山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「ナゾル」

~なぞった単語の意味をわずか2秒で調べられるペン型スキャナ電子辞書

シャープ「ナゾル」。写真は英和モデル

 シャープの「ナゾル」は、なぞった単語の意味を調べられる、ペン型のスキャナ電子辞書だ。収録項目約36万の「グランドコンサイス英和辞典」を搭載した英和モデル「BN-NZ1E」と、収録項目約26万5千の「スーパー大辞林3.0」を搭載した国語モデル「BN-NZ1J」の2機種をラインナップ。価格はオープンプライスだが、多くの量販店では1万円台前半の価格が付けられている。

 電子書籍には、なぞってハイライトを付けた文字列を内蔵辞書やWikipediaなどで検索できる機能を持つビューアが多数存在する。本製品を使えば、紙の本でもこれと同じように、なぞってすぐに内蔵辞書による検索が行なえる。形状もペンを模していることから、本を読みながら使うのも容易というわけだ。

 もっとも、同様のコンセプトのペン型スキャナと翻訳アプリの組み合わせは過去にも存在しているが、読み取りの精度はお世辞にも高いとは言えず、ジャンルを形成するまでには至らなかった経緯がある。それだけに、今回の「ナゾル」の実用性は気になるところだ。

 今回はメーカーから借用した、英和モデルの量産サンプルでその実力をチェックする。発売される製品とは細かい仕様や挙動が若干異なる可能性があるので、予めご了承いただきたい。

読み取り部と表示画面が一体化したペン型ボディを採用

 「ペン型スキャナー辞書」と銘打たれた本製品は、ペンのように握った際の後部に2.6型のモノクロディスプレイを搭載し、意味を表示できる仕組みになっている。つまり本体の握り方は紛れもなくペンと同じなのだが、径はそれなりに太い。もっとも広い部分の断面は36×21mmとのことで、ペットボトルのキャップの径(約30mm)とほぼ同じくらいと考えれば想像しやすいだろう。

 ボディカラーは黒で、先端部およびボタンのアクセントカラーに白色を採用するのが国語モデル、赤色を採用するのが英和モデルとなっている。ボディは樹脂製で、高級感こそないものの成形はしっかりしており、安っぽさはない。重量は電池込みで約86gで、ペン型のデバイスで比べるならば、Apple Pencil(20.7g)約4本分だ。こう書くと重く感じるかもしれないが、本体の径の違いを考えると妥当だろう。

 モノクロ2.6型の液晶画面には、3行×15文字の表示が可能。電卓タイプの安価な電子辞書や、一昔前のワープロ専用機に近い表示領域だ。行数はもう少し欲しかった気もするが、このあたりは本体サイズとの兼ね合いということで、設計の段階でもせめぎ合いがあったであろうことは容易に想像できる。バックライトは搭載しておらず、暗い部屋での利用には向かない。

 電源は単4形電池×2を使用する。最近はどのような機器もUSB充電に対応させ、モバイルバッテリで充電できることをアピールする傾向があるが、本製品は紙の本ないしは書類と組み合わせて使用する機会がほとんどだと考えられるので、電池駆動という設計は正解だろう。ちなみに電池寿命は、指定の単語を1日30回読み取るという条件下で、約30日とされている。

本体外観。先端はキャップで覆われている。長さは約158mmということで、一般的なペンと変わらない
キャップを外したところ。点線の部分を目安に単語を読み取る
先端を横から見たところ。断面は斜めになっている
後部から見たところ。外したキャップはこの赤い部分に取り付ける
左が電源ボタンで、中央にはメニュー選択に用いる十字キーがある。右側にあるのは戻るキーと決定キー
単4形電池×2本で駆動する。設定画面で選択することで、エネループなども利用できる
うまく読み取るためのコツを記したリーフレットが封入されている

読み取ってわずか2秒で意味を表示可能

 本製品は「『今すぐ知りたい』に2秒でこたえる。」というキャッチコピーにもあるように、なぞった文字の意味が約2秒で表示されるというスピーディさを売りとしている。実際の使い方を見ていこう。

 まず最初に先端のキャップを外す。このキャップはスキャンするペン先を保護する目的で取り付けられており、スキャナの使用中は本体後部に取り付けておける。USBメモリなどでも良くあるが、キャップを取り付けられないと紛失の危険があるので、本体後部に取り付けられるというのは、きちんと仕組みが考えられている印象だ。

 続いて親指が当たる位置にあるボタンを押し、本体の電源を入れる。ペン先、もといスキャナ面が緑色に光るので、その状態でテキストをなぞる。スキャナ面には位置合わせのための点線があるので、単語の先頭から最後までを点線に重なるようにしてなぞる。

