大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Dellの日本向けPCを生産する中国・廈門のCCC4を訪れる
~日本からの要求を品質、設計に反映



 Dellは、中国・廈門(アモイ)に、PCやサーバー、ストレージの生産を行なうCCC(China Customer Center)を設置している。同生産拠点では、中国市場向けにPCなどを生産するCCC2と、日本、韓国、香港、台湾向けに生産するCCC4の2つの生産棟を擁し、2011年には、1998年の稼働以来、累計50,00万台の出荷を達成した。中国・廈門のCCCを訪れ、デルのPC生産の様子を追った。

●日本向けPCの生産を行なうCCC4

 福建省廈門は、中国東南部に位置し、台湾からは約130kmの距離にある。

 Dellは、廈門にCCC2とCCC4の2つの生産拠点とともに、企業ITシステムの緊急時対応を行なうグローバルコマンドセンターと、中国における地域サービス本部機能を持っている。そのほか、中国国内には、大連に社内のスタッフ業務やコールセンター機能を持つインターナルサービスセンター、上海にはPCなどの設計および開発を行なうチャイナデザインセンターと、世界規模での調達を行なうグローバルプロキュアメント機能を持つ。また、成都には先頃、グローバルオペレーションサイトを設置。今後、成都にも生産拠点を設置することになるという。

 こうした各主要拠点を軸に、中国国内では6,000カ所の販売体制、3,500以上の都市においてサービスを展開。2,000人以上のサービスエンジニアを擁しているという。

 China Customer Centerは、1998年に廈門に設置したが、当初の役割は委託先生産拠点の運用管理などが業務の中心であり、Dell自らが生産拠点を持ったのは、2000年11月から操業を開始したCCC2が最初である。約124,000平方mの敷地を持つCCC2では、現在、中国市場向けに特化したPCやサーバーの生産を行なっている。

中国・廈門にあるデルのCCC(China Customer Center)若い社員たちが働いているのがわかる入口には植栽された「DELL」のロゴがある
社員のほとんどが送迎用のバスを利用して通勤している
CCC2の来客用入口の様子
ノートPCも数多く展示。だが、CCCでは現在ノートPCは生産されていないマイケル・デルCEOと中国要人との会談時の写真も展示されているCCC2の模型。設立当初からのものであり、ロゴはかつてのままだ

 一方、2001年にはCCC1を閉鎖。営業、サービスの拠点として、2003年にCCC3を新設している。ここには生産機能は持たず、完全なオフィスとなっている。このオフィスは2012年には閉鎖する予定で、2011年に設置したCCC5へと徐々に移行を図っている段階だ。CCC5は23階建てビルのすべてをDellが使用し、中国における営業、サービスの重要拠点となる。

デルチャイナ グローバルサプライチェーンオペレーション マニュファクチュアリングディレクターのLin, Yu Huang氏

 日本市場向けの生産を行なっているのがCCC4である。2006年から操業を開始したCCC4は、約7万平方mの敷地を持ち、日本、韓国、台湾、香港向けのデスクトップPC、サーバー、ストレージなどを生産する。

 Dell China グローバルサプライチェーンオペレーション マニュファクチュアリングディレクターのLin, Yu Huang氏は、「1999年度に中国で委託生産を開始したときに比べると、2012年度の中国における生産台数は480倍にも拡大している」と胸を張る。


●標準仕様の拡大でODMも積極活用

 CCCでは、かつてノートPCの生産も行なっていたが、現在はODMへ移管している。

 Dell ChinaのYu Huang氏は、「かつてのDellは、BTOやCTOによって、顧客の要求に応じた多品種生産を行なっていたが、現在では生産する機種数を絞り込んでおり、標準モデルの比率が高まっている。ノートPCに関しては、ODMを活用しても対応できると判断したことが理由」とする。

 Dellは2010年に、BTOによるカスタマイズ中心の展開から、主要製品において、仕様を固定化した標準モデルを中心とした仕組みへと大きく舵を切っている。何百万種類もあったコンフィグレーションを99%以上削減。こうした動きがODMの活用の広がりにつながっている。

 グローバルにみると、2010年度のODM比率は全体の43%だったが、2011年度第2四半期には68%、2011年度第4四半期には70%にまで達しており、これにより約30%のコスト削減を達成したという。

