後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Xbox 360のマンマシンインターフェイスは根本改革へ



●コントローラがバリアとMicrosoftが言う(笑)

 「多くの人にとって、(ゲームをプレイできない)バリアはコントローラだ。コントローラは、ゲームプレーヤーと他の人々を隔ててしまう。そこで我々はコントローラを超えられるかどうかを自問してきた。誰もが簡単に楽しめるエンターテイメントを届けられるかどうかを」。

 「我々は、年令やゲーム能力にかかわらず誰もが飛び込んで楽しめるようなものを作りたい。また、コアゲーマーには、これまでにないコントロールの楽しさを与えたい」。

 これは、任天堂のセリフではない。なんと、Microsoftから飛び出したセリフだ。任天堂が数年前から言い続けてきたことと全く同じ文脈であり、これまでのMicrosoftからは、出てくるとは信じられないセリフだ。なんと言っても、Microsoftは初代Xboxのお披露目の際に、巨大コントローラ(US版は非常に大型だった)を出してきて、これがゲーマーが望んでいるコントローラだと誇った過去がある。

 ところが、Microsoftは、6月2日から米ロサンゼルスで開催されたゲームエキスポE3(Electronic Entertainment Expo)に合わせて開いたカンファレンス「Xbox 360 E309 Media Briefing」で、このセリフに続いて、Xbox 360上でナチュラルヒューマンインターフェイスを実現する「Project Natal」のデモを行なった。

 MicrosoftのProject Natalは、3D(深度)センサー付きカメラを含めたセンサーデバイスを使うことで、コントローラを使わずに、人間のジェスチャや音声だけでゲーム機のコントロールを可能にする技術のプロジェクトだ。3Dカメラ技術によるボディモーショントラッキングに加えて音声認識などを使い、ゲーム内キャラクタを操作してゲームをプレイしたり、ゲーム内のバーチャルキャラクタとコミュニケーションを取ったり、ゲーム機のメニュー操作を行なうことができる。

 WiiやニンテンドーDSのような、リモコンやペンといった日常用品のメタファをコントローラにしたインターフェイスとは、また違うステップの革新だ。

 Microsoftだけではない。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)もE3のカンファレンスでモーションコントローラをデモ。プレーヤーのモーションを認識することで、PLAYSTATION 3(PS3)に新しいインタラクティブ性を加えると宣言した。ここへ来て、ゲーム機ベンダーはマンマシンインターフェイスの改革へと、突進し始めた。

●プレゼンテーションではMicrosoftがSCEに圧勝

 任天堂のWiiとDSが示したのは、よりコンシューマに近いレベルのコンピュータにとって、最も重要となるのはマンマシンインターフェイスであるという、非常に単純なルールだった。コンピュータ科学では、ある意味当たり前のアプローチを取ったことで、任天堂はWiiとDSを成功させた。それを間近に見たMicrosoftとSCEが、それぞれの対抗策を打ち出して来るのは、時間の問題だった。

 任天堂のとった方法は、考えようによっては非常に単純なものだった。ハードの性能は追求せず、ハードルの高い新しい技術は導入せず、枯れた技術と穏当な性能で、余裕を持ってユーザーインターフェイスの改革を実現する。それに対して、MicrosoftとSCEは、ユーザーインターフェイスの改革は画面上のUIの改革だけにして、ハードウェア的には性能を追求した。その結果が、任天堂の圧勝だった。

 それに対して、半周遅れでMicrosoftとSCEが取った対抗策は、一言で言えば、より新しい技術とコンピューティングパフォーマンスを活かして、ユーザーインターフェイスを改革すること、だった。技術力で、任天堂より、よりインタラクティブなインターフェイスを作り、この部分での劣勢を一気に巻き返す。それが、MicrosoftとSCEが考えている戦略だろう。

