大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
自動翻訳、人工木陰、快眠エアコン、カード1枚で観光!?
~2020年の社会を支える53の技術をパナソニックが参考展示
(2015/2/12 12:05)
パナソニックは、2月12日~14日の3日間、東京・有明のパナソニックセンター東京において、関係者や取引先を対象に「Wonder Japan Solutions」を開催するのに先駆け、報道関係者に展示内容を公開した。
Wonder Japan Solutionsは、東京オリンピック/パラリンピックが開催される2020年の街と、それを支えるパナソニックの技術およびソリューションを、現時点でのプロトタイプとして、具体的なシーンごとに幅広く展示する同社のプライベートイベント。招待制としており、残念ながら一般公開は行なわれない。
パナソニックの井戸正弘役員は、「技術とソリューションの組み合わせで、2020年以降の未来の暮らしを提案し、パナソニックのおもてなしイノベーションを世界にアピールするイベントにしたい」と、同イベントの狙いを語る。
そして、「全ての展示が完成しているわけではないが、パネルだけの展示は行なわない。実物、実演、体感を通じて提案している。一部には、実用化が近いものもあるが、基本的には、現在開発しているものを展示している。パナソニックが、完成していないものを一堂に見せる展示会は初めてのことになる。そのため、一般には公開しない展示会にした」と位置付ける。
続けて、「当社だけでは解決できない課題については他社とのコラボレーションが必須であり、新規商品、新規技術を、業界を代表する日本の企業などに公開することで、早期に商品化すること、現在の課題を解決することが必要だと考えた。完成まで待って公開するのでは、あと1年後、2年後になってしまう。そこからスタートするのではなく、今から解決していく必要がある。今回のイベントは、事業開発のオープンイノベーションの展示会であり、BtoBソリューション創出のトリガーになる。関係企業に展示内容を見てもらい、パナソニック1社では解決できない課題を、『オールジャパン』で解決していくきっかけにしたい」と述べた。
展示技術は、電動アシスト自転車や充電ロッカーなどによる「スマートトランスポーテーション」、自然と調和した暑さ対策や東京都産エネルギーを最大限活用する「スマートコミュニティ」、言語の壁を取り除く音声認識技術、自動翻訳技術を活用する「スマートコミュニケーション」、業界ナンバーワンシェアを持つ決済端末を技術をベースに、観戦や移動、買い物などをキャッシュレスにする「スマートペイメント」、数万台のカメラと画像解析技術を活用し、心地よさを担保したセキュリティを実現する「スマートセキュリティ」の5つに分けられ、日本を訪れた外国人観光客が、オリンピック期間中に、入国から出国に至るまで、一気通貫で安心して楽しむことができるさまざまなソリューションを、「おもてなしイノベーション」として、53の技術や製品、ソリューションにより、提案していく構成になっている。
同社では、これを「Wonder Japan Solutionマップ」として提示して見せた。
母国語を使った双方向コミュニケーションを実現
では、今回の展示会ではどんな技術が展示されているのか。
外国人観光客が日本を訪れて、どんな使い方ができるのかを追ってみたい。
日本を訪れた外国人観光客にとって最初の壁は、言葉だ。そして、観光客に対して、「おもてなし」をしたい日本人にとっても、言葉はやはり壁になる。
そこでパナソニックが提案するのが、「スマートコミュニケーション」を実現する自動多言語翻訳機だ。据え置き型のシステムでは、マイクに向かって喋れば、それを会話している相手の国の言葉に自動的に翻訳して、音声合成で喋ることができる。据え置かれた机の上には、20型の4Kディスプレイが埋め込まれており、ここには、翻訳した文字で表示。観光情報なども表示するといったことが可能だ。もちろん、相手の母国語も日本語に翻訳できるため、それぞれが自分の国の言葉を使いながら、双方向コミュニケーションができるようになる。
また、自動多言語翻訳機は、ハンズフリーで利用できるウェアラブル型のデバイスも開発しており、首からぶら下げるペンダント型の手のひらサイズのデバイスの中に高度な集音技術を搭載。据え置き型同様の翻訳を実現することができるという。