 「欧米ではODMの比率が高いが、中国市場向け、日本市場向けなどではそこまでODMの比率は高くはない」という。

 現在、CCCで生産しているのは、デスクトップPCではInspironシリーズやOptiplex、Vostro、XPS、Alienwareなど。サーバーでは先頃発表した第12世代のPowerEdgeシリーズ、ストレージではイコールロジックブランドの製品など。また、ワークステーションのPrecisionシリーズも生産されている。また、仕様が固定されるものの、短期間での出荷を可能にするDell特急便の生産もCCC4で行なわれている。

 生産されたPCは、日本向けには約85%が船便で輸送され、航空便で輸送されるのは短納期が求める製品を中心に約15%に留まっている。韓国への船便輸送が約80%であることに比べると、日本の方が船便比率が高い。

 納期に時間がかかるものの、輸送コストが低い船便は、コスト削減に大きく寄与する。Dellでは、サプライチェーンの改善とともに、販売予測制度を約24%向上させることで、船便比率を上昇。グローバルでは、ノートPCの船便比率が2010年度には5%だったものを、2011年度第2四半期には20%にまで上昇、2011年度第4四半期には50%にまで高めることに成功。輸送コストを30%削減できたという。

 Yu Huang氏は、「コンシューマ向けのノートPCに関しては、構成機種数を99%以上減少させたことで、販売予測精度は3倍向上した」と語るが、これも船便の利用拡大に大きく貢献していることは間違いない。

 同社では2013年までに市場の50%以上が500ドル以下の製品になると予想している。生産拠点においても、それに向けたコスト削減に徹底して取り組んでいるというわけだ。

●工場をカスタマーセンターと呼ぶ理由

 CCCにおいては、CCC2およびCCC4の2棟が生産拠点となっている。

 オフィス機能と区別するために、「廈門工場」などの名称をつけた方がわかりやすいと感じるが、それでも、生産委託先の管理、および営業/サービス拠点として開設したCCC(China Customer Center)の名称を、そのまま生産拠点に用いたのには理由があるという。

 「工場という言葉を用いなかったのは、常に顧客を一番に置いているため。どんな製品を生産しても、その念頭にあるのは顧客」(Yu Huang氏)とする。

 その言葉通り、顧客の声を反映したものづくりを実現するために、上海にあるチャイナデザインセンターとも緊密に連携。顧客の声を反映した製品開発とともに、生産、修理が行ないやすいモノづくりに向けた情報交換も活発に行なっているという。

CCC2には社内向けのデータセンターも設置されている同様にソリューション・イノベーション・センターも設置している
エグゼクティブ・ブリーフィング・センターでは、プレゼンテーションが行なえるようになっている
大規模な食堂が設置されている。社員は好きなものを選んで支払う仕組み20元(約300円)もあればおなかがいっぱいになる

●顧客の声に耳を傾け品質を向上

 一方、注目されるのが品質管理に向けた取り組みだ。ここでも顧客中心の考え方を踏襲しているという。

デルチャイナ グローバルサプライチェーンオペレーション シニアクオリティマネージャーのJun Ma氏

 Dell China グローバルサプライチェーンオペレーション シニアクオリティマネージャーのJun Ma氏は、「製品品質を向上させるためには、顧客の声に継続的に耳を傾ける必要がある。それが、Dellの品質基準の引き上げにつながっている」と語り、「とくに品質基準に厳しい日本の顧客の声は大変参考になり、感謝している」と続ける。

 また、「Dellでは継続的な製品品質の向上に務めており、設計、量産前の信頼性テスト、サプライヤーにおける品質管理、生産工程での品質管理に加え、カスタマサポートを通じたフィードバックというように、製品ライフサイクルの各工程において体系的なアプローチを行なっている。そしてここで得たものは、将来の製品開発に活かしている」と語る。

 設計においては、顧客ニーズを反映することで、形状や色、仕上げなどを変更。ここ数年は、信頼性、ユーザビリティ、環境対策というテーマを、設計開発、品質における重要項目に掲げているという。

 「日本の顧客からは、高い品質要求とともに、薄さや軽量化に対する要求が多い」とJun Ma氏。これらの声は日本法人のマーケティグ部門や品質部門を通じて、CCCに届けられるという。

