大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

スタートから半年を経過した新生日本HPの今

〜日本HP・岡社長にPC事業戦略を聞く

日本HP 代表取締役 社長執行役員の岡隆史氏

 株式会社日本HPが、2015年8月にスタートしてから、約半年が経過した。日本ヒューレット・パッカードから分社し、PC事業およびプリンティング事業を担当する日本HPは、分社前と何が変わったのか。そして、何が変わらないのか。新たな一歩を踏み出した日本HPの取り組みを、2016年の事業方針を含め、日本HPの岡隆史社長に聞いた。

過去最大規模の分社をスムーズに完了

――2015年8月に、日本HPがスタートしてから約半年を経過しました。その間、どんなことに力を注いできましたか。

 この約半年間という意味で言えば、それほど大きな変化はありません。むしろ、それ以前の方が大変でしたね(笑)。

 今回の分社化は、IT業界において過去最大の分社化となります。Hewlett-Packardは、世界170カ国以上でビジネスを展開し、ITに関わるあらゆる領域の事業を展開していたわけですが、これを資本関係がない2つの会社に分離するという大手術を施したわけです。事業を切り分ける、社員を切り分けるというだけでなく、社内ITシステムも切り分け、社外との取引プロセスも変更する。そして、それをセキュアな環境を担保しながら実行していかなくてはならない。加えて、その間において、最も大切なのは、事業の継続性です。分社するという理由で、ビジネスの成長を止めてはいけませんし、ましてやお客様やパートナーに迷惑をおかけするようなことがあってはならない。2015年の年初からは、その点を重視して取り組んできました。

 具体的には、全世界から、各部門のキーマンを集めて、400人以上の社員が、分社化のための専任プロジェクトチームを構成し、作業に取り組みました。また、日本においても、それぞれのタスクにおいて、専任者を置いて作業を進めました。それ以外の社員は、分社化については一切触れずに、これまでのビジネスを継続するという体制を維持しました。もちろん社員たちは、自分たちがどうなるのかといった不安もあったでしょうし、分社化後の2つの会社はどうなるのかが不透明感であったと感じていたのも事実でしょう。そうした不安を感じさせないように、社員とのコミュニケーションも積極的に行ないました。

 一方で、パートナーやお客様が、不安に思うことも多かったと思います。そこで8月までの間に、なぜ、Hewlett-Packardは分社化するのか、分社化してどうなるのか、といったことをご説明する場を作りました。我々自身が、分社後に、パートナーやお客様にどんな影響を与える可能性があるのかということを事前に洗い出し、さらにパートナーやお客様に変更してもらわなくてはならない部分についてはしっかりと説明し、変更のお願いをしました。

 例えば、分社化することで、パートナーからの発注方法が変わるわけですし、それに伴い、パートナーのシステムも変更していただく必要があります。ご理解を得て、変更していただく作業を、なんとか8月までに完了していただくようにしました。私も40社以上のパートナー、お客様を訪問しました。パートナー、お客様のご協力を得たことで、8月1日の新会社スタート以降は、まったくトラブルがありませんでした。正直なところ、何かあるんじゃないか、とは思っていたのですが、予想外に(笑)スムーズな移行ができました。

――移行がスムーズにいった理由はなんでしょうか。

 カンパニー制という呼び方はしていませんでしたが、2014年10月以前から、Hewlett-Packardでは、事実上、PPS(プリンティング&パーソナルシステムズ)グループと、エンタープライズ事業グループが分かれた組織構造となっており、後はバックエンドさえ分ければいいという体制になっていたとも言えます。つまり、8月に分社しても、フロントエンドで働いている人たちは同じですし、やり方も変わらない。ですから、大変だったのはバックエンドの部分だけ。パートナーやお客様に、ほとんどご迷惑をおかけしないで済んだのは、そうした体制になっていたことが挙げられます。

――米国では、2015年11月1日に、PCとプリンティング事業を展開するHP Inc.(HPI)と、エンタープライズ事業を中心とするHewlett Packard Enterprise(HPE)に分社しました。日本では、それに先行する形で、2015年8月1日に、日本HPと、日本ヒューレット・パッカードに分社しています。その理由はなんですか。

 先にも触れたように、今回の分社は、過去最大規模の分社となるわけですから、11月1日に全てが一気に変わるというやり方では、その時に何が起こるか分かりません。そこで、段階的に分社化するという手法を取りました。

