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誰もが見たことあるあの電子マネー端末を作ってます
~ターミナル端末生産のパナソニック佐賀工場を訪ねる
(2015/6/20 06:00)
パナソニックが生産する電子マネー対応非接触ICカードリーダライタの累計生産、販売台数が100万台に到達した。ICカードリーダライタは、決済端末やハンディターミナルなどに搭載され、同社では、その全てを国内開発および国内生産している。
同事業を担当するのは、パナソニック システムネットワークスのターミナルシステムビジネスユニットだ。このほど、佐賀県鳥栖市の同社佐賀工場を報道関係者に公開。あわせて、同社福岡事業場のショールームを訪れる機会を得た。ICカードリーダライタを中心に、パナソニック システムネットワークス ターミナルシステムビジネスユニットの取り組みを追った。
マックやケンタで100%の導入率を誇る
ICカードリーダライタなどを担当するターミナルビジネスユニット(BU)は、AVCネットワークス社の中のビジネスモバイル事業を担う1つのBUとして位置付けられ、クレジット端末や電子マネーリーダライタを開発、生産する決済システム事業、ハンディターミナルや5型タブレットなどを開発、生産するモビリティ事業で構成。法人向け端末の開発、製造、販売およびアプリケーションの開発、販売を担当する。
「ITプロダクツ事業部による堅牢端末技術、ターミナルシステムビジネスユニットが持つ決済技術、パナソニックモバイルコミュニケーションズが持つ移動通信技術を組み合わせることで、他社にはないモバイルソリューションを提供することになる」(パナソニック システムネットワークス ターミナルシステムビジネスユニット長の古川治氏)とする。
生産拠点は佐賀工場のほか、横浜、大分に設置。さらに、中国の4拠点を含めて7つの海外生産拠点を持つ。そのほか、大阪・守口、神奈川・横浜に開発部門、東京に営業部門を配置している。
「情報と材料が揃えば、素早くどこでも生産できる体制を構築しているのが特徴」(パナソニック システムネットワークス ターミナルシステムビジネスユニット長の古川治氏)であり、柔軟な生産ネットワーク体制を敷いている。
また、「パナソニックのハンディターミナルは、1980年代から、ヤマト運輸向けに提供。据え置きPOSは、日本マクドナルド、日本ケンタッキー・フライド・チキンの全店舗で採用。ホテルのフロント決済端末市場では国内で7割のシェアを持っている」(同)という。
ターミナルシステムビジネスユニットの事業規模は、現在、約300億円。そのうち、決済関連事業が半分以上を占めるという。「2018年度に向けて、事業規模を倍増させたい」(同)とした。
異品種少量・変量生産に対応する超複品工場
パナソニック システムネットワークス ターミナルシステムビジネスユニットの基幹工場となる佐賀工場は、九州新幹線新鳥栖駅から車で10分弱の距離にある。1964年6月に、当時の九州松下電器の佐賀事業部として発足。九州松下電器において、福岡県以外で最初の拠点として設立した経緯がある。
61,000平方mの敷地に、43,000平方mの建物面積を持ち、2012年に竣工し、完成品生産を行なうⅠ棟、2015年3月までトナー生産を行なっていたII棟、道路や鉄道などの大型件名生産を行なうIII棟、保守部品などを保管し、これらを全世界へ発送する機能を持つサービスパーツセンターのⅣ棟で構成している。社員数は352人。
かつては、ドットマトリクスプリンタ、レーザープリンタ、電子黒板、スキャナーなどを生産。さらに、筑後、長崎、宇都宮、新潟、大分、横浜(佐江戸)、熊本、白河といった同社拠点からの生産移管などを行なってきたことから、さまざまな生産ノウハウが入り交じった拠点である点も特徴だ。
「中国やアジアに対して距離的なメリットがあることから、佐賀の拠点に集約した経緯がある。現在、佐賀工場の勤務者のうち、九州出身者は4割に留まっている」(パナソニック システムネットワークス 佐賀工場の南里太郎工場長)という。現在、佐賀工場では、監視カメラ、広域監視システム、音響機器、ホームセキュリティ製品、液体冷却システムのほか、A4複合機や補聴器なども生産している。
