■井上繁樹の最新通信機器事情■
コレガ「WLR300NNH」は、IEEE 802.11a/b/gに/n対応した無線LANルーターだ。2.4GHz帯に加え5GHz帯に対応したアクセスポイントを搭載しており、5GHz帯の11nも利用できる。有線部分は1Gbpsの4ポートのハブを搭載。USBストレージのNAS化機能があり、NAS化したフォルダを使ってiTunesサーバーや、メディアサーバー(DLNA)としても使える。
セキュリティ機能としては、IPフィルタやアクセスURL制限に加え、スケジュールを設定して無線LANをオン/オフする機能を搭載している。また、低いレベルの暗号化機能しか持たないゲーム機と共存するため、インターネット接続のみ提供する専用のアクセスポイントを搭載している。
本機で特に着目したいのは5GHz帯の11nに対応していること。2.4GHz帯との同時使用も可能だ。5GHz帯の11nおよび11aは、電子レンジを始めとしたノイズ源が多い2.4GHz帯の11b/g/nと比べて干渉を受けにくい特徴がある。その反面、周波数が高いぶん障害物に弱く、同じ階層の見通しの良い場所で使うことを推奨されている。
店頭では広く普及した11g/bと互換性がある2.4GHz帯11n対応機が人気だ。普及している分価格が安いこともある。けれど無線LANでは普及していることが逆にデメリットになることがある。無線LANは共有物である電波を使うため干渉の影響は避けられない。階上階下にも電波がよく飛ぶ2.4GHz帯ともなればその分影響は大きくなる。ユーザー数が多いとなればなおのこと。
実際ベンチマークをとってみたが、2.4GHz帯と5GHz帯の11nの速度差は小さくなかった。周囲に干渉源がほぼ無い5GHz帯と干渉源だらけの2.4GHz帯との、えこひいきが過ぎる勝負なわけだから当然なのだが、無線LANでは電波環境もスペックのうち。決して卑怯な勝負では無い。
WLR300NNHはWPSに対応している。WPSはAOSSとほぼ同様の機能で、セキュリティキーを手入力することなく安全かつ簡単に無線LANの接続設定ができる。要はウィザードに従って押せと言われたタイミングでWPSボタンを押すだけでOK。だからAOSS以外使ったことがないという人でも迷わず使えると思う。
●5GHz帯と2.4GHz帯の11nベンチマーク
ここでは「CrystalDiskMark 2.2」を使って5GHz帯および2.4GHz帯の11nの速度を測定した。接続元はWindows 7 PC、接続先はWindows Vista(SP2) PC。前者にバッファローのUSB無線LANアダプタ「WLI-UC-AG300N」をセットし、後者はスイッチングハブを経由して1Gbps有線で、それぞれルーターモードのWLR300NNHにつないだ。テスト環境は近隣に11b/g/nユーザーの多いワンルームマンションの一室。セキュリティ機能はいずれもWPA2-PSK(AES)を使用した。
結果は5GHz帯が読み込み約60Mbps、書き込み約83Mbpsだった。また、2.4GHz帯は読み込み約54Mbps、書き込み約52Mbpsだった。5GHz帯が2.4GHz帯に対して、読み込みで約1.1倍、書き込みで約1.6倍上回る結果になった。これだけの差がついたのは、やはり2.4GHz帯が5GHz帯と比べて干渉の影響を受けているからだろう。ちなみに、バッファローの「無線LAN診断」で見る限り近隣に5GHz帯ユーザーは見当たらなかった。
バッファローの11a/b/g/n対応USB無線LANアダプタ「WLI-UC-AG300N」 | バッファロー「無線LAN診断」。無線LANアダプタ同梱ソフト。電波の種類別に混雑状況を調べることができる |
5GHz帯11nのベンチマーク結果 | 2.4GHz帯11nのベンチマーク結果 |
●5GHz帯と2.4GHz帯の11n倍速モードベンチマーク
WLR300NNHは5GHz帯と2.4GHz帯の両方で11nの倍速モードに対応している。モードの変更は管理画面で行なう。倍速モードで先と同じ条件で計測した結果が以下だ。
結果は5GHz帯倍速が読み込み約98Mbps、書き込み約154Mbpsだった。通常モードと比べると、それぞれ約1.6倍、約1.9倍にスピードアップした。また、2.4GHz帯倍速は読み込み約83Mbps、書き込み約95Mbpsだった。通常モードと比べると、それぞれ約1.5倍、約1.8倍にスピードアップした。
5GHz帯の11n倍速と2.4GHz帯の11n倍速の速度差は読み込みで約1.2倍、書き込みで約1.6倍だった。倍速になって5GHz帯が2.4GHz帯にわずかだがさらに差をつける結果になった。
以上の倍速及び非倍速モードでの測定結果をまとめたものが以下の表だ。
対Vista SP2(NTFS)ドライブ測定結果 | ||||
接続規格 | 速度(Mbps) | |||
読み込み | 書き込み | |||
2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz | |
11g | 18.12 | 19.71 | n/a | |
11a | n/a | 23.57 | n/a | 23.66 |
11n | 53.77 | 59.89 | 52.09 | 82.96 |
11n×2 | 82.8 | 98.23 | 95.21 | 154.18 |
1Gbps(参考) | 294.86 | 411.71 | ||
参考:対Ubuntu 9.10(Ext3)ドライブ測定結果 | ||||
接続規格 | 速度(Mbps) | |||
読み込み | 書き込み | |||
2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz | |
11g | 16.83 | n/a | 20.39 | n/a |