 まずは、8月1日付けで、日本をはじめとする10カ国の市場において先行して分社したわけです。この時点で、全世界の売上高の7割程度をカバーするエリアでの分社が完了しました。ここで、移行がスムーズに進められていることを確認し、続けて、9月1日付けで、残りの小さな国においても分社化を行ない、10月までの期間をかけて、それぞれの国におけるシステムがしっかりと稼働していることを確認したわけです。

 そして、いよいよ、11月1日に、完全分社化を完了しました。そうした意味で、11月1日に分社化したのは、米国本社ぐらいのもので、それまでに、きっちりと全てが動き、ビジネスにはなんら影響がないことが確認されていたわけです。

――日本では、8月1日付けで新会社設立のリリースが出ませんでしたね。

 その点では、やはり親会社が分社し、資本関係が完全に分かれていないと、正式に分社したことにはなりませんから、日本だけ、先に分社したという発表ができなかったのが理由です。ただ、実ビジネス上では、分社しているわけですから、パートナー、お客様向けには説明できるように、11月1日を待たずに当社ホームページ上に、私が説明する形で分社についての表明を行なっています。お客様ニーズや製品サイクル、競合環境が異なるPCおよびプリンティング事業とエンタープライズ事業が、自身のビジネス領域へのフォーカスを強め、組織や製品戦略、販売戦略の最適化に向けたビジネス判断や投資活動など、事業運営のスピードアップを図ることが、この分社化の狙いです。

分社しても何も変わらない

――これまでの期間、パートナーや顧客、あるいは社員に対してはどんな言い方をしてきたのですか。

 一言で言えば、「何も変わりません」ということです。確かに、発注作業は2つの会社に分けて行なわなくてはならないわけですから、現場の作業は変わります。ただ、戦略が変化するのかというと、それはまったくありません。

 米本社でも、「変わらないのが戦略だ」ということを明言しています。PCとプリンタは、ラインアップを広げ、全てのお客様に対して最適な環境を実現することになります。PCについては、2in1や、モビリティは成長分野ですし、これらを活用してビジネスを変えていきたいと考えている企業に対して、最適な提案を行なっていくという姿勢は変わりません。この分野に対する投資はこれからも継続します。

 プリンティングに関しては、インクジェットベースのコマーシャルプリント市場を開拓したいと考えています。ここは技術的な優位性を前面に打ち出しながらやっていくことになります。また、デジタル印刷の提案も加速させたいですね。まだまだアナログが9割を占める市場に対して、当社が先行して提案をし続けてきた領域ですが、これまで同様に、2桁成長を維持していきたいと考えています。

 基本的な考え方は、これまでのHewlett-Packardが持っていたいいところは、分社したそれぞれの会社に残します。それがなくなったら分社した意味がありません。プラス要素は全部残して、さらにそこにプラスαの要素を加えていくということになります。

――エンタープライズ事業を担当する日本ヒューレット・パッカードとの関係はどうなりますか。

 それも変わりません。実は、パートナーやお客様への説明については、私とともに、日本ヒューレット・パッカードの吉田(=吉田仁志社長)も一緒に出向き、これまでの協調関係にはなんら変化がないことをお話してきました。ですから、パートナーやお客様から見ても、安心してビジネスを継続できるという感触を得ていただいたのではないでしょうか。

――日本HPの岡社長が、日本ヒューレット・パッカードの社外取締役として入り、日本ヒューレット・パッカードの吉田社長が、日本HPの社外取締役に就任していますね。これはどう理解しておけばいいですか。

 別の会社として走り出した時に、お互いがやっていることを知らない、あるいは気が付かないというのはよくないと思っています。パートナーにもお客様にも、両社は協調してやっていくということを言っているわけですから、お互いのトップがそれぞれの役員会に出席して、重要なことに関しては理解をしておくことも必要です。情報共有の1つの手段だとも言えます。当面は、この形を維持する可能性が高いでしょうね。

分社化しても部品調達力は衰えない

――分社化することによって、部品の調達面において、ボリュームメリットを追求できなくなるという指摘もでていましたが。

 HP Inc.と、Hewlett Packard Enterpriseは、この先もコンソーシアムを組んで、共同調達をすることが決定していますから、今までと同じ、あるいはこれまで以上にいい条件で、サプライヤーと取引が行なえるような関係を保っています。また、開発面においても、主要な特許技術は、全てクロスライセンスで活用できるものとし、共同で開発したものは共有していくという体制が確立されています。

――パートナーやユーザーにとっては、ワンストップで調達できなくなるというデメリットはありませんか。

 そうした指摘もありますが、パートナーや顧客が、PCとサーバーを同時に購入するケースはほとんどありません。それぞれの製品の導入を決定する際には、それぞれにベンダーを競合させて導入機種を決めるわけですし、そもそもPCとサーバーは、導入サイクルが異なります。

