大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

日本HPが挑む、国内シェア15%獲得へのPC戦略
~MADE IN TOKYOによる国内生産をノートPCにも広げる



 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)にとって、日本におけるPC事業の拡大は、最重点課題の1つだ。

 というのも、日本におけるPC事業の現状は、ヒューレット・パッカード(HP)のグローバル展開に比べて、明らかな遅れがあるからだ。

 2010年における全世界のPC市場の規模は、3兆4,708万台(米IDC調べ)。世界第1位のシェアを誇るHPの年間出荷台数は6,427万台。グローバルシェアで18.5%を誇る。

 これに対して、日本HPは、1,578万台の国内市場規模に対して、152万台と、9.6%のシェア。ようやく10%の年間シェア獲得に王手をかけたものの、グローバルに比べてシェアは約半分の水準だ。

 また、世界のPC市場全体における日本の構成比が4.5%であるのに対して、HPの日本における構成比は2.4%に留まっており、世界水準からも遅れていることになる。

 だが、見方を変えれば、グローバル水準に高めるには、まだ成長の余地があるともいえよう。

●日本のPC事業における3つの取り組み

 日本HP 取締役副社長執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の岡隆史氏は、3つの観点から、日本におけるPC事業のポイントを掲げる。

日本ヒューレット・パッカード 取締役副社長執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の岡隆史氏日本におけるPC事業の3つのポイント

 1つは、「メジャープレイヤー HP」としての取り組みだ。

 ここでは、「パワーブランドの構築」、「将来に向けたコンシューマ事業の確立」を挙げる。

 「日本においては、メジャープレイヤーと言える段階までに達していない。日本においても、グローバル同様にメジャープレイヤーとならなくはならない。日本ではまだまだブランドが弱いという反省がある。さすがにHPといって、ホームページといわれることは少なくなったが(笑)、機種選定の際に土俵に乗らない場合も少なくない。とくにコンシューマ領域ではそれを強く感じる。日本においては、コマーシャル事業が85%を占めており、コンシューマ事業における市場の存在感が低いことも背景にある。今後は、グローバルでのボリュームメリットを生かし、コンシューマ市場におけるシェアを引き上げていきたい」と語る。

 2番目は、「事業の健全性=バリュー&ボリュームのバランス」だとする。

 ここでは、コアビジネスとなるPC製品の強化とともに、24時間保守サポートなどのPC製品を下支えするサービス事業を成長させる一方、ソリューションを中心とした新規事業の拡大にも踏み出す考えだ。

 「コンシューマ事業を伸ばすことが重要な課題だが、この分野は競争が激しい分野でもある。そのために利益の確保に走りすぎると成長スピードが落ちることにもなり、収益確保とのバランスをとりながらの舵取りを余儀なくされる。一方で、グローバルで展開している製品の中には、まだ日本に紹介できていない製品もある。これを日本に持ってくることも他社との差別化になる」とする。

 また、新規分野では、シンクライアントや流通業界向けPOSシステムなども日本市場への投入を開始。また、「すでに北米で展開しているWindowsを搭載したスレートPCについても、一部法人に対して紹介したところ、予想以上に引き合いが強い。当初の予定ではもう少し時間をかけて日本市場に投入する予定だったが、前倒しでの投入を検討するなど、前向きに考えていきたい」としている。

 そして、3つ目には、「グローバルの強みを最大限に活用」することを挙げる。

 「HPの強みはグローバルリーダーであること。それによってさまざまな製品を開発できることにある。仮にヒットしなかった製品があったとしても、それでさえ数十万台単位の出荷が見込まれる。スケールを生かした展開は他社にない強みになる」とする一方、「いかに日本の顧客にあった、日本独自のものを提供できるかといった課題もある。グローバルに持つインフラとプロセスを活用して、こうした製品を創出することにも前向きに取り組みたい」とする。

●徐々に存在感を増す日本HP

 ここ数年、日本におけるHPの存在感は着実に増している。

 2010年第4四半期(10~12月)の日本におけるシェアは、11.1%と初めて10%の壁を突破し、4位のポジションを獲得した。

 「シェア10%突破」は、岡副社長が長年目標に掲げてきた大台である。

 「トップの2社は、20%弱のシェアがあり、まだ距離はある。しかし、これまでとは異なり、背中が見える位置まで来たといってもいい」と自信をみせる。

 特に企業向けPCでは、2010年第4四半期には18.0%にまでシェアが高まり、20%前後の上位2社をキャッチアップするところにまで来ている。

 「企業向けデスクトップPCに関しては、2010年第4四半期のシェアは23.5%となり、初めて国内首位を獲得した。1~3月は、公共分野での導入案件などが集中し、日本のPCメーカーのシェアが高まる時期であるため、2四半期連続での首位獲得は難しいと考えているが、それでも着実にシェアが高まっている手応えを感じている」とする。

 ノートPCに関してもコマーシャル分野では12.9%のシェアを獲得して、上位2社を追随する位置にまで引き上げてきた。

 実は、パーソナルシステムズグループが担当するワークステーションでは35%以上の国内シェアを持ち、3年連続で首位を獲得している。日本HPが得意とするコマーシャル分野では着実に存在感が高まっているといえる。

パーソナルシステムズグループの社員の名刺には「ビジネスデスクトップPC日本シェアNO.1」のシールが貼られている企業向けPC、ソリューション、コンシューマPCで体制強化を図る

●課題となるコンシューマPC事業のシェア拡大

 一方で、今後の事業拡大の課題となっているのがコンシューマ分野だ。

 少しずつシェアは拡大しているものの、2010年の年間シェアはわずか3.3%。順位は9位に留まり、むしろ下から数えた方が早い。製品別にみても、デスクトップPCは6.4%だが、ノートPCでは2.2%となっている。