●量産前テストは米本社の専用施設で実施

 量産前の信頼性テストでは、互換性や相互運用性といったシステムテストのほか、加速度寿命試験や落下衝撃試験、振動試験、耐圧試験、耐温度試験などを、本社がある米テキサス州オースティンの試験専用施設で実施。厳しい審査を経て、CCCなどの世界各国の製造拠点で生産が行なわれることになる。

 またサプライヤーにおける品質管理については、140社以上のサプライヤーにおいて品質管理を徹底する一方、サプライヤーに部材を提供する2,500社以上のメーカーに対しても品質管理を求めており、これが安定した品質の維持につながっているという。

 生産工程においては、4つの品質監査セクションと、8つの品質管理測定基準を設け、生産時間のうち約70%を品質テストのために利用。すべての製品が、エージングテストやテストプログラムを利用した試験を受けることになるという。

 「テストにかかる時間は、以前よりも長くなっている。どの製品を誰が組み立てたのか、どの部品を使ったのかといったことがすべてわかるようになっており、作業者単位やロット単位での不具合も確認できる」(Yu Huang氏)という。

 生産ラインの試験で不具合が確認された場合には、それを抜き取り、工場内に設置された検査エリアで不具合を検証。その理由を早期に判断して、設計や生産ラインにフィードバックする。また、主要部品に関して、各ベンダーの担当者がCCC内に常駐しており、そこで検査が行なわれる。

 「Dellでは、100以上のテストプログラムを用意しており、このテスト内容は毎月のように変更し、さらに四半期ごとにも大幅な見直しをかける。これにより機種に応じた最適なテストや、新たなニーズに対応したテストが行なえるようになっている。さらに300万件の品質データが蓄積されており、これを品質エンジニアや、生産拠点の品質担当者、設計エンジニア、テクニカルサポートのスタッフが、毎日利用して、分析している。30日間の初期故障発生率、不具合のあった部材の傾向、月間での故障発生率、3年後の故障発生率などを分析することができる」(Jun Ma氏)。

 Dellでは、項目によって異なるが、毎年10~30%の品質改善を必達目標に設定しており、それに向けた品質向上が日々行なわれているという。

●ベルトコンベアが張り巡らされた生産ライン

 現在、中国全土では約8,000人が勤務。そのうちCCC全体では約5,000人が勤務しているという。生産拠点であるCCC2とCCC4では、午前8時~午後5時30分、午後6時~午前2時までの2シフトで稼働させている。社員は、Dellが用意した通勤用のバスを利用。このバスは方面ごとに用意し、社員の通勤時間帯に市内を循環している。

 特徴的なのは生産拠点の休日が、日曜日と月曜日であることだ。

 「受注の多くが金曜日に集中する。これらを土曜日に生産するため、月曜日を休日にしている」(Yu Huang氏)という。

 生産工程では、受注した内容にあわせて「トラベラー」と呼ぶ仕様書が発行され、これに基づいて部品エリアで必要な部品をピックアップ。必要な部品が適正にピックアップされているかをバーコードで管理する。ここで間違った部品がピックアップされた場合には、次の工程には進めない。

 部品は専用のボックスにまとめられ、その上に筐体が置かれ、これが一組となって組立ラインに運ばれる。サーバーの生産ラインでは筐体が大きく、HDDやメモリの枚数が多いため、大型の部品ボックスに入れられ、その横に筐体が置かれ、これを一組として組立ラインに投入される。

 ボックスは、工場内に張り巡らされたベルコンベアーによって、セル方式となっている各組立作業者のもとに運ばれ、そこで組立が行なわれる。1人の作業者が1台を組み立てるという仕組みだ。

 部品倉庫や組立ラインはサーバーおよびワークステーションと、デスクトップPCラインに分かれているが、それぞれのラインでは混流生産が可能で、組立作業者は1台ごとに異なる機種を生産するといったことが可能だ。

 デスクトップPCの生産ラインの組立作業者は、新人でも約2週間の研修を経たのちに、作業が行なえる。サーバーやストレージの組立ラインでは、デスクトップPCの組立ラインで半年から1年を経過した作業者が組立を行なっているという。

 組立が完了した製品は、検査工程に入る。ここではすべての製品が対象となり、製品は棚に入れられて、テストプログラムの実行、エージング、そしてOSやアプリケーションなどのインストールが自動で行なわれる。

 検査の状況はディスプレイに表示されており、検査が完了すると棚の位置を示した部分を白く表示。不具合があった場合には赤く表示される。また、早期に出荷が計画されている製品については、それを表示する機能もある。