交番やイベント会場、駅などでの案内、宿泊施設での利用、店舗での商品購入時の利用といったように、さまざまな場所での利用が想定されている。
「言葉の壁をなくして、外国からのお客様をおもてなしするための技術。現時点では中国語に関しては高い翻訳率が可能になっている。今回の展示会では、日本語、英語、韓国語、中国語の4カ国後でのデモストレーションを行なっている。今後は、対応する言語の拡大のほか、方言などにも対応することで、翻訳率の精度を高めていくことになる」(パナソニックの井戸役員)
多言語翻訳ソリューションとしては、光ID多言語サイネージも新たな提案の1つだ。これは、今年1月に米ラスベガスで開催された2015 International CESのパナソニックブースで初公開した技術だが、光IDならではの高速な通信速度を活かして、サイネージや商品などにスマートフォンをかざすだけで、翻訳された情報が表示できる。
「従来技術の数百倍の通信速度で情報を入手できるのが光ID通信の特徴。サイネージのほか、LED照明の光も読み取ることができ、それによって、光で照らし出された商品の情報が翻訳され、スマートフォンに表示できる。防災ソリューションの1つとして、災害時には、街中のディスプレイにスマートフォンをかざすだけで、母国語で情報が表示されるといった使い方も可能になる」と言う。
地震が多い日本においては、非常時にパニック状態にならないための技術も大切だ。そのためには外国人に対しても適切な情報提供が必要になる。
光ID通信技術を活用することで、緊急情報を表示して、群集を誘導する群集誘導ソリューションとしての展開。あるいは、「V-Low」の技術によって、Wi-Fi環境で放送波による情報を送り届ける仕組みを提供。バスの乗客へ放送波を使って緊急情報を提供する防災情報提供システムなども展示した。
カード1枚で入国から出国までを楽しめる!?
入国から出国時まで、快適に観光を楽しんでもらうための技術が、スマートペイメントだ。今回の展示会では、「Wonder Japan Pass」と呼ぶカードを展示した。
このカードには、クレジットカード機能のほか、デビットカードや各種電子マネー機能、チケット機能などを搭載。カードだけを使って、日本に滞在中のさまざまな活動をスムーズに行なえるようにする。
まず、入国時の審査にこのカードを使用できるようにするほか、パスポート情報と旅程情報を端末に登録。空港や街中に設置された案内端末にカードをタッチするだけで、目的地や交通手段、乗り場情報案内を表示。パスポート情報から母国語を特定して、全ての表示を翻訳することもできる。
また、食事や宿泊、タクシーに乗車する場合にもこのカードだけで決済し、チェックインすることができる。高額決済の場合には、パスポートの情報などと連動させて、顔認証を行ない、買い物履歴の詳細もカードに記録できる。タクシーでは、予約情報から行き先を推察してカーナビに表示するといったことができるという。
さらに、イベント会場では、このカードをかざすだけで、チケットレスでの入場が可能で、イベント会場内のディスプレイにカードをかざすだけで、自分の座席の位置も表示してくれる。
出国の際にもこのカードを利用することで、スムーズな税関通過を行なうことができるようになるという。
だが、これらを実現するにはさまざまなルールの改正が必要なのも事実。「入出国の審査にカードにそのまま利用するということは、現行ルールでは難しく、他国と協議する必要もある。これは企業というレベルで提案するものではなく、国間での協議が必要になる」。
なお、このスマートペイメントで利用されるチップは小型化していることから、カード以外にもさまざまなところに付けられる。リストバンド型あるいは腕時計型のウェアラブル端末にチップを自由に貼り付けたり、扇子や団扇、手ぬぐい、タオルなどにも装着して利用できるという。持ち運んでいることを意識しない利用が可能だ。
シェアサイクルも気軽に利用できる環境に
スマートトランスポーテーションでは、シェアサイクルの提案を行なってみせた。
パナソニックでは、国内ナンバーワンシェアを持つ電動アシスト自転車の事業実績を活かして、スポーツ車やシニア車などのラインナップを用意。自転車と電池の両方を生産している強みを活かしながら、充電ロッカーの電池マネジメントにより、常に満充電状態の自転車向け電池を供給する体制を作るという。さらに、1つの場所に自転車が偏らないように、ポート間マネジメントを実施。自転車の偏在を解消することもできるという。
