大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

累計300万台を超えたPCリサイクルは、小型家電リサイクル法でどう変わる?

~iPadやSurfaceもメーカー回収対象に

 2003年10月にスタートした家庭向けPCの回収、リサイクル制度が、間もなく10年を経過しようとしている。

 同制度の促進役である一般社団法人パソコン3R推進協会が4月12日に発表した、2012年度(2012年4月~2013年3月)の家庭系使用済パソコンの回収、リサイクル実績は419,511台。前年の415,480台を上回り、過去最高の年間回収実績となった。

 2013年2月の時点での累計回収台数が300万台を突破しており、この3月には35,439台を回収して、累計では303万9,055台の回収実績となったことも明らかになった。

 2012年度の実績をみると、PCリサイクルマークが付与されたPCの回収が全体の53.9%に達し、2011年度の45.0%から一気に過半数を突破したのが特筆される。

PCリサイクル台数の推移(2006年度~2012年度)
NECパーソナルコンピュータLaVie ZのPCリサイクルマーク

 PCリサイクルマークは、この制度に参加しているPCメーカーが、2003年10月以降に発売したPCに付与しているもので、運送費用やリサイクル費用を支払わずに回収、リサイクルができるというものだ。回収はそれぞれのPCメーカーが窓口となり、インターネットや電話で申し込めば、エコゆうパックを利用して、そこから再資源化センターに送られ、リサイクルされる。

 だが、このマークが付与されていないPCに関しては、回収再資源化料金を支払う必要があり、その際には、デスクトップPCや液晶ディスプレイ一体型PC、ノートPCがそれぞれ3,150円。CRTディスプレイ一体型PCが4,200円となっている。現在、約50社のPCおよびPC用ディスプレイの事業を行なっているメーカーが参加しているという。

 なお、倒産したメーカーや事業撤退したメーカーのPC、さらには自作PCの場合は、パソコン3R推進協会が回収作業を行なっており、デスクトップPCや液晶ディスプレイ一体型PC、ノートPCがそれぞれ4,200円。CRTディスプレイ一体型PCは5,250円。また、2013年4月からは、マウスコンピューターが、この制度から離れて独自に回収を行なうといった動きもある。

 「PCリサイクルマークが貼付されたPCのリサイクル比率は、2012年度上期は51.4%。下期はさらに増加し、56.4%となっている。PCリサイクルマークが付与されたPCの増加は、ユーザーの負担がなく、リサイクルできるPCが増えることになり、さらに回収台数が増加する可能性がある」と、一般社団法人パソコン3R推進協会の海野隆専務理事は語る。

主要なタブレット端末にもPCリサイクルマークが付与

 実は、iPadをはじめとするタブレット端末にも、PCリサイクルマークが付与されている。

 現在、アップルの「iPad」、ASUSの「Nexus 7」。そして、日本マイクロソフトが発売したばかりの「Surface RT」にもPCリサイクルマークが付与され、無償でリサイクルができるようになっている。タブレット端末の人気機種にPCリサイクルマークが付与されていることから、出荷されさている多くのタブレット端末がリサイクル可能となっている。iPadなどは中古品市場でも高い値段がつくため、下取りに出す人が多いため、よっぽどひどい壊れ方をしたとき以外はリサイクルには出さないといったユーザーが多いようだが、無償でリサイクルができるという点では、ユーザーにとっても心強いといえる。

 PCの場合には、PC本体の裏面などに、PCリサイクルマークが直接印字される形が一般的だが、iPadやSurface RTの場合には、シール状のPCリサイクルマークが箱の中に入れられており、ユーザー自身がこれを自分で本体に貼り付けることになる。

 これら製品は、グローバルモデルとして生産されているだけに、日本固有のPCリサイクルマークが印字できないという背景から、こうした特別措置が取られているようだ。

アップルiPadのPCリサイクルマーク
日本マイクロソフトSurface RTのPCリサイクルマーク

 アップルでは、iPadを「ノンPC」と位置付けているが、リサイクルに関してはPCのカテゴリの中で処理されることになる。

 ちなみに、PCは、資源有効利用促進法という法律に基づいて、リサイクルすることが決定しているが、タブレット端末の場合、現時点では自主的に回収を行なっているという段階だ。しかし、PC出荷の3割をタブレット端末が占めるなど、業界では、回収およびリサイクルのスキームづくりが、避けては通れないものになりつつある。

 今後のタブレット端末のリサイクルについては、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が検討を進めている模様で、今後、業界全体をあげて回収、リサイクルに取り組むことになりそうだ。

