ゲーミングPC Lab.

MSI「GE72 2QD Apache」

~シックな筐体とゲーマー向けの多彩なチューニングツールが魅力

GE72 2QD Apache

 MSIは、ゲーミングノートPC「GE72」シリーズを3月12日に発表した。今回はこのシリーズより、GeForce GTX 960Mを搭載した「GE72 2QD Apache」を試用する機会が得られたので、レビューをお届けする。

GeForce GTX 960M搭載の17.3型ゲーミングノート

 「GE72」シリーズは、17.3型フルHD(1,920×1,080ドット)液晶を搭載したゲーミングノートPC。今回試用する「GE72 2QD Apache」のほかに、GeForce GTX 970Mを搭載した上位機種「GE72 2QF Apache Pro」もラインナップされている。「GE72 2QD Apache」の店頭予想価格は20万円前後。

 まずは主なスペックをご紹介する。

GE72 2QD Apache
CPUCore i7-4720HQ(2.6GHz/TB時3.6GHz)
チップセットIntel HM87
GPUGeForce GTX 960M(2GB)
メモリDDR3 8GB/SO-DIMM×1
SSD128GB(M.2 SATA)
HDD1TB(7,200rpm)
光学ドライブDVDスーパーマルチドライブ
ディスプレイ17.3型フルHD液晶ディスプレイ(ノングレアパネル)
OSWindows 8.1

 CPUのCore i7-4720HQは、Core i7-4710HQからクロックを100MHzアップさせたHaswell Refreshのもので、内蔵GPUもIntel HD Graphics 4600でそのまま。GPUはMaxwellアーキテクチャの新型となるGeForce GTX 960Mを搭載。スペック的にはミドルクラスのゲーミングノートPCといったところだ。

 メインメモリは8GBが1枚。ストレージは128GBのM.2 SATA接続のSSDと、HDDが7,200rpmの1TBとなっている。なおメモリは1つ、SSDは2つの空きスロットがあり、MSIの指定販売店にて増設が可能。MSI製ゲーミングノートPCは、複数のSSDでRAID 0を組むことによる高速アクセスを売りにしており、本機もオプションとしてその機能を有している。

 本体サイズは、419×280×29mm(幅×奥行き×高さ)。重量は約2.4kg(標準6セルバッテリ含む)。バッテリはリチウムイオン6セル(5,500mAh)を搭載している。

フルHDでのゲーミングには必要十分な性能

 続いて各種ベンチマークテストの結果を見ていく。利用したのは、「3DMark v1.4.828」、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」、「バイオハザード6 ベンチマーク」、「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 ver.2.0」、「CINEBENCH R15」、「CrystalDiskMark 3.0.3」。

 ゲーム系のベンチマークテストを見ると、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」や「バイオハザード6 ベンチマーク」では、最高評価一歩手前のスコアになっている。最高画質の設定でもプレイに支障はないが、画質を下げればより満足の行くフレームレートを得られるだろう。

ベンチマークスコア
3DMark v1.4.828 - Fire Strike
Score4,062
Graphics score4,364
Physics score9,226
Combined score1,724
3DMark v1.4.828 - Sky Diver
Score12,613
Graphics score14,023
Physics score8,025
Combined score14,080
3DMark v1.4.828 - Cloud Gate
Score16,510
Graphics score31,216
Physics score6,233
3DMark v1.4.828 - Ice Storm Extreme
Score58,963
Graphics score65,647
Physics score43,472
ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編
1,920×1,080ドット/最高品質6,009
バイオハザード6 ベンチマーク
1,920×1,080ドット5,995
ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 ver.2.0
1,920×1,080ドット/簡易設定510,367
CINEBENCH R15
OpenGL94.21fps
CPU621cb
CPU(Single Core)139cb

 ストレージの128GB SSDは、M.2ソケットでSATA接続となっている。デバイスマネージャで確認したところ、Kingston製のRBU-SNS8100S3128GD1が使われていた。リードは500MB/sec近く出ており、SATA接続のSSDとしては標準的な性能と言える。HDDの方はHGST製のHTS721010A9E630で、7,200rpmだけあって2.5インチHDDとしては良好な値になっている。

