東芝「BookPlace DB50」
~約330gと軽量な7型カラー液晶の電子書籍リーダー



「BookPlace DB50」

2月10日 発売
直販価格:21,900円



 東芝から1月26日に発表された「BookPlace DB50」は、7型カラー液晶を搭載する電子書籍リーダーだ。LinuxベースのモバイルOSを搭載した読書専用端末という位置付けで、約330gという7型にしては軽量なボディが特徴だ。また電子書籍の購入に利用できる5,000円分のポイントがあらかじめ含まれながら、2万円台前半で購入できることも魅力だろう。

東芝「BookPlace DB50」。電子書籍端末としては珍しくプロセッサの型番(Freescale i.MX535 1.0GHz)についても公開されている

 本製品のOSはAndroidベースで、「Androidをベースにしたカラー液晶の読書専用端末」といえば、国内ではシャープの初代「GALAPAGOS」(当初はLinuxベースと呼称、その後Android 2.3へとアップデート)、さらにパナソニックの「UT-PB1」が挙げられる。同じコンセプトの端末としては、海外ではBarnes & Nobleの「NOOK Color」、またマルチメディア端末の性格が強いもののAmazonの「Kindle Fire」やBarnes & Nobleの「NOOK Tablet」といった成功例があるが、国内ではこれまであまり芳しい成功例はない。それだけに、本製品が先行事例を踏まえてどのようなアプローチを採用しているのかは興味があるところだ。

 一方、汎用端末との棲み分けについても注目点だろう。東芝はすでに同社のタブレット端末「REGZA Tablet」で、電子書籍ストア「「BookPlaceストア」を利用できる。同社と同じくタブレットと読書端末の2ラインナップを採用しているソニーでは、タブレットはカラー液晶、読書端末はE Ink電子ペーパーと、ハードウェア上でも明確に差別化されているが、今回の「BookPlace DB50」は「REGZA Tablet」と同じくカラー液晶を採用しており、どう差別化しているかは気になるところだ。

 今回はメーカーから借用した機材をもとに、ハードウェア中心にチェックを行なっていきたい。なお発売前の評価機であることから、量産品とは若干異なる可能性があることをご了承いただきたい。

●7型カラー液晶を搭載。約330gという軽さが大きな特徴

 まずは同じ7型の読書専用端末ということで、先に紹介したパナソニックのUT-PB1、Barnes & NobleのNOOK Colorと比較してみよう。また専用端末ではないが、先に紹介した東芝REGZA Tabletの7型モデルAT3S0のスペックも参考までに並べておく。

 BookPlace DB50/25EUT-PB1NOOK ColorREGZA Tablet AT3S0
発売元東芝パナソニックBarnes & Noble東芝
種別読書専用端末読書専用端末読書専用端末汎用端末
OS独自(Android 2.3.4ベース)独自(Android 2.2ベース)Android 2.2Android 3.2
サイズ(最厚部)120×190×11mm133×206×13.9mm※突起部除く205.7×127×12.2mm128×189×12.1mm
重量約330g約400g約447.9g約379g
解像度/画面サイズ1,024×600ドット/7インチ1,024×600ドット/7インチ1,024×600ドット/7インチ1,280×800ドット/7インチ
通信方式802.11b/g/n802.11b/g/n802.11b/g/n802.11b/g/n
内蔵ストレージ8GB(ソフトウェア占有量:約2GB)8GB(ユーザ使用可能領域:約5.5GB)8GB32GB(ソフトウェア占有量:約2.6GB)
メモリカードスロットmicroSDmicroSDmicroSDmicroSD
バッテリー持続時間(公称値)約7.5時間約6時間(明るさ最小)、約3.5時間(明るさ最大)約8時間約6.0時間
電子書籍ストアブックプレイスRaboo、紀伊國屋書店BookWebPlus、BookLive!、eBookJapanBarnes & Noble eBookstoreブックプレイスなど(アプリ追加でその他電子書籍ストアに対応)
価格(2011年2月3日現在)21,900円29,800円199ドル(日本未発売)49,800円

 他端末と比較して目立つのは、本体の軽さだ。カラー液晶を搭載した7型タブレットのほとんどは300g台の後半で、NOOK ColorやKindle Fireのように400gを超える端末もあるが、本製品は約330gと、かなり軽量であることが分かる。E Inkを採用したソニーReader(PRS-G1およびT1、6型)などは100g台なので、あくまで「7型のカラー液晶端末」の範囲内でという但し書きはつくが、それでもこの軽さは魅力の1つだろう。

