石井英男のデジタル探検隊

国産パーソナル3Dプリンタ「Blade-1」レビュー

~10万円台で購入できるパーソナル3Dプリンタの実力は?

 前回の記事からかなり間が空いてしまったが、今回も3Dプリンタを取り上げたい。昨年(2012年)あたりから、3Dプリンタという言葉をよく見聞きするようになった。一時期に比べると、TVなどの報道の過熱ぶりは収まってきているが、Windows 8.1が標準で3Dプリンタをサポートし、3Dプリンタのための3Dデータ共有サイトも次々開設されるなど、3Dプリンタは依然として注目を集めている。

 前回は、268万円(当時の価格)の業務用エントリークラスの3Dプリンタ「uPrint SE Plus」導入の話を紹介したが、今回は、136,500円のパーソナル3Dプリンタ「Blade-1」をしばらく試用する機会を得たので、その使い勝手などをレビューしていきたい。

国産初のパーソナル3Dプリンタ「Blade-1」とは

 Blade-1は、株式会社ホットプロシードが開発/販売を行なっているパーソナル3Dプリンタだ。ホットプロシードは、ロボットや精密機械部品、工作機械などの設計や製造、販売を行なっているベンチャー企業であり、代表取締役の湯前裕介氏は、パーソナル3Dプリンタの可能性にいち早く着目し、日本で3Dプリンタブームが起きるよりもかなり前の2009年夏に、MakerBotのパーソナル3Dプリンタキット「CupCake CNC」の国内販売を開始している。CupCake CNCは、筐体がMDF製であり、長時間使っているとガタや緩みなどが生じやすく、精度の高い出力を行なうには、定期的なメンテナンスが必要になることが欠点であった。また、組み立てキットであるため、購入者が自分で組み立てや調整を行なわなければならず、初心者には手を出しにくかった。

 そこで、初心者にも使いやすく精度の高いパーソナル3Dプリンタとして開発されたのがBlade-1だ。Blade-1では、フレームとレールが一体になったアルミ製フレームを採用することで、筐体にMDFを採用したパーソナル3Dプリンタよりも高い精度と静粛性を両立。

 また、FDM方式の3Dプリンタの心臓部ともいえる溶解ヘッドに、オール金属製溶解ヘッドを採用し、高い耐久性を実現していることも魅力だ。本体サイズは360×300×310mm(幅×奥行き×高さ、樹脂スプーラーを含まない)で、造形プラットフォームにはヒーターが内蔵されており、材料はABSとPLAの両方に対応する。

 フィラメントの直径は最も一般的に使われている1.75mmであり、純正フィラメントだけでなく、サードパーティ製の利用も可能だ。Z方向のピッチ(積層ピッチ)は0.1~0.4mmで、最大造形サイズは100×100×100mm(同)とやや小さめだが、より造形サイズが大きな「拡張版Blade-1」も販売されている。拡張版Blade-1は、造形サイズが200×200×200mm(同)となり、価格は399,000円になる。ただし、拡張版Blade-1は、PLA専用となる。Blade-1には、ABSフィラメントが1kg分付属しているので、購入後、すぐに使い始められる。

まずはスプールホルダーを取り付ける

 Blade-1は、自分で組み立てる必要のあるキットではなく、完成品として販売されているが、梱包の都合上、フィラメントスプールをセットするためのスプールホルダーが取り外されているので、自分で取り付ける必要がある。取り付けといっても、スプールホルダーを本体フレームにネジで固定するだけだ。スプールホルダーを取り付けたら、フィラメントスプールをフィラメントホルダーに取り付ける。なお、製品はすべて造形テスト済で出荷されているので、初期不良などの心配はない。

梱包箱から取り出した状態のBlade-1。造形テスト済で出荷されているので安心だ。利用前に緑色のテープを剥がす必要がある
造形テストとして六角柱状の物体が出力されている
Blade-1の箱に同梱されている付属品。左上にある樹脂製パーツがスプールホルダーだ
フィラメントとして、ABSとPLAを利用可能。フィラメント1巻で1kg。ABSフィラメントが1巻付属する

 Blade-1は、RepRapを源流とするオープンソースベースの3Dプリンタであり、データ変換ソフトやプリンタ制御ソフトも、オープンソースとして公開されているものを利用する。標準ソフトとして推奨されているのは、データ変換ソフトが「KISSlicer」、プリンタ制御ソフトが「Printrun」である。それぞれ、入手先や設定方法などは、HotproceedのWikiページで、詳しく解説されているので、初心者でも手順に従って行なえば問題はないだろう。KISSlicerとPrintrunのインストールが完了したら、溶解ヘッドにフィラメントをセットする。溶解ヘッドのレバーをつまむことでフィラメント挿入部分が広がるので、奥までフィラメントを差し込めばよい。