11a | n/a | 22.09 | n/a | 24.39 |
11n | 44.46 | 63.48 | 63.22 | 90.26 |
11n×2 | 47.1 | 71.09 | 93.11 | 138.58 |
11n×2(ftp) | 51.38 | 61.17 | 95.28 | 150.71 |
1Gbps | 411.13 | 900.1 | ||
※ftpサーバーはproftpd、ftpクライアントはftpコマンドを使用 |
●悪条件下での倍速モード接続
先の測定は無線LANの親機と子機が同じ部屋にある電波状態の良い状況で行なったが、今度は倍速モードの安定性を見るために、電波状態の悪い状況で測定してみた。電波状態はバッファローの「クライアントマネージャV」の電波状態表示で30%(部屋の中は90%)。
結果は、5GHz帯の11n倍速モードが通常モード比べて読み込みで約1.6倍速、書き込みで1.5倍速だった。また2.4GHz帯の倍速モードは同様にそれぞれ約1.3倍速、約1.6倍速だった。条件のいい時と比べると速度の伸びが悪いが倍速モードの優位さは変わらなかった。
接続規格 | 速度(Mbps) | |||
読み込み | 書き込み | |||
2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz | |
11n | 24.03 | 28.87 | 15.12 | 29.46 |
11n×2 | 30.51 | 46.64 | 24.3 | 45.03 |
●NAS機能とベンチマーク
WLR300NNHのNAS機能は、本体正面のUSB端子に接続したストレージをNAS化するものだ。接続ストレージはセルフパワード推奨で、ハブ経由は対応しない。同時に接続できるのは1つまで。ホットプラグ対応なので接続機器の切り替えも簡単にできる。フォーマットはFAT16/32に対応するほか、読み込みのみNTFSに対応する。NTFS形式での書き込みに対応していないのは少々残念だが、うっかり大切なファイルを消してしまう危険も無いわけで、意外に使える場面もあるのではないだろうか。
エクスプローラーのアドレスバーに円記号を2つ入れた後にWLR300NNHのIPアドレスを入力 | publicフォルダが見えるはずなのでそのままネットワークフォルダとして登録。以上の操作でNASフォルダが使えるようになった |
続いてNASのベンチマーク。USBメモリとUSB HDDを使って速度を測定した結果が以下の表だ。
NAS(USBメモリ)の測定結果 | ||||||
接続規格 | 速度(Mbps) | |||||
読み込み(FAT32) | 読み込み(NTFS) | 書き込み(FAT32) | ||||
2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz | |
11n | 34.09 | 48.86 | 41.83 | 51.1 | 21.27 | 28.1 |
11n×2 | 35.74 | 43.49 | 44.62 | 49.72 | 19.84 | 29.86 |
NAS(USB接続HDD)の測定結果 | ||||||
接続規格 | 速度(Mbps) | |||||
読み込み(FAT32) | 読み込み(NTFS) | 書き込み(FAT32) | ||||
2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz | |
11n | 33.54 | 48.34 | 29.81 | 46.33 | 25.18 | 37.21 |
11n×2 | 36.96 | 43.18 | 40.58 | 50.24 | 25.77 | 38.97 |
※NTFSは「転送速度計算」(K-10氏)と1GB超のファイルを使って測定 |
細かく数字を見ていくと確かに違いはあるのだが、よく見ると通常モードと倍速モードの差があまりない。これはおそらく、通常モードの時点で接続速度がNASのスペックを上回ってしまっていているためだと考えられる。
WLR300NNHはiTunesサーバー機能とDLNAサーバー機能を搭載している。どちらもNASに作成したフォルダを使うもので設定は管理画面で行なう。ライブラリの自動更新機能は無いので、該当フォルダにファイルを追加/削除するたびにライブラリの更新作業を行なう。もっとも、作業と言っても同じ管理画面で「設定」ボタンをクリックするだけでOKだ。
WLR300NNHのサーバー機能を使わず、ネットワークドライブとして登録したNASフォルダを、iTunesやWMPなどアプリケーションから直接呼び出す方法もある。その時注意しなければならないのがネットワークドライブのドライブレターの扱い。これをうっかり違うものに変えてしまうと正常に動かなくなる。同じものを使い続けられるように工夫しよう。
●まとめと感想
ちょっと分かり辛かったのが、デフォルトの本体IPアドレスが192.168.1.1なこと。インターネットを使う場合、デフォルトのIPアドレスが192.168.1.1なモデム兼ルーターにつなぐことになるので、そのままだとインターネットにはつなげない。必ず管理画面の「簡単設定」機能を使うなどして設定変更をする必要がある。
ルーター機能をオフにしてブリッジモードにすればそのままつなげても使えるのだが、デフォルト設定ではルーター機能はオンなのだ。最も、最初に一度設定を済ませておけばいいだけの話なので、使う側の慣れの問題である。そのあたり分かってしまえば、WLR300NNHは高速でレスポンスの良い無線LANルーターとしてあなたの役に立ってくれることだろう。なお、最後に、管理画面も非常に高速でサクサク動作することを付記しておく。
(2010年 3月 29日)