大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows 8発売を巡るMicrosoftとPCメーカーの水面下の動きと懸念



 Windows 8の発売まであと3週間ほどになった。

 発売日となる2012年10月26日には、深夜0時から秋葉原の一部店舗でカウントダウン販売が行なわれ、量販店店頭では午前9時前後から発売セレモニーが行なわれる予定だという。

9月に行なわれたLet'snote発表会に登壇した日本マイクロソフトの樋口泰行社長

 また、Windows 7の発売時を考えれば、発売日を前後してユーザー向けのイベントや、報道関係者向けの会見などが行なわれるのは明らかで、日本マイクロソフトの樋口泰行社長以下、同社関係者はまさに「フル回転」で対応することになる。25日から26日の深夜にかけて、樋口社長が秋葉原の電気街を訪れる可能性も高い。

 今回のマーケティング施策は、米Microsoft本社が主導しており、発売前および発売後の取り組みのすべてが、それに則ったものとなっている。一見、日本独自の展開と見えるものも、グローバルのマーケティング施策と連動する形となっている。その点では、Windows 7の発売時の仕掛けとは基本的なスタンスが異なる。

 だが、全世界の主要都市では、最も早く発売日を迎えるのは日本。日本での盛り上がりが、Microsoft全体にとっても重要な指標となるだけに、日本のPCメーカーや、販売店などの業界関係者を巻き込んだ動きが注目される。

 こうした発売日の動きが少しずつ表面化するなかで、発売日までの取り組みについて、PCメーカーや販売店から不満の声があがっている。というのも、発売直前まで積極的なマーケティング活動ができる状況にないからだ。

 Windows 8を搭載したPCに関するマーケティング活動については、実は、日本マイクロソフト側から、PCメーカーおよび販売店に対して、いくつかの申し入れが出ている。

 1つは、Windows 8を搭載したPCの展示は、10月12日以降となっているということだ。

 それまでは店頭展示は一切行なってはいけないということになる。イベントなどでの展示についても、報道関係者が出入りできるようなイベントでは、やはり同様に展示が制限されている。

Let'snote AX2

 国内PCメーカーとして、最も早くWindows 8搭載PCを発表したパナソニックの「Let'snote」も、9月26日の正式発表後、CEATECを除いては、どこにも展示できないという状況が続いている。

 同社の場合、基本戦略は法人向けビジネスであるため、個別商談の場では、こうした活動の制限はないが、やはり量販店で購入する根強いファンが多い製品だけに、早期に展示をしたいというのが本音であろう。

 2つ目には、Windows 8搭載PCに関するカタログの配布や、スペックの表示などは、10月19日以降になるということだ。つまり、10月12日に量販店店頭に製品を展示したとしても、その製品に関するスペックや価格などは一切表示できず、事実上の販売促進活動はできないという状況になる。

 実は、パナソニックは、Let'snoteの記者会見で、報道関係者向けにカタログを配布した。しかし、ここには、Windows 8という文字が一切書かれていない。これも日本マイクロソフトの申し入れに準拠した結果だと推察できる。10月19日以降は、Windows 8の文字が入った新たなカタログが用意される可能性が高いといえるだろう。

 関係者の話をまとめると、現在、PCメーカー各社は、10月18日あるいは19日にWindows 8を搭載したPC新製品の発表を予定しているケースが多そうだ。

 これは発表しても量販店店頭で展示ができないということから、展示が可能になるタイミングを見計らっての発表だということができる。

 この記者会見には、日本マイクロソフトの樋口社長以下、同社関係者が相次いで登場することが見込まれており、日本マイクロソフト、PCメーカー、そして報道関係者も忙しい2日間になりそうである。時間がぶつからずに各社の会見が開催されることを望むばかりだ。

 そして、3つ目には、予約販売の開始が10月23日からになっている点だ。

 金銭の授受が発生しないような購入宣言といった程度のものは、それ以前から認められているようだが、購入を前提とした取り引きや正式予約は、10月23日より前は認められていない。

 つまり、実際に量販店店頭で、事前予約をして、代金を支払うといった行為は、10月23日を待たなくてはならない。この結果、10月19日に本格的な展示が始まっても、量販店店頭では展示だけの行為に留まる。4日間は販売ができないということになるのだ。

 おそらくWindows 8搭載PCは、量販店の一等地に展示されることになろう。稼ぎ頭だった薄型TVの販売が低迷し、量販店が「ポスト薄型TV」として最も期待を寄せているのが、Windows 8搭載PCということになる。一等地に展示したいのは当然のことである。

 しかし、その場所を4日間売り上げゼロのままで使用するというのは量販店にとっては厳しい話だ。しかも、Windows 8搭載PCは、アップルのように1社から登場するのではなく、複数のPCメーカーからさまざまな形状や機能を持った製品が数多く登場する。自ずと展示スペースも広く取らざるを得ない。これも量販店にとっては頭が痛い問題だ。

 本格的な予約販売は、正式発売の3日前という直前となっており、少なくても、土日を挟んで1週間前からの予約販売を開始したい量販店にとっては、発売までの助走に十分な距離が取れないという思いにつながる。

●本社主導の施策で高まる不満

 先にも触れたように、これらはすべて米Microsoft本社側が主導権を握って、マーケティング戦略を立案している結果のものだ。こうしたスケジュールの提案についても、PCメーカーや量販店には納得がいく説明がなされていないことで、不満の声をあげる関係者は少なくない。

 日本マイクロソフトからの公式コメントは、「競合戦略上のものであり、それを考慮したマーケティング施策」とするに留まる。

 PCメーカーにとっては、ほかにもいくつかの不満材料がある。

Surface

 1つはMicrosoft自身が投入する同社ブランドのWindows 8搭載タブレットPCの「Surface」である。これもPCメーカーには納得のいく説明が行なわれていないという実態がある。

 日本での発売は未定となっており、パートナーとのエコシステムを重視すると語る日本マイクロソフトの言葉を信じていいのか、今後の動きに対しても疑問を投げかける声が出ている。

 そして、もう1つは、生産段階での体制の見直しだ。

 Windows 8では生産ラインにおいて、OSをインストールする際には、まずMicrosoft側のサーバーにネットワークを通じてアクセスし、プロダクトキーを入手して、これをPCに入力し、インストール作業を行なうことになる。また、インストール後には、ハードウェアの構成情報などをMicrosoft側に送信し、マザーボード上の主要部品をはじめ、PCを構成する部品情報とWindows 8のプロダクトキーとを連携させる必要があるのだ。さらに、工場からの出荷時には、出荷24時間以内に工場から製品を出荷したことをMicrosoft側に通達する必要があるという煩雑な仕組みになっている。

 これは、市場において、不正なWindowsが利用されることを阻止する狙いがあるといえ、全世界のPCメーカーがこれに準拠することになっている。加えて、これらのシステム構築に関わる費用は、PCメーカー側がすべて負担したという。これもPCメーカーの不満材料につながっている。

 MicrosoftとPCメーカーの足並みは本当に揃っているのかが心配になる。