PSP2では、ARM Cortex系CPUコアとPowerVR SGX5系GPUコアを使うという。これは、現行のiPhone 3GSのCPUコアとGPUコアとは、アーキテクチャの系列が共通するコアだ。つまり、チップアーキテクチャ的には、スマートフォンに似たデバイスへと変わる。また、液晶ディスプレイも、iPhoneなどと同様にタッチパネルとなっている。この点も、今のスマートフォン的だ。

PowerVR SGXのブロックダイヤグラム(PDF版はこちら)

 もちろん、デバイス自体は、ゲーム機としてのコントローラを備え、全くフィーチャが異なる。中身は同じでも、性格は異なる。しかしSCEは、戦略的にも、PSP2で、ゲームプラットフォームとして台頭してきたiPhoneなどへ対抗しようとしている。

 実は、PSPとその回りの状況は、日本とそれ以外の国で大きく異なっている。日本でのPSPは、「モンスターハンター」などのヒットで、それなりにプラットフォームとして繁栄してきた。また、日本では今世代のゲームコンソールが不振で、任天堂プラットフォームは任天堂以外はビジネスになりにくいという事情から、PSPにゲームパブリッシャが力を入れていた。そのため、日本だけで見るとPSPはかなり力を保っていたように見える。しかし、海外では、そこまでうまくは行っておらず、地域によっては、プラットフォームとしてのPSPは力を失っていた。

 その一方で、米国などでは、iPhoneによってパーソナルなスマートフォン(広義:iPhoneをスマートフォンと区別する場合も多い)の市場が急拡大。その上でのゲームアプリケーションが一気に花開いた。今後、携帯系でのゲームが失速する可能性も高い(iPhoneではゲームでビジネスにすることが難しい)が、今のところは、まだ勢いがある。

 つまり、日本外の地域では、携帯ゲーム機が沈んで行き、携帯電話系でのゲームが一気に興隆して来たエリアが多い。そのため、次世代のPSP2は、ワールドワイドでは、スマートフォン&携帯電話と正面からぶつからなければならない。

●コンテンツ配信が次世代携帯機の最大の壁

 しかし、盛り上がるiPhone&携帯電話ゲーム市場に対抗するには、PSP2に、いくつかの懸念がある。

 まず、大きな懸念はコンテンツディストリビューション(配信)。携帯電話系デバイスの最大の強味は、いつでもどこでも広帯域無線ネットワークにつながっていて、コンテンツを購入&ダウンロードできること。iPhoneがアプリケーションプラットフォームとして急発進できたのも、この利点があったからこそだ。3Gネットワークが広く提供されている現在、携帯電話系デバイスへのコンテンツ供給のパイプは太い。

 そのため、次世代携帯ゲーム機は、どうやってコンテンツを提供するかがカギとなる。ダウンロード型のディストリビューションモデルが基本になるのは言うまでもない。モバイル機器に関しては、ダウンロードモデルへの転換は急ピッチで進みつつある。携帯型のデバイスに対するパッケージ型のコンテンツの供給は、中期的に見れば残る可能性はあるが、急速に消えて行くだろう。

 任天堂は、PSP2と同時期に出す次世代のDS2で、広域ネットワークを使ったコンテンツディストリビューションを導入すると言われている。しかし、DS2は音声通話機能は持たないと見られており、その意味では、Amazon Kindleと同じ路線を取ることになる。多くのエンドユーザーにとっては、コンテンツがどこでも手に入るという利便性が大きなカギとなっており、任天堂はそれを理解していると見られる。

 それに対して、PSP2は、WANの部分はまだ空白のままだという。現在わかっている範囲では、Wi-Fiベースのモデルを当面は想定しているようだ。だとしたら、SCEは、コンテンツディストリビューションで、かなり後れを取ることになる。接続できる場面が限定され、設定も必要なWi-Fiと、広域の3Gネットワークなどでは、利便性が大きく異なるからだ。

 もっとも、PSP2では、携帯電話機能自体をオプションで持たせるプランもあると言われている。まだ、どう展開するかわからないが、SCEも手をこまねいているとは思えない。Kindleが開いた、3Gをコンテンツ配信だけに使う(3Gコストはコンテンツに上乗せする)という路線は、携帯ゲーム機にも突破口を開く可能性が高い。

