山田祥平のRe:config.sys

ゲームマウスでWindows 8

 Windows 8のピュアタブレットを使うと、どうにももどかしくてたまらないことがある。そのもどかしさの多くをぬぐいさってくれるのがゲーミングマウスだ。今回は、その便利さを追求してみた。

やっかいな複数項目の選択

 Windows 8ピュアタブレットを使っていると、これほどまでに自分がマウスやキーボードに依存していたのかと驚いてしまう。これは、AndroidやiOSではあまり感じないことであり、そこがデスクトップアプリに多くの作業をたよらざるを得ないWindows 8の問題点でもある。

 例えば、メール。半日も放置すると、なんだかんだで100通前後のメールが届くわけだが、そのうち6~7割は迷惑メールやメールマガジン、プレスリリース等で、すぐに目を通して返事を書かなければならないメールばかりではない。それらのメールは目視でタイトルを眺めながら、迷惑メールやニュース用のメールに振り分けていく。メールの一覧に並ぶ各メールを、順に選択していって、複数の項目を一気に別のフォルダに移動してしまう。

 この複数の項目を選択するというのが大変だ。もし、キーボードがあれば、Ctrlキーを押しながら順にクリックしていけばいいのだが、ピュアタブレットではそれが難しい。エクスプローラーでは、項目チェックボックスを表示することができるので、それを使えば複数ファイルの選択は容易だが、残念ながら新しいOfficeのOutlookは、せっかくタッチモードがあるのに、チェックボックス機能はサポートされなかった。

 さらに、連続した複数の項目を選択するには先頭の項目を選択し、最後の項目をShiftキーを押しながら選択する。この作業でも、つい、手がShiftキーを探してしまう。

 加えてタッチ操作では、ドラッグ&ドロップもやっかいだ。マウスを使ったドラッグ&ドロップであれば、途中に気が変わったりした時に、ドラッグ中のマウスの左ボタンから手を離さないうちは、ESCキーでキャンセルができる。

 このように、ピュアタブレットをタッチ操作だけで使っていると、過去にできていたズルができないため、どうにももどかしいのだ。

マウスを使うためにピュアタブレットを自立させる

 そこで、細かい操作が正確にできるようにするために、マウスを接続することを考えた。マウスだけならカバンの中でかさばらずに持ち運べる。モバイルキーボードを持ち歩くよりもお手軽だ。

 ピュアタブレットを立てる方法さえあれば、キーボードを使わなくてもタッチだけに頼るより効率的かもしれない。

 ピュアタブレットを自立させるためには、いろいろなアタッチメントが各社から発売されている。価格もさまざまだ。ぼくは、とにかく軽いことを最優先にするために、100円ショップで見つけたプラスチック製の皿や額縁立てを使うことにした。ちょうど真ん中で二つ折りにできるので、これまたカバンの中でも邪魔にならない。これを使ってタブレットを立てかけた場合、最初はいいのだが、底部を支えて開いている部分がだんだんと閉じてきてタブレットが倒れてしまうのだ。何かつっかえ棒になるものがあればと思い、身の回りを探したところ、綿棒が長さといい太さといいピッタリだった。なくしてもすぐに代わりはある。それに、この綿棒が二つ折りにした真ん中に収納できる。

 こうした工夫でタブレットを立て、Windows 8をタッチとマウスで操作すればかなり快適な環境になる。せっかくのピュアタブレットにマウスをつないでどうすると言われそうだが、背に腹は代えられない。

 そうなると欲が出てくるもので、もっと効率的に操作できないかと考えた末に行き着いたのがゲーミングマウスだ。豊富なボタン類とカスタマイズの多様性に目をつけたのだ。

柔軟なカスタマイズができる多ボタンマウス

 試してみたのは、ゲーミングマウスで有名なマッドキャッツの製品だ。純粋なゲーミングマウスではなく、一般向け用途も考慮した新製品として、M.O.U.S.9とR.A.T.Mが発売されたばかりのタイミングで運良く試させてもらうことができた。

 製品としては、M.O.U.S.9が通常サイズでガラスの上でも使えるというダークフィールドレーザーセンサーマウス、R.A.T.Mはちょっと小ぶりのツインアイレーザーセンサーだ。操作できるボタンの数という点ではM.O.U.S.9の方が多いが、持ち運んで使うという点ではR.A.T.Mが扱いやすい。