【CrystalDiskMark】
SSD(Kingston RBU-SNS8100S3128GD1)
HDD(HGST HTS721010A9E630)

 バッテリ持続時間は「BBench」で測定した。キーストロークとWeb巡回あり(Wi-Fi接続)、ディスプレイの明るさ40%の設定で、満充電からバッテリ切れまで約2.2時間。NVIDIA BatteryBoostをオフにした状態で「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」をループ再生させたワーストケースでは約40分、「Diablo III」の実プレイでも同じく約40分でバッテリ切れとなった。

 17.3型のゲーミングノートPCとしては重量が約2.4kgと軽量で済んでいるのは本機の魅力の1つだが、その分バッテリはやや弱いように見受けられる。特にゲームをプレイしていると1時間も持たないので、バッテリは補助的なものと考えておく方がよさそうだ。

ゲーマー向けのこだわりと多彩なチューニングツール

 次は実際の使用感を見ていきたい。筐体は天板、キーボード周りともにブラックの金属製筐体で、ヘアライン加工されている。天板にあるロゴは高級車を連想させる意匠で、電源を入れると光る。全体としてはゲーミングPCとしては派手すぎないソリッドなデザインで、仕事用に使っても格好がつくので、社会人ゲーマーに好まれそうだ。

 排熱面は、筐体後ろの左右にファンが搭載されている。音質はサーッというホワイトノイズのような印象を受ける。音量は性能なりの大きさがあるのだが、ファンの回転速度の変化による音質の変化が少なく、一定した音がするので耳障りに感じにくい。ビデオカードなどでもヒートシンクファンに格別のこだわりを持った製品を提供するMSIだけあって、この辺りの騒音処理はさすがだなと思う。

 熱はキートップにもやや伝わってくる。温かさを感じるという程度ではあるが、WASDキー付近でもはっきり熱が感じられるので、夏場はストレスを感じる人もいそうだ。リストレスト部はキーボードに近い部分が僅かに温かくなるが、キートップで感じるほどではない。筐体がヘアライン加工でサラサラしているので、手汗はあまり気にならない。

 キーボードはアイソレーションタイプ。キーはストロークはやや浅めで、タッチは重くはないがクリック感がある。キー入力をはっきり認識させることで、ゲームのプレイ感を向上しようという意図が感じられる。

 キー配置もいくつか特徴がある。まずWindowsキーが左側ではなく右側にあるので、ミスタッチしにくい反面、いざWindowsキーを使いたいと思った時に手元を探してしまうことも。キーはほとんどが正方形だが、テンキーなど一部のキーが縦長にされている。またBackSpaceキーと右のShiftキー、スペースキーの左右に、あえて隣接させたキーがあり、タイピングで困惑してしまうことがある。レイアウトは余裕があるように見えるので、何か意図があってこうしているようなのだが……。

 キーボードはLEDバックライトが標準でカラフルに光っていてとても目立つ。光の漏れ方がうまく、明るい場所でもしっかり光って見えるのが嬉しい。光らせたくない時には簡単にオフにできる。

 色や光り方は、プリインストールされている「SteelSeriesEngine 3」で変更できる。色を指定する範囲は左右と中央の3領域に分けられているのだが、境目になるキーは中間色を入れてグラデーションを出すなどの処理もされている。また同ソフトで、任意のキーに他のキーやマウスの入力を割り当てたり、複数のキー入力を記憶させマクロキー化することもできる。

 液晶はフルHDで、視野角はさほど広くはないが、下から見上げるような角度にしなければ破綻はしない。応答速度は良好で、残像感は少なめ。高級なパネルだとは感じないが、ゲーミングPC用としては悪くない。

 スピーカーは本体前面の左右に加え、底面にウーファーを装備している。前面のスピーカーは高音がクリアに出ている。ウーファーは小型なので低音の補助程度の役割だが、2.1chの組み合わせによって、筐体サイズの割には広い音域をカバーできている。

