山口真弘の電子辞書最前線
シャープ「PW-GX300」
~英単語の発音を波形でチェックできる英語学習ツール
(2013/1/25 00:00)
シャープの「PW-GX300」は、英語学習に特化したモバイル学習ツールだ。音声を中心とした英語学習のメソッド「ATR CALL」を搭載し、マイクで取り込んだ自分の英単語の発音をネイティブ音声と波形で比較する機能などにより、効果的な英語学習が行なえる。
「受験Brain(PW-GX500)」に続くモバイル学習ツールの第2弾となる本製品は、センター試験コンテンツが中心であるがゆえに高校生向けに特化していた受験Brainとは異なり、英語学習が必要な全年齢のユーザー向けの製品である。カテゴリ的には電子辞書に分類されるが、実質的にはまったく異なるジャンルの製品と言える。
今回はメーカーから試作機を借用することができたので、実際に試用してその特徴をチェックする。なお、市販される製品とは若干相違があるかも知れないことをあらかじめご了承いただきたい。
見た目は5型のカラータブレット。付属のイヤフォンマイクで音声入力が可能
まずは外観と基本スペックから。
液晶はタッチ対応で、サイズは5型。センター試験対応の受験Brainと同様、見た目は5型のカラー液晶タブレットである。解像度は480×320ドットと、このサイズの電子辞書としては一般的で、画面の左右には主要な操作を行なうためのタッチキーが付属する。文字入力が必要な場合は、画面上にソフトキーボードないしは手書きのパレットが表示される仕組みだ。
タッチは静電容量式ではなく感圧式なので、昨今のスマートフォンやタブレットを使い慣れているとやや戸惑うが、慣れれば特に問題はなく、入力にあたってストレスも感じない。またタッチペンも使えることから、メニューの操作は指先、文字入力を中心とした細かい操作はペンといった具合に使い分けられる。タッチペンは本体上部にマグネットでくっつくギミックを採用しており、着脱しやすい。
重量は約220g。リチウムイオン充電池で駆動し、150時間の連続利用が可能とされている。microSDスロットを搭載し、最大32GBまでをサポートする。ただ、センター試験対応の動画コンテンツをダウンロードする必要があった受験Brainとは異なり、大容量ストレージはあまり必要でない。現時点でmicroSDは、各種外国語の辞書カードを追加するのが主な用途ということになるだろう。ちなみに本体メモリは約700MBとなっている。
付属の専用カバーを折り返せすことで、角度がついた状態でテーブルの上に置くことができる。本製品は移動中に電車の中で使うのではなく、おもに部屋で1人で使うシチュエーションが想定されるだけに、机上利用を前提としたこのギミックは正しい。
音声関連の機能については、付属のイヤフォンマイクを使った入力に対応する。この音声入力機能は、次項で紹介する英語学習システム「ATR CALL」で多用することになる。もちろん出力にも対応していおり、イヤフォンのほか本体スピーカーで聴くこともできる。
英単語の発音を波形レベルでネイティブと比較できる機能が秀逸
さて、本製品の特徴はなんといっても、英語学習システム「ATR CALL for Brain(以下ATR CALL)」を搭載していることだ。これは音声を中心とした英語学習のメソッドで、従来の電子辞書はもちろん、この種のポータブルタイプの学習ツールにはない、いくつかの学習機能を備えている。
代表的な機能としては、付属のマイクで英単語の発音を取り込み、それをネイティブの音声と比較できる機能が挙げられる。単に聴き比べるだけではなく、発音を波形で表示して比較でき、ネイティブスピーカーに比べて子音の発音が弱いとか、LとRの区別がついていないといった違いが、目視で理解できるのである。
英語に限らず語学の学習では、シャドーイングやリピーティングと呼ばれる学習方法がある。シャドーイングは発音された単語を後から追いかけて実際に発声することで発音やイントネーションを学ぶ方法、リピーティングは少し長い文節を聞いたあとで発声することで文章単位でのリズムも含めて身に付ける方法だ。どちらも英語学習には効果的とされるが、誰かが採点するわけではないので、いくら真似をしていても自己流の癖が出てしまう可能性はある。
この「ATR CALL」であれば、波形レベルでネイティブと異なる箇所をチェックできるので、シャドーイングやリピーティングに対応した英語学習アプリと異なり、客観的な採点が行なえるというわけだ。実際に試してみても、自覚のなかったおかしな発音が波形でばっちり分かって面白い。と同時に、これまで矯正されてこなかった癖があからさまに分かってしまうので、ややゾッとする。これまでほかの英語学習法がうまくいかなかった人にとっては、注目すべきツールだと言えるだろう。
面白いのは、1人の話者のネイティブ音声に限らず、30名以上の話者のデータが収録されていることだ。もしこれが1人のネイティブスピーカーの音声しか収録されていなければ、その人個人の発音をコピーする形になってしまうわけだが、30人以上のサンプルがあることによって、限りなく標準化された発音をお手本とすることができるわけだ。
また、これらの発音の正確さ、言うならば「ネイティブらしさ」はスコア化され、得点で表示できる仕組みになっている。カラオケの得点のようなもので、ゲーム的な要素を採用することで、飽きずに学習を続けられる仕組みになっている。ほかのユーザーオンラインでランキングを競うような機能こそないが、学習の履歴は記録されるので、飽きっぽい人にはとくにお勧めできる。
