山田祥平のRe:config.sys

ツンデレiOS 5とiCloud




 iOS搭載デバイスは、常に、その向こう側に特定の1人の人間がいることしか想定していない。コンピュータ的なデバイスは、個人が所有し、その感性や能力を自転車的に増幅するという故・スティーブ・ジョブズ氏の思想が強く反映されている。

●バージョンアップに悪戦苦闘

 日本時間の10月13日午前2時。かねてからインターネットで流れていた噂通り、iOS 5の配布が始まった。時報を待って、手元のiPod touchを接続したiTunesで、更新ボタンをクリックすると、更新が見つかり、ダウンロードを開始する。

 iOS 5では、OTAでのアップデートができるようになるので、こんな面倒くさいことをするのは、これが最後になるだろう。

 ただ、更新は一筋縄ではいかなかった。きっと、世界中がいっせいにダウンロードするものだから、さすがのCDNもときたま止まりエラーを起こす。ようやくダウンロードができたかと思ったら、今度は本体への転送に失敗し、あげくの果てには工場出荷時状態への復元もできなくなってしまった。どうせバックアップはあるので、本体側でコンテンツと設定を消去して何度か試みたのだが、どうしてもメインのPC環境ではうまくいかなかった。

 仕方がないので、手元のノートPCのiTunesに接続してみた。このiTunesは、気が向いたときにメイン環境をコピーしているだけなので、内容はメイン環境のものとほぼ同じだ。そこで更新作業をしてみると、何事もなかったように成功した。これで200本近いアプリと音楽コンテンツで64GBがフルに埋まっている本体へのデータ再送をしなくてすむと思いきや、今回の更新では無条件に、復元〜バックアップの書き戻し〜コンテンツの転送という流れになるようだ。

 手元にはiPod touchが2台と初代iPad、合計3台のiOSデバイスがあるのだが、1台目が無事にバージョンアップできたころには、朝6時になろうとしていた。作業を始めてから4時間近くが経過している。あれこれ悪戦苦闘せずに、エラーが出たら、さっさと別のマシンで試してみればよかったと反省しきりだ。

 そしてこれだけ悪戦苦闘しても失ったものが何もなかったというのは、ある意味ですごいことだとも思う。

 少し横になって、遅い朝食をとりながら2台目のiPod touchを更新、こちらはメイン環境でもうまくいき、コンテンツの転送が始まっていることを確認して、昼間に予定していた記者会見にでかけた。そして、戻ってきた今、これからiPadのバージョンアップを試みる。

 iOSのバージョンアップと同時にiCloudのサービスも開始された。残念ながら日本では音楽コンテンツの保存サービスは利用できないのだが、これほどのサービスと新OSを無償で提供するというのはすごいことだと思う。そこには、デバイスとOSそして、クラウドの見事なまでの融合が感じられ、「i」の世界観が確立されている。

●パーソナルであるということ

 だが、気をつけてほしいのは、iOSデバイスやiCloudは、それを複数のユーザーが共有して使うことなど、これっぽっちも考えていないという点だ。彼らにとって、一家に1台のiPadというのは悪なのだ。iOSデバイスはApple IDでCloudを介してひも付けられ、各種のコンテンツが同期される。iPhoneのカメラでシャッターを切れば、その写真は自動的に他のiOSデバイス、たとえばiPadにも格納される。iPhoneで既読にしたメールは、当然、他のiOSデバイスでも既読になる。連絡先だって完全同期だ。

 だから、自分のApple IDを関連づけたiOSデバイスを、家族で共用しようなどとはゆめゆめ考えない方がいい。もちろん、iCloudを使わないという選択肢もあるのだが、それでは提供されるサービスの多くを使えないことになり、便利さや楽しさが半減どころか皆無に近いものとなる。

 彼らは個人が複数のコンピュータ的なデバイスを持つことには熱心に手ほどきするが、1台のデバイスを複数のユーザーが使うことには無関心なのだということを心しておくべきだ。個人的にはそれでいいと思っているし、そうあるべきだとも思う。

 iOS 5とiCloudがもたらす世界を体験してしまえば、リビングルームに無防備に放り出され、いつでも家族が使える状態になっていたiPadを、パスコードを設定して自室に置くようになるだろう。ちょうど、家族といえども、携帯電話を不用意にのぞいたり、貸し借りしたりしないのと同じで、それがパーソナルであるということだ。

●だから今日はiOSデバイスの独立記念日

 それにしても、今回のアップデートはたいへんだった。眠い目をこすりながらのエラーとの戦いは,もう2度とごめんだという感想を持った。

 おそらく、今朝未明にかけてアップデートを試みたようなユーザーは、世の中のiOSユーザーのごく一部なのだろう。多くの普通のユーザーは、iPhone 4Sの発売のことはニュースなどで知っていても、自分が使っているiPhoneがアップデートできることは知らないかもしれない。なにしろ、iPhoneをPCやMacに接続するのは半年に1度といったユーザーも少なくないときく。中には、購入時に販売店でアクティベイトしてもらい、まだ、一度もコンピュータに接続したことがないとか、それどころか、コンピュータを持たないユーザーもいるからだ。

 ディーラーや販売店、そして、Appleにとっては、そうしたユーザーをiCloudの世界へと連れて行くための茨の道が待っているということだ。そういう意味では、iOS 5以降のiPhoneを手に入れたauはラッキーだったのかもしれない。

 でも、その道を通り抜ければ、すべてのiOSデバイスがアップルの管理下におさまり、雲の向こう側では想像を絶するロジックが動いていても、ユーザーはそれを意識することなく、いたれりつくせりの世界を満喫できるようになる。

 PCやMacの呪縛から逃れることができたiOSデバイス。今日は、そのインディペンデンス・デイ、すなわち、iOSデバイスの独立記念日だ。それを祝うのは誰なのかを、きちんと考える必要がありそうだ。