 そして、今回のE3でのビジョンとその見せ方の点で、MicrosoftはSCEに圧勝した。MicrosoftがProject Natalで見せたのは、コントローラを一切使わずに、プレーヤーのモーションでゲームやメニューをコントロールするものだった。ハードウェアは、ディスプレイ側に設置するProject Natalセンサーだけだ。それに対して、SCEが見せたのはプロトタイプのモーションコントローラハードウェアを使ったデモだった。また、MicrosoftはXbox 360のメニュー操作まで含めたベースUIとしてProject Natalを使うデモを見せた。SCEのデモはアプリケーションレベルのものだ。少なくとも、見た目はMicrosoftのProject Natalの方がはるかに衝撃度が高い。

●Project Natalをカンファレンスのトリに持ってきたMicrosoft

 打ち出し方も違った。Microsoftは、カンファレンスの“トリ”にProject Natalを持ってきた。そして、Project Natalがゲーム機を変える大きなマイルストーンだとぶち上げ、有名人を引っ張り出して大々的にアピールした。SCEはモーションコントローラをそこまで目玉とはしなかった。

 Microsoftのカンファレンスでの発言を聞くと、MicrosoftがどれだけProject Natalに期待を持っているかがよくわかる。MicrosoftのDon A. Mattrick氏(Senior Vice President, Interactive Entertainment Business, Entertainment and Devices Division, Microsoft)は、Project Natalを次のように紹介している。

 「我々は、モーションコントローラを付け加えることができるかとよく聞かれる。もちろんできる。コントローラは進化し続けて、ギターや杖やヌンチャクまで登場した。それでも、多くの人にとって、(ゲームをプレイできない)バリアはコントローラだ。コントローラは、ゲームプレーヤーと他の人々を隔ててしまう」。

 「そこで、ユーザー自身をコントローラにできるか考えてみた。答えはイエスだ」。

 このセリフの後、デモが始まり、ユーザーが何も持たずに、身体を動かすだけで格闘ゲームをプレイしたり、クルマのハンドルを動かすだけでレースゲームをプレイするところを始め、さまざまなデモをライブデモを含めて見せた。その中には、Xbox 360のユーザーインターフェイスである「ダッシュボード」を手振りで操作するものも含まれていた。ゲーム機を扱うために、コントローラの操作を覚える必要がなく、すべて直観的に身体を動かすだけでいいというのが、Project Natalの謳い文句だ。

 「Project Natalはプレイの革命的な手法の、現在のコードネームだ。Natalには、これまで生きてきた経験があればいい」とMattrick氏は言う。Microsoftは、こうしたProject Natalの技術を、Webサイトで公開している。

Project NatalセンサーとXbox 360 E3のMicrosoftカンファレンスで行なわれたProject Natalのデモ

【動画】E3 2009で公開されたProject Natal(3分39秒)

●スピルバーグ監督にProject Natalの魅力を語らせる
E3のMicrosoftカンファレンスにスティーブン・スピルバーグ氏を招いた

 さらに、Project Natalの魅力を語らせるために、Microsoftは、映画監督のスティーブン・スピルバーグ(Steven Allan Spielberg)氏を壇上に引っ張り出してきた。スピルバーグ氏は次のように語った。

 「ダン(Mattrick氏)と私は10年前に会って以来、クリティカルな問題にずっと取り組んできた。それは、いかにしてインタラクティブエンターテイメントを、他の形態のエンターテイメント同様、誰にでもアプローチできるものにできるかという問題だ。

 誰でも本や音楽や映画を楽しむが、ほとんどの人がゲームコントローラを手に取るのをためらう。ゲームの業界規模は大きいのに、いまだに60%の家庭にゲーム機はない。ダンと私の意見は同じで、唯一の方法はテクノロジーを見せなくすることだと常に考えていた。それは、(従来のコントローラのように)指や手首(の動き)を認識するのでなく、体全部を認識するテクノロジーによってなされるだろうと。

 2カ月前、ダンとProject Natalを体験した。本当にインタラクティブで劇的だった。映画が四角い形のスクリーンからシネマスコープやIMAXに変わったのと同じくらい重要な瞬間を体験したようだった。

 クリエイターとして私は、ゲーム体験をパーソナルなものにする方法が急に見えたようだった。ストーリーテリングやソーシャルインタラクションのパラダイムを変えることさえできるだろう。Microsoftは車輪を再発明しようとしているのではなく、車輪がまったく無いものを発明しようとしているのだと思う」。

