大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PC産業の盛り上がりはいつまで続くのか?

~Windows XPサポート終了から今日で1カ月が経過

空前の盛り上がりを見せた3月

 2014年4月9日に、Windows XPのサポートが終了してから、ちょうど1カ月が経過した。

 4月9日までのPC業界は、消費増税前の駆け込み需要も加わり、まさに「盆と正月が一緒に来たようなもの」(日本マイクロソフト・樋口泰行社長)と比喩されるように、大きな盛り上がりを見せた。

 量販店のPOSデータを集計しているBCNの調べによると、3月13日~4月9日までの集計では、ノートPCの販売台数は前年同期比62.8%増、デスクトップPCは88.4%増と、高い成長を記録。XP特需+消費増税特需で賑わったことが、数値の上からも分かるだろう。法人需要は2013年から成長を維持していたが、個人向け市場は停滞していたままの状況であったにも関わらず、ここで一気に需要が「爆発」した格好だ。

【表1】PC販売台数の前年同期比
集計期間2014年3月13日~4月9日2014年4月10日~5月7日
ノート+デスクトップ166.3%110.7%
ノート162.8%110.8%
デスクトップ188.4%109.9%
出典:BCN
2014年3月13日~4月9日は2013年3月14日~4月10日と比較
2014年4月10日~5月7日は2013年4月11日~5月8日と比較

 もちろん法人需要も活発だ。大塚商会が発表した2014年1月~3月のPC販売台数は、前年同期比56.1%増の387,275台。四半期としては過去最大の販売台数を記録している。こうした状況はシステムインテグレータ各社に共通したものだ。

 また、データ移行を行なうための、いわゆる「引っ越しソフト」を含むシステムメンテナンスソフトも、BCNの調べでは、前年同期比81.5%増という高い成長率を達成しており、これもWindows XP特需の影響によるものだ。

【表2】ソフトウェア販売数の前年同期比
集計期間2014年3月13日~4月9日2014年4月10日~5月7日
ソフト全体154.8%118.7%
セキュリティ150.2%123.3%
統合202.1%137.4%
OS235.0%125.8%
業務341.5%225.4%
ビデオ関連ソフト107.5%90.2%
システムメンテナンス181.5%128.9%
画像処理103.8%90.9%
文書管理その他112.0%100.1%
ハガキ・毛筆164.2%137.0%
WP・エディタ162.4%122.2%
出典:BCN、販売本数の上位10アイテムのみ
2014年3月13日~4月9日は2013年3月14日~4月10日と比較
2014年4月10日~5月7日は2013年4月11日~5月8日と比較

 この分野でナンバーワンシェアを持つ「ファイナルパソコン引越し11+」を発売するAOSテクノロジーズ AOSソフトウェアカンパニープレジデントの西谷考弘取締役は、「引っ越しソフトの販売本数は、今年に入ってから毎月前年比200~300%増の伸び率となっている。問い合わせ件数も4月9日の直前までは、2倍以上の問い合わせ件数だった」とする。

 それまでは月間10万本の出荷ペースであったものが、今年に入ってからは月間20~30万本というペースに跳ね上がっている。

 同社の問い合わせ窓口への質問内容に関しても、以前はソフト購入後の操作方法などに関するものが多かったが、Windows XPのサポート終了が近づくに連れて、ソフト購入前に製品そのものの機能を聞いたり、移行の際に同ソフトを利用するメリットなどに関する質問が増え、「Windows XPから移行するための準備をしていることが分かる質問内容が増えていった」という。

 なお、業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2014年3月の国内PC出荷実績によると、PCの出荷台数は前年同期比20.8%増の164万2千台。6カ月連続で前年同月比を上回っており、2013年度通期の出荷台数も、前年比8.6%増の1,210万9千台と、2007年の調査以来、過去最高の実績を記録している。

