井上繁樹の最新通信機器事情

バッファロー「WZR-1750DHP2」

〜iPhoneやNexus 7で速度が向上する「ビームフォーミングEX」を試す

発売中

価格:22,100円(税抜)

 ビームフォーミングは電波による通信の速度と安定性を向上させる技術だ。少し前までは、親機と子機の両方が対応していないと利用できない製品ばかりだったが、最近では子機側が対応していなくても利用可能な製品が登場しているということで、その効果を調べてみた。

概要

 ビームフォーミングは無線LANだけでなく携帯電話等の無線通信でも採用されている技術だ。アンテナを複数使って、受信した電波の位相や振幅の差を基に、出力する電波を調節して機器間の電波強度を改善する。特に、電波の回り込みにくい位置にある場合や、通り道になる壁が厚くなっている場合に効果が見込める。ただし、元々電波が十分届く環境では目立った効果は得られない。

バッファロー「WZR-1750DHP2」。5GHz帯のビームフォーミングに対応している
ASUS「PCE-AC68」。ビームフォーミングに対応した無線LAN子機。PCIe接続のデスクトップ向け製品

 ビームフォーミングでは、同じ位相の電波が強め合い、異なる位相の電波が弱め合う性質を利用して、ちょうど通信対象の場所で電波強度が上がるように出力する電波を調節する。その結果通信速度と安定性が向上する。親機と子機の両方がビームフォーミングに対応しているのがベストだが、親機のみ対応でも、子機から見てダウンロード方向の速度の向上が見込める。

 ビームフォーミングは無線LANの世界ではIEEE 802.11n(以下11n)の時代に登場したが、採用製品は少なかった。IEEE 802.11ac(以下11ac)では規格が整理されたこともあり、普及が進むかもしれない。なお、11nのビームフォーミングと11acのビームフォーミングでは互換性が無い。

 今回ビームフォーミングのテストのためにバッファローの無線LAN親機「WZR-1750DHP2」を使用した。iPhone 5以降やiPadの2013年以降発売モデル、Nexus7(2013年モデル)など、対応機種は限られるが、子機側がビームフォーミングに対応していなくても効果が得られる「ビームフォーミングEX」と呼ばれる機能を搭載している。

 WZR-1750DHP2同様、子機側がビームフォーミングに対応していなくても、ビームフォーミングの効果が得られる製品として、「Ai-Rader」を搭載したASUSの「RT-AC68U」を始めとする製品や、「beamforming+」を搭載したNETGEARの「R7000」を始めとする製品、Appleの「AirMac Extream」などがある。なお、ここで挙げたもののうち(バッファローのものも含め)、ASUSの製品以外は5GHz帯の無線LANあるいは11acに対応していることがビームフォーミングを使うための必須条件になっている。

ビームフォーミングEXの使い方

 WZR-1750DHP2でビームフォーミングEXを使用するには、ファームウェアを最新のものに更新して機能を有効にする必要がある。ビームフォーミングEXの設定は、5GHz帯の無線LANの設定項目にある。つまり、ビームフォーミングEXは5GHz帯の無線LANでのみ利用可能だ。5GHz帯の無線LANのみ対応というのは、WZR-1750DHP2に限った話ではなく、例えばNETGEAR製品やApple「AirMac」のビームフォーミングは、5GHz帯を使う11acのみ利用可能だ。

ビームフォーミングEXを使用するには最新のファームウェアに更新する必要がある
更新中は電源のオン/オフはできない
ビームフォーミングEXの設定は[詳細設定]-[無線設定]-[5GHz]にある
ASUS「PCE-AC68」のビームフォーミング設定画面。無線LAN親機でも設定項目が無い製品もある(常時、あるいは適宜有効になるものと思われる)
Nexus 7(2013)では48より値の大きなチャンネルを認識しない。チャンネル設定は自動にせず、適切なものを決め打ちするのがおすすめだ

 バッファローはビームフォーミングEX対応機器として、「iPhone 5/5S/5C」と、「iPad(2013)」、「iPad Retina」、「iPad mini」、「Nexus 7(2013)」を挙げている。仕組みを考えると、PCなど他の製品でも有効に働きそうだが、バッファローはPC等での効果を保証していない。

ベンチマーク

 ビームフォーミングEXの効果を測定するために使用したハードは、iPhone 5、iPad Retina、Nexus 7(2013)、Windows 8.1 Proノート(Core i5-3210M、8GBメモリ、SSD)の4種類。測定のために使用したソフトはiOSとAndroid搭載機が「WiFiPerf」、Windows搭載機が「Jperf」(iperf)。以上をiperfをサーバーとして稼働させたWindows 8.1 Proデスクトップ(Core i5-4590S、8GBメモリ、SSD)に繋いで速度を測定した。

 なお、クライアント側は5GHz帯の無線LANで(暗号化方式はいずれも「WPA2-PSK/AES」)、サーバー側については1Gbpsの有線LANでWZR-1750DHP2につないだ。測定環境は5GHz帯ユーザーが5件以下の鉄骨マンションの一室で、WZR-1750DHP2を置いた部屋と、電波の届きにくい別の部屋の2カ所で測定を行なった。