 1,024×600ドットの解像度、タッチ対応液晶、8GBのメモリ、microSDスロット、IEEE 802.11b/g/nの無線LANといった仕様は、他端末と極端な差はない。敢えて違いを挙げるとすれば、充電を専用ACアダプタではなく、microUSBケーブルで行なうことくらいだろうか。短期の旅行や出張などで、荷物が汎用ケーブルだけで済むというのはありがたい。

 駆動時間は公称7.5時間だが、これは各社ごとに測定方法が異なっていることから、一概に比較はできない。今回試用した限り、シャープの初代GALAPAGOS、パナソニックのUT-PB1と比べても、バッテリの減りは速いように感じられた。ホームボタンを長押しすれば省電力モードに切り替わって無線LANがオフになるので、活用すると良いだろう。

 リリースではLinuxベースとされている本製品だが、端末情報を見る限りでは、OSはAndroid 2.3.4となっている。対外的にLinuxベースという表現が用いられているのは、かつてのシャープGALAPAGOSと同様、AndroidのCTS(Compatibility Test Suite)の認証基準の関係だろう。Androidマーケットが利用できず、またカメラなどを備えないことを除き、フォームファクタ自体は一般的なAndroidタブレットと同じと考えてよさそうだ。

iPhone 4S(左)、iPad 2(右)との比較。7型ということでサイズ的には両者のほぼ中間に当たる。厚みはiPhone 4Sに比べて1.7mm、iPad 2に比べて2.2mm厚いが、持った印象ではほとんど変わらない
パナソニックの「UT-PB1」(中央)、Barnes & Nobleの「NOOK Color」(右)との比較。ボディそのものが巨大なUT-PB1に比べるとフットプリントも小さく、厚みもスリム。NOOK Colorとはフットプリント、厚みともにほぼ同等だが、本体素材が異なるためか、重量は100g以上軽い
汎用の7型AndroidタブレットであるGALAXY Tab(中央)、GALAPAGOS A01SH(右)との比較。ボディラインを工夫することで薄く見せている両製品に比べ、本製品は全面がほぼフラットで薄さが際立っている
正面から見たところ。ホームボタンのみのシンプルなデザイン。横向きでの利用も可能だが、あまり需要はなさそうだ上面には、電源ボタンのほか、MENU、BACK、CONTINUE、音量大/小の各ボタンを備える。なかでもCONTINUEボタンは本製品の特徴の1つ
左側面(上)は、カバーに覆われたmicroSDスロットがあるほかは端子類はない。右側面(下)は端子類はない底面。microUSBポート、イヤフォンジャック、スピーカを備える。ACジャックは備えず、給電はmicroUSBポートから行なう
背面。ロゴ以外はなにもない。滑り止め加工はとくに施されていない背面中央のロゴはべたつきやすく、手で触れた際に違和感がある。また長時間使っていると、向かって右側がそこそこ発熱する。専用カバーをつければ熱が伝わるのを防げそうだが、重量が増加するので悩ましい
設定画面はAndroid 2.x系列の見慣れた項目が並ぶ。ちなみにこの画面を初めとして、画面内に戻るボタンがなく、本体上部のBACKボタンを使わなければ前に戻れない画面がいくつかある端末情報。OSは(Androidの)2.3.4と表示されている

●本棚を模したホーム画面。本棚は最大7つまで追加可能

 では実際に使ってみよう。本製品を起動すると、まずマニュアルなどが並んだ本棚が表示される。シャープの初代GALAPAGOSやパナソニックのUT-PB1と同様、Android標準のホーム画面ではなく、この本棚がホーム画面という位置付けだ。ちなみに本体下部のホームボタンを押した際の戻り先もこの本棚となっている。

Androidをカスタマイズしたロック画面。右にドラッグして解除するホーム画面。本棚アプリは「Book Place Reader EX」という名称のようだ

 新しく電子書籍を買うと、この本棚に追加される。本棚は最大で7個まで増やすことができ、ワンタッチで切り替えることができる。電子書籍が増えてきて上下スクロールがわずらわしくなってきたら、新たに棚を増やして移動させれば良いというわけだ。

