平澤寿康の周辺機器レビュー

Micron「Crucial M500」

~容量960GB、定番Crucial m4の後継SSD

Micron「Crucial M500 960GB」
発売中

価格:オープンプライス

 米Micron Technologyの最新SSD「Crusial M500」シリーズが、日本でもマイクロンジャパン株式会社コンシューマープロダクツグループより発売となった。2011年に登場し、優れた性能と入手しやすい価格で、定番SSDとして長らく人気を保っている、「Crucial m4 SSD」の後継モデルとして位置付けられている製品で、従来モデルよりもアクセス速度が大きく向上している。また、最大容量が960GBと1TB近いのも大きな特徴だ。今回、960GBモデルを試用する機会を得たので、性能をチェックして行きたいと思う。

Marvell製コントローラとMicron製20nm MLC NANDを採用

 Crucial m4 SSDは、登場からすでに2年以上経過しているものの、安定した性能と安価な価格で、現在でも定番SSDとして人気を保っている。その後継モデルとして登場した最新モデルが、Crucial M500(以下、M500)シリーズだ。

 M500は、Marvell製コントローラとMicron製MLC NANDフラッシュメモリを採用。このブランド構成は、m4 SSDと同じだが、コントローラはMarvell製コントローラの最新モデルである「88SS9187」に変更されるとともに、NANDフラッシュメモリも製造プロセス20nmの最新モデルが採用されている。これにより、従来モデルのm4 SSDと比べ、アクセス速度が大きく向上している。

 m4 SSDは、登場当初こそ十分に高速な製品であったが、発売から約2年経過した現在では、より高速な製品が多数登場していることもあって、速度はやや見劣りするようになっている。対するM500は、表1にまとめた通りだが、シーケンシャルアクセス速度、ランダムアクセス速度ともに大きく向上していることが分かる。シーケンシャルリードが500MB/sec、シーケンシャルライトは130~400MB/secと、いずれもm4 SSDよりも速度が向上している。同様に、ランダムアクセス速度は、ランダム4Kリードが62,000~80,000IOPS、ランダム4Kライトが35,000~80,000IOPSと、こちらも大きく向上。他社の最新SSDと比較しても、性能で大きく見劣りすることもなくなった。

 現在市販されているSSDのうち、各社のフラッグシップに位置付けられる製品には、M500より高速な速度を実現しているものもある。だが、数値上はそうでも、これだけの速度なら、実際に使用する場合の体感差はほとんど感じられないはずだ。

 機能面では、TCGOPAL 2.0およびIEEE-1667準拠のハードウェア暗号化に対応しており、BitLockerなどの暗号化を低負荷で利用できる。また、温度センサーを利用した動作管理による安定性向上や、不意な電力喪失に対応するデータ保護技術なども盛り込まれ、個人用途から業務用途まで、幅広い用途に対応するとしている。

 耐久性は、m4 SSDと同等で、総書き込み容量72TBとされている。これは、1日あたり40GBの書き込みを約5年間連続した場合の容量に相当する。Webアクセスやメールの送受信、たまにデジカメ写真を編集したり動画を視聴するというような、一般ユーザーが普通に使うようなPCであれば、1日あたり40GBの書き込みを連続して5年間続けるということはまずない。一般的な使い方であれば、最低でも10年は利用できると考えていいだろう。ちなみに、製品の保証期間は3年となっている。

Crucial M500シリーズの2.5インチHDD型モデル。従来モデルのm4 SSDと比較して、アクセス速度が大きく向上している
Marvell製のコントローラ「88SS9187-BLD2」と、Micron製の20nm MLC NANDフラッシュメモリを採用している
【表1】Crucial M500およびm4 SSDの容量ごとのアクセス性能
Crucial M500Crucial m4 SSD
容量120GB240GB480GB960GB64GB128GB256GB512GB
シーケンシャルリード500MB/sec500MB/sec500MB/sec500MB/sec415MB/sec415MB/sec415MB/sec415MB/sec
シーケンシャルライト130MB/sec250MB/sec400MB/sec400MB/sec95MB/sec175MB/sec260MB/sec260MB/sec
4Kランダムリード62,000IOPS72,000IOPS80,000IOPS80,000IOPS40,000IOPS40,000IOPS40,000IOPS40,000IOPS
4Kランダムライト35,000IOPS60,000IOPS80,000IOPS80,000IOPS20,000IOPS35,000IOPS50,000IOPS50,000IOPS

2.5インチ型に加え、mSATA、NGFF型をラインナップ

 M500シリーズの製品は、厚さ7mmの2.5インチHDD型に加えて、mSATA型、そしてUltrabookなどで採用されている、PCI ExpressをベースとしたNGFF(M.2)型の、3形状が用意される。容量は、全ての形状で120GB、240GB、480GBの3製品が用意され、100GB未満の小容量モデルはラインナップから外れている。また、2.5インチHDD型については、960GBの大容量モデルも用意される。

