山田祥平のRe:config.sys

Ultrabookと3つのシバリ




 Intelが東芝の協力のもとに、Ultrabookを体験できるイベントを、東京を皮切りに、名古屋、大阪、広島で巡回開催する。「Ultrabookデビュークルーズ」と称するこのイベントで、Ultrabookを広くアピールする目論見だ。

●21mmというシバリ

 ある共学私立高校の話だ。その高校では、男子には制服があるが、女子には制服がなく私服で通学していいことになっている。ただし、「白いソックスを履くこと」と「パンツ禁止」、「ストッキング禁止」がルールになっているという。想像すればわかるように、このルールを守ろうとすると、まともなセンスの持ち主であれば、おおよそのファッションの方向性が決まり、自ずと、女子生徒全体の雰囲気が統一されるのは想像に難くない。

 突拍子もない例で話を始めたが、IntelのUltrabookも、この話に通じるものがある。というのも、ノートPCを再定義するものとされるUltrabookだが、その要件は厚さが21mm未満であることと、びっくりするほどシンプルだからだ。でも、この規定を守ろうとすれば、その他の要素は自ずと、似たような方向に収束していく。

 基金まで用意して、Ultrabookの普及に全力を注いでいるIntelだが、こと日本国内に関しては、今ひとつ盛り上がりに欠ける印象がある。だが、そこに名乗りを上げた唯一の国内ベンダーが東芝だ。東芝としては、dynabook Rのシリーズを、かつてのRXシリーズのように、再度、薄型化しようとしていた経緯の中で、Ultrabook構想が浮上してきたため、そこに乗っかったカタチとなる。

 ちなみに、Intelでは、すでに、これからのUltrabookが3段階で展開されることを明言している。それぞれのステップは、

1. 第2世代Coreプロセッサー搭載(Sandy Bridge)
2. Ivy Bridge搭載
3. Haswell搭載

となっている。1. は今まさに出荷が始まっている各社のUltrabookであり、2. は2012年、そして、3. は2013年が予定されている。3. の時点で、市場で発売されるほとんどのノートPCがUltrabookとなるとIntelでは予想しているそうだ。

 1. から2. では画面サイズなどフォームファクタの多様性が叶い、グラフィックスが強化される。また、2. から3. への移行は劇的で、インターネットに接続して待機している際の消費電力が20分の1以下に削減されるという。まさに、ホップ、ステップ、ジャンプだ。

 消費電力20分の1というのはSmart Connect Technologyと呼ばれる機能によって実現されるものだろうが、その詳細はまだ明らかにされていない。MicrosoftはMicrosoftで、Windows 8において、Connected Standbyと呼ばれる新しいステータスを導入するそうなので、これらのテクノロジーは密に関係しているにちがいない。

 Windows 8の発売がいつになるのかは、今の時点で、まだ、何のアナウンスもないが、Windows 8をプリロードしたHaswellがUltrabookの大本命ということになるのだろう。

●2年というシバリ

 登場したばかりのカテゴリであるUltrabookについて、2年後に登場する第3世代が本命であると明言することがマーケティング的に正しいのかどうかは別として、今、ノートPCを買い換えようとしているのなら、少し待った方がいいかもしれないと思うのが普通の考え方だ。でも、果たして本当にそうなのか。

 Windows 8をプリインストールしたHaswell搭載の第3世代Ultrabookが登場し、各社の製品から好みのものを選べるようになるのは、きっと2013年の夏頃だろう。2011年末という今、買い換えを考えているというタイミングで、さらに1年半待てるかどうか。そして、待つのが正しいのかどうか。

 さっさと、現行のUltrabookか、UltrabookではないノートPCを買っておき、ほぼ2年後に第3世代のUltrabookが出揃ったところで、また買い換えるというのも1つの手だ。おそらくは、その時点でIntelが言うように、劇的な変化を体験することができるのだろう。

 2年間というサイクルは、携帯電話の「シバリ」に多いし、また、月々サポートなどの端末購入代金補助でも使われる期間で、買い換えや見直しなどをするのに、ちょうどいいタイミングということになっている。

 ノートPCも携帯電話なみに、2年間で買い換えというのが常識になってしまいそうな気配もある。逆にいえば、2年程度で次が欲しくなるくらいの金額にしておかないと、市場がダイナミックに動かないということになりかねない。

 そもそも、常に持ち歩くモバイルデバイスは、2年も携行を続けてみれば、よほど大事に使っていない限り、ボロボロになってしまう。加えて、Ultrabookのほとんどは薄型軽量化のために、ユーザーによるバッテリの交換ができない。このあたり、iPhoneのように、バッテリがダメになるころには買い換えを考えるというパターンを狙っているのかもしれない。

 意地悪な見方をすれば、消耗品的なバッテリを交換不可能にしておくことで、ノートPCの買い換えサイクルを短くする戦法とも考えられる。5年前に買ったノートPCが、まだまだ現役で、使っていてちっとも困らないというのでは、PCシーン全体の活性化が鈍ってしまう。だから、買い換えたくなる理由を作ろうというマーケティングは、地球には優しくないかもしれないが、ある意味で正しい。

●スマートのシバリ

 スマートフォンが着実に売れているという事実は、PCシーンに対して2種類のインパクトを与える。

 1つは、サイフは1つしかなく使える金額も限られているので、スマートフォンを買ってしまったからPCは買えないというもの。

 もう1つは、スマートフォンを買ったら、クラウドのおかげでPCとの併用で、2倍3倍便利であることを実感し、つい、新しいPCを買ってしまうというもの。

 きっとどちらもあるのだろう。しかも、絶対的な事実として、PCとスマートフォンの価格が、ずいぶん接近してきているという現実もある。通信事業者の端末代金サポートや契約継続による割り引きなどがあるため、どうしても、PCよりスマートフォンの方が安いように錯覚してしまうが、決してそうではなくなりつつあるということだ。

 この10年くらいの間で、ケータイはPCがずっとやろうとしてきたことを、アッという間にやり遂げてしまった。そして、PCの存在をおびやかすまでに成長した。ネットワークに常時接続されたスマートデバイスという点では、今や、PCよりスマートフォンの方が使い勝手がいいといってもいいくらいだ。

 でも、PCにはPCのいいところがたくさんあるし、それはスマートフォンが逆立ちしたって敵わない。Ultrabookは、この状況を逆転しようとしているのではなく、ある種の共存共栄を目指す試みでなのではないか。PCが携帯電話に学ぶことは少なくないのだと気がついたようにも思う。