 読み取りが終わると、本体の液晶ウィンドウに、OCR解析前のイメージが一瞬表示された後、読み取った単語と、その意味が表示される。表示行数は3行ということで、十字ボタンを押すことによって上下のスクロールを行なって残りの説明を読む仕組みだ。親項目などにハイパーリンクが張られている場合、ジャンプしてそれらを読むことができるのはクラムシェルタイプの電子辞書の操作性に近い。ちなみに文字認識エンジンは、オムロンソフトウェアの「MobileOmCR」を使用しているとのことだ。

まずはキャップを外す。本体の電源ボタンを押すと読み取り部が明るく光る
取り外したキャップは本体後部に取り付けておける
「調べたい文字をなぞってください」と表示された状態で原稿に先端を押し当て、文字をなぞる
先端の欠けた部分、クリアパーツ中央の赤点線に文字を合わせる
そのまま右方向へなぞる。1行を2秒でなぞるので、丹念に1文字ずつなぞるのではなく、1行を2文字内でサッとナゾる。そこそこ速いスピードだ
読み取った英単語の意味が表示された。右下に「↓」マークがあるのは、十字キーの下向きを押せば続きが読めることを表している。ちなみに文字サイズの変更はできない
リンクをジャンプして親項目を読むこともできる
実際に読み取った文字を呼び出して表示することもできる
本製品で洋書を読み取り、英単語の意味を表示したところ。3つの単語をまとめて読み取り、十字キーの左右で選択、上下で説明をスクロールしている。なおこの動画では操作音をオフにしているが、実際は要所で音が出る

 読み取り操作で難しいのは「緑色に光っている間に単語をなぞる」ことで、読み取った単語がリアルタイムに液晶画面に表示されるわけではないので、最初のうちは何度か読み取りを繰り返し、開始位置と終了位置、およびスピードについて、コツを把握する必要がある。ちなみに緑色のLEDが光っているのは5秒間で、それを過ぎて消灯してしまった場合は、もう一度ボタンを押して点灯させてやれば良い。

 実際に使った限り、数回も読み取りを繰り返せばすぐ慣れるレベルだが、年配の方にとっては位置合わせおよび動かし方が難しく感じる可能性はあり、もし本製品で躓く箇所があるとすれば、おそらくココだろうと思う。また速度については、「速い」、「遅い」、「良い」といったメッセージが秒数とともに表示されるので、上手く読み取れなかった場合に何が原因だったかは分かるが、ザラザラした紙質とコート紙では摩擦係数も違うので、スムーズに、かつ適切なスピードでなぞるには、やはり慣れが必要となる。

文章ごと取り込んだうえで単語を選択するのがベター

 ここまで出てきていない、製品を使う上での疑問点をチェックしておこう。

 まずは文字の読み取りサイズ。メーカーによると対応範囲は「約6ポイント(約2.1mm大)~約22ポイント(約7.8mm大)」と、広い範囲をカバーしている(手書き文字は非対応)。気になるのは、文字が小さく、複数行を同時になぞらざるを得ない場合だが、読み取り面の中央、赤い点線上に近い行のみが認識の対象となる。試した限りでは、行間がそこそこ詰まった状態でも問題なく読み取れた。

 前後の余分な単語や文字まで読み取ってしまった場合はどうだろうか。本製品は狙った単語だけを読み取るのはかなりコツがいる上、速いスピードで動かすため前後に別の単語が入りやすい。しかし、実際には行単位でまとめて取り込んだ上で、十字キーを前後に動かすことで、目的の単語にフォーカスして意味を調べられるので、むしろ積極的に前後の文字まで取り込んでしまった方が良い。

 ただし、稀に前後2つの英単語がくっついた状態で認識されてしまうことがあり、この場合は、例えば手動でカーソルを当てて切り離すといった救済策はないので、再度読み取りを行なわなくてはいけない。試した限りでは、そこそこの頻度で発生するので、今後アルゴリズムの調整が必要だと感じる。

 英語と違い、単語と単語がスペースで区切られていない日本語ではどうだろうか。国語モデルで試した限り、読み取った文字列の中に辞書に存在する見出し語があると、それを片っ端から表示する仕組みになっているようだ。

 例えば「(カ)スタマーセンターまで」という文字列があれば、「タマ」「マーセ」「センター」「ター」「ま」「まで」と、十字キーを右に押すたびに文字の重複もお構いなしに、各単語の意味を表示する。かなり力技だが、この方式なら目的の単語に到達するのにクリック数が必要な場合はあっても、取りこぼしは発生しにくいので、アプローチとしては正しいと感じる。