速度の測定に使用したiPad Retina、Nexus 7、iPhone 5。手前のUSB機器がAterm WL900U
「Wifi Analyzer」で表示方法をAPリストにした状態。ベンチマークを行なった同室内での電波強度は-44dBm前後、電波のつながりにくい場所の電波強度は-74dBm前後だった
速度測定に使用した「WiFiPerf」。iOS、Androidの両方で使えるiperfを使ったベンチマークソフトだ
画面はAndroid版のWiFiPerfをNexus 7で使用しているところ。機能的にはiOS版もAndroid版も同じ
画面はiOS版のWiFiPerf。iPad Retinaで使用しているところ。iPadではスクロールしなくても画面全体が見渡せる
WiFiPerfはiperf3と組み合わせて使う必要がある。画面はiperf3にGUIを被せたIperf3-Cygwin-GUI。Jperfと見た目はほぼ同じだ

 「WiFiPerf」を使用したのは、AndroidとiOSの両方で動くことから。WiFiPerfはサーバーがiperf3以降でないと動かないので、「Iperf3-Cygwin-GUI」をサーバーとして使った。Windowsノートについては以前よりJperf(iperf2系)を使ってきたこともあり、今回もJperfを使用した。WindowsノートでJperfを使う際はサーバー側もJperfを稼働させて速度を測定した。

 測定は、各機種ごとに、4秒間隔で計30秒行なうものを1セットとして、3セットずつ行ない、1セットごとの平均値を以下の表にまとめた。

【表1】Nexus 7のiperf結果
同室内(-37dBm前後) 悪条件(-74dBm前後)
テスト1 テスト2 テスト3 テスト1 テスト2 テスト3
bf EX 有効 80.0 81.0 81.4 46.4 49.9 34.4
bf EX 無効 79.7 79.4 80.6 36.1 30.4 25.7
【表2】iPhone 5のiperf結果
同室内(-37dBm前後) 悪条件(-74dBm前後)
テスト1 テスト2 テスト3 テスト1 テスト2 テスト3
bf EX 有効 71.1 71.2 71.5 27.5 39.1 40.7
bf EX 無効 70.5 69.6 72.5 34.6 36.7 38.4
【表3】iPad Retinaのiperf結果
同室内(-37dBm前後) 悪条件(-74dBm前後)
テスト1 テスト2 テスト3 テスト1 テスト2 テスト3
bf EX 有効 72.3 75.7 76.2 49.6 53.3 42.6
bf EX 無効 70.4 74.4 75.9 50.6 55.4 54.3
【表4】PC + Aterm WL900Uのiperf結果
同室内(-37dBm前後) 悪条件(-74dBm前後)
テスト1 テスト2 テスト3 テスト1 テスト2 テスト3
bf EX 有効 436.0 512.0 460.0 188.0 144.0 143.0
bf EX 無効 495.0 460.0 510.0 177.0 160.0 141.0

 結果を見ると概ねビームフォーミングEXを有効にした場合の方が良くなっているが、逆転しているケースも少なからずある。速度差についても、通常無線LANを使用する際の速度の振れ幅の範囲と言えなくもないが、バッファローが効果を保証していないPCの結果を除けば、ビームフォーミングEXを使用した場合の方が優勢だ。大雑把に言って5回テストしたうち4回はビームフォーミングEXを使った場合が速かったわけで、一定以上の効果はあると言っていいのではないだろうか。

まとめと感想

 ベンチマーク結果を見る限りビームフォーミングEX、つまり子機側が対応していない場合でもビームフォーミングは効果はあるようだ。ベンチマークの項目ではその差は誤差の範囲と書いてしまったが、誤差の範囲である数Mbpsも違えば体感速度が大きく向上する場面もあり得る。有線LANケーブルのように安定して速度が出るわけではない無線LAN環境では、あって損のない機能だと言える。もちろん、電波が十分届いて速度も出ている環境であれば、無理に導入する必要も無いとも言える。

 ちなみに、発売元のバッファローは、「ビームフォーミングEX」は高速なCPUを搭載したWZR-1750DHP2だから実現できたとしている。CPUの高速化は止められない流れなので、今後はWZR-1750DHP2のような上位モデルだけでなく、安価なモデルでも利用できるできるようになるのかもしれない。ちなみに、今回は試せなかったが、バッファローのビームフォーミングEXの解説サイトを見ると位置だけでなく、動きも見て目的の機器に電波を届けることができる旨の記述がある。CPUの高速化は動くシチュエーションでも効果を期待できそうなので、今後が楽しみだ。

 それからおまけになるが、ビームフォーミングという言葉や仕組みから、電波の届く距離も伸びるかもしれないかと期待した人は居ないだろうか。今回ベンチマークを取るにあたって、条件の悪い場所を探し回ったところ、ビームフォーミングEXを有効にした場合も、無効にした場合もほぼ同じ場所で電波を捉えることができなくなった。電波が届かなくなってしまう(アンテナが立たなくなってしまう)場所を複数見つけて検証したわけでもないので、この件はあくまで参考として書いておく。

(井上 繁樹)