 「毎年2%ずつシェアを引き上げたい。製品ラインを拡充するとともに、広告予算を拡大させて、認知度を高めていく取り組みを加速する」と、岡副社長は語る。

AKB48を起用したプロモーション(春モデル新製品発表会にて)

 日本HPは、11月から新年度が始まる。2010年11月からは、新年度突入にあわせて、AKB48を起用した積極的なプロモーションを開始するなど、これまでとは異なる取り組みにも注目が集まるところだ。

 だが、岡副社長はこうも語る。

 「グローバル市場は、毎年10%以上の成長が見込まれている。HPに当てはめれば、年間600万台~700万台ずつ、年間出荷台数が増える計算になる。仮に、日本で年間出荷台数が20万台程度増えたとしてもグローバルにおける存在感が高まるわけではない。どうしたらグローバルのパーソナルシステムズグループにおいて、日本法人の存在感を高めていくかということも考えなくてはならない」とする。

 日本法人の発言力をいかに高めていくかということも、日本でのシェア拡大には不可欠な取り組みだと言えよう。


●東京・昭島でノートPCの生産開始を検討

 では、今後の具体的な施策はどうなるのか。

 岡副社長は、「企業向けPC」、「ソリューション」、「コンシューマPC」という3つの観点から説明する。

 企業向けPCに関しては、カバーエリアの拡大を重点施策にあげる。

 「これまでは首都圏を中心としたビジネスを展開しており、大阪や名古屋でさえも、活発にビジネスを行なえる基盤が整っていなかったという反省がある。主要都市においてセールス基盤を確立するといったことに乗り出すほか、サービス体制も同時に強化していきたい」とする。

 そして、MADE IN TOKYOを標榜する東京・昭島工場での生産についても、これまでのデスクトップPCおよびワークステーションだけでなく、ノートPCにまで広げる姿勢を新たに示した。

 「企業向け分野では、短納期が求められており、そのためには日本で生産することが必要になる。日本の市場においては、ノートPCのシェア拡大が重要であり、そのためには、日本でノートPCを生産する必要がある」と岡副社長は語気を強める。

 ユーザー企業の要求にあわせた仕様で、短い納期を実現することが、ノートPCのシェア拡大に直結すると考えており、早ければ今年夏にも、東京・昭島でノートPCの生産が開始されることになる。

 ソリューション分野においては、シンクライアントおよびPOSシステム、マルチシートコンピューティングがポイントだ。

1台のホストPCで複数の生徒が利用できる環境を実現するマルチシートコンピューティング

 「日本のシンクライアントPCは、約25%の市場成長をみせているが、日本HPでは倍増を目指す。クラウド環境の広がりとともに、シンクライアントに対する需要は増大する」と意気込むほか、昨年から投入したPOSシステムにおける事業拡大、教育機関などにおいて1台のホストPCで複数の生徒が利用できる環境を実現するマルチシートコンピューティングの提案を加速するという。

 そして、コンシューマ分野においては、在庫販売を行なう店舗を、これまでのビックカメラ、ヨドバシカメラのほかにも拡大していくほか、ウェブ販売体制の促進、TCE(トータル・カスタマー・エクスペリエンス)の強化などにも取り組むとした。


●webOSの展開で日本は後手に回る
日本では来年(2012年)以降の投入となるwebOS搭載端末

 さらに、岡副社長は、モバイル新分野への取り組みも今後の課題とし、今年夏には米国で、年内には中国で、それぞれ市場投入されるwebOS搭載端末およびスマートフォンの展開についても言及したが、「日本においては、キャリアとの関係をどうするか、コンテンツ配信をどうするかといったインフラ製品の課題がある。1年ほど時間をかけて、じっくりと環境を構築し、焦らずに投入したい」と語る。

 webOSの取り組みについては、残念ながら日本法人は後手に回っている。

 2バイト圏は、中国でまず展開し、その成果を香港、台湾へと広げた後に、日本市場向けに展開するというのがグローバル戦略の基本姿勢だ。

 その背景には、中国を基盤にした方が、早期にビジネススケールを確保できるメリットがあること、岡副社長が指摘するように、日本ではキャリアを巻き込んだビジネスや配信ビジネスのインフラが整っていないことがあげられる。

 すでに米国では、2010年6月に買収した音楽配信サービスのMelodeo(メロデオ)のほか、Palmが展開していたアプリケーション配信サービス「App Catalog」がある。これらを通じて、webOSプラットフォーム環境への配信ビジネスを行なうインフラが整っていると言えるが、日本ではまだこの体制が整っていない。

 中国では、すでに米国本社のスタッフが参加して、こうした基盤づくりに乗り出しているのに比べると、日本向けの取り組みはまったくの手つかずの状態である。

 webOSビジネスが、日本法人の事業にプラス計上されるのは、早くても2012年以降ということになる。


●トップグループの背中が見えた次の一手に

 岡副社長は、日本における次のシェア目標を15%におく。これを3年後には達成したいと語る。つまり、日本においてトップシェアを争う位置にまで引き上げる考えだ。

 「お客様、パートナー、チャネルの方々が、HPの存在感を、常に意識してもらえるような環境を作りたい。HPの製品は『使える』という認識が広がることによって、当社の事業成長につながると考えている。そのためには、グローバルのパワーを生かし、日本には紹介しきれていない製品を日本に投入するとともに、日本にあった製品をさらに投入していくことが必要だと考えている」と語る。

 日本におけるシェア10%という大きな目標を達成した日本HPのパーソナルシステムズグループは、次の目標である15%のシェア獲得に向けて、大きな一歩を踏みだしはじめた。