ほかにも、タッチペンを使って手で書いて覚える機能や、リスニングによる判定クイズなどの機能を搭載しており、電子辞書はもちろんそれ以外の個人学習デバイスにまで枠を広げても、競合がないユニークなツールとなっている。1つの操作終了時や画面切り替え時にやたらと確認メッセージが出る点、また操作をキャンセルした際のレスポンスが遅い点は改善が必要だと思えるが、それを差し引いても十分に有用だ。前述の発音比較機能はイヤフォンマイクが必要なので販売店の店頭デモ機などで確かめられるかは分からないが、機会があればその仕組みを試してみることをお勧めしたい。
ほぼ英語関連のコンテンツに特化。インターフェイスはアイコンを多用
「ATR CALL」単体の紹介が先になったが、コンテンツ全般についてもざっとチェックしておこう。
本製品の搭載コンテンツ数は40で、その内訳は英語関連が34、国語、百科事典、能力開発がそれぞれ2と、英語にフォーカスした構成になっている。ちなみに能力開発に分類されている2つも、それぞれ英検関連とTOEIC関連なので、あらゆる意味で英語漬けといったコンテンツ構成だ。
ただこの40コンテンツには数え方のマジックがあって、英語関連の34のうち22は「OXFORD BOOKWORMSベストセラー厳選集」が占めており、「赤毛のアン」「オズの魔法使い」などの文学コンテンツを1つずつカウントした結果、22という数になっているのが実情だ。カタログやWebにはコンテンツの数え方について注釈がついてはいるが、個人的にこの数え方はあまり感心しない。他製品と比較する際は、電子辞書を選ぶ時の原則に立ち返って、コンテンツの「数」ではなく「中身」をチェックするよう心がけたい。
さて、電源を入れると表示されるホーム画面では、前述の「ATR CALL」のほか、「字幕リスニング」「辞書」「暗記ツール」などのメニューが表示され、ここで「辞書」をタップすると従来の辞書のホーム画面が起動する作りになっている。要するに起動してすぐに辞書が表示されるのではなく、上にもう1階層あるわけだ。電子辞書ではなくモバイル学習ツールとされるゆえんである。
ちなみにこのホーム画面は、アイコンを中心とした平易な表記になっている。本製品は社会人や受験生といった特定の層にターゲットを絞っているのではなく、英語学習を必要とする全てのユーザーを対象としているため、もっとも平易な表記が必要とされるユーザー、具体的には小学校高学年でも理解できるようにしてある。さすがに漢字はそのまま表示されているが、先の「ATR CALL」のように進行役としてアニメ調のキャラクターが表示されるなど、かなり親しみやすい作りになっている。
そのため、社会人がこの本製品を使おうとすると、自分のような層を想定していない製品だと誤解する可能性がある。前知識なしで本製品に触れていれば、筆者もおそらくそう感じただろう。機能そのものに問題があるわけではなく、またキャラクターを使ったメニューはターゲット層によっては必ずしも悪くないと思えるだけに、複数のスキンを用意して切り替えられるようにするなど、なんらかの改善はほしいところだ。
専用デバイスとしての価値を持った製品
今回のような製品を目にして真っ先に思うのが「スマートフォンやタブレットで代用できるんじゃないの」という疑問である。現在はタッチスクリーンを備えたポータブルデバイスが、スマートフォン、タブレット、ゲーム機、さらには電子書籍端末と全盛だ。こうした状況下では、デバイスはできれば統合したいというのが普通だろう。
が、筆者は今回の製品には(初代の受験Brainもそうだが)肯定的な評価をしている。というのも、コンテンツの特性を考えると、どうしても専用のハードウェアが必要と思わせるだけのものがあるからだ。
特に今回のPW-GX300は、発音を取り込んでネイティブ音声と比較する機能が目玉であり、これを市販の汎用タブレットで使えるようにユーザー側でチューニングするのはさすがに難しいと思える。もしネイティブ発音との比較でどう頑張ってもスコアが上がらない場合、自分の発音が悪いせいなのか、それとも機材のセッティングに問題があるためなのか、判断がつかないからだ。専用ハードウェアなら、こうした問題は排除できる。
また現実問題として、同等のアプリは見かけないというのも理由の1つだ。もし本製品に搭載されているのと同等のアプリが存在したとしても、容量は下手をすると数GBクラスになり、価格もかなり効果になることが考えられる。そこに先のチューニングの問題も絡んでくるとなると、専用デバイスが最適解となるのは自然な流れだろう。発売時点では実売3万円台半ばとなるようだが、実際に使った限りでは十分に納得できる価格設定だ。
気を付けたいのは、カテゴリ的には電子辞書に属する製品ながら、既存の電子辞書とはまったくの別物であることだ。本製品にも辞書機能は付属しており、画面構成や使用感は同社の電子辞書専用機とまったく同じなのだが、搭載されているのは利用頻度の高いコンテンツのみで、タッチ操作も慣れが必要だ。もちろん購入後は電子辞書機能をフルに活用すればいいのだが、新たに電子辞書を購入するつもりなのであれば、別枠で考えるべき製品であるということは、念頭に置いておいた方がよさそうだ。
製品名 | PW-GX300 |
価格 | オープンプライス(店頭予想価格:35,000円前後) |
ディスプレイ | 5型カラー |
ドット数 | 480×320ドット |
電源 | リチウムイオン充電池、ACアダプタ |
駆動時間 | 約150時間 |
拡張機能 | microSD、ブレーンライブラリー |
本体サイズ(突起部含む) | 151×99.6×10.5mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約220g(電池含む) |
収録コンテンツ数 | 40(コンテンツ一覧はこちら) |