山田祥平のRe:config.sys

絶滅危惧種、クラムシェルモバイルPCを守れ

 2-in-1とタブレット。特にタブレットがものすごい勢いで浸透している。これまでノートPCでこなしてきた多くの作業も、タブレットだけでこなせる。そうはいっても日常的な生産活動にはキーボードは必須で、それなしの環境はありえない。でも、そのありえないことが、ちょっとずつ、新たな当たり前になろうとしている。

SurfaceはキーボードあってこそのWindowsをわかっている

 個人的にMicrosoftのSurfaceを高く評価しているのは、タブレットでありながら、250g前後という軽量級のタイプカバーを用意し、本体にくっつけたままで使うことを、まるで既成事実のように想定しているからだ。強力なマグネットで本体とタイプカバーが吸着し、ちょっと不安定なことに目をつぶれば、膝の上でもそれなりに快適な文字入力ができる。机がなくてもタイプができるのだ。この便利さは大きい。

 2013年は、感覚的には猫も杓子もタブレットという印象の強い年だった。確かにタブレットは便利だ。例えば、電車の中や街の中で、立ったままちょっと使うという点ではもってこいだ。また、カフェなどで、ちょっとしたテーブルが使える場合も、手で支えなくていいのでラクチンだ。特にSurfaceは、キックスタンドが装備されているので、別途、スタンドなどを用意しておかなくても自立させられる。これも使い勝手を大きく高めている。900gを超える重量のタブレットを、ずっと支えて使うのはつらいということを、作る側がきちんと理解しているように思う。

 カジュアルユースの多くは、自立するタブレットで事足りる。だが、大量の文字を入力したり、気合いを入れた調べ物、あるいは、フォームにデータを入力してなんらかの申し込みをしようとするような場合は、ソフトウェアキーボードでは使い勝手が悪い。

 スマートフォンとクラムシェルノートPCという組み合わせが外出時の常用装備だったころ、メールやインスタントメッセージが着信するなど、ポケットの中のスマートフォンでコミュニケーションの始まりに気づき、その続きは、やおらクラムシェルノートPCを開いてタイプするというプロセスを踏むのが常だった。

 ぼく自身のスマートフォンにおける文字入力がそれほど速くないということもあるが、わざわざカバンからノートPCを取り出してタイプするという手順を踏んだとしても、100文字以上の文字を入力する必要がある場合は、その方が速い。スマートフォンで入力している場合は、どうしても舌っ足らずな表現になってしまい、最終的に誤解を招くような文面のメッセージを作ってしまいがちだ。だから、一言で済むようなクイックレスポンスが求められる場合以外は、ノートPCを広げられるような場所に移動してからリプライするのが常だった。

 ところが、その場所がなかなかない。しかも、両手でタイプしたいから、立ったままでもいいから、本体を平置きできるちょっとしたデスク代わりのスペースを探すのだが、それがなかなか見当たらない。最悪の場合、地下鉄の地上口の手すりなどで返事を書くようなこともある。それでもそっちのほうが速いし、ちゃんとしたメッセージがストレスなく書けるのだ。

 もちろん駅のベンチだって構わないのだ。でも、駅のベンチには机がなく、膝の上だけが頼りだ。だからこそ、モバイルPCには、いわゆるラップトップ状態で安定して使えることを求めてしまう。

 2-in-1 PCの多くは、キーボードとタブレットの結合部分に凝りすぎるあまり、そこで重量がかさんでしまっていることが多い。数gを節約して作ってある本体と比較して、付加価値としてのキーボードがその努力を台無しにしてしまっている製品も散見する。イメージとしては、2-in-1というよりも、add-on-1といったところか。

 キーボードを本体と離れた状態で別にすると、膝の上では使えない。膝の上で使えるくらいにしっかりと結合させようとするとどうしても重くなる。調べてみると分かるが、200g台で比較的入力のしやすいキーボードを探しても、なかなかいいものが見当たらない。

 Surfaceのタイプカバー2は、タッチパッドがタップしてドラッグできないことを除けば、理想に近い仕様だ。当面、タップしてのドラッグに対応の予定はないそうだが、使いにくいとはいえ、タッチパッドが付いているだけでもありがたく感じてしまう。Windows、特にレガシーなデスクトップアプリを使おうとしたり、エクスプローラでのドラッグ操作によるファイル操作をしようとすると、スクリーンのタッチだけでは不便なことが少なくないからだ。

大きすぎず、小さすぎずのスクリーン

 画面のサイズはどうだろう。個人的な好みでは、持ち歩いて使うことを前提にし、持ち運びを考慮しつつ、ある程度の快適さを求めるなら、10〜11型スクリーンは最適だと思う。8型では狭すぎるし、13型超ではちょっと大きすぎるのだ。どうしても取り回しに不便を感じることがある。

 だが、このサイズ領域の2-in-1もほとんどない。こうして消去法で探していくと、最終的にはSurfaceに行き着いてしまう。

 個人的には、もはやタッチ非対応のスクリーンはありえないと思っている。だから、クラムシェルノートPCと言えども、タッチ操作に対応していて欲しい。タッチ対応の新LaVie Zなどは、クラムシェルモバイルノートPCとしては理想的な製品の1つかもしれない。欲をいえば、その10型スクリーン版で、さらに軽量化したものを望みたいが、最大公約数をとると、このあたりの着地が妥当なのだろう。製品企画としてはうまいところを突いていると思う。

 2013年はHaswellがブレイクする年だったし、Windows 8.1もリリースされるので、必ず、何かモバイルPCを新規に調達しようと考えていた。ところがふたを開けてみると、InstantGoに非対応の機種ばかりで、Hawellがもたらすはずだった世界観が抑制されてしまっている。本当はInstantGo対応で、タッチ対応、そしてGPSが入っていてWANも使えるPCがほしかった。

 その一方で、評価しなければならない製品は例年よりずっと多かったので、自分が日常的に使うPCとしては、Sandy BridgeやIvy Bridgeの長年使ってきたものを、そのまま使い続けてきてしまった。評価のために使うPCでも、クラウドのおかげで、アッという間に自分仕様の環境に生まれ変わってしまうということもあって、評価機を次々に使っていたら、いつのまにか年の瀬になってしまっていたといったところか……。

 来年(2014年)は、今年に増して、タブレットが浸透していくだろう。それはそれで喜ばしいことではあるが、油断していると、10型スクリーンクラスで、まともなキーボードを持ったタッチにも対応するクラムシェルモバイルノートPCがなくなってしまいかねない。

 この領域は、かなり特殊であることも確かだし、誰にでも勧められるプラットフォームでもないがゆえに、商品化しても、爆発的なヒットにはつながらないかもしれない。でも、そこを求めるニーズは確かに存在する。各社には、モバイルPCとはいったいどうあるべきかを、もう1度原点に立ち戻って考えて欲しいと思う。

 タブレットだけで十分にモバイルで仕事ができるというのは幻想に過ぎないようにも思うし、そう言い切る人がいるとして、誤解を怖れずに言えば、実は、その人は、その程度の仕事しかしていないんじゃないかと感じたりもする。仕事の種類はさまざまだし、すでにソフトウェアテンキーのフリック入力で超高速に日本語を入力できる層も登場してきている以上、一概にはいえないにせよ、少なくともぼくには2-in-1では足りない。過去を引きずり未来を見据えた妥協のないAll-in-OneのモバイルPCを、今、心から欲しいと思う。決して、絶滅して欲しくはない。

(山田 祥平)