山田祥平のRe:config.sys

Intel 3.0 、そのベータテスト始まる

 Intelがビジネスの主軸をPCから、データセンターおよびIoTを含むクラウドに接続された各種コンピューティングデバイス全体に変える新戦略を発表した。それにともなうリストラも話題になっている。巨人は今ふたたび黒子に徹しようというのか。そして、それによって、これからPCの業界はいったいどうなっていくんだろうか。

IntelはPCに固執してたわけじゃない

 「2013年にPCは死んだかもしれない。だが、2015年にPCは必須と認識されるようになり、2016年以降、PCは戦略となる」第6世代Core vProプロセッサの発表に合わせて来日したIntelクライアント・コンピューティング事業本部担当副社長兼ビジネス・プラットフォーム事業部長トム・ガリソン氏は言った。冒頭の発表があった翌日の話だ。

 Intelが以前、インターネットを支援するビルディングブロックを供給する企業になるという宣言をしたのを覚えているだろうか。PCはそのビルディングブロックの1つに過ぎないというわけだ。メモリメーカー時代がIntel 1.0だとすれば、プロセッサベンダーとしての同社はIntel 2.0、インターネットに積極的に関わるようになったのは、Intel 2.5であり、それが今のデータセンター事業やIoT事業に繋がっている。

 つまり、そうなることは、ずいぶん前に宣言されていたのだ。だから、今、軸足をPCではなくするといったからといって、びっくりするようなことではない。逆の意味では、PCに固執しているように見えた時代が長すぎたと言ってもいいくらいだ。

 2000年より前にIntelが提唱していたインターネット・ビルディング・ブロック戦略は、インターネットバブルが崩壊した2001年頃から、なんとなく立ち消えになってしまった感がある。今から振り返れば、それがIntel 2.5だったというわけだ。そして、それが正しかったがごとく、PC向けのプロセッサは好調を続けたし、それが今のIntelを支えていると言ってもいい。

時代は変わるけれど繰り返す

 1980年代の終わり頃、ぼくは、将来、多くの人が電子メールを使うようになると思っていた。

 当時も今も同じだと思うが、家に戻ったら郵便箱を覗いて郵便物が届いていないかどうかを確認する。もちろん半分以上はDMやチラシで、よく見もしないで、傍らのごみ箱にポイだ。それと同じことが電子メールで行なわれる。みんなが自分だけのためのメールアドレスとメールボックスを持ち、それを毎日チェックして、大事なメールとジャンクメールを区分けするようになると思っていた。そして実際にそうなった。

 1990年代の終わり頃、将来、多くの人は通勤通学の電車の中でPCを開くようになると思っていた。

 ニュースを読んだり、メールを見たり、調べ物をしたりといったことを電車の中でするようになると思っていた。当時、すでにPHSでのインターネット接続は、それなりに高速なデータ通信を叶えてくれた。PCには大量のコンテンツが入るストレージもあった。だから、当時は、電車の中で立ったまま使えるPCがほしいと真剣に思っていた。

 みんなには、そんな馬鹿な時代がくるはずがないと言われた。でも、今、通勤電車の中で周りを見回すと、8割程度の人がスマートフォンやタブレットで何かしらやっている。運良く座れた人がPCで何かやっている光景を見るのも珍しくなくなった。ぼくの予想ではPC率はもうちょっと高くなるはずだったが、それに適したフォームファクタのPCがあまり登場しなかったのだと思う。つまり、PCのベンダーでさえ、そういう時代がくることを予測できていなかったし、そういう時代を切り拓こうともしてこなかった。

3.0リリース目指してがんばれIntel

 2007年頃、ぼくは、Intel主催、パナソニック協賛で「モアPCプロジェクト」という企画に関わった。言い出しっぺはぼく自身だったが、1台より2台、2台より3台。PCは複数台を所有することで、幾何級数的に便利さが増大する……はずという理念のもとにそれを実証するためのプロジェクトだ。当時、PCを複数台所有するということはあまり一般的ではなかったし、まして、PCを持ち歩いて使うといったことを提唱しようものなら奇人扱いされたものだ。だが、そこをなんとかしてその便利さを伝えたいという想いがあった。

 パナソニックからはレッツノートR6を貸し出してもらい、7名のメンバーが「モアPC」を実践し、思い思いの使い方でPCを使った。なぜ7名かというと、レッツノートR6のカラー天板が7色用意されていたからだ。Windows Vista搭載で、1.06GHz Core Duo プロセッサ搭載、512MBメモリ、60GB HDDという仕様で液晶は10.4型XGA、重量は930gだった。

 このプロジェクトは1年間続いた。進捗状況は雑誌記事として毎週キャッチアップされていたので、覚えのある方もいらっしゃると思う。

 それから10年が経過したが、その日の用事に応じて異なるPCを持ち出すような使い方は、未だに一般的ではない。よほどのパワーユーザーでも、ようやくPCを持ち出すようになったくらいで、そのPCを唯一無二のPCとして使っているケースが少なくない。そして、スマートフォンがあればPCはいらないとか、タブレットがPCを置き換えるといった議論がこれみよがしにかわされていたりもする。

 つまり、電子メールの例や、モバイルPCの例のように、1人が複数台のPCを所有し、それを適材適所で使い分ける時代は10年では到来しなかったということでもある。

 ただ、ぼく自身はまだけっこう楽観的だ。年配の方がタブレットやスマートフォンを使ったりするようになったことで、スマートであることの恩恵を幅広い層が受け入れるようになったからだ。そして、実感として知ってもらえたと思う。今はそのフェイズだが、このまま行けば、そういう人たちがPCというプラットフォームに戻ってくる可能性は高いと考えている。

 本当は2in1などと言っている場合じゃない。1台に数役を兼ねさせてどうするという気持ちをぼく自身は強く持っている。いろんなフォームファクタを提案し、あの手この手でいろんなスタイルで使ってもらうことが大切だ。

 考えてもみてほしい。世帯あたりのPC台数が頭打ちだから、PCは飽和してしまったというのは違うと思う。PCを所有しない、所有したくないと思っている人を説得してPCを使ってもらうのは大変だが、PCが便利だと思っている人にもう1台、使い方に特化したフォームファクタの製品をほしいと思ってもらうのはそんなに難しいことではない。そうすれば、PCは今の倍売れる。そんな単純な話ではないとは思うが、そんなことを声高に叫べるのはIntelのような企業だけだと思う。エンドユーザー製品としてのPCを作らないからこそ言えることもある。だからこそ、ここを乗り切って、真のIntel 3.0を実現してほしい。おもしろくなるのはこれからだ。

(山田 祥平)