4月9日以降も堅調な成長を維持

 では、4月9日以降のPC業界の動きはどうなっているのだろうか。

 実は、Windows XPサポート終了後のPC業界も引き続き、堅調ぶりを維持している。

 BCNの調べによると、4月10日~5月7日のPCの販売台数は前年同期比10.7%増となった。4月9日までの特需に比べると鈍化しているが、それでも2桁成長を維持している。ノートPCでは前年同期比10.8%増、デスクトップPCでは9.9%増という成長率だ。

 また、システムメンテナンスソフトも前年同期比28.9%増というように、高い成長を引き続き維持。PC用ソフトウェア全体で見ても、4月9日までの前年同期比54.8%増という高い伸びに比べると鈍化したが、やはり18.7%増と2桁増を維持している状況だ。

 AOSテクノロジーズでも、「最終的な集計はまだだが」と前置きしながらも、引っ越しソフトの出荷本数は依然として15~20万本のペースで推移していることを明かす。

 「問い合わせ窓口への問い合わせ件数も、4月9日以降も前年に比べて1.5倍の状況。Windows XPのサポート終了に合わせて、窓口対応人員を1.5倍に増強したが、この規模は引き続き維持することになる」(AOSテクノロジーズ・西谷取締役)とする。

 また、日本マイクロソフトでも、「3月に開設した無料電話相談窓口である『Office 搭載パソコン乗り換えサポート窓口』は、4月9日以降も、移行検討の際に有効に活用してもらっている」と、Windows XPに関する問い合わせ窓口の利用が継続していることを示す。

 4月9日以降も、PC市場の好調ぶりが維持されている背景には、いくつかの理由がある。

 1つは、4月9日以降も、Windows XPからの移行が続いているという点だ。

 IT専門調査会社であるIDC Japanによると、2014年6月末時点でのWindows XP搭載PCの稼働台数は、法人向けで241万台、全体における構成比は6.6%まで減少すると予測。家庭向けPCでは、全体の8.7%となる351万台が存在するものと予測している。

IDC Japanの調査によるWindows XP搭載PCのシェア

 日本マイクロソフトでも、4月9日時点で「法人向け、個人向けを含めて、全体の10%以下の構成比になっているだろう」との見解を明らかにしたが、それでも逆算すると700万台規模のWindows XP搭載PCが存在している計算になる。700万台というのは、PCの年間出荷台数の半分に匹敵する規模だ。

 つまり、4月9日以降も引き続き、数多く残ったWindows XPからの移行が進んでいるという状況が見られているのだ。

 実際、量販店店頭においても、4月9日以降も継続的に、Windows XPからの移行を促すPOPが掲示されている状況だ。

 日本マイクロソフトでは、「Windows XPからの移行については、今後も継続的に支援していく」と明言。個人向けのOffice 搭載パソコン乗り換えサポート窓口や、法人向け移行支援サービス窓口の設置、AOSテクノロジーズの「ファイナルパソコンデータ引越し」の機能限定版である「ファイナルパソコンデータ引越しeXPress」を日本マイクロソフトのサイトから無償でダウンロードできるようにするなどの移行施策を展開しているところだ。

量販店では4月9日以降もXPからの移行を促すPOPを掲示
日本マイクロソフトによるWindows XPからの移行支援

 日本マイクロソフトによると、4月におけるWindows XP搭載PCの減少率は、全世界で日本が最も進展したようであり、Windows XPからの移行が、引き続き大きな流れになっていることが分かる。

 同社では、「サポート終了を迎えた後も、順調に移行が進んでいると認識している。その移行スピードは、世界の他地域と比べても非常に速くなっている。多くのパートナー企業やセキュリティ専門機関などとの連携による、最新OS環境への移行推進や支援活動を展開してきたこと、多くのメディア報道などの情報発信を通じて、最新環境のOSおよびデバイスを活用することによってもたらされる、セキュリティを始めとする安全性の観点でのメリットに加えて、ビジネスにおける生産性向上や、一般ユーザーに対するデジタルライフの幅が広がることへの関心、認識が加速していることも、Windows XPからの移行が引き続き進んでいる理由の1つになっている」とする。