●次世代PSP2でも汎用OSは採用しない?

 iPhoneの強味は、ゲーム以外にもさまざまなアプリケーションが溢れていること。これは、OSの作り方や、ソフトウェア開発の契約のモデルにも絡む。ゲーム機のソフトウェア開発のビジネスモデルは、通常、極めてクローズドだ。はたしてSCEがAppleのような、より開かれた(完全にオープンではないが)ソフトウェア開発モデルを取るのか、そこはポイントになる。

 OSについては、独自OSで行くのか、LinuxやAndroidなどポピュラーなOSやソフトウェアスタックを採用するのかも、ポイントとなる。汎用的なアプリケーションの繁栄を考えれば、当然後者がいいが、リアルタイムOS的な側面も要求されるゲーム機の場合は、一概にそうとも言い切れない。

 SCEは伝統的に独自OS路線を取ってきた。PSP2でもそれが変わるとは思えない。ちなみに、PS3では、途中まではゲームOSと汎用OSを仮想マシンで共存させる予定だったが、途中からゲームOS一本へと切り替えられた。

 ゲーム中心に作られたPS3 OSは、プリエンプティブなマルチプロセス管理を行なわないなどの仕様が、汎用的な利用で問題視されることもあった。SCEがPSP2 OSを独自開発する場合は、こうした部分を改良する可能性はある。しかし、ゲーム以外のアプリにとってどれだけ使いやすいOSになるかはわからない。

 ちなみに、iPhone OSはよく知られているように、電力や動作性能のためにマルチプロセスを制限している。携帯デバイスでは、必ずしもマルチプロセスがいいわけではない。むしろ、バッテリ駆動時間を考えると、懸念材料となりうる。

 ハードウェアスペックでは、PSP2がiPhoneなど他のモバイルデバイスを凌駕したとしても、疑問が残る。携帯電話系デバイスは、どんどんスペックが向上して行くからで、特にモバイル系はペースが速い。そのため、PSP2がハードウェアスペックを固定すると、すぐに追い抜かれてしまう。これはゲームコンソールにも共通する問題で、スペックを固定するアプローチがいいのかどうかが問われている。

 ちなみに、ハードウェア的には、PSP2は、現行PSPよりもiPhoneなどに近くなる。となると、例えば、将来のよりハイスペックなiPhoneで、PSP2タイトルを走らせるエミュレータが現れるかも知れない。ダウンロードしたPSP2タイトルのコンテンツ保護をクラックして、iPhoneなどで走らせるといった荒技だ。スペック差が開けば、そうしたリスクも現実味を帯びてくる。

初代PSPのブロックダイヤグラム(PDF版はこちら)

●PSPとPSP2の互換性

 ゲーム機としてのPSP2についての、より大きな疑問は、現行PSPとの互換性の問題だ。これについては、相反する2つの情報がある。1つは、PSPとPSP2では互換性は取れないというもの、もう1つは、何らかの上位互換性は確保されるというもの。

 当初は、PSP goによってPSPゲームのダウンロード提供がスタートしたため、PSP2でもダウンロードしたPSPゲームをプレイできる互換性が確保されると予想していた。PSP goがPSP2への戦略的な橋渡しだと予想した。しかし、現状では、互換性には疑問符がついている。ハードウェアアーキテクチャが異なるからだ。

 ハードウェアアーキテクチャが大きく異なる場合、互換性の確保は2つの手段が考えられる。1つはソフトウェアエミュレーションで実現する方法で、もう1つは旧世代のチップをまるごと入れてしまう方法。

 Xbox 360は前者の方法を取り、初代PS3は後者の方法を取った。前者の方法では完全な互換を取ることが難しく、後者の方法はコストがかさむ。SCEは、現在、マシンにコストをかけることが難しい状況にある。ハード単体での利益も、充分に確保しなければならないSCEにとって、PSP2で後者の方法は取りにくいと推測される。旧PSPチップの機能を、PSP2チップのSOC(System on a Chip)に入れ込むことも可能だが、その場合はチップの複雑性を増してしまう。また、旧PSPのIPブロックを新チップに移植するための物理設計作業が必要になる。一方、ソフトウェアエミュレーションの場合は、互換を取れないアプリが出てくる可能性は高い。