パナソニック システムネットワークス 佐賀工場の南里太郎工場長は、「佐賀工場で生産している台数の6割強が、ターミナルシステムビジネスユニットの製品となっているが、6事業部、17カテゴリの製品を生産し、異品種少量・変量生産に対応する超複品工場である。パナソニックの中でも、これだけのカテゴリ領域の製品群を生産している拠点はほかにはない。異品種変量生産への対応が求められ、さらに、閑散期と繁忙期で3倍の差の生産量の差がある工場である。また、年間3回以下の生産回数となっている製品が半分。生産台数が100台以下のロットの製品が7割を占めている。万屋(よろずや)稼業ともいえる工場である」とした。
電子マネーリーダライタの生産ラインを見る
佐賀工場の電子マネーリーダライタの生産ラインは、基板実装から、手加工、組立検査、包装、出荷までワンフロアでの一貫生産を行なう体制としているのが特徴だ。実装工程側を加圧して、空気の流れが上流工程から下流工程へと流れるようにするとともに、静電対策を施し、ホコリを管理。品質を高めることに繋げているという。
生産工程の様子を写真でみてみよう。
3億5,000万件のデータを活用し品質向上に活かす
一方、佐賀工場では、工程データの全てを保存。蓄積した約3億5,000万件のデータから、製品品番や工程、日時などの属性をもとに必要な情報を検出。さらにトレーサビリティデータをリアルタイム処理することで、不良が発生する前に異常を検知することができるという。また、不良予測に基づく工程管理を行なっており、基板実装工程では、事前の不良見積もり、対策システムを構築しているほか、製品が完成した時点では、データを活用して「ことまえ表」を作成。次月の生産機種の不良対策に繋げている。
「3カ月以上、生産がなかった製品については、『久しぶり生産』と呼び、新機種と同様の管理を行なう」(パナソニック システムネットワークス 佐賀工場の南里太郎工場長)という。こうした仕組みが、異品種少量・変量といった要求に対しても、高品質に生産できる体制の構築を支えている。
同工場では、生産情報統合システム「P-TOS(Panasonic Tools of factory Improvement System)」を導入。生産ラインにあるタブレットやハンディターミナル、バーコード、カウントセンサーなどを通じて生産工程の情報を自動入力。これをPSIやスケジューラ、生産計画と連動。また、PDMやR/3などの基幹システムとの連動なども行ない、数値を見える化している。さらに、デジドンと呼ぶ、19台のネットワークカメラによって撮影した工程内の画像をP-TOSと連動させて、画像と数値のリアルタイムな連携により、課題の見える化と、解決速度の向上を図っているという。
さらに、恒温高湿槽や熱衝撃試験機、シールドルーム、落下試験機、振動試験機、散水試験機、EMC測定棟を佐賀工場内に設置。「開発拠点が離れている場合にも、佐賀工場内で独自に試験を行ない、信頼性や耐久性を高めることができる。また、RoHS対応のために、20台の簡易分析装置を保有しているほか、詳細分析が可能な装置も保有していることから、外部に分析依頼を行なわずに、迅速な検査、分析が可能になる」と述べた。
佐賀工場では、「何でも対応できる、何でも作れる工場」を目指しており、BtoB市場において、異品種少量生産からシステム製造までをフレキシブルにカバーし、進化し続ける工場に取り組む考えを示した。
国内で7割の市場シェアを持つパナソニック
パナソニックの電子マネー対応非接触ICカードリーダライタは、2003年9月の発売以来、2015年5月までの約11年8カ月で販売累計100万台に達した。
事業開始当初は、JR東日本向けのSuicaに対応したICカードリーダライタを導入。その後、各種公共交通機関向けに対して、1種類の電子マネーに対応したシングルタイプの非接触ICリーダライタの生産、販売を開始。2006年からは、セキュアおよび小型化といった機能に焦点を絞るとともに、1台で複数の電子マネーに対応する「マルチアプリケーション対応非接触ICカードリーダライタ」を業界に先駆けて製品化したという。