 溶解ヘッドにフィラメントをセットしたら、射出テストを行なう。PCとBlade-1を付属のUSBケーブルで接続し、PCの電源を入れ、次にBlade-1の電源を入れる。なお、Blade-1の電源は、付属のACアダプタ経由で供給されるようになっている。Printrunを起動して、Z軸をある程度上げ、溶解ヘッドを250℃まで加熱する(標準で付属しているABSフィラメントの場合)。ヘッドやプラットフォームを加熱するには、Printrunの左下にある「SET」ボタンをクリックすればよい。溶解ヘッドの温度が上がったら、「Extrude」ボタンをクリックすると、ヘッドからフィラメントが射出される。

スプールホルダーをネジで本体フレームに固定したところ
完成したBlade-1。プラットフォームが剥き出しになっており、占有面積はそれほど大きくない
手前にあるレバーをつまんで、ヘッドの奥までフィラメントを差し込む
付属のACアダプタ。12V/10Aという試用で、サイズはやや大きい
上面の奥にUSBポートが、左側面に電源コネクタが用意されている
プリンタ制御ソフト「Printrun」で、Blade-1の制御を行なう。まず、溶解ヘッドの温度を上げて、「Extrude」をクリックしてフィラメントが射出されるか確認する

プラットフォームにマスキングテープを貼って剥がれを防ぐ

 フィラメントの射出テストが完了したら、実際に出力を行なうことになるが、出力を開始する前に、プラットフォームに付属のマスキングテープを貼る必要がある。このマスキングテープを貼ることで、樹脂の食いつきがよくなり、途中で剥がれにくくなる。マスキングテープを造形する物体の底面をすべてカバーするように貼るのがポイントだ。

 なお、マスキングテープやドラフティングテープをプラットフォームに貼ることで、プラットフォームへの樹脂の食いつきを高める手法は、他のFDM方式のパーソナル3Dプリンタでも有効なので、造形途中に樹脂がプラットフォームから剥がれてしまい、造形に失敗する場合は、マスキングテープなどを貼ってみてはいかがだろうか。Blade-1に付属しているマスキングテープは、住友スリーエム製で幅50mmのものである。

住友スリーエムのマスキングテープ(幅50mm)が付属している
マスキングテープをプラットフォームに貼ることで、樹脂の食いつきがよくなり、途中で剥がれにくくなる

KISSlicerとPrintunを使って出力を行なう

 STLデータを出力用のGコードに変換するKISSlicerは汎用ソフトだが、Blade-1専用パラメータ入りのバージョンが、Blade-1 Wikiで公開されているので、そちらをダウンロードして使うのがいいだろう(執筆時点ではver5が最新となっている)。ダウンロードしたら、念のため、Blade-1 Wikiを見ながらパラメータが正しく設定されているか確認しておこう。

 Blade-1を使って3Dプリントを行なう手順は、「3D CADソフトや3D CGソフトを使って出力したい物体のSTLデータを作成する」→「KISSlicerを使ってSTLデータをGコードに変換」→「PrintrunにGコードを読み込ませて出力を行う」という流れになる。KISSlicerもPrintrunも、英語表記のソフトだが、Blade-1 Wikiに設定や操作の方法が書かれているので、それを見ながらやれば、英語の苦手な人でも大丈夫だろう。そこでまず、Genkei.LLCの加藤氏が作成した「ろぼっと君」のデータを利用して、出力を行なってみた。Blade-1は、家庭で動かすことを前提に設計されており、動作音の低減にも注力されている。動作音はそれほど大きくないので、自宅で夜間に動かしていてもあまり気にならない。

KISSlicerの設定。Materialタブで材料に関する設定を行なう
KISSlicerの設定の続き。Printerタブで利用する3Dプリンタに関する設定を行なう
STLデータを読み込ませて、「Slice」ボタンをクリックすることで、Gコードへの変換が行なわれる
Gコードへの変換中。単純な3Dモデルだとすぐに終わるが、ポリゴン数の多い、複雑な3Dモデルでは多少時間がかかる
Gコードへの変換が完了したところ
KISSlicerで変換したGコードを、Printrunに読み込ませ、「Print」ボタンをクリックすれば、出力がスタートする
Blade-1で出力を行なっているところ。材料としてはABSを利用。まずはラフトと呼ばれる土台を出力する
ラフトの上に本体の出力が行なわれる