●Powerコアをマルチコア化するPS4のプラン

 互換性の点では、PSP2のストーリーと、昨年(2009年)の終わり頃に出てきた次世代PlayStation 4(PS4)のストーリーとは大きく異なる。ゲーム業界に漏れ出るPS4のプランは何度も変わっているが、昨年の終わりには対称型的なマルチコアCPUの案が浮上した。これは、PCライクに汎用CPUコアを複数個搭載するというプランだ。

 現在のPS3は、制御用に汎用性の高いPowerアーキテクチャCPUコア「PPU(Power Processor Unit)」を1個、演算用に汎用だがSIMD(Single Instruction, Multiple Data)演算に最適化したCPUコア「SPU(Synergistic Processor Unit)」を7個(ハードウェア的には8個)搭載している。PPUとSPUが混在する、ヘテロジニアス(Heterogeneous:異種混合)型マルチコアだ。しかし、昨年末に出てきたPS4のプランは、このうちPPUを複数個のマルチコア構成にするというものだったという。

 このプランが面白いのは、SPU群はそのままで、PPUをマルチコア化する点。PS3とのハードウェアベースの互換性を維持しつつ、PPUのマルチコア化で、普通のマルチスレッドプログラミングを容易にするという発想のようだ。これまでに浮上した、SPUを強化するプランとは異なるが、PS3タイトルに対する上位互換性は維持できる。

 SPUは、PPUと命令セットが異なり、メモリアドレス空間も共有されていない。そのため、PPUとSPUでは、普通の対称型マルチコアCPUのような感覚でのマルチスレッドプログラミングができない。そこで、汎用性が高くPowerアーキテクチャベースのPPUを複数個載せることで、容易なマルチスレッドプログラミングが可能なようにする。PPUライクなCPUコアを3個搭載したXbox 360と同レベルの、マルチスレッド環境を目指すと見られる。

Cellのブロックダイヤグラム(PDF版はこちら)
PPEの実行フロー(PDF版はこちら)

●Power7世代の技術がPS4に流入する?

 もっとも、業界関係者によると、実際にこうしたアーキテクチャを実現するとしたら、現行のPPUコアを複数化するのではなく、より新しい世代のPower系汎用CPUコアを使う可能性があるという。Cell B.E.のPPUは、IBMのサーバーCPU「Power4」をカットアウトしたアーキテクチャだったが、PS4の世代なら「Power7」をカットアウトすることも予想できる。ちなみに、Power4とCell B.E.とPower7では、IBMのアーキテクト陣の顔ぶれがある程度重なっている。また、この世代のIBMプロセスになると、Power7で採用した大容量の組み込みDRAMを使うこともできる。

Power7のアーキテクチャ

 ただし、Cell B.E.の時のように、ソニーグループとIBMと東芝が再びCPU開発を共同で行なうことは考えにくい。また、PSP2を見る限り、SCEグループは開発費を抑える方向へ向かっている。そのため、開発はSCEがIBMに発注する形になる可能性が高い。その場合は、かつてCell B.E.の開発センターが置かれたIBMの開発拠点テキサス州オースティンではなく、IBMが顧客向けのカスタム製品の開発を行なうロチェスタの開発センターが担当になるかもしれない。

 いずれにせよ、この種のプランの大きなポイントは、Cell B.E.の大元の設計思想からはずれるという点にある。OSや制御ロジックを走らせる最小限の汎用コアと、演算を中心にアプリケーションロジックのほとんどを実行する演算用汎用コアに分けるというのがCell B.E.の発想だった。つまり、中核の汎用コアは、コーディネーター的な役割で、サブのコアがスカラ演算を含めてアプリケーションのコードの大半を実行する。

 しかし、中核の汎用コアをパワフルにすることは、Cell B.E.の思想から外れて行くことになる。中核の汎用コアで、コードの多くを実行して、一部のコードをサブコアにダウンロードするという発想と見られるからだ。もしかすると、SCEも、そうした方向へと軌道修正を考え始めたのかもしれない。だとしたら、その方向性は、PCのCPUが向かっている方向と、かなり近くなる。