 SSDとしての仕様や速度は形状によらず同一。接続インターフェイスはSATA 6Gbpsに対応。もちろん、先述の通りコントローラはMarvell製88SS9187、NANDフラッシュメモリは製造プロセス20nmのMicron製MLC NANDが採用される。

 先述の通り、今回試用したのは、2.5インチHDD型の960GBモデルだ。SSD本体は、厚さ7mmの2.5インチHDDと同サイズの金属ケースに封入。ケースには、側面および底面に2.5インチHDDと同じ固定用のネジ穴が用意されている。製品パッケージには、厚さ9.5mmの2.5インチHDDに対応するよう、厚さ2.5mmのスペーサーも同梱。このスペーサーはSSD本体に粘着テープで固定し利用するようになっている。

 このM500 960GBモデルの内部基板を見てみると、基板表側にはMarvell製コントローラ「88SS9187-BLD2」と、容量4Gbitのキャッシュ用Micron製DDR3 SDRAM「D9QLJ」、容量512GbitのMicron製MLC NANDフラッシュメモリチップ「NW524」が8チップ搭載されている。また、裏面にもD9QLJと、NW524を8チップ搭載。NANDフラッシュメモリの搭載総量は1,024GBだが、製品の容量は960GB。残り64GBは予備領域として確保されている。

2.5インチHDD型モデル。120GB、240GB、480GB、960GBの4製品をラインナップ。また、mSATA型やNGFF型の製品も用意される
底面のネジ穴は、2.5インチHDDのものと同じだ
高さは7mm。接続インターフェイスはSATA 6Gbpsに対応
側面の穴も2.5インチHDDと同じで、2.5インチHDDベイに固定し利用できる
パッケージには、厚さ9.5mmのHDDベイに対応するための2.5mmスペーサーが同梱されている
スペーサーは粘着テープでSSDに固定し利用する
内部基板。表側には、Marvell製コントローラ「88SS9187-BLD2」と、容量4Gbitのキャッシュ用Micron製DDR3 SDRAM「D9QLJ」、容量512GbitのMicron製MLC NANDフラッシュメモリチップ「NW524」を8チップ搭載する
裏面にも、D9QLJとNW524が8チップ搭載されている

他社製ハイエンドモデルには劣るが、速度は十分に速い

 では、速度をチェックしていこう。今回は、ベンチマークソフトとしてCrystalDiskMark v3.0.1b、HD Tune Pro 5.00、Iometer 2008.06.28、AS SSD Benchmark 1.7.4739.38088の4種類を利用した。テスト環境は下に示す通りだ。また、従来モデルとなるm4 SSD 256GBでも同じテストを行なった。さらに、Samsung SSD 840 Pro 512GBと、Intel SSD 335 240GBの結果も加えてあるが、これらはAS SSD Benchmarkのバージョンが異なっているため、AS SSD Benchmarkの結果は参考値として見てもらいたい。

【ベンチマークテスト環境】
CPUCore i7-2700K
マザーボードASUS P8Z68V PRO/GEN3
メモリPC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2
グラフィックカードRadeon HD 5770(MSI R5770 Hawk)
HDDWestern Digital WD3200AAKS(OS導入用)
OSWindows 7 Professional SP1 64bit

 まず、CrystalDiskMarkの結果を見ると、シーケンシャルリードが485MB/sec前後、シーケンシャルライトが450MB/sec前後であった。リードは、従来モデルのm4 SSDとほぼ同程度なのに対し、ライトが大幅に高速になっており、公称速度も大きく上回っている。ランダムアクセス速度も高速化しており、特に512KBランダムライトや、4Kランダムリード・ライト(QD32)が大幅に高速化していることが分かる。ランダムアクセス速度は、通常利用時の快適さに直結するため、従来モデルと比較すると、体感でかなり速くなったという印象を受けると思われる。加えて、Marvell製コントローラは、SandForceのようなデータ圧縮機能を利用しないため、どのようなデータでも常に最高の速度が発揮される。実際に、テストデータの形式がランダムの場合と「0 fill」の場合との結果を見比べても、ほとんど差がないことが分かる。

 ただし、実売価格的にも対抗製品と言える、Samsung SSD 840 Proの結果と比較すると、多くの結果でやや下回っている。この点は、最新モデルとしてはやや物足りない印象だ。

M500 CrystalDiskMark 1,000MB
m4 CrystalDiskMark 1,000MB
SSD 840 CrystalDiskMark 1,000MB
SSD 335 CrystalDiskMark 1,000MB
M500 CrystalDiskMark 1,000MB 0fill
m4 CrystalDiskMark 1,000MB 0fill
SSD 840 CrystalDiskMark 1,000MB 0fill
SSD 335 CrystalDiskMark 1,000MB 0fill