 この画面はリスト表示に切り替えることもできるのだが、不思議なのはこのリストに「著者名」が表示されないことだ。一般的に書籍は「タイトル」、「著者名」で認識し、その次に「出版社名」や「レーベル名」が来ると思うのだが、本製品のリスト表示ではなぜか「タイトル」の次に「出版社名」が来て、著者名が表示されない。ビジネス書ならともかく、文芸作品や漫画ではリストに著者名が表示されるべきだろう。

購入時点で、ホーム以外にサンプル書籍がずらりと並んだ「たち読み」の本棚が用意されているリスト表示に切り替えたところ。タイトルと出版社名が表示されているが、なぜか著者名がないソート順を著者名順にすると、並び順そのものは著者名に従って並び変わるのだが、肝心の著者名はリストには表示されない

読んだ電子書籍は保管庫に移動することで、本棚には表示されなくなる。この時点で端末内からデータは削除されており、本棚に戻したあと再びダウンロードする必要がある

 読み終わるなどして本棚に表示する必要がなくなった電子書籍は、ごみ箱アイコンをタップして捨てることで「保管棚」に移動され、あとで再度呼び出す(ダウンロードする)ことが可能になる。仕組みとしては悪くないのだが「ごみ箱をタップして保管」というのはアイコンの外見と役割が一致しておらず違和感がある。「保管棚」という名称そのままの棚を用意して移動させるか、ごみ箱ではなく棚を模したアイコンに差し替えるか、いずれかにすべきだろう。

 と、いくつか気になった点を挙げたが、全体としてはすぐに使い方が理解できるレベルであり、戸惑うことはない。サムネイルのサイズも十分で視認しやすい上、またサムネイル下部には既読か否か、後述の読み上げ機能に対応するか否かといった情報がアイコンなどで表示されるので、慣れればステータスをすぐに見分けられるようになる。

●東芝の電子書籍ストア「ブックプレイス」に対応。まとめ買い支援機能が便利

 本製品と連携する東芝の「ブックプレイス」は、Booklive!をベースにした電子書籍ストアだ。ブックプレイスで購入した電子書籍はPCやAndroidでも読めるし、BookLive!を経由してiPhoneでも読める(ただし同時に登録して使えるのは3台まで)。

「ブックプレイス」へはホーム画面左下のストアアイコンからアクセスする。トップページにはおすすめ書籍のほか、週間ランキング、ジャンルから探すためのメニューが用意されている利用前に会員登録を行なっておく必要がある。既存のBookLiveのアカウントも利用可能。余談だが、登録完了時のメールでパスワードが平文で送られてくるのは少々いただけない

 購入履歴はクラウドに保存されているので、万一削除しても簡単に復元できる。試しに電子書籍の購入後に本製品をいったん初期化し、再度ログインしてみたが、購入済みの電子書籍を問題なく再ダウンロードできた。いったんクラウド上に戻さなければ別のデバイスで読めないこともないので、将来的にデバイスを買い替えた場合の安心感は、ほかの端末に比べて高い。ただし、同じ電子書籍を複数の端末で同時に読み進めることも可能な一方で、KindleのWhisperSyncのように既読位置まで同期するような機能はない。

ブックプレイスで購入した書籍(左)は、iPhone(中)やAndroid(右)のBookLive!アプリ、ブックプレイスのPC/Androidアプリなどで読むことができる。個人的には3台という台数制限をもう少し緩和してほしいところ
Myページ。ポイントの情報のほか、購入履歴の確認などが行なえる購入履歴は先の一覧画面と同様、著者名がなくタイトルしか表示されない。シリーズ作品や関連作品を買う時のために、書籍情報ページへのリンクも欲しいところだ購入時点で5,000ポイントが付与される。これは使用前の状態。ちなみにポイントは追加購入もできるほか、月額コースも用意されている

 閲覧および購入フローについては、BookLive!がベースになっているだけあって、使い勝手はこなれていて、特に奇をてらったフローもない。以下、画面キャプチャでご確認いただきたい。

