Hothotレビュー
デル「Venue 8 Pro」
~艦これもさくさく動く8型タブレット
(2013/11/21 06:01)
デル「Venue 8 Pro」は、同社が満を持して投入する8型Windows 8.1タブレットだ。最新のAtom Z3000シリーズを搭載し、8型という今日本市場で注目を集めているサイズでフルWindowsが動作する。
同等の製品はすでに日本エイサーの「ICONIA W4」が発表済みで、デルの数日後には東芝も「dynabook Tab VT484」を発表。また、海外で発表済みのLenovo「Miix 2」も、日本への投入が決定している。
そんな中Venue 8 Proは、他の製品と比べ、記事へのアクセス数の面でも、ツイート数やいいね!数も段違いに多かった。その理由としては、デル担当者が発表会でも述べたように、SIMロックフリーの3Gアダプタ(オプション)など独自性を打ち出した点や、4万円を切る価格設定などがユーザーに好意的に受け入れられたからだろう。
そんな注目のVenue 8 Proを発売より一足先に評価する機会を得た。ただし、発売がまだ先とあって、借りられたのは本体のみ(マニュアルも付属品もなし)で、日程も非常にタイトだったため、限られた内容でしか検証できていない。また、OSは英語版だったりと、標準搭載アプリなども製品版では異なる可能性が高いことをお断りしておく。ただし、ハードウェアは基本的に製品版と同じと聞いているので、性能面での検証は参考になるだろう。
ハードウェアスペック
まず、ハードウェアスペックを紹介しよう。CPUには、コードネーム「Bay Trail-T」ことAtom Z3740Dを搭載。Bay Trailは、同じAtomブランドではあるが、CPUコアは新規に開発され、GPUコアも従来Atomで採用されていた「PowerVR」ではなく、Coreプロセッサと同じIntel HD Graphics(第7世代)を搭載。これにより、最大でCPU性能は2倍、GPU性能は3倍になっているというが、このあたりはベンチマークで確認してみよう。
他社の製品もAtom Z3000シリーズを採用するが、スペックの判明しているICONIA W4とdynabook Tab VT484は、1つ上のAtom Z3740を搭載する。違いは、Z3740Dが、メモリシングルチャネルで最大解像度が1,920×1,200ドット(WUXGA)なのに対し、Z3740は、メモリデュアルチャネルで、最大解像度が2,560×1,600ドット(WQXGA)となる。いずれの製品も搭載液晶はほぼ同スペックだが、外部出力でWQXGAが必要なユーザーは、デル製品は対象外となる。
このほか、メモリ2GB、ストレージ64GB、1,280×800ドット表示対応の8型IPS液晶、Windows 8.1(32bit)を搭載。ただし、評価機のストレージは32GBだった。前述の通り、Atom Z3740Dはメモリシングルチャネル(ピーク帯域10.6GB/sec)となる。対して、日本エイサーと東芝の製品もメモリ容量は2GB。これがデュアルチャネル(同17.1GB/sec)なのかどうかは不明だが、そうであれば、グラフィックス性能含め、Venue 8 Proは若干性能が落ちることになる。
標準仕様の価格は39,980円で、プラス2千円でOffice Home and Business 2013が付く。これはなかなか衝撃的だ。本体単体の価格が4万円を切るというのも、フル機能のWindows PCとして見ると魅力的だし、なによりパッケージ版は3万6千円以上するOfficeがたった2千円でついてくるのは、競合製品に対する大きな差別化となるし、iOSやAndroidタブレットに対する優位点ともなる。
インターフェイスはIEEE 802.11a/b/g/n無線LAN(2x2 MIMO)、Bluetooth 4.0、microSDカードスロット、120万画素前面/500万画素背面カメラ、Micro USB、TPM、音声入出力を搭載。GPSはないので、地図用途にはあまり向かない。
USBは1つだが、On-The-Goに対応しており、充電だけでなく、変換ケーブルを使えば、各種USB機器も利用できる。ただし、今回試した限りでは、PCのUSB 3.0ポートでは充電はできず、またマスストレージとして認識されることもなかった。1A出力のUSB ACアダプタでは充電可能だったので、このあたりが最低限必要な電流のようだ。
個人向けを主に狙った本製品でTPMが付いているのは面白い。標準のOSはWindows 8.1だが、BTOでWindows 8.1 Proが選択可能であるなら、BitLockerが使えるようになるので、持ち歩くことの多いデバイスのセキュリティを高めることができる。
公称の本体サイズは216×130×8.9mm(幅×奥行き×高さ)、重量は395gで、実測では387gだった。同社ではWindowsタブレットとして最薄だとしているが、Lenovo製品は厚さ8.35mm、重量350gを謳っているので、そのスペックで日本に投入されるなら、Venue 8 Proは最薄ではなくなる。
スマートフォンのように気軽に持ち運べる手軽さ
それでは使い勝手について見てみよう。持ち運びやすさについては、ポケットにこそ入らないが、8型で395gというのは、カバンに気軽に入れて持ち運べるサイズ感だ。特に本製品はオプションで3G通信にも対応できるので、持ち出す機会は増えると思うが、邪魔になることはない。