複数の単語も問題なく読み取れる。十字キーの左右を押すとフォーカスが移動し、それぞれの単語の意味が表示される。単語だけでなく成句の意味を表示することも可能
「of」と「this」がくっついてひとつの単語として認識されてしまっている。このような読み取り間違いを救済する手段はないようだ。ちなみに行末にある「→」は、このあと文章の続きがあることを意味している
単語の間にスペースがない日本語は、十字キーの左右方向を押すたびに、搭載辞書の見出し語にある単語に順番にフォーカスを当て、意味を表示する仕組みを採用している。そのため取りこぼしは発生しにくいが、目的の単語になかなかたどりつけないことも

 また国語モデルの場合、読み取る対象が日本語ということで、横書きに加えて縦書きのケースもある。もちろん対応はしているのだが、スキャンが上から下になぞらなくてはいけないため、どうしても動かし方が不自然になる。読み取り対象の本や書類を傾けたり、できれば90度向きを回転させるなどして読み取った方が、細かいコントロールもしやすいだろう。ちなみに、メニューでは利き腕を右利きから左利きに切り替えるメニューも用意されている。

国語モデル(下)はアクセントカラーが異なるだけでハードウェアは同一
起動時に縦書きと横書きのいずれかを選択するのも国語モデルならではのメニュー
縦書きを読み取る場合、本を回転させて横向きと同じように読み取るのが自然だ
左利きへの設定変更も可能。その場合は画面が上下に反転し、鏡写しの状態で操作ができるようになる

 複数の行にまたがっている単語や文字列はどうだろうか。この場合、読み取り前に十字キーの右を押すことで、行をまたいで読み取れるモードに切り替わるので、問題なく読み取りが可能だ。最大2行までという制限はあるが、実用上は十分だろう。

 そのほかのメニューについても、ざっと写真で紹介しておく。おそらく、利用頻度がもっとも高いのは履歴機能だろう。一般的な電子辞書と同様、読み取った履歴は自動保存されるので、過去に調べた単語を再度呼び出すのも容易だ。ちなみに、最大保存件数は100件とかなりの余裕がある。

メニュー。「履歴を見る」はもっとも良く使われる機能の1つだろう
ブザー音はやや騒々しいのでオフにしたいところだが、読み取りのステータスが分からなくなるので判断に困るところ。電池はアルカリ乾電池のほかエネループなどにも対応する
「文字色設定」は、画面を白黒反転させるか否かという意味で、色を付けられるという意味ではない
背景色を除去するモードも用意されている。ただし(ドキュメントスキャナなどでもそうだが)背景に模様がある場合には対応できない。これは致し方ないところ

分からない英単語の意味を調べながら洋書を読むのに格好の製品

 個人的な経験から言って、この手の製品には「地雷」も多いわけだが、今回ざっと英和モデルを使ってみた限りでは、実用性も高く、1万円台前半の製品とは思えないほどの完成度だ。確かに使い方にコツは必要であり、中にはどうしても馴染めない人も出てくると予想されるが、そもそもペンは細く軽いのが理想的であり、一方の電子辞書は表示領域が広いのが理想的だ。

 その両者を一体化させようとすると、設計上どちらかに優先順位を付けなくてはならないわけで、そうした制約がある中で、本製品の使い勝手やサイズは、バランスとして悪くないと感じる。もちろん読み取り部だけを独立させ、スキャン結果をBluetoothで飛ばしてスマートフォンの画面で意味を表示する……という仕組みもできなくはないのだろうが(そうした製品も実際にある)、そうしたユーザー層を狙った製品でないだろうし、何より機動力は落ちる。その点、本製品のスタンスは明確で分かりやすい。30日の連続使用ができるのも利点だ。

 実際に使っていても、機能面や挙動において考えうるほとんどの疑問点には何らかの対策が用意されており、全く新しいジャンルの製品でありながら、かなりこなれている印象を受けた。今回メーカーから借用するにあたっては、取扱説明書がなかったのだが、製品ページおよび付属の使い方紹介のリーフレットで要点を押さえておけば、問題なく使うことができた。それだけ使い方もこなれた製品という証明だろう。

 クラムシェル型の電子辞書と違い、複数辞書によるクロス検索には対応しないため、深く学習するという目的にはそぐわないが、分からない英単語の意味を調べながら洋書を読む、また難しい日本語の意味を紐解きながら読むという目的においては、格好の製品と言って良いだろう。今後に期待するのは、電子辞書の1つの利点である、音声出力機能の追加くらいだろうか。まずは店頭でサンプルを触ってみることをおすすめする。