今回は吉田修一氏「悪人」を購入。ソニーの初代「Reader」シャープの初代「GALAPAGOS」パナソニック「UT-PB1」のレビューの際も同じ電子書籍を購入しているので、フローの違いに興味がある方は参照いただきたい詳細ページを表示したところ。すぐ購入する場合は「購入」を、続けて買い物をする場合は「カートに入れる」をタップする。キープリストへの追加も行なえるこれは「購入」を選択した状態。すぐに購入フローに移動する
これは「カートに入れる」を選択した状態。複数の電子書籍をまとめて買うのに便利購入にはポイントのほかクレジットカードも利用できる。ポイント不足分をカードで補うことも可能購入確定前の画面。会員登録時にメール不要を選択しているにもかかわらず、この画面でメール受け取りにデフォルトでチェックが入っているのは少々いただけない
購入完了。ダウンロードは自動では行なわれず、ボタンをタップする必要があるダウンロードが開始された。ホーム画面には自動遷移しないので、ホームボタンを押して自力で移動するダウンロード完了。タップすれば電子書籍が開く。なお購入した場合はこのように「ホーム」に表示されるが、サンプルをダウンロードした場合は「たち読み」に表示される

【動画】「ブックプレイス」にアクセスし、トップページのランキングから「スティーブ・ジョブズ Ⅰ」を表示し、立ち読み版をダウンロードして開くまでのフロー。立ち読みでなく購入の場合はこれに決済のプロセスが追加される

 面白いのは「購入」と「カートに入れる」のボタンが分かれていることだ。一般に、電子書籍端末からストアに直接アクセスする場合、それはすぐに読みたいニーズがあると考えられる。したがって、あれやこれやとカートに入れてまとめて決済するのではなく、1点だけすぐに買うことを前提にしたフローのほうが便利だ。事実、Kindleではこのフローのみを採用しているのだが、国内の電子書籍端末はショッピングカートシステムをそのまま流用した設計がほとんどで、カートを経由して決済させることで、余計な操作がワンステップ増えてしまっていることが多い。

 本製品は、すぐに買える「購入」と、何点もまとめてカートに入れてから手続きを行なう「カートに入れる」の両方を選択できるので、使い勝手は良い。決済前にいったんパスワードを要求されるという煩雑さはあるが、これは他社の端末も同様なので、あまり問題にはならないだろう。いずれにせよ、電子書籍端末から直接購入するにあたっての使い勝手がよく考慮されていると感じる。

 もう1つ、まとめ買いの仕組みが用意されているのも便利だ。漫画などのシリーズもので複数の巻がある場合、1冊ずつではなくシリーズまるごと購入が行なえるという、いわゆる「大人買い」の支援機能である。購入手続きを何度も繰り返さなくて済むという意味では有益だ。ちなみにこれらシリーズものの書籍を本棚に並べる際も、棚一面にずらりと並べるのではなく、場所を取らないよう重ねることができるのが面白い。

シリーズ作品に表示される「カートに全巻入れる」ボタンを押すと、シリーズ作品をまとめて購入できるシリーズ扱いの書籍は、本棚では重なった状態で表示されており、ピンチアウトすることで広がって表示される

●操作性はオーソドックス。ナイトモードなどオプションも充実

 続いて読書まわりの操作性を見ていこう。画面両側をタップもしくはフリックでページめくり、画面中央タップでメニュー表示というのが基本操作だ。既読位置を確認するために、いったんメニューを表示してから進捗バーを呼び出す必要があるのはやや煩雑だが、全体の操作性はオーソドックスな部類だろう。個人的にはタップとフリックに両対応しているのは使いやすいと感じる。

 ダブルタップまたはピンチイン/アウトで拡大縮小が行なえる。最近はピンチイン/アウトで拡大縮小した文字サイズをそのまま全体に適用する電子書籍端末もあるが、本製品では一時的な拡大縮小のみで、デフォルトの文字サイズには影響を及ぼさない。個人的には文字サイズの調整も兼ねていた方が便利だと感じるが、まあこれは好みの部分だろう。