その後、電子マネー市場の拡大に合わせて、金融・クレジット業界、自動販売機業界、流通業界、運送業界などの需要に対応。液晶ディスプレイを搭載した製品や、効果音の音源を内蔵した「据置き型」、POSや飲料自動販売機などに内蔵する「モジュール型」、百貨店、スーパーマーケット、外食業などのPOS市場向けに外付けが可能な「ピンパッド一体型」などにも、ラインナップを拡大してきた。
2013年2月には、マルチICリーダライタをフルモデルチェンジ。対応可能な電子マネー数を増やすとともに、NFCや非接触EMVに対応するなど、機能面、性能面、コスト面での改善を図り、現在に至っている。
これまでにコカ・コーラの自販機への電子マネーユニット、JR東日本のグリーン車の座席予約システムの電子ユニット、セブンアンドアイのPOS端末やATM端末への組み込みユニット、イオンの電子マネー端末などの製品を提供している。
「パナソニックでは、国内において、約7割を超えるシェアを獲得して首位。さまざまで機種で、さまざまな機能を提供しており、プリペイド型の電子マネー、ポストペイ型の電子マネーのほか、非接触EMV、クレジットカード、デビットカード、銀聯カード、ポイントギフトなど、幅広い対応が可能である点も強みになる」(パナソニック システムネットワークス ターミナルシステムビジネスユニット長の古川治氏)という。
今後は、ゲーム機をはじめとして、電子マネーが使用可能なインフラの拡大や、海外旅行客などへの対応。多様な決済サービスを1台で対応可能な「据置き型」、「モバイル型」、「クラウド対応型」などの電子マネーリーダライタの新製品の開発に取り組むという。東京オリンピック向けにパナソニックが提案している「スマートペイメント」の実現に向けても、重要な役割を果たすことになるという。
また、北米市場向けには、WindowsタブレットにPOS機能を搭載したモバイルPOSを、2015年度中に投入する計画がある。「オフラインでも決済が可能なリッチクライアント型に加えて、今後は、サーバーと通信をして決済を行なうクラウド型端末でも市場をリードしていく。クラウド対応の据置型端末は、2015年9月に投入する計画である。さらに、スマートデバイスと連携したモバイル型製品の投入も予定している。2015年度は10~20%がクラウド型製品になると見込んでおり、2020年度にはクラウド型が半分以上を占めるだろう」とした。
さらに、「ゲーム分野にも積極的に展開していきたい。また、POS端末では、モバイルウォレットやマイナンバーの民間利用、ライアビリティシフト、外国人観光客の増加に伴い利用範囲が拡大すると見ており、世の中の動きを先取りしながら対応したい。この分野のリーダーとして、セキュリティ強化などに取り組むほか、新たな分野にも挑戦することで、2020年度までに累計販売200万台を目指したい」と述べた。
セキュリティと省エネの実勢拠点となる福岡事業場
一方、パナソニック システムネットワークス 福岡事業場のショールームも公開した。
同ショールームは、「単品で商品を紹介するのではなく、ネットワークで繋いだ提案を行なうショールームとなっている。オフィス、防災・セキュリティ、店舗、街・社会、ホームの5つの領域から展示を行なっている」という。
福岡事業場は、九州松下電器の発足の地であり、東京ドームとほぼ同じ大きさの約5万平方mの敷地に、約3,000人が勤務。研究、開発拠点としての役割を担うとともに、「ビルまるごとセキュリティ」、「ビルまるごとエコ」の実践拠点としている。
セキュリティの観点では、105台の監視カメラを社内に配置。中央監視室において、24時間365日の監視体制を敷いており、「ここで得た知見やノウハウは製品開発にも反映することになる」という。パナソニック システムネットワークス自らが検証した成果を、製品づくりに活かしているというわけだ。
写真で、福岡事業場の様子を紹介する。