 ただ、あそこに相談すれば、何でもあるよという、ワンストップのメリットがあるのは確かです。その点については、日本ヒューレット・パッカードと日本HPは、分社後もお互いに重要な販売パートナーの1社ですし、エンタープライズソリューションを提供する際には、一緒になって提案することができます。そして、パートナー自らが、この2社から調達すれば、そのパートナーこそが、2次店や顧客にワンストップで製品やサービスを提供できるという特徴を打ち出すことができるわけです。あえて、デメリットの可能性を挙げるとすれば、パートナーに対するセミナーやトレーニングが2回に分かれてしまうということでしょう。ただ、これも両社が共催で行なうという仕組みを導入することで、パートナーに二度手間がかからないようにしています。そう言えば、パートナーとのゴルフ大会も、分社後には、一緒に開催しましたね(笑)。

――「MADE IN TOKYO」を打ち出している東京・昭島の生産拠点は、PCとサーバーの両方に対応していますが、これはどちらの持ち物になるのですか。

 これも基本的には変わりません。というのも、もともと使っているスペースやフロアが分かれており、それぞれにコスト負担をしていたので、それをそのまま継承しています。PCも、サーバーも、既存の体制を維持します。そして、品質維持や短納期というメリットを維持しながら、今後は、この体制にどう付加価値をつけられるかということをそれぞれに考えていくことになります。工場を持っていることの強みは、引き続き維持していきたいですね。また、東京生産に加えて、日本HPでは、日本国内に、コマーシャル向け製品のコールセンターを設置している点も大きな意味があります。これは、コマーシャルPCのビジネス拡大には重要な要素だといえます。

PCおよびプリンティングに投資を集中

――では、日本HPになって、変わる部分とはどこでしょうか。

 自己責任と透明性が明確化することではないでしょうか。これまでの体制であれば、少しPC事業が落ち込んでも、エンタープライズ事業がカバーしてくれれば、全体の評価が落ちることはなく、会社の価値を維持できました。また、PC事業の将来性についてマイナスの予測がアナリストから出た場合にも、それが全社利益への貢献度が10%以下の事業の話であったとしても、全社の株価に影響するといったことが起こっていたわけです。今回の分社化では、異なる事業サイクル、ビジネスモデルを持つ会社が、2つに分かれるわけで、それぞれが自己責任の中で会社の価値を維持していくことになります。悪い影響がなくなる反面、いい影響も、分社したその会社だけに限定されたものになるわけです。

 一方、ここ数年、Hewlett-Packardは、「New Style of IT」を企業メッセージに掲げてきました。そして、エンタープライズ事業を担当するHPEは、それをベースにした「New Style of Business」をメッセージとしています。Hewlett-Packard時代には、この方向性を具現化するために、クラウド、ビッグデータ、セキュリティ、モビリティといった領域への投資を加速することに取り組んできたわけです。ITの全ての領域をカバーする企業としては、当然の方向性です。ただ、これも、PPSの立場からすれば、セキュリティやモビリティは関連しそうでも、クラウドやビッグデータとは少し距離感があります。プリンティング事業という観点でみれば、さらに距離が感じられるかもしれません。Hewlett-Packard全体としては、理解できる投資でも、PPSとしてみれば、全てが的を射た投資にはなっていないという場合もあるわけです。

 当然、買収戦略も同じです。Hewlett-Packardは、過去6年間で、5兆円以上の買収をしていますが、コンサルティングやセキュリティ、ビッグデータ関連企業で大型買収をしてきました。PC関連での大型買収としてはPalmがありましたが、買収規模は2,000億円。そして、これは既に売却してしまいました。この一連の投資戦略や買収戦略の考え方も、Hewlett-Packardという大きな企業の枠でみれば、正しい投資戦略であり、正しい買収戦略です。

 しかし、PCおよびプリンティング領域における競争が激化する中で、今後、この分野で世の中を変えていくようなポジションを維持し続けるには、PCおよびプリンティング領域にも積極的な投資をしていく必要があります。Hewlett-Packardという企業の中では、この分野には最優先で投資がしにくかったのですが、分社すればその状況は大きく変わります。HPEはHPEで投資していかなくてはなりませんし、HPIもHPIとして投資をしていかなくてはなりません。お互いに、それぞれのボジションでナンバーワンを目指すことができるような投資ができるようになります。これは大きく変化する部分だと言えばす。