本棚に表示されるサムネイルをタップすると電子書籍が表示されるタップおよびフリックでページめくりが行なえる。ノンブルの表示が全くないのは珍しい画面中央をタップするか、もしくはMENUボタンを押せば下段にメニューが表示される
既読位置を表示するためには、メニューから「頁ジャンプ」を選択してスライダを表示させる必要がある。表示はパーセントのみ、スライダの向きは右綴じの書籍でも左から右と逆向きのままだったりと、機能的には今一歩文字サイズは5段階で調整が可能。これは最大にした状態縦書き横書きの切り替えのほか、ルビのオン/オフ、行間を3段階から選べるなど、表示まわりの設定項目はかなり細かい
ページめくりのエフェクトは「効果なし」「スライド」「3D」の3種類から選択できるナイトモードと称し、白黒反転表示も可能だ選択した単語について、マーカーをつけたり、Wikipediaで意味を調べることができる。ただし単語の選択はかなり操作が難しく、ダブルタップとみなされて拡大したり、メニュー画面が開いたり閉じたりすることもしばしば
Wikipediaにジャンプしたところ。ちなみにこの画面では、画面上部の「戻る」ボタンとは別に下段に戻る/進むの矢印があるなど、インターフェイスが整理できておらずまぎらわしい箇所がみられる

【動画】ホーム画面からいったん立ち読み画面を表示したのち、ホーム画面に戻って電子書籍を選択。ページめくり、スライダによるジャンプ、文字サイズ変更を試したのち、ホームボタンでホーム画面に戻り、その後後述のCONTINUEボタンでふたたび電子書籍のページを開くまでの様子

 表示まわりの設定項目はかなり細かく、ナイトモードのようなユニークな機能もあるが、一方で抜けている機能もある。例えば、最後のページからさらにめくろうとしたり、表紙から前に戻ろうとするなど、存在しないページに移動しようとした際に、アラートがまったく表示されないこと。また、しおりのはさみ方も、最近はページの上隅をタップする仕組みを採用している端末が多いが、本製品ではメニューを表示してから操作しなくてはいけないため手間がかかる。このあたりはまだ洗練されていないように感じる。

 また、ピンチイン/アウトで指をスライドさせる距離と、実際に拡大/縮小される距離にズレがあることは気になった。もともとiOSとAndroidでも若干の相違はあるが、本製品のそれは感覚的にあきらかに違和感が残るレベルだ。キャリブレーションが不完全な製品にありがちな、タップしたのと別の箇所が反応するようなストレスこそないものの、発売時には修正されていることを期待したい。

●本体上部のボタン配置、およびカラー液晶の品質はやや疑問

 このほか、ざっと触った上での特徴と、気になる点を挙げていこう。

「CONTINUE」ボタンは本体上部、音量大/小ボタンの隣に実装されている。ボタンの間隔が詰まっているためか、音量小を押したつもりで「CONTINUE」を押してしまうことが何度かあった

 本製品独自の工夫として、ワンタッチで読書画面に戻るための「CONTINUE」ボタンの存在が挙げられる。読書中に一時的にストアを訪れたり、検索のためにブラウザを開いたりしてページを閉じると、見ていたページに戻るために2ステップ、3ステップの操作が必要になる。これは意外に手間だ。どこを開いていたか分からなくなり、それっきり読書をやめてしまうケースもあるかもしれない。

 本体上部に実装された「CONTINUE」ボタンを使えば、どんな画面を開いていても読書中の画面にワンタッチで戻ることができる。リアルな本で言うと「うつぶせにしていた本を再度手に取る」というアクションに相当する。実際、電子書籍アプリなどでは、アプリを閉じると電子書籍のページまで閉じてしまい、再度本棚画面から開き直さなくてはいけないこともあるだけに、この機能はなかなか便利で、安心感がある。汎用タイプのタブレット端末にはない、本製品ならではの特徴だといえる。ボタンの長押しで履歴が表示されるのも便利だ。

 と、CONTINUEボタンそのものはなかなか意義深いのだが、問題はこのCONTINUEボタンを含むボタンの配置だ。Androidのスマートフォンでは、ホーム/戻る/メニューといったボタンは画面の下部にレイアウトされているのが一般的だが、本製品では画面下部にあるのはホームボタンのみで、このCONTINUEボタンを含め、その他のボタンはすべて本体上部にレイアウトされている。

CONTINUEボタンに加え、Androidのスマートフォンであれば横に指を伸ばすだけで済むMENU/BACKボタンの操作を、本製品ではもう一方の手で行なう必要がある