 一方で、市場そのものの底上げを指摘する声もある。

 例えば、ここ数年はタブレットへの注目が高いが、Windows XPからの移行に合わせて、PCに対する関心が改めて高まり、それが4月以降も継続しているという見方だ。

 「一度(非Windows)タブレットを使用した人たちが、こんなことしかできないのかという理由で、Surfaceを購入している」(日本マイクロソフト・樋口泰行社長)、「一度タブレットを購入した企業が、PCに揺り戻しする動きが見られる。その受け皿としてLet'snoteが売れている」(パナソニック AVCネットワークス社ITプロダクツ事業部・原田秀昭事業部長)というような声が業界関係者からあがっているのも、その裏付けだと言えよう。

AOSテクノロジーズのファイナルパソコン引越し11+

 また、データ移行ツールに関しては、Windows XPのサポート終了に伴い、この製品分野に対する認知度が高まったことが販売を後押ししているようだ。

 「これまでが月10万本だとすれば、PCへの付帯率は約10%。これが15~20%にまで上昇している。データ移行に関して便利なツールがあることが認識され始めた」とAOSテクノロジーズの西谷考弘取締役は語る。

 ファイナルパソコン引越し11+は、2006年の第1号製品の発売以来、これまでに国内累計で600万本以上を販売した実績を持つ製品。NECパーソナルコンピュータなどのPCにも機能限定版が標準搭載されているほか、先に触れたように、Microsoftとのグローバルパートナーシップの一環として、同製品の機能限定版を、日本マイクロソフトのサイトから無償でダウンロードできるようになっている。

 「製品版では、メール、アドレス帳、お気に入り、音楽ファイル、個人作成データといったデータの移行だけに留まらず、世界で唯一、アプリケーションソフトの移行までを可能としている。また、3ステップで移行できるという簡単な操作も評価されている。10回以下のクリックでデータの移行が可能になる。この製品の存在と便利さに気が付いてもらえたことで、購入していただけているのではないか」と語る。

 同社では、2015年7月のWindows Server 2003のサポート終了に合わせて、新たにデータ移行サービスを、6月にも提供を開始する予定であり、今後、その詳細を明らかにするという。

年内は需要が続くのか?

 では、Windows XPによる需要はいつまで続くのだろうか。

 依然として700万台規模のWndows XP搭載PCが残っていることで、あと数カ月は、Windows XPサポート終了特需が継続することになるのは間違いない。

 業界内では、いくつかの観測が出ているが、少なくとも今年(2014年)6月まではこの成長路線が続くとの見方が支配的だ。中には、年度の上期締めとなる9月末まで、あるいは年内までは、前年実績を上回るのではないか、との見通しを示す業界関係者の声もある。ただ、10月以降は比較対象となる前年実績が高まることもあり、その点では前年実績を上回る需要予測には、懐疑的な声もあがる。特に来年(2015年)1月以降は比較対象となる分母がさらに大きくなるため、前年割れとなるのは明らかだろう。

 一方で、4月下旬に明らかになったIE(Internet Exproler)の脆弱性に関して、日本マイクロソフトでは、5月2日に、セキュリティ更新プログラムを公開。特例措置として、Windows XPユーザーに対する更新プログラムを提供した。

 「この脆弱性に関しては、Windows XPユーザーからも多くの問い合わせをいただいた」と日本マイクロソフトでは語る。

 同社では、Windows XPユーザーへの更新プログラムの適用とともに、できるだけ早期に最新OS環境への移行を促したというが、その一方で、Windows XPが残る素地を生んでしまったとの指摘もある。

 IEの脆弱性は、Windows XPユーザーの延命措置になってしまったのだろうか?

(大河原 克行)