 両製品ともに、Bluetooth 4.0対応で、BLEによってバッテリ寿命最大1年を実現している。Bluetoothは3.0までと4.0は別物で、4.0は比較的新しいPCでしかサポートされていないが、未搭載のPCでも使えるように製品には専用のナノレシーバが付属して、マウス本体の底部に格納できるようになっている。ただし、同梱されたレシーバは、この製品でしか使えず、他の機器をペアリングすることはできない。

 もちろん、PC本体がBluetooth 4.0に対応していれば、このレシーバを使わなくてもペアリングして接続することができる。ただし、東芝製のスタックを実装した機器では正常に使うことができなかった。マッドキャッツによれば、いったん東芝のスタックをアンインストールすることで、Windows 8標準のスタックがインストールされるので、その状態で使って欲しいということだった。

 手元で使っているピュアタブレットは、富士通の「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」なのだが、この製品は本体に標準的なUSBポートがない。だから、一般的なマウスを接続するためには、ブタの尻尾のようなホストケーブルをMicro USB端子にぶらさげる必要がある。だが、Bluetooth 4.0搭載で、最初からWindows 8標準スタックを使っているため、何の問題もなくマッドキャッツのマウスを接続することができた。

 手順としては、最初にPC設定でデバイスとしてマウスをペアリングして追加する。この状態で普通のマウスとしては使えるようになる。そして、ダウンロードしておいたドライバをインストールし、さらに設定ユーティリティをインストールすれば完成だ。この手順は、同梱のナノレシーバを使う場合とは異なるので注意が必要だ。同梱のナノレシーバを使う場合は、最初にドライバを入れて、そのインストールプログラムの指示ににしたがってナノレシーバを装着する。

修飾キーとクリックのコンビネーションをワンボタンで

 マウスが使えるようになったらカスタマイズにチャレンジだ。このマウスには、あらかじめ用意されたさまざまな機能としての「ショートカット」、「単独キー」、「個別キーの組み合わせ」をそれぞれのボタンに割り当てることができる。懸案のCtrl+左クリックや、Shift+左クリック、ESCキーといった、タップ操作ではやりにくい各種のコンビネーション操作もカンタンに定義できる。

 ウィンドウの閉じるボタンが小さくて使いにくいなら、Alt+F4を適当なボタンに割り当てればいい。

 マウスの左ボタンの外側には、外に倒す感覚で使えるレバー上のボタンもある。これは右から左に倒すというイメージなので、チャーム表示を割り当ててみた。チャームを出すのはタッチ操作でも簡単なので、これはいわばお遊びだ。

 他にもボタンはたくさんあるので、いろいろとチャレンジはしてみたのだが、最終的には、あまり多くの割り当てはやめておくことにした。おそらくは、今後、業界内で、Windows 8をマウスで使うための標準的な操作が定義されていくことになるだろうから、今の時点であまり凝ったカスタマイズに体が慣れてしまうのは避けたかったからだ。

 日常的には、ARROWS Tab Wi-Fi QH55/Jをピュアタブレットとして使い、カフェなどで席につくことができたらカバンからマウスを出してきて使う。さらに複雑な作業をするときには、Bluetoothキーボードを追加する。これで、以前、クラムシェル型のモバイルノートPCでできていたことの、ほとんどすべてをカバーすることができるようになった。

 もちろん解決できない問題もある。タブレットを自立させるためには、どうしても土台となる机が必要なのだ。記者会見の会場などは、ほとんどの場合机が用意されているのだが、ホールなどではそれが叶わないこともある。イベントの基調講演などで、カメラとPCをとっかえひっかえしながら写真とメモを同時多発的にこなすのは無理だ。前の席の背もたれに引っかけられるように工夫ができないかとも考えたのだが、それもどうかと思って断念した。こういう仕事にはクラムシェル型やコンバーチブルに分がある。

 マッドキャッツによれば、ゲーミングマウスには、デザイナーなどからの問い合わせも多いのだという。フォトレタッチやDTP、ビデオ編集、CADといったカテゴリのアプリでは、頻繁に使うショートカットをゲーミングマウスの多ボタンにうまく割り当てることで、かなり効率が上がるらしい。

 今回のチャレンジで思ったのだが、もしかしたら、Ctrl、Shift、Escなど、装飾キーや特殊キーだけを装備したマイクロキーボードというのもありかもしれないなと思った次第だ。これはこれでスマホでも代用できるかもしれないと、タッチをより使いやすくするための妄想は膨らんでいく。いわば自転車の補助輪のように、これらのデバイスが機能するようになればと思う。

(山田 祥平)