PCリサイクルの認知度向上に向けてキャラクター募集

 年間700~800万台の家庭向けPCが出荷されていることを考えると、パソコン3R推進協会による年間40万台規模の回収実績は、決して大きいとはいえない部分もある。

一般社団法人パソコン3R推進協会 海野隆専務理事

 「2003年10月の制度スタート時には、年間50万台規模には早期に到達すると考えていた。それに比べると、現時点で40万台という数字が低いのは確か」と海野専務理事は語るが、その一方で、「下取り、買い取りといった制度が予想以上に定着し、リユースに流れたという点も見逃せない」とする。

 PCをはじめとするリユースでは、業界団体として、一般社団法人情報機器リユース・リサイクル協会があり、安心して下取りに出すことができる環境づくりに取り組んできた経緯がある。下取りに出されたPCの中で再販できないPCが適正にリサイクルされるといった動きもこの中で確立されている。

 だが、PCがリサイクルできるということに対する認知度の低さは課題と言えそうだ。

 リサイクル可能な家電製品としては、家電リサイクル法による、TV、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの4品目があり、調査によると、同リサイクル制度に対する認知度は70%にまで達している。これに対して、PCリサイクル制度の認知度は20%と低いのが実態だ。

 家電4品目がいずれも100%近い世帯普及率であることや、新たに購入した製品との入れ替えで、量販店が回収作業を行なうケースが多いといったことも、家電リサイクル法の認知度が高いことに繋がっている。PCでは下取りで回収することはあっても、新たな製品の購入時に、入れ替えでリサイクルに出すというケースは少ない。これが結果として、リサイクル回収台数が40万台規模に留まっている要因の1つだともいえよう。

 物理的に動作しなくなってから、買い換えることが多い家電製品に比べて、性能的な寿命が訪れたことによって買い換えるケースが多いPCの場合、退蔵させてしまうというケースも多いという。現在でも毎年140~200万台規模の使われないPCが、家庭内に退蔵されているという試算もある。業界内では、2014年4月のWindows XPのサポート期限の終了によって、さらに退蔵されるPCが増加するのではないか、といった懸念の声もあがっている。

 「わが国の循環型社会の発展を考えれば、PCがリサイクルされることに対して、もっと認知度向上を図っていく必要がある。改めて告知活動にも力を入れていきたい」と、海野専務理事は語る。

 その一環として、同協会では、2つの取り組みを開始した。

 1つは、「PCリサイクルのキャッチフレーズ大募集」キャンペーンである。“パソコンリサイクル制度”をより多くの消費者の方に認識してもらうことを目的に、キャッチフレーズを、2012年12月31日まで募集。1,701人から、3,519件の応募があり、その中から大賞1作品、佳作2作品を選出した。

 大賞は、富山県の瀧川和哉さんの「あなたのやさしさ資源にかえて すすめるPCリサイクル」。有識者による選考委員会では、パソコンリサイクル制度が、人と環境にやさしく、資源循環を目指すものであることを端的に表現した作品であると講評。今後、さまざまな広報ツールに用いて、PCリサイクルの普及啓発に努めるという。

 もう1つの取り組みは、PCリサイクルのキャラクター募集だ。PCリサイクル制度の安心感、やさしさなどの特色をアピールでき、少年少女を中心に誰にでも親しまれるキャラクターを募集するもので、5月31日が締め切りとなる。最優秀作品1点には、7万円の副賞が贈られる。

 「キャラクターをシールとして広く配布し、家庭内のPCなどに貼ってもらえるものにしたい。教育現場のPCにもキャラクターが描かれたシールを貼ってもらい、PCリサイクルに対する子供たちの認知を広げ、それを家庭内にも波及させるといった効果も狙いたい」と海野専務理事は、その用途を説明する。

 着ぐるみを製作するということは考えていないというが、キャラクター募集は、PC関連の業界団体としては珍しい取り組みだと言えよう。

4月スタートの小型家電リサイクル法でもPCを回収

 こうした取り組みの一方で、PCのリサイクルを巡る環境が大きく変化しようとしている。

 それは、2013年4月1日から、小型家電リサイクル法がスタートし、その中にPCが含まれているからだ。

 小型家電リサイクル法は、正式名称は、「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律」とされ、これまでのPCメーカーによるリサイクル制度のベースとなっていた「資源の有効な利用の促進に関する法律」とは別の法律である。今後は、この2つの法律が並立して、PCのリサイクルが進められることになる。PC業界としては、リサイクルするルートが新たに増えたことで、適正な処理が行なわれ、循環型社会を形成する間口が広がったともいえる。当然のことながら、PCユーザーにとっても、リサイクルの窓口が増加したことになる。