 CONTINUEボタンや音量調節ボタンのように、たまにしか使わない、あるいは使わなくても構わないボタンだけが本体上部に配置されているのなら構わないのだが、ひんぱんに使用するMENU/BACKボタンまで本体上部にレイアウトされているため、なにか操作をするたびに本体上部に指を伸ばさなくてはいけない。手を伸ばす頻度が高くなってしまっている。Android端末でMENU/BACKを押すたびに本体上部に指を伸ばすのを想像していただければ分かると思うが、これはたいへんわずらわしい。

 なにより、これらのボタンは本体を保持しているのとは別の手で操作しなくてはならず、片手で持てる軽量端末というせっかくのメリットを自ら打ち消してしまっている。これは筆者の推測だが、画面下に配置するボタンをiPhone/iPadよろしくホームボタンだけにしたいという発想が先にあり、結果として溢れててしまったMENU/BACKボタンをCONTINUEボタンと合わせて上部に持っていったのではないだろうか。

 画面によっては、BACKボタンに相当するソフトキーが画面内に存在する場合もあるが、設定画面のように本体上部のBACKボタンでないと前に戻れない画面も少なくない。すべてのボタンを下部に並べ、すべてを親指で操作できた方が(ボタンの見分けやすさをどう工夫するかはともかく)良かったのではないだろうか。このあたり、第2世代モデルでソフトウェアキーも含めボタンのほとんどを本体下部に集約したソニーReader(PRS-T1/G1)とは対照的だ。

 もう1つ、使っていて気になるのがカラー液晶の品質だ。モノクロのE Ink電子ペーパーと違って表現力が高く、カラー図版の表示も行なえるのはよいのだが、コントラストが低く、あまり色にメリハリがないのだ。また画面を左右から見た時の色の違いはかなり激しい。シャープのGALAPAGOS A01SHなどもそうなのだが、もともと横向きに使うべき液晶パネルを縦にしているためか、発色の傾向がまったく違うのだ。

カラー図版のあるページを正面から見たところカラー図版のあるページを左右から見たところ。発色の傾向があきらかに違う
こちらは白黒のページを正面から見たところ白黒のページを左右から見たところ。カラーほどではないが発色の違いは明らか。ちなみに全体的に青みがかっているのも写真映りのせいではなく、実際このような色合いだ

 本製品はあくまでも読書専用端末であり、後述するように同社の汎用タブレットなどと差別化しなくてはいけない必然性はあるだろう。また、コストに大きく影響するであろうことも想像に難くない。とはいえ、読書の意欲さえなくしてしまっては元も子もない。せめてもうワンランク上の液晶が欲しかったというのが正直なところだ。

●電子書籍を「耳で聴く」実用的な音声読み上げ機能を搭載

 さて、本製品の特徴の1つとして触れておきたいのが、音声読み上げ機能だ。これはすでにREGZA Tabletにも搭載されている機能で、同社の技術である「東芝音声合成エンジン」を用い、電子書籍の内容を音声で読み上げてくれるというものだ。海外製の電子書籍端末ではKindleを初めとして、この機能を備えた端末が多いが、国内の電子書籍端末でこの機能を備えているものは珍しい。

 音声は男声と女声が用意されており、速度についても5段階で調整できる。実際に試した限り、かなり高い精度で日本語を読み上げてくれるので驚かされる。固有名詞レベルではひっかかることも稀にあるが、単語を登録することもできるので、どうしても気になるようであればこれで回避できる。

読み上げ機能に対応した電子書籍は、ホーム画面でサムネイルの下にアイコンが表示される男声と女声を選択可能設定画面では、速度の調整のほか、優先する言語(日本語/英語)の切り替え、さらに別画面では単語登録も行なえる

【動画】女声→男声の順に読み上げを行なっている様子。誌面掲載の関係でプリインストールコンテンツを例にしているが、その他対応書籍でも一部の固有名詞を除いてスムーズな読み上げが可能。スピードの調整も行なえる

 電子書籍を読みたいが、目が疲れていて、ページをいちいち目で追うのがおっくうという場合は少なくない。また満員電車などで、端末を取り出しての読書が難しい場合もあるだろう。そうした場合でも、この機能を使えば、耳で読書ができるというわけだ。

 実際に使ってみた限りでは、この機能があるが故に電子書籍端末の中で本製品を選ぶというのは、購入動機としてじゅうぶんにあるだろうと感じた。ブックプレイスで売られているすべての電子書籍に対応しているわけではないものの、興味があれば上の動画、および店頭などでぜひその品質を確認してほしい。唯一、ページ間をまたぐ単語の読みが分割されてしまうのは、今後の課題だろう。