 ただしPCの置き方には注意が必要。前面のスピーカーが斜め下に向いているため、机の手前ギリギリに置いてしまうと、音が下に逃げてしまい、くぐもった音質に聞こえてしまう。机との音の反射を意識し、机の端から5cmほど奥に設置すると、バランスのいい音になる。適切に設置すればサラウンド感もあり、ヘッドセットなしでもゲームへの没入感は良好だ。

 また音質を調整するソフトも搭載している。音楽、ゲーム、映画の3つのプリセットがあるほか、低音強化やサラウンド効果などいくつかも項目を個別に調整もできる。効果をオフにしてしまうと控えめな音質になり、特にサラウンド感が少なくなる。この辺りはユーザーの好みもあるので、各々調整すればいいかと思う。

 プリインストールソフト「MSI Dragon Gaming Center」では、GPUの最高クロックと温度、CPUの温度にリミットをかけることで、性能とバッテリ消費のバランスを調節できる「Shift Mode」を利用できる。設定はGreen、Comfort、Sportの3段階から選べる。GreenとSportでいくつかのベンチマークテストとバッテリの持続時間を確認したが、誤差程度の違いしか見られなかった。温度をターゲットにして調整している部分が大きいようなので、気温が低い冬場はあまり効果がなかったのかもしれない。バッテリ持続時間の調整は、これ以外にもWindows側の設定やNVIDIA Battery Boostなどを併用するのがよさそうだ。

ゲーミングPCにしてはスリムで落ち着いたデザインが魅力的
天板のデザインはシンプルながら、電源を入れるとロゴが光るギミックもある
キーボードのバックライトは、どの角度から見ても光がよく見える
前面にはアクセスランプなどがあるが、使用時はちょっと見えづらい場所
左側面はLAN端子と3つのUSB端子、HDMIとmini DisplayPort、ヘッドフォン端子など
右側面は光学ドライブとUSB、SDカードスロット、電源端子
背面は左右の排気口のみ
裏面は吸気口と思われるスリットのほか、ウーファーもある
キーボードバックライトのLEDは色や光らせ方を自由に変更できる
任意のキーに入力を記憶させる強力なマクロ機能も搭載
サウンドの質をチューニングするツールもある
パフォーマンスとバッテリ持続時間を調節するツールもあるが、今回はほとんど効果が見られなかった

落ち着いた外見と高いカスタマイズ性が売り

 PCのスペックやベンチマークテストの結果だけを見ると、ゲーミングPCとしてはミドルクラスという話で終わってしまう。しかし実際に使ってみると、各所で満足度を高めてくれる要素があると感じる。

 特筆すべきは、起動が極めて高速であることだ。OSやドライバの各種アップデートや、テストのためのベンチマークソフトのインストールなどを済ませた後で、電源ボタン押下からWindows 8.1のロック画面(パスワード入力前の画面)が表示されるまで6秒弱。「レジュームさせたかな?」と思い、改めてシャットダウンして試してしまった(もちろん結果は同じ)。ゲームを遊びたい時にすぐ遊べるというのは、ゲーミングPCとしては処理速度と並んで重要なことだ、と筆者は思っており、高く評価したい。

 またカスタマイズ用のソフトが何種類もプリインストールされているのも注目点だ。キーボードのバックライトやマクロ設定では、起動するゲームに連動させて変更するランチャー機能も搭載。ゲームの通信帯域を優先的に確保するKiller E2200を搭載するとともに、通信状況を監視・調整するツールも用意されている。

 単に高性能なゲーミングPCが欲しいというだけでなく、自分なりにあれこれとチューニングを加えていきたいタイプの人には、各種ツールがとてもありがたい存在になってくれるだろう。

 そして見た目のよさも重要なポイント。筐体がスリムで、17.3型という大きさにしてはゴツさを感じない。加えてサイズの割には軽量で取りまわしがいいのも利点だ。自宅外に持ち出し、ゲーム以外にも使うという人には、特にお薦めしたいゲーミングPCと言える。これでバッテリが倍持てば……というのが唯一惜しいところだ。

(石田 賀津男)