手に持った際の感じは、「Nexus 7」などの7型端末と余り変わらない。手が小さな女性であっても、十分片手で把持できる。もちろん、全て片手で操作は無理だが、左からのスワイプでアプリを切り替えて、タイムラインを閲覧という程度なら、左手だけでも足りる。
重量はNexus 7(2013)より約100g重いが、両手に持ち比べても、余り差は感じない。ベッドなどに寝転がって片手で支えて、もう片手で操作することも無理なくできるが、長時間となると疲れてくる。とは言え、これは100g台のスマートフォンでも同じ事で、その意味では8型の端末は、昨今5型程度が主流となったスマートフォンに近い形態で利用できると思って良い。
なお、ある程度負荷の高い作業を行なっていると、背面中央がやや熱を持つ。ただし、普通に本体を持っている限りでは指が届かない位置であり、ずっと肌に触れさせていても火傷するほどではない。
最近のハイエンドなiOS/Android端末と比べると、本製品は解像度の点で見劣りする。ただ、見比べなければ、Webの閲覧なり、写真の閲覧なりで、特に不都合は感じないだろう。パネルはIPSなので、視野角は広く、角度を変えても色が反転するようなことはない。
カメラについては、評価機の問題で、背面カメラはずっと焦点が合わない状態で、前面カメラへの切り替えもできなかった。また、オプションのスタイラスも同梱されていなかったので、このあたりは評価してない。
1つ変わっているのが、スタートボタンの位置。通常、Windowsタブレットでは、液晶の額縁についているものだが、本製品は、部品の配置上それができなかったのか、上面に電源ボタンのような形で存在している。スタートボタンは、右端からのスワイプでチャームを出せばソフトで表示できるが、そこそこ利用頻度が高いだけに、指が届きにくいこの場所にあるのはちょっといただけない。
Atomからは想像できないスムーズさ
長くPCを使っているユーザーには、「Atom」というとぎりぎりWindowsを動かせられるくらいの性能しかない、というイメージがあるかもしれない。実際、Intelとしてもそういった考えがあるのか、Bay Trailでも液晶一体型やエントリーノートに搭載される、Bay Trail-M/Dについては、PentiumやCeleronのブランドで投入する。
しかし、結論から言うと、本製品はAtomのブランドからは想像できないほど、スムーズに動作する。アプリの切り替えは瞬時だし、Webの拡大/縮小/スクロールももたつくことはない。CPU性能の向上とWindows 8.1のカーネルの改良が相まって、Atomでも何かをこらえながら利用するということはなくなった。この辺りは、動画にも動作の様子を収めてあるので、見て欲しい。
ただし、YouTubeの動画再生については、解像度に関係なく若干コマ落ちが発生するようだ。今回、約4分28秒(約8,300フレーム)の動画を再生したところ、1080p、720p、480pのいずれの解像度でも300~400フレーム程度のコマ落ちが発生した。状況から推測すると、デコードが間に合わないのではなく、Flashの再生になんらかのボトルネックが発生しているのではないかと思われる。と言っても、5%以下なので、よく見ていないと気付かない程度ではある。
ベンチマークは時間の関係でPCMark7と3DMark、CrystalDiskMark、Final Fantasy XIV新生エオルゼアベンチマーク キャラクター編、ドラゴンクエストXベンチマークのみ実施した。なお、3DMarkのFire Strikeについては、エラーが出て、完走しなかった。
参考までに、Atom Z2760搭載の「LaVie Tab W」、Core i7-4500U搭載のLet'snote AX3の結果も掲載している。
PCMark7については、順当にCore i7-4500U>Atom Z3740D>Atom Z2760という結果が出ている。3DMarkについても同様だが、1世代前のAtom Z2760から大きく飛躍していることが分かる。
Venue 8 Pro | LaVie Tab W | Let'snote AX3 | |
---|---|---|---|
CPU | Atom Z3740D | Atom Z2760 | Core i7-4500U |
ビデオチップ | Intel HD Graphics | Intel GMA | Inte HD Graphics 4400 |
メモリ | 2GB | 2GB | 4GB |
ストレージ | 64GB eMMC | 64GB eMMC | 128GB SSD |
OS | Windows 8.1 | Windows 8 | Windows 8 |
PCMark 7 v1.4.0 | |||
PCMark score | 2079 | 1367 | 5211 |
Lightweight score | 1113 | 892 | 3507 |
Productivity score | 801 | 568 | 2650 |
Entertainment score | 1512 | 969 | 3811 |
Creativity score | 3693 | 2843 | 9640 |