●PDFのビューアとしても使えるが、過度な期待は禁物

 他の7型カラー液晶タブレットに比べて軽量ということで、自炊データのビューアとして使えるかは気になるところだ。PDFデータとの相性、および使い勝手について見ていこう。

 本製品はプリインストールアプリとして「Adobe Reader」が用意されている。そのため、自炊データなどのPDFをmicroSD経由で読み込むことで、問題なく表示できる。E Ink端末であれば縮小表示した際のモアレや文字のカスレが問題になることもあるが、本製品はカラー液晶ということで細部のつぶれもない。

 もっとも、Adobe Reader側の制約で右綴じに対応していないため、漫画などの右綴じコンテンツを読む場合は、反対側にめくられるエフェクトを我慢しながら使うか、もしくは縦スクロールで利用するか、どちらかということになる。またこれもAdobe Reader側の仕様なのだが、背景が白ではなくグレーで表示されるので、ページの余白部分が強調されてしまい、読んでいてやや違和感がある。

microSDスロットはカバーで覆われた構造。PDFデータのほかJPEGデータの読み込みも行なえるJコミで配布されている赤松健氏「ラブひな」第1巻のPDFを表示したところ。7型ということで単行本と同等サイズで表示できる。ただしAdobe Readerの仕様上、右綴じの設定ができないため、ページめくり時は違和感がある。上下の余白がグレーになるのもネックmicroSD内に入っているPDFデータはすべてホーム画面に表示される。サムネイルは表示されず、ファイル名が表紙として使われるなど、見栄えはあまりよくない

 なお、microSD内のPDFデータはストアから購入した電子書籍と同様に本棚上に並べられるが、サムネイルがなくPDFのファイル名がそのまま表紙として使用されるので、見た目はいまいちだ。またmicroSD内の全データを自動的に読み込むので登録の手間がかからない反面、大量のPDFデータが入ったmicroSDを挿入すると、表示数が多すぎて探しづらくなってしまう。自炊データのビューアとして致命的に使えないわけではないが、過度な期待は禁物、といったところだろうか。個人的には、右綴じ非対応はAdobe Reader側の仕様である以上仕方ないとして、できればサムネイルの表示くらいは対応してほしいと思う。

 なお、読んでいる書籍のページにワンタッチで戻れるCONTINUEボタンは、このPDFデータについてもきちんと機能する。実際に使ってみるとなかなか便利な機能だけに、これがPDFデータについても利用できるというのは悪くない。

●Androidマーケットは非対応。アプリのインストールは可能だが実用的ではない

 その他アプリについても見ていこう。読書用途以外でプリインストールされているアプリは、先に紹介したAdobe Readerのほか、ブラウザ、メール、ギャラリー、カレンダー、電卓、時計、設定の計8個。いずれの機能も、基本的にAndroidの標準機能そのままだ。

 本製品と同じく読書専用端末という位置付けだったシャープの初代GALAPAGOSはWebへのショートカットを含めて8個、パナソニックUT-PB1は16種類のアプリを搭載していたが、本製品はカメラを搭載していないという事情を踏まえると、まあ標準的な数といえるだろう。

 この中でもっとも利用頻度が高いのはブラウザだろう。最新のAndroidスマートフォンのようにヌルヌル動くわけではないものの、普通に使う分には支障はない。ただ、画面内に「戻る」ボタンが用意されておらず、本体上部のBACKボタンを使わなくてはいけないため、使い勝手は必ずしも良くはない。読書と並行しての調べ物など、一時的な用途に限定されるだろう。

 なお、ためしにYouTubeを再生してみた限りでは、HD画質でもとくに動きが止まることなく再生が行なえるなど、パフォーマンスは決して低いわけではない。

アプリ画面はホーム画面右下からアクセスできる。計8個のアイコンが並ぶブラウザ。多くのサイトではスマホ用ページが表示されるこちらはメール。試しにGmailのアカウントを登録してみたところ、問題なく表示できた。通知バーへの新着メールの通知も対応する。ちなみに日本語入力システムはFSKARENを搭載している