ラフトとサポート部分を除去して完成

 Blade-1に限らず、FDM方式の3Dプリンタは、下から糸状の樹脂を順に積み上げて出力を行なうため、オーバーハングしている部分は、下にサポートと呼ばれる支えの部分が必要になる。また、プラットフォームの上に直接目的物を出力すると、剥がれやすくなるので、ラフトと呼ばれる土台を出力し、その上に目的の物体を出力するほうが安定した出力結果が得られる。

 ヘッドを複数備えた業務用FDM機では、サポート専用の材料と出力用の材料を同時に使うことができ、サポート部分を専用の溶媒などで溶かして除去できるため、サポートの除去作業が比較的簡単かつ綺麗にできるのだが、パーソナル3Dプリンタのほとんどは、ヘッドを1つしか備えていないため、サポート部分も目的の物体も同じ材料で出力される。

 サポート部分は、除去しやすいように、間隔をあけて点で接触するという感じにはなっているのだが、やはり手でサポート部分を取り外していくのはなかなか大変だ。出力する向きを変えたり、いくつかのパーツに分割するなどして、できるだけサポート部分が不要になるように出力するのがコツだ。

出力が完了した「ろぼっと君」をプラットフォームから外したところ。ラフトやサポート部分を手で取り除く必要がある
ろぼっと君のラフトとサポート部分を除去したところ。ヤスリなどで表面を整えればさらにキレイになる

簡単な3Dモデリングにも挑戦してみた

 せっかく、3Dプリンタを試用できることになったのだから、他人が作った3Dデータだけを出力していてはつまらない。とはいえ、筆者は、3D CGソフトや3D CADソフトを使ったことがほとんどなく、複雑な物体のモデリングはできない。

 そこで、非常に簡単なものだが、3D CADソフト「MoI」を使って、トレーディングカードゲーム「コロッサス・オーダー」のプレイに利用する「ロカスマーカー」をモデリングしてみた。ロカスマーカーは形状は特に決まっていないのだが、カードの上に置いて目印として使うためのもので、サイズは1円玉や10円玉程度が使いやすい。そこで直径20mm、厚さ3mmの短い円筒の上に厚さ1mmのCOという文字を貼り付けたものをモデリングし、Blade-1で出力してみた。これくらいのサイズだと、出力も数分で完了する。

 今回筆者が作ったロカスマーカーは、3Dモデリングとしては非常に単純なものだが、このように、自分の趣味で使う小物や子供にあげるオモチャなどを、自分でデザインして作れるのは、やはり3Dプリンタならではの楽しみであろう。

MoIを使ってモデリングしたロカスマーカー。短い円筒に「CO」の文字を貼り付けただけの単純なものだ
Blade-1で出力したオリジナルロカスマーカー。こういう単純な形状なら、サポート部分は不要だ
自作ロカスマーカーを使ってコロッサス・オーダーをプレイしているところ。ロカスポイント(上に並んでいるカード)をいくつ消費したかを示すためにロカスマーカーを置く

3Dプリンタをにじっくり取り組みたい方にお勧め

Maker Faire Tokyo 2013で展示されていたBlade-1の出力サンプル。積層跡もほとんど目立たず、見事な出力結果だ

 Blade-1は、国内で製造/販売されている数少ないパーソナル3Dプリンタであり、日本語での手厚いサポートを受けられることが魅力だ。海外製3Dプリンタは、トラブルなく動いている場合はいいが、いったんトラブルが起こると、海を越えての対応となるため、時間がかかることがある。海外メーカーから直販で購入した場合は、英語でのコミュニケーションスキルも必要になる。

 しかし、Blade-1の開発元のホットプロシードは、メールなどでのユーザーサポートはもちろん、修理体制もしっかりしているので安心だ。3Dプリンタ初心者である筆者が出力したロボット君は、表面の粗さや積層跡が多少目立つが、しっかり調整を行ない、パラメータを最適化すれば、より精度の高い出力が可能になる。Maker Faire Tokyo 2013では、ホットプロシードがブースを出展しており、Blade-1での出力サンプルが展示されていたが、そのサンプルは積層跡もほとんど目立たず、非常に綺麗であった。

 Blade-1は、販売が開始されてから1年以上経っているため、ユーザーも多く、ホットプロシードが運営するフォーラムで、使いこなしやトラブルシューティングなどについて活発な意見が交換されていることも魅力だ。3Dプリンタにじっくり取り組みたいという人にお勧めしたい。

(石井 英男)