 検査工程の棚には人が手作業で持ち込み、また検査が完了すると手作業でベルトコンベアのラインに戻す。

 検査が完了した製品は、マニュアルやソフトウェアなどの添付品とともに梱包。そして出荷工程へと運ばれることになる。

 出荷工程では、バーコードを読みとり、自動的に各地域ごとに仕分けされるほか、早期に納品しなければならいないため、航空便で輸送するものについては、別の出荷口へと自動的に運ばれることになる。

 そのほか、CCCの中には、CFS(カスタマー・フルフィルメント・サービス)エリアが用意されており、ここでは、サーバーやストレージ、ネットワークシステムをラックに搭載し、ケーブリングなどを行ない、ユーザーのもとにそのまま輸送し、現地で設置するだけで稼働できる環境を提供するといったサービスも用意している。

 それでは、中国・廈門のCCC4の様子を写真で追ってみよう。

日本向けのPCやサーバーを生産しているCCC4CCC4の入口の様子厳しい警備体制となっている
金属探知機が設置され、その向こうに生産ラインがある生産ラインから出てくる人はすべて金属探知機でチェックする
工場の様子。全体にベルトコンベアが張り巡らされている(写真:デル提供)組立工程。セル方式となっており、約5分で1台を組み上げる(写真:デル提供)
検査工程。検査プログラムを稼働させるとともに、ソフトウェアのインストールも行なわれる(写真:デル提供)エージングが完了したPC。検査工程は全体の70%を占めるという(写真:デル提供)梱包工程で完成するPC(写真:デル提供)
梱包後、階上部分に搬送される(写真:デル提供)梱包後にベルトコンベアで運ばれる完成品。階上部分のコンベアで移送される(写真:デル提供)
完成した製品は、バーコードを読みとり、出荷先や、船便か航空便かなどで自動的に仕分けされる(写真:デル提供)CFSのエリア。ここではサーバーやストレージをラックに搭載して出荷する作業が行なわれる(写真:デル提供)
必要な部品は2時間ごとに約10分離れた部品倉庫から供給される仕組み
見学者向けに生産ラインを一望できるエリアも用意されている特定企業向けの製品や、イコールロジックブランドのストレージも生産
CCCで生産される製品群

●企業向けカスタマイズ品の短納期化が課題か?

 Dellの日本市場向けPCおよびサーバーは、すべて中国で生産されていることになる。

 そのため、法人向けのカスタマイズ製品の納品までに、一定の期間を要しているのが実状だ。

 NECパーソナルコンピュータが山形県米沢市の国内生産拠点を活用することで3日間程度でユーザーの要求仕様にあわせたPCを納品できるほか、富士通も島根県出雲市の島根富士通や、福島県伊達市の生産拠点を、パナソニックが兵庫県神戸市の生産拠点をそれぞれ利用。さらに、日本ヒューレット・パッカードが、東京都昭島市の生産拠点でMADE IN TOKYOを標榜し、5日間での短期間での納品を可能にしているのに比べると、Dellの納期は長いといわざるを得ない。

 今後、レノボ・ジャパンが、NECパーソナルコンピュータの生産拠点を利用して、短期間でのカスタマイズ対応を行なう方向で検討を開始しているだけに、Dellの対応が気になるところだ。

 デル 公共・法人マーケティング本部サーバブランドマネージャーの布谷恒和氏は、「企業向けカスタマイズにおいて、日本に生産拠点を持つ具体的な計画はない」とし、「大手企業では計画的な導入計画があるため、短期間での納期に対する需要はそれほど高くはない。中小企業においては短納期を求める例もあるが、仕様を固定したデル特急便では短期間での納品を可能にしており、これによって解決している。ニーズを捉えた製品企画を継続的に進-めることで対応したい」とする。

 実際のところ、Dellが日本国内にカスタマイズ用の拠点を新設するには大きな投資が必要となる。そのため、当面の間は、中国のCCCのインフラを活用して、カスタマイズした製品を航空便によって対応することになりそうだ。

 だが、日本のユーザー企業においては、利用者向けの個別設定などのカスタマイズに対する関心が高まっており、中長期的にはこのあたりの体制見直しも必要になってくるかもしれない。Dellが今後どんな取り組みを行なうのか注目しておきたい領域ではある。