 ところで、Androidマーケットに対応していない本製品だが、独自ストアからのアプリインストールについてはどうだろうか。試した限りでは、設定画面で「サードパーティアプリケーションのインストールを許可する」にチェックを入れておけば、その他マーケットを経由してapkファイルをインストールすることは可能だった。

 しかし、実用性はきわめて低い。というのも、こうしてインストールしたアプリのアイコンが、本製品のアプリ一覧に表示されないのだ。つまり、インストール直後に表示される「開く」から起動することはできても、うっかり閉じてしまうと二度と起動できないのだ。

 今回筆者が試したサードパーティのマーケット「SlideMEマーケットプレイス」では、アプリ一覧画面に専用ウィジェットを配置できる裏技があり、そこからインストール済みアプリを起動させることができたが、ほかのマーケットではこの方法は使えない。探せば別の方法があるのかもしれないが、アイコンがアプリ一覧画面に表示されないとなると、実用度は低いと言わざるを得ないだろう。

サードパーティ製アプリをインストールするには、設定画面の「サードパーティアプリケーションのインストールを許可する」にチェックを入れておくapkファイルをダウンロードし、インストールを行なうインストールが完了すれば開くことができるが、アプリ一覧画面に表示されないため、いったん閉じてしまうと起動できなくなってしまう
ベンチマークアプリ「Quadrant Professional」によるベンチマーク結果。CPU:2790、Mem:1091、I/O:3199、2D:152、3D:311で、トータルスコアは1509と、以前同じベンチマークを行なったパナソニックUT-PB1に比べると全体のパフォーマンスは低いが、I/Oの値が突出して高いなど、ほかのAndroid端末とは違った傾向を示している。

●割り切りは必要だが価格からするとお得。対応ストアの拡充にも期待

 ここまでやや厳しい評価を並べたが、操作がもたついて使いものにならないといった根本的な問題はなく、あからさまに欠けている機能はない。MENU/BACKボタンの配置こそユーザビリティの観点からして疑問だが、CONTINUEボタンや音声読み上げ機能のように先行する他社の端末にない工夫を取り入れている箇所もあり、しかも約330gという軽さは他社の7型端末と比較した場合の大きなアドバンテージだ。これであらかじめ含まれている5,000円分のポイントを差し引いて17,000円程度で入手できるのは、お得感がある。

 ネックなのは液晶パネルの品質と、アプリのインストールに対応しないことだが、もし本製品がアプリのインストールが可能な汎用端末であれば、カメラやGPSが付属しないにせよ、同社のREGZA Tabletとの差別化が難しくなっていただろう。液晶の品質があまり高くないのも、液晶に一定以上のクオリティが求められる動画再生には本製品でなく同社のREGZA Tabletをおすすめするという、製品のセグメント分けの結果だと考えれば納得が行く。

本製品を用いてブックプレイスで購入した電子書籍を、BookLive!に対応したパナソニックUT-PB1で読むというアクロバティックなワザも可能だ

 そういったわけで、読書端末として割り切った仕様はある程度許容すべきというのが結論になるわけだが、電子書籍端末として評価の決め手になるのは、やはりコンテンツの品揃えだろう。本製品の対応ストアであるブックプレイスは国内最大級をアピールしており、これから新規に電子書籍を買うユーザーには魅力的であることは間違いないが、同じ読書端末であるパナソニックのUT-PB1は楽天Rabooだけでなく、紀伊國屋書店BookWebPlus、BookLive!、eBookJapanなど、複数の電子書籍ストアを利用できるメリットがある。

 またソニーのReaderも、楽天Rabooや紀伊國屋書店BookWebPlusへの対応に加え、角川グループの書籍の配信を開始するなど、自社ストアを超えて対応を広げつつある。つまり昨今は、自社ストアの持つコンテンツに加え、幅広いストアに対応することで読める電子書籍の数を増やすという形で、カバレッジの充実に舵を取りつつあるわけだ。

 本製品のプレスリリースには「今後コンテンツを配信するパートナー企業との連携も強化」という一文があり、いずれ同様の取り組みがなされることが期待されるが、現状で具体的な発表はない。専用端末としては後発にあたるだけに、自社ストアへの誘導だけでなく、ユーザーにとってのトータルメリットにつながる対応ストアの拡充を、大いに期待していきたいところだ。

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(2012年 2月 10日)

[Text by 山口 真弘]