 では、小型家電リサイクル法は、これまでのPCリサイクルとはどこが違うのだろうか。

 1つは、不要となったPCの回収は自治体や認定事業者が行ない、リサイクルはそれらと連携した認定事業者が行なうという仕組みになっている点だ。自治体の各種拠点や、量販店などによる認定事業者が回収窓口となるため、PCメーカーが直接回収するこれまでの制度とは大きく仕組みが異なる。

 だが、すべての自治体がこの仕組みを採用するわけではなく、仕組みをスタートする時期もそれぞれの自治体に委ねられている。そして、リサイクル費用については、自治体ごとに料金が設定され、回収方法もそれぞれの自治体ごとに異なる。つまり、自治体が足並みを揃えて一斉に取り組むというものではない。

 ユーザー自身が住む自治体に確認をして、小型家電リサイクル法に則った形で、PCをリサイクルする仕組みが整っているかを調べる必要がある。浜松市などでは、PCも回収対象としているが、都心部などでは、PCを回収対象としている自治体が少ないというのも事実だ。

 一方で、小型家電リサイクル法を利用するメリットも大きい。

 例えば、小型家電リサイクル法では、自治体や認定事業者による回収およびリサイクル費用が無償である場合や、有料であっても、メーカーのPCリサイクル費用の3,150円という料金にはならない可能性が高い。そのため、PCリサイクルマークが付与されていない2003年10月以前のPCをリサイクルに出す場合には、この制度による回収窓口を利用した方が、費用負担が少なくて済むことになる。

 また、PCメーカーが回収する仕組みでは、ディスプレイは一緒に回収してくれるが、プリンタなどの外付けの周辺機器は回収対象外。小型家電リサイクル法では、PCとプリンタを一緒に拠出できるといったことも可能になるだろう。その点、手間が少なくて済むともいえる。

 しかし、PCメーカーの仕組みでは、郵便局による戸口集荷依頼が可能であり、自宅にいながら回収してもらえるのに対して、小型家電リサイクル法では役所や公民館、図書館といった回収場所に持ち込むことが基本となりそうだ。また、すべてのPCが対象となっているわけでなく、回収ボックスに入らないPCは、PCメーカーに回収を依頼するように促している自治体もある。概ね、30×15cmの回収ボックスの投入口に入る小型家電を回収対象としている自治体が多いようだ。

 そして、もう1つ気になるのは、PCの中に入った情報が適切に管理されるかどうかである。

 小型家電リサイクル法では、回収した小型家電製品は、盗難されないような適切な管理が義務付けられており、PCのデータ消去に関しても認定事業者が責任を持って処理する体制が整っているが、それら1台1台のPCについて個体管理をしているわけではない。つまり、誰が出したPCなのかということは管理されていないのだ。仮に盗難が発生した場合、PCが何台盗難されたかということはわかるが、誰が出したPCなのかということはわからない。電気髭剃り機であれば、回収後に盗難が発生したとしても誰か拠出した製品であるかといったことは気にはならないが、情報が入っている可能性があるPCの場合、そうはいかない。そこからどんなデータが流出するかがわからないからだ。

 回収する自治体では、個人情報が含まれるデータについては、あらかじめ消去するように呼びかけているが、特別なツールを使用せずに消去したデータは、後からデータを復旧させるといったこともできる。認定事業者に持ち込まれて適切なデータ消去、あるいはHDDの破壊処理が行なわれた後ならばいいが、万が一、それ以前に盗難などが発生した場合には、情報漏えいの危険が伴う。その際に、盗難されたPCが、自分が所有していたPCかどうかもわからないという可能性もあるのだ。

 これに対して、PCメーカーによるリサイクルでは、個別に誰から拠出されたPCであるのかといったことを管理しており、1つ1つのPCに対して、PCメーカーの責任のもと、安全性を持って、リサイクルできる仕組みが構築されている。

 「PCメーカーによるリサイクルは、安全性という点でも、信頼できる点を、今後は訴求していきたい」と、パソコン3R推進協会の海野専務理事は語る。

 PCをリサイクルに出す場合には、小型家電リサイクル法による自治体の回収と、PCメーカーによるリサイクル制度の2つを比較しながら、ユーザー自身に最適なルートを選ぶといいだろう。

(大河原 克行)