ここでもWonder Japan Passらを利用した多言語対応での貸し出し、決済作業を可能にしているという。
暑い日本を快適に過ごす暑さ対策
スマートコミュニティとしては、暑い夏でも快適に過ごすための暑さ対策ソリューションを展示した。
「昨年(2014年)夏の東京は、35℃を超える猛暑が続いた。景観を崩さない形で、暑さ対策ソリューションを提案したい」(パナソニックの井戸役員)とする。
提案の1つが、クールスポットだ。
屋根が設置されたバス停やサイクルステーション、Wi-Fiスポットなどに、マイクロミストやファン、エアカーテン、遮熱パネル、保水ブロックを活用。冷涼空間を提供するというものだ。ソーラーパネルと蓄電池との組み合わせによって、自立型電源を確保し、暑さをしのぐことができるという。
また、グリーンエアコンは、木陰とマイクロミスト技術によって街中を冷やすことを目的にしたもので、人工的な葉は、光を効果的に遮るとともに、風を通すことができる構造を採用。さらに、木の幹の部分や、木の下部に置かれた装置から、濡れることがないマイクロミストを散水し、保水ブロックによる打ち水効果で涼しい街区を実現するという。
「マイクロミストと保水ブロックの打ち水効果によって涼しい空間を創出することができる。暑さ対策だけでなく、夜は景観に配慮して、LEDを使ったイルミネーションの演出もできる」(パナソニックの井戸役員)とする。
3km先の船を監視、迷子探しにセンサーを活用
そして、最後が、映像やセンサーを駆使した先進のセキュリティ技術によるスマートセキュリティである。
センサーとカメラによる大規模監視を行なう統合監視センターシステムでは、360度死角レスの4K高精細全方位カメラを活用。施設ゾーン、施設周辺エリア、地域といった3層に分類した多数のカメラと連携して、大規模な統合監視を行なうことができるという。
「今回の展示会場では、30台のカメラを設置している。また、海上監視を行なう水辺監視システムでは、3km先の船の様子がカメラで確認できる。画像解析やデータ連携により、広範囲の情報を的確に把握する高度なセキュリティを実現できる。そのほかにも、カメラ機能の画像解析技術をセンサーとして活用。迷子や警備、避難誘導の業務支援を行なえる」という。
さらに、展示会場では、センサーと画像解析技術による警備監視を行なう不正侵入検知システムも展示していた。
オリンピックの感動を全世界に配信
東京オリンピック/パラリンピックの会場を想定した展示も行なっていた。
スタジアムにおいては、「BIG LIVE」の名称で、85型4Kサイネージや、360度マルチスクリーン、360度表示が可能なウェアラブル型のパーソナルVRシステムを使用して、スタジアムの感動を全世界に届けることができる環境を提案。
また、選手村では、選手しか入れないインテリジェントゲートの採用。パラリンピックの参加者にも配慮したバリアフリーのシャワー施設や洗面台を提案してみせた。
さらに、照明と音声が連動して、快眠をサポートするエアコンの設置などにより、ストレスフリーに過ごせる環境の実現、燃料電池による環境に配慮したエネルギーソリューションを展示している。
パナソニックの井戸役員は、「今回展示した技術や製品は、まだ事業化が決定したものはないが、中には、光ID通信技術のように、すぐに実用化できる段階にあるといったものも含まれている。グリーンエアコンやクールスポットも実証実験を行なえる段階にある。これらは、パナソニックが展開している神奈川県藤沢市のスマートシティ『Fujisawa サスティナブルタウン』において、今年夏から実証実験を行ないたいと考えている。それらの経験を経て、実用化、事業化に繋げていきたい」と語る。
また、「東京オリンピックに関する新たな施設は、2016年春から着工に入るものが多い。2015年は実設計に入る段階であり、設計事務所、ゼネコン、サブコンが決定することになる。主要施設に対するスペックインが開始され、これによってある程度の事業規模が予測できるようになるだろう。これらの提案は、2017年~2019年が刈り取り時期になる。2015年は、2020年に向けた号砲が鳴ったという点で重要な年になる。また、2020年以降の社会への貢献という意味でも重要なものになると考えている」と述べた。