 この傾向は、AS SSD BenchmarkやHD Tune Proの結果もほぼ同じとなっている。旧モデルのm4 SSDとの比較では、シーケンシャルライトやランダムアクセス性能で優れる部分が多いのに対し、Samsung SSD 840 Proに対してはやや劣っている。ただし、より安価に販売されているIntel SSD 335よりは優れる部分が多い。

M500 HD Tune Pro 64KB Read
m4 HD Tune Pro 64KB Read
SSD 840 HD Tune Pro 64KB Read
SSD 335 HD Tune Pro 64KB Read
M500 HD Tune Pro 64KB Write
m4 HD Tune Pro 64KB Write
SSD 840 HD Tune Pro 64KB Write
SSD 335 HD Tune Pro 64KB Write
M500 HD Tune Pro 8MB Read
m4 HD Tune Pro 8MB Read
SSD 840 HD Tune Pro 8MB Read
SSD 335 HD Tune Pro 8MB Read
M500 HD Tune Pro 8MB Write
m4 HD Tune Pro 8MB Write
SSD 840 HD Tune Pro 8MB Write
SSD 335 HD Tune Pro 8MB Write
M500 HD Tune Pro Random Read
m4 HD Tune Pro Random Read
SSD 840 HD Tune Pro Random Read
SSD 335 HD Tune Pro Random Read
M500 HD Tune Pro Random Write
m4 HD Tune Pro Random Write
SSD 840 HD Tune Pro Random Write
SSD 335 HD Tune Pro Random Write
M500 HD Tune Pro File Benchmark Zero
m4 HD Tune Pro File Benchmark Zero
SSD 840 HD Tune Pro File Benchmark Zero
SSD 335 HD Tune Pro File Benchmark Zero
M500 HD Tune Pro File Benchmark Random
m4 HD Tune Pro File Benchmark Random
SSD 840 HD Tune Pro File Benchmark Random
SSD 335 HD Tune Pro File Benchmark Random
M500 HD Tune Pro File Benchmark Mixed
m4 HD Tune Pro File Benchmark Mixed
SSD 840 HD Tune Pro File Benchmark Mixed
SSD 335 HD Tune Pro File Benchmark Mixed
M500 AS SSD Benchmark
m4 AS SSD Benchmark
SSD 840 AS SSD Benchmark
SSD 335 AS SSD Benchmark
M500 AS SSD Compression Benchmark
m4 AS SSD Compression Benchmark
SSD 840 AS SSD Compression Benchmark
SSD 335 AS SSD Compression Benchmark
M500 AS SSD Copy Benchmark
m4 AS SSD Copy Benchmark
SSD 840 AS SSD Copy Benchmark
SSD 335 AS SSD Copy Benchmark

 最後に、IOmeterの結果だ。こちらでは、「File Server Access Pattern」を利用したランダムアクセス速度をチェックしているが、こちらも従来モデルから大きく性能が向上していることが分かる。また、Samsung SSD 840 Proとの比較では、Queue Depth=1の場合では若干劣るのに対し、Queue Depth=32の場合には逆に上回っており、ランダムアクセス性能に関してはほぼ遜色ないレベルと言えそうだ。

Iometer 2008.06.28 Windows 7 Professional 64bit
Crucial M500 960GBCrucial m4 SSD 256GBSamsung SSD 840 PRO 512GBIntel SSD 335 240GB
Queue Depth:1Queue Depth:32Queue Depth:1Queue Depth:32Queue Depth:1Queue Depth:32Queue Depth:1Queue Depth:32
File Server Access PatternRead IOPS4231.513122.82804.64594.15411.512550.33274.021060.7
Write IOPS1056.83281.5702.81146.21354.63132.6818.15260.9
Read MB/s45.9142.130.449.858.7135.835.5227.7
Write MB/s11.435.57.612.414.633.98.856.9
Average Read Response Time0.22.40.36.60.22.00.21.2
Average Write Response Time0.10.30.11.40.12.10.21.2
Maximum Read Response Time211.1217.28.428.510.8941.111.917.6
Maximum Write Response Time214.7215.31.916.61.5941.02.317.9

 今回のベンチマークテストの結果からは、M500の性能は他社の普及価格帯モデルとハイエンドモデルの中間(ただしハイエンド寄り)に位置付けられると言えそうだ。ただ、他社のハイエンドモデルにやや性能が劣っていると言っても、その差は1割程度でしかなく、実際にPCに搭載して利用する場合に、速度差が体感できる場面はほとんどないはずだ。

 実売価格は、登場直後ということもあってか、まだやや高め。それでも、960GBモデルは実売で60,000円前後と、1TB近いSSDとしてはかなり安価となっており、大容量SSDを求めている人にとっては、非常に有力な選択肢となるだろう。また、他の容量の製品についても、今後徐々に販売価格が下落していくものと思われる。そして、今後の価格の動向によっては、価格と性能のバランスから、m4 SSD同様に定番SSDとしての地位を築く可能性が高い。人気モデルの後継ということも合わせ、SSDの新たな選択肢として注目すべき製品だ。

(平澤 寿康)