OS X El Capitanカウントダウン
第6回
El CapitanにおけるOSの性能向上
(2015/8/21 14:23)
今秋にリリースされる「OS X El Capitan」の特徴や新しい機能などを毎週1つずつ紹介するEl Capitanカウントダウン。筆者の予測では連載もそろそろ折り返しになろうというタイミングということで、今回はベクトルをちょっと変えてEl Capitanにおける性能の向上に注目する。
6月に開催されたWWDC(World Wide Developers Conference)で、El Capitanの特徴としてクローズアップされたのは「Experience」と「Performance」だった。日本語サイトではそれぞれ「Macの体験」と「パフォーマンス」として紹介されている。前者については、これまでの連載で紹介してきた標準アプリケーションの機能向上が、そして後者は動作速度、処理速度の向上を示している。
現時点では開発者向けのプレビューリリースおよび一般ユーザー向けのパブリックベータ版という位置付けであるため個別に検証したベンチマーク結果などは明らかにできないが、Appleにおける公称値として現行のYosemiteとEl Capitanの比較がプレビューサイトで公開されている。
Appleがリファレンスモデルとしているのは現行の13型MacBook Proで、動作クロックが2.7GHzのCore i5を搭載。ストレージは128GBでメインメモリは8GB。日本のApple Storeでは148,800円(税別)で販売されている標準モデルに該当する。
同社によると、この13型MacBook ProにYosemite(OS X 10.10.3)とリリース前のEl Capitanをそれぞれインストールして比較した場合、アプリケーションの起動は最大で1.4倍、アプリケーションの切り替えは最大2倍高速になるとしている。また、最初のメールを表示するまでの速度が最大で2倍高速に、標準アプリのプレビューを使ってPDFを開く速度は最大で4倍高速になったという。
同一のモデルでOSをアップグレードすることによってこうした性能の向上が見込めるのは、いくつか理由がある。1つはOSの基礎部分の最適化が進んで余計なコードが減るなど、俗に言う「OS自体が軽くなった」という点が挙げられる。WWDCではファウンデーションの強化(基礎固め)という説明もなされており、今回のアップデートが基礎部分の最適化にフォーカスしていることは間違いない。
もう1つは心臓部であるCPUの新しいアーキテクチャへの対応が進んで、より効率的な命令セットが使えるようになることでもOSの高速化は図られる。同じ13型MacBook Proでも2012年モデルでは第3世代CoreプロセッサであるIvy Bridgeが搭載されているのに対し、2015年モデルでは第5世代CoreプロセッサのBroadwellが搭載されている。例えばYosemiteのリリース時点では十分に対応の進んでいなかったHaswell/Broadwellアーキテクチャへの対応がEl Capitanでさらに進むといった例だ。
言い換えればやや古めの製品では最適化はある程度進んでいる可能性があり、新しいアーキテクチャを採用したMacほど伸びしろがあるという見方もできる。今回のリファレンスモデルとして現行の13型MacBook Proのデータをピックアップしているのも、そういった理由が少なからずあるからと考えいいだろう。こうした最適化はCPUだけでなくIntel Iris GraphicsおよびHD Graphicsなどの統合型GPU機能においても同様で、トータルとしての性能向上も見込んでいる。
また、グラフィックスでは新しいコアテクノロジ「Metal for Mac」もEl Capitanから導入される。Metalは既にiOSにおいて導入されているグラフィックスAPIで、El CapitanからOS Xにも採用することが発表された。グラフィックスAPIの目的は新旧モデルのグラフィックスハードウェア(GPU)の差異を吸収して、共通の命令で同じ結果を出すことにあり、そうした意味でこれまでOpen GLが採用されてきた。一方で汎用性を高くすればするほどAPIのオーバーヘッドは大きくなる。そこで、できるだけオーバーヘッドの少ないグラフィクス向けのAPIとして開発されるのが「Metal」ということになる。
高速化のメリットの一方で、デメリットとしては対応するGPUがある程度は絞り込まれる可能性が高いという点だ。統合型のIntel Iris GraphicsおよびHD Graphicsなどは新モデルを中心に対応することが確実視されるものの、ディスクリート型のGPUを搭載するモデルにおいては、特に従来機種のどのあたりまで遡ってMetal対応のMacになるのかは現時点で明らかにされていない。Open GLは継続して採用されるので、El Capitanにアップグレードできないということはないが、El Capitanへのアップグレード対象機種でもMetal for Macには非対応という従来製品が出てくることも考えられる。
Metal for Macの恩恵が最も大きいアプリケーションカテゴリはなんと言ってもゲームである。Macのゲームジャンルにおける話題では先日リリースされたスクウェア・エニックスのMMORPG「FINAL FANTASY XIV」がある。こちらは残念なことに、一旦はリリースが行なわれたものの、Mac環境では十分な性能が得られないとして、販売の停止措置が取られている。プロデューサーからのコメントなどを大幅に要約すると、Windowsからの移植ということで、DirectXの命令をOpen GLへと置き換える事実上のエミュレータを搭載したものの、そのエミュレータとOpen GLのオーバーヘッドが大きくなってしまい、実行速度に影響を与えたということになる。
FF XIVの場合は移植が前提となっていた。Metal for MacがEl Capitanから導入されるといってもこうした事例にはほぼ無力である。何よりまずはMetalに対応するために初期段階から開発を行なう体制が必要になるので、特に日本向けのゲーム全般としてはMetalによる恩恵を得るまではかなり長い目で見る必要もあるということだ。
ゲームに最適化することで、Draw Callの性能が最大10倍に向上するというメリットは、クリエイティブ向けのアプリケーションでも効果が得られることになる。WWDCにおいてもAdobeの「Creative Cloud」が紹介され、同社のコメントとして今後のアップデートにおけるMetal対応が明言されている。
Metal for Macに対応することによる性能の向上は、当初は「写真(Photos)」を始めとする標準搭載のアプリケーションから、徐々にサードパーティ製アプリケーションに拡大するものと思われる。