 これから成長が見込めるデジタル印刷や、来年には製品投入を予定している3Dプリンタ、そして、今は何に化けるかわからないような技術に対しても、自分たちの責任の上で、積極的な投資ができる。世の中を変えるような製品を投入することができる土壌を作ることができると言えます。

 そして、もう1つ、変化する点を挙げるならば、HPIとしてのメッセージが明確に発信できるようになるという点があります。HPIは、世界で一番選ばれているPCとプリンタを提供しているメーカーであり、それを日本のお客様に対して、最適な形で提供することができるのが日本HPです。日本の市場が求められるサービス/サポート、高い品質の製品を提供できるのも当社ならではの特徴です。日本からの要望を製品づくりに反映する体制もできており、軽量化したノートPCや、FeliCaを搭載したノートPCなども、日本の要望をもとに製品化した実績があります。その背景には、日本からの要望を反映した製品は売れるという実績が定着してきた点も大きいですね。分社したことで、この体制はこれからもますます強化されることになるでしょう。

 ただ最大の変化は、全てのスピードが速くなるということではないでしょうか。かつては、PC事業に関して何かを決断する時にも、全ての事業の役員が出て、役員会の全ての出席者に対して、分かりやすいように置かれた状況を全て説明し、それぞれの立場の意見を聞きながら意思を決定する必要があったわけですが、分社後は、PC事業とプリンティング事業だけをやっているメンバーだけで、最適な意思決定を迅速に行なえるようになりました。余計な説明をすることなく、その業界や製品動向に熟知した人たちだけで、判断できるわけです。

 また、当然、企業規模が小さくなりますから、その点でも決断が速くなります。CEOレベルが確認するような案件でも上っていくまでのレイヤーが少ないですし、営業現場においても、パートナーやお客様に対して、自らの会社の責任で即答できるようになる。これは大きな変化です。

パートナー向け販売プログラムも最適化を図る

――一方、パートナーにとっては、分社化したわけですから、販売支援策などにも変化が出るという不安がありますが。

 そうしたビジネスにおける変化は、今後、出てくることになると考えています。たとえば、ご指摘の販売プログラムについても、2016年から、新たなものをスタートすることになります。ただ、これもパートナーにとってはよりよいものを提供できるという点で、プラス要素に働くと考えています。従来の体制では、あらゆる製品を、1つの会社の尺度で捉え、パートナー支援策が用意されていました。パートナー向けのセミナーといった場合にも、1つの仕組みを活用して提供してきました。ただ、PC、サーバー、ストレージといったように、足の短い製品と、足の長い製品が混在し、製品の特性も異なる中で、やってきたとも言えます。1つの仕組みの中でやるのは効率的でありますが、最適化されているかというとそうではない部分もあったわけです。3カ月や半年、1年で新製品が登場する製品サイクルの製品と、5年をかけてビジネスを行なったり、10年以上使う製品とは、やはりパートナーやお客様との付き合い方も異なるわけです。

 これは、社内の仕組みでも同様です。人事制度もそうですし、セールスインセンティブプログラムも、営業レポートの仕組みも、これまでは共通化していましたが、今後は、それぞれのビジネスに最適化した形に変化することになります。1年をかけてビジネスをするエンタープライズビジネスと、新製品を投入してすぐに成果が求められるPCとは、仕組みが違います。PPSが扱う製品の半分ぐらいは3カ月で評価することが最適と言えるのではないでしょうか。

――過去の販売プログラムやパートナー支援策、あるいは社員の評価制度は、エンタープライズを中心に構築されていたという理解でいいですか。

 分社前の社員数は32万人。そのうち、HPIに移ったのは5万人です。規模という観点からも、共通的な仕組みを構築する上で、エンタープライズに最適化したものが多かったのは確かです。

――一方で、日本で苦戦が続いているコンシューマ向けプリンタの取り組みはどうなりますか。

 ここでも、利益を削ってまで、シェアを取りに行く必要があるのかという点を、しっかりと検証していく必要があります。昨年(2015年)末のコンシューマ向けプリンタ市場は、まさに消耗戦であり、例年以上に、各社の価格競争が激しい状況でした。しかし、今後は、プリンタ本体を安く売って、インクで儲けるというビジネスモデルが成り立つ時代はなくなるでしょうし、ハードウェアでしっかりと利益を取れるビジネスモデルへシフトすることが大切です。また、SOHOや中小企業にフォーカスしたビジネスを強化していく必要もあるでしょう。こうした市場環境の変化、ターゲットの変化にあわせて、ビジネスチャンスがあると考えています。

