山田祥平のRe:config.sys

ショールームでデバイスの何が分かるのか

 量販店頭とは違い、特定メーカーが設置するショールームは、商品について深い知識をもつアドバイザーが、製品について詳しく教えてくれる場所だ。だが、デジタルデバイスにおいて、ショールームが本当にきちんと機能しているのかどうかは、あやしいもんだとも思っている。

表参道・原宿エリアでSurfaceに出逢う

 日本マイクロソフトは東京・表参道ヒルズに2カ月間の期間限定でSurfaceのショールームをオープンした。オープニングセレモニーには、樋口社長とともに、来日した本社COOのKevin Turner氏も出席し、そのオープンを祝福し、テープカットを披露した。

 このショールームは、狭いながらも最新の「Surface Pro 2」、「Surface 2」を手にとることができ、実際の生活空間の中で、どのようなイメージで使えるのかを体験することができるようになっている。また、各種のアクセサリ類も揃えられ、色やタイプを存分に悩むことができる。

 ショールームのいいところは、そこにやってきた客が、製品を買うということが最終目的になっていないところだ。だから店員は客に無理強いしないし、客も、安心して説明を聞ける。逆に、売らない店にやってくるのだから、相当、商品に興味を持っているのだということも分かる。

 ただ、実際に触って確かめるということだけなら、東名阪のような大都市圏では、各ターミナル駅ごとに大きな量販店がビルを構え、各社の新製品を思う存分触ることもできる。また、販売員も、豊富な知識を持って対応してくれるので買い物は安心だ。場合によっては、メーカーの販売応援スタッフも対応し、より明確な説明が得られるかもしれない。

 MicrosoftがSurfaceのショールームを表参道にオープンしたのは、やはり、このエリアが、他とはちょっと違ったムードを持っているからなのだろう。でも、1駅で渋谷、2駅で新宿という立地で、その気になれば歩けるくらいなのだから、本当にSurfaceを見たいと思えば、量販店を覗いたっていいわけだ。量販店には、ちゃんとSurfaceのコーナーができていて、ショールーム同様に実機を触ることができる。でも、そんな売り場には見向きもしないような人たちが、たまたま通りかかった表参道ヒルズで、Surfaceを発見してしまう、というのが大事なのだろう。それが偶然の出逢いだ。

肌身離さず使うデバイスを納得して選ぶために

 商売柄、実に多くの製品を見る。発売前にはカンファレンスのデモショーケースや、小規模のブリーフィング、製品の発表会などで、いちはやく製品を手にすることができる。こうした境遇にいられるのは幸せだ。各社に感謝しなければならないと思う。

 こうした場で気になるのは、多くの場合、各デバイスがインターネットに接続されていない点だ。PCにしても、スマートフォン、タブレットにしても、インターネットに繋がっていない状態ではできることが限られてしまう。ということは、そのデバイスを使うと、どんなことをどんな感覚でできるのかを想像だけで判断しなければならないのだ。

 仮に、インターネットに繋がっていたとしても、普段使っているアプリがインストールされているわけではない。TwitterやFacebookなどがどんな感じで表示されるのか、ブラウザ以外のアプリではどんなイメージになるのか、あるいは、地図はストレスなく使えるのかといった簡単なことも分からない。ストアから10秒でダウンロードして、10秒でインストール、起動して確かめるのに1分もかからない。でも、これも想像するしかないのだ。

 機器をデモする側にお願いしたいのは、デバイスをインターネットに接続しておくことだ。そして、無理のない範囲でTwitterやFacebookなどにテンポラリなアカウントを設定して、書きはともかく読みはできるようにしておいてほしいのだ。TwitterやFacebookが、こうしたデモ専用のアカウントを提供してくれてもいいと思う。

 以前、スマートフォンのブリーフィングに出席したとき、各テーブルに、そのスマートフォンの実機がおいてあった。インターネットにも繋がっていたし、Twitterアカウントも設定されていた。これは素晴らしいと思ったのだが、設定されたTwitterのアカウントで、ブリーフィングの参加者が心ないメッセージを書き込んでいるのを見つけて、ちょっとがっかりした。こういうことをやるから、各社ともにやりたがらない。その気持ちは分かる。

 いわゆるプロが集まるようなブリーフィングでもこうなのだから、量販店頭のデモ機がインターネットに繋がっていてアカウントも設定されていたら、大変なことになってしまうかもしれない。

 それでも、スマートフォンやPCを選ぶというのは、個人にとってけっこう大事なイベントであり、そこから1~2年は、ほぼ肌身離さず使い続けるかもしれないデバイスを、よく調べもしないで購入したくはない。

 そんなわけで、ぼく自身は、ちょっと気になるデバイスについては、記事にするしないといったことはあとから考えることにして、とにかくベンダーにお願いして借りてみるようにしている。昨今のデバイスは、工場出荷状態に戻すのが簡単だし、自分の環境を作ってみるにも、クラウド同期ができるので、30分もあれば、いつも使っている環境ができあがる。自分のアカウントを設定できるので、アプリのインストールもライセンスのことを考えないでいいので容易だ。

 その状態で30分も使えば、バッテリ持続時間のような要素以外なら、使い勝手は把握できるのだ。逆にいうと、元に戻すという条件のもとにリセットが許されて、自分の好き勝手に設定ができるなら、何日もの間借り出さなくても、ある程度の判断はできるのだ。

 だから、ショールームに置かれたデバイスについても、工場出荷状態に戻して、自分のアカウントを設定し、いろいろと使ってみることができたら、どんなにいいかと思う。ルータくらいは持参してもいいし、自分のスマートフォンのテザリングだってかまわない。でも、それをショールームのデバイスに設定して、工場出荷状態に戻さずそのまま帰ってくるというのは抵抗がある。自分の使ったあとは、リセットして、キレイサッパリ忘れてくれるという保証があれば、いろんなことが試せるはずだ。それこそ、30分もあれば、そのデバイスと1~2年を付き合っていけるかどうかの判断はできると思う。

ネット通販に対する付加価値

 これからのホリデーシーズン、そして、来年の消費増税前の駆け込み需要は、それなりに市場を活性化することになるだろう。

 消費者はバカじゃない。最近は、サーチ&バイという購買行動が話題になることが多い。つまり、インターネットなどを駆使して欲しい商品のプロフィールを調べ尽くし、その情報に基づいて買い物をするわけだ。そして、商品のライフサイクルが到来すれば、また、新たな情報を入手し、乗り換えや継続を決める。彼らは過去に使っていた商品やサービスに後ろ髪をひかれず、冷静に情報を集め、それに基づいて商品を選ぶ。

 でも、サーチですべてが分かるなら、すべての買い物はネット通販でいいわけだ。そのサーチでは分からないこと、また、ネット上のクチコミでは、にわかには信じられないようなことを、量販店頭やショールームで知りたいし、確認したいと思う。その付加価値がなかったら、何のためのリアル店舗かと思う。そして、詳しいユーザーであればあるほど、説明なんていらないから、とにかく自分の好きなように触らせろと思うにちがいない。ただ、そうして付加価値部分だけを堪能し、実際の買い物は1円でも価格の安いネット通販を使うという行動も常識化しているのが悩ましい。

(山田 祥平)