Computation score | 4562 | 3191 | 16968 |
System storage score | 3220 | 2994 | 5181 |
Raw system storage score | 886 | 763 | ― |
3DMark Professional Edition v1.1.0 | |||
Ice Storm | 14560 | 2455 | 38512 |
Graphics Score | 16106 | 2923 | 41118 |
Physics Score | 10899 | 1574 | 31522 |
Cloud Gate | 1158 | 未計測 | 4739 |
Graphics Score | 1261 | 未計測 | 5897 |
Physics Score | 901 | 未計測 | 2809 |
Fire Strike | n/a | 未計測 | 680 |
Graphics Score | n/a | 未計測 | 738 |
Physics Score | n/a | 未計測 | 3682 |
ただ、3Dゲームがこなせるかというと、FFベンチとドラクエベンチの結果が示す通り、ちょっと厳しい。画質を落とせば、一応プレイはできるかもしれないが、とりあえず3Dゲームについて大きな期待は禁物だ。
ストレージの速度は昨今のSSDと比べると大分遅いが、フラッシュストレージの特性上、ランダムアクセスはそこそこなので、各種起動に待たされる感じはしない。
昨今、Windowsタブレットが登場すると必ずといっていいほど話題に上がるのが、DMM.comおよび角川ゲームスが提供するオンラインゲーム「艦隊これくしょん~艦これ~」が快適に動くかどうかだ。特に、デスクトップ版Internet Explorerで製品ごとの差が出る傾向にある。Bay Trail-TアーキテクチャのAtom Z3740Dを搭載したVenue 8 Proでの動作が気になる読者も多いだろう。
そこで実際にVenue 8 Proで試してみたところ、動作は非常に快適だった。艦これは遅延があってでも全フレームを描画しようとするため、描画が遅い環境ではコマ落ちではなく“描画がモタつく”という状況になる。遠征からの帰還時に発生するカットインや戦闘時の各種エフェクトなどで、そうした状況が起きやすい。
その点、Venue 8 Proはかなり快適にプレイできる。さすがにデスクトップPCなどと比べてしまうと若干モタつくシーンがあることは否めないものの、話題となったSurface 2でのプレイ動画と比べても、艦載機の移動や雷撃/爆撃シーンの描画、鎮守府での各画面の移行もスムーズ。唯一、改装時で装備一覧を表示する際に、処理の重さが気になるが、PCでもバックグラウンドで作業しているとモタつくことがあるシーンだけに妥協の範囲ではないだろうか。
バッテリについては、「BBench」(海人氏作)を利用して駆動時間を計測した。1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定で、約11.9時間動作した。公称の約8時間を50%も超える値だ。使い方にもよるが、1日の外出なら充電なしで過ごせそうだ。
コンシューマ向けモバイル端末として第3の選択肢になり得る出来映え
本製品を使ってみて、率直に感じたのは、iOSやAndroid端末でなく、これも“アリ”だということだ。
スマートフォンに端を発し、当初からモバイルデバイス向けであるiOSやAndroidと違い、PCを出自とするWindows 8は、タッチにも最適化したとはいえ、カジュアル用途のタブレットにはやや仰々しいというイメージもある。
以前まで小型Windows 8タブレットは、ストアアプリメインで使うには、純正のFacebookやTwitterアプリなどがなくて使い道が見いだせず、一方デスクトップで使うには画面が小さすぎたり、タッチでは操作しにくいという、いずれも中途半端な面があった。
しかし、Bay Trail-TとWindows 8.1を搭載した最新の8型タブレットは、先行OSに比べればまだまだ数は少ないが、ストアアプリも充実し、カジュアルに使える環境が整ってきた。個人的には、手持ちのスマートフォン(Xperia GX)よりも、Venue 8 Proの方が、アプリの切り替えや反応が断然スムーズだと感じる。また、8型だとマルチウインドウよりフルスクリーンの方が使いやすく、不便さはほとんど感じない。そして、ストアアプリでできないことがあったとしても、Windowsには膨大な数のデスクトップアプリが存在する。
つまり、モダンUIで使えないのに加え、Windows機としても中途半端というイメージだったものが、モダンUIでも十分に使えて、さらにはデスクトップ環境そして、必要ならOfficeをも使えるという風に、見方が一気に逆転したのだ。現在、AndroidとiOSでほぼ二分している8型タブレット市場において、今後、Windowsタブレットは要注目と言える。
以上のことは他のBay Trail-Tタブレットにもあてはまるのだが、それに加えVenue 8 Proには、薄型軽量、リーズナブルな価格、Officeの搭載、そしてオプションではあるが、スタイラスや3G通信対応という特徴もある。公私ともに、さまざまな場面で使える1台となるだろう。