 車輪を再発明するというのは、英語でよく使われる慣用句で、車輪のように広く使われている基礎的な技術をゼロから再発明するような、ムダなことを意味する。つまり、スピルバーグ氏は、コントローラを使う方法は、どんなに工夫しても車輪の再発明のレベルで、本当に革新的なのは車輪(コントローラ)をなくしてしまうことだと言っているわけだ。

 また、Microsoftは、同社傘下のゲーム開発スタジオLionhead Studiosを率いるPeter Molyneux氏も登場させた。Molyneux氏は「ポピュラス」を始めとするゲームを開発した有名ゲームデベロッパだ。

 「Project Natalが革新的であることには、皆同意するだろう。私は、たった1つのことを伝えたい。それはインタラクティブだ。我々はインタラクティブゲームを20年、30年作ってきた……、じつは私はそうは思わない。

 我々の手にあるもの(コントローラ)は、どんどん複雑化しボタンも増えている。これが、我々が作りたいと思うものにとって最大のバリアとなっている。なぜなら、我々が作りたいと願っているのは、われわれの世界へのコネクションだからだ。そして、それこそがProject Natalが実現してくれるものだと信じている。Project Natalは、ゲームプレイのランドスケープを変えるだろう」。

 Molyneux氏は、この後、「Milo Project」と呼ばれるバーチャルボーイ マイロ(Milo)のデモを見せた。

【動画】Peter Molyneux氏の「Milo Project」(3分53秒)

●3Dセンサー企業の買収でE3前にウワサが広がる

 Microsoftが、3Dカメラテクノロジを使った技術をXbox 360に持ち込むというウワサは、E3前から流れていた。大手経済新聞のThe Wall Street Journalでさえ「Microsoft Swings at Wii With Videocam」(The Wall Street Journal, 2009/5/13)とデカデカと報じている状態だった。それは、この記事が伝えるように、Microsoftが3Dセンサー技術のベンチャー企業3DV Systemsの買収に動いたためだ。3DV Systemsの技術を使うために買ったか、それともMicrosoftの開発した技術が3DV Systemsの特許に抵触していたため買ったか、そのあたりはわからない。いずれにしても、同じタイプの技術を使うことはほぼ確実だろう。

 問題はProject Natalの現実性、つまり、“いつ”Microsoftのゲーム機のインターフェイスとして実装されるのか。次の世代のゲーム機になるのか、という点だ。それについては、Project Natalを担当するMicrosoftのKudo Tsunoda氏(Creative Director, Project Natal)が次のようにカンファレンスで語っている。

 「Project Natalがローンチする時には、Project Natalはすでに我々が販売した全てのXbox 360でも、将来の全てのXbox 360でも動くだろう。新しいゲームコンソール(据え置きゲーム機)をローンチすることなく、インタラクティブエンターテイメントの新時代に飛躍できる。この数カ月、クリエイティブパートナーと共にProject Natalを試したが、レスポンスは望みどおりのものだった。Project Natalは全てのXbox 360で動作する。そして開発キットは今日から、開発パートナーに届き始める」。

●実はSCEも同じ技術を5年前にデモ

 おそらく、MicrosoftのProject Natalにいちばん慌てているのはSCEの方だ。任天堂は、ずっと前からSCEやMicrosoftが追いつき追い越そうとすることは予想していたろう。しかし、SCEは今回、テクノロジで優れているというイメージを、Microsoftにすっかり奪われた格好だ。

 もっとも、SCEもこうしたナチュラルインターフェイスの研究を行っていないわけではない。それどころか、SCEは今回MicrosoftがProject Natalで見せたテクノロジとほぼ同じものを、5年も前に見せている。ゲーム開発者カンファレンス「GDC(Game Developers Conference) 2004」での「PS9」というセッションだ。ライブデモこそなかったが、モーショントラッキング技術に関する部分は、非常によく似ていた。下はその時のプレゼンテーションだ。

 つまり、SCEは、研究自体は行なっていながら、それを現実に提供するという宣言にこぎつけるまでのステップで、Microsoftに先を越されたことになる。

GDC 2004の「PS9」というセッションで示されたSCEのモーショントラッキング技術

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