 高速印刷が可能なビジネスインクジェットプリンタ「Officejet Pro Xシリーズ」は、そのスピードとともに、低コストであることが、日本市場からも高く評価されています。これを導入したユーザーが、別のユーザーにも勧めてくれるという状況も生まれています。日本市場に最適化した提案方法によって、プリンタ市場での存在感を高めたいと思っています。

世の中を変えるようなPCを投入するベンダーに

――日本HPにとって、2016年はどんな1年になりますか。

 市場は読みにくいのですが、PCは成長基調に転換することになるでしょうし、その中で、より積極的なビジネスを展開したいと考えています。そして、日本HPとしてのキャラクターを確立して、これを、日本市場にしっかりと植え付けたいと考えています。PCやプリンティング事業は、多くの人たちに、身近で、親しみやすいイメージを持っていただくことが大切です。それを実現する手段の1つとして、事例を重視していきたいと考えています。それによって、既にさまざまなお客様が、さまざまなところで、日本HPの製品を利用しているということをお伝えしたいですね。

 当社には数多くの製品がありますから、これらをしっかりと訴求するには、やはり事例が一番分かりやすいんです。例えば、ヘルスケア市場向けに開発されたタブレットも、実は医療分野以外にも、酒蔵や水産加工業で利用されています。抗菌仕様ということで、酒蔵や水産加工業の現場にも適しているんですよ。こうした事例を紹介することで、パートナーにとっても販売機会を広げることになります。

 事例を通じて、メッセージを使えるという意味では、実は、東京や大阪以外では、それぞれの市場にあわせた事例紹介型のTV CMを制作しています。例えば、広島では、Jリーグのサンフレッチェ広島でタブレットを使った業務効率化の事例を紹介しています。これまでは地方限定でしたが、これを東京、大阪でもやってみようと思っています。さらに新聞広告でも、実際に現場で使っているユーザー企業の女性にご登場いただく例も多いですね。こうした事例を集めていって、パートナーのトレーニング資料に活用するといったことも行っています。

――具体的な市場シェアの目標はありますか。

 2015年は、市場全体が前年比3割減という落ち込みの中で、日本HPはプラス成長を遂げています。法人向けビジネスが着実に立ち上がっているのが要因です。日本HPにとって、モバイル、あるいはタブレットの領域は、まだまだ新たなビジネス領域です。ここでの事業拡大を図りたいですね。中でも、ノートPCのシェアをさらに引き上げたいと考えています。

 HPは、コマーシャルPCでは世界ナンバーワンシェアを持っています。これがHPの標準ですから、日本でもそうならなくてはならない。昨年は、一時的に、国内コマーシャルPC市場で20%近いシェアを獲得しましたし、ビジネスデスクトップでは27%のシェアを獲得してダントツの1位となった四半期もありました。また、シンクライアントやワークステーションでは、国内ナンバーワンを維持していますし、デジタル印刷機でもナンバーワン。このように、企業向け製品のシェアは着実に伸ばしています。

 ノートPCにおけるシェアは、まだ第4位ですから、ノートPCも、デスクトップと同じような水準にまでシェアを高めたい。ノートPCを拡大させれば、コマーシャルPC全体でのトップシェアが見えてきます。ワールドワイドの製品づくりが、日本の市場に最適なデザインや仕様になってきていますから、これからのシェア拡大に向けたチャンスは十分あります。

 さらに、まだ日本に持ってきていない製品がたくさんありますし、その点では、さまざまな戦い方ができます。市場ニーズと投入タイミングを図りながら、日本市場に最適な製品ラインアップを揃え、他社と差別化したいですね。

 一方で、昨年10月に販売台数限定としたスターウォーズ スペシャルエディションは、直販サイトでもわずか1日半で売り切れましたし、店頭モデルも高い人気を誇りました。こうした他社にはできないものも、日本HPの特徴として展開していきたいと考えています。

 ただ、コンシューマ向けPCは、シェアを追求すると収益が厳しくなりますから、今は、数を追うという仕掛けが得策だとは思っていません。体力勝負になれば負けませんが、それをやるべきタイミングではありませんし、日本HPという新会社がスタートしたこの時点で、安売りメーカーという印象がつくことは決していい結果にはなりません。むしろ、日本HPが目指しているのは、世の中を変えるようなPCを提案し、それによって市場を作っていくということ。そうしたメーカーであるという印象を作り上げたいと考えています。価格で話題になるメーカーよりも、製品そのものの魅力が話題になるメーカーであることの方が重要ですし、それが長い目で見た時にメリットになります。何かワクワクするものを投入するPCメーカーであるというイメージを、ぜひ日本で定着させたいですね。

(大河原 克行)