■山田祥平のRe:config.sys■
PCは汎用機なので、ソフトウェアさえ用意できれば、基本的にたいていのことができる。だが、大きく重くかさばるPCではカバーできない領域では、あいかわらずデジタルガジェットとしてのアプライアンスが使われている。PCならもっと便利な環境が手に入るのにだ。その典型が電子辞書だ。
●電子辞書なら気軽に持ち運べる200g前後の重量でポケットサイズ、そして、100時間を超えるバッテリ稼働時間。逆立ちしたってPCには勝てないハードウェアスペックだ。それに価格も2万円前後と値頃感もある。それに何十種類もの辞書やコンテンツが格納されているのだ。辞書はPCよりも電子辞書と思うユーザーがいても不思議でない。
自宅で作業していて、インターネットに常時接続されたPCがあるのなら、辞書引き作業は圧倒的にPCが快適だ。なにしろ、ブラウザという強力なサポーターがある。検索サイトを使って、ありとあらゆる情報を検索できるし、インターネット経由で利用できる辞書コンテンツも充実している。PDICやDDWinなどのユーティリティを使って、他のアプリケーションと連携した環境も作れる。
でも、ローカルストレージに辞書コンテンツを置く辞書環境という点では、それほど充実しているとはいえない。圧倒的に辞書コンテンツが足りていないのだ。英語はともかく、他の言語となると、ズタボロという印象だ。海外旅行にでかけるにあたり、専用機としての電子辞書を購入するというパターンは少なくないのではないだろうか。
ぼく自身は、常に、Let'snote RシリーズやVAIO type Pなどの1kg未満のPCを携行しているので、それに加えて電子辞書を併せ持ち歩くというのは、どうにも抵抗があった。なんとか、電子辞書なみのコンテンツをPCに統合できないものかと常々思っていたのだが、なかなかその願いはかなわなかった。
だが、富士通のネットブック「LOOX M」のニューモデルに添付される辞書セットを見て、ちょっと驚いた。18種類もの辞書が添付されているというのだ。リストアップしてみよう。
・広辞苑第六版
・リーダーズ英和辞典第2版
・新和英中辞典第5版
・新漢語林
・現代用語の基礎知識2009年版
・デイリー日中英・中日英辞典
・デイリー日韓英・韓日英辞典
・デイリー日独英・独日英辞典
・デイリー日仏英・仏日英辞典
・デイリー日西英・西日英辞典
・デイリー日伊英・伊日英辞典
・学研新世紀ビジュアル百科辞典
・学研ニューワイド学習百科事典(全8巻)
・ビッグアップル英語辞典
・パーソナル現代国語辞典
・パーソナル英和辞典
・パーソナル和英辞典
・パーソナル版漢字辞典
これなら、専用機に匹敵する環境が作れる。しかも、ワープロソフトやブラウザなどのアプリケーションとも連携できる。
ソフトウェアとしては「電子辞書」と「クリップボード検索」の2種類が提供される。前者は辞書引きソフトで、普通に見出し語から検索できるほか、全文検索などもサポートされている。また、辞書を個々に検索できるほか、すべての辞書を串刺し検索といった機能も用意されている。
一方「クリップボード検索」は、Ctrl+Cを素早く2度押すなどの操作で、クリップボードへのコピー作業と同時に、その文字列を受け取った常駐ユーティリティが、その単語をあらかじめ指定しておいた辞書で検索するというものだ。
試してみたところ、中国語などの外国語をこの方法でコピーしても、文字化けを起こして検索できないなど、外国語対応に多少の不具合があるようだ。英語なら問題ないだけにちょっと残念だ。これは簡単に治るはずなので、早急に対処してほしいと思う。
ネットブック「LOOX M」の直販価格は59,800円の値付けである。それで、これだけの辞書が使えて、そして、当然、PCとしても使えるのだ。1.2kgはちょっと重いが、その気になれば外にも持ち出せる。旅行ガイドをPDFにして入れておけば参照も簡単だし、旅先でのインターネット利用やメールの送受信も快適、もちろん、Skypeなどのコミュニケーションにも活用できるなど、汎用機としてのPCを最大限に利用できるはずだ。まさに、腐ってもWindows、ちぎれてもIAである。この柔軟性の高さは計り知れない。
さらに非力な環境に妥協できるのなら、PCよりも小さく携帯電話よりは大きな、いわゆるMIDのようなデバイスで、こうしたコンテンツを利用できるようになれば便利かもしれない。本体もコンパクトで重量も軽くでき、電子辞書専用機と肩を並べられそうだ。
●辞書の充実でPCがまた便利になるこのLOOX Mの辞書コンテンツは、コンテンツそのものは各出版社のものだが、富士通パーソナルズの製品のダウンロード版が「ウルトラ統合辞書」として13,000円で購入できる。検索エンジンはLOOXに添付のものと共通で、富士通の「Inspirium 辞書検索ライブラリ V1.0」が利用されているが、検索ソフトはKGC(計測技研)によるもので、PC用以外にiPhone用のアプリもある。
ちなみに、この辞書コンテンツは、ONESWING規格に基づいている。この規格は、EPWINGの後継で、検索速度、認証、暗号化の機能を強化したものだということだ。
各辞書コンテンツはバラ売りで購入することもできるので、試しに「デイリー日中英・中日英辞典」を買ってみた。価格は1,200円で、購入するとライセンスキーが発行され、初回のインストール時にインターネット経由で認証する仕組みになっている。
うすうすそうだろうなとは思っていたが、確信犯となりデスクトップ機で動作を確認したあと、アンインストールして、ノートパソコンにインストールしようとしたら、認証エラーでインストールできなかった。これでは、しょっちゅうOSを再インストールしている手元の環境では不便きわまりない。一般ユーザーでも、パソコンを買い換えたり、故障したりといったことはあるだろう。サポートに問い合わせてみたところ、正当な理由があればライセンスキーは再発行されるということだったが、こうした点が購入時にはまったくわからないのもどうかと思う。せめて、アドビのソフトのように、認証解除の方法が用意されていればよかったと思う。
いずれにしても、新しい辞書規格の登場により、コンテンツの著作権保護の問題がうまく解決すれば、今後は、ますますPCでの辞書環境はよくなっていくはずだ。ネットブックのような持ち運ぶ気になれるPCの登場も追い風だ。それがネットブックの果たした功績の1つでもある。もしかしたら、パーソナルワープロがこの世から消えてしまったように、将来的には、その方向にトレンドが進むようなことも考えられるかもしれない。