山田祥平のRe:config.sys

合気道でノイズに勝つ

~Boseの新ノイズキャンセルヘッドフォン「QC35」を試す

 Boseから「QuietComfort 35(QC35)」が発売された。Bluetoothに対応し、ワイヤレスで音楽を楽しめるノイズキャンセリングヘッドフォンだ。今回は、そのファーストインプレッションをお届けしよう。

パッシブノイズキャンセルも進化

 Boseの新ノイズキャンセリングヘッドフォンQC35は、先代のQC25が2014年9月の発売だから、ほぼ2年弱での刷新となる。もっとも大きな変更は、Bluetoothによるワイヤレス伝送が可能になったことだ。

 195gだった先代に比べて、重量は240gに増加している。ただ、装着してみてはっきり感じるほどではない。ワイヤレスのためのモジュールが内蔵されたこと、そして、バッテリが単4形電池から、MicroUSBケーブルで充電するリチウムイオン電池に変更されたことによるものだろう。また、以前はケーブル側にあったリモートコントロール用のスイッチも本体側イヤーカップに実装されているのも重量増の原因になっていそうだ。ただしQC25の195gは、単4形電池の約12gをのぞいたものなので、使用時の実重量としては207gから240gへと33gの増加に過ぎない。

 装着して感じるのは、ノイズキャンセル機能をオンにしていないのに、先代に比べて大幅に周辺騒音が軽減する点だ。イヤークッションは合成プロテインレザーで、パッシブノイズキャンセリング用のシリコンが含まれているとのことなので、それによって遮音性が高まった結果なのだろう。

8デバイスを切り替えるワイヤレス接続

 新機能のワイヤレスの使い勝手はどうか。Bluetooth接続で、約20時間の運用が可能で、通常のBluetoothペアリングのほか、NFCによるペアリングができる。プレーヤーとなるスマホなどのデバイスをBluetooth接続待機状態にして、NFCタッチポイントにあてれば、それでペアリングが完了する。

 こうした機器はインジケータが少なく、現在の状態が分かりにくいのだが、QC35には音声ガイドが装備されていて、英語はもちろん、日本語でも状態がアナウンスされるのでわかりやすい。もちろん音声ガイドはオフにもできる。

 ペアリングできるのは最大8台までのデバイスで、最後に接続した2台と自動的に接続する。右イヤーカップに装備された3ポジションの電源スイッチをスライドさせることで、接続先が順次切り替わるようになっている。これも、切り替わり時に機器名がアナウンスされるので、どのデバイスとつながったのかすぐに分かる。例えば手元のiPhoneには「syoip6」という名前を付けてあるが「エスワイオーアイピーシックス」と流暢に発音される。

無線でも有線でも楽しめる

 QC35で音楽を楽しむには3種類の方法がある。

 まずは、新機能のBluetooth接続。次に、付属のケーブルで接続し、ノイズキャンセルをしながらのリスニング、そして、完全なワイヤードヘッドフォンとして使う方法だ。Bluetooth接続時にノイズキャンセルをオフにすることはできない。

 宿命的なものとして、ワイヤード、ノイズキャンセル付きワイヤード、ノイズキャンセル付きワイヤレスの順に音は劣化していく。

 当然、ワイヤードのみときはバッテリを消費しない。またノイズキャンセル付きワイヤードではバッテリの保ちが2倍の40時間になる。これはQC25の35時間より長い。ワイヤレスでは20時間だ。

 付属のケーブルにはリモコン用スイッチが装備されていない。基本的には本体右耳用のイヤーカップに装備されたボタンを使う。ところが、ワイヤードで接続している時に、このリモコン用スイッチが使えない。おそらく電気的に切り離しているのだろう。しかもケーブル両端のプラグは3極仕様だ。試しにリモコン付きのQC25用4極プラグ付きケーブルを装着してみると、ワイヤードで聴いているときにもケーブル側のリモコンが機能した。このあたりは、もうちょっと工夫ができなかったものかと思う。

無音の圧力が大きく軽減

 QC35のノイズキャンセル機能を、QC25と比べた時に感じるのは、その静寂さの性格がかなり異なっていることだ。QC25の時に感じた無音の圧力がかなり軽減されている。

 製品発表のために来日したBoseヘッドフォン・リード・リサーチエンジニアのダン・ゲイジャー氏は、自ら有する合気道3段の免許状をスライドに投影しながら、ノイズキャンセルはノイズに対する合気道のようなものだと説明する。そして、それは、ノイズそのものを使ってノイズに勝つことであるというのだ。

 ノイズキャンセルの基本的な仕組みは、マイクで拾った環境音の位相を反転させ、元の音とミキシングすることでノイズを打ち消すことだ。ゲイジャー氏によれば、元のノイズを打ち消すには、元のノイズに匹敵するノイズを発生する必要があるという。

 ところが、リアルタイムで位相を反転させた環境音を用意するのは大変だ。100%一致させるのは不可能だとゲイジャー氏は言う。もしそれができれば完全な無音になるわけだが、限りなく近いものはできても、多少の誤差はある。そして、その誤差が耳を無音の圧力として攻撃するのだ。

 QC35のノイズキャンセルには、ここに大きなブレークスルーがあるように感じた。Boseでは、この無音の圧力のことを“ノイズフロア”と呼んでいて、静かな環境での使用時に弱いヒスノイズのように聞こえるという。QC35では、このヒスノイズが測定可能であることを利用し、それを検知できないレベルに抑え込むことに成功している。だから、耳に感じる圧迫感は、QC25と比べて大きく低減されている。これは、装着してノイズキャンセルをオンにすれば、すぐに分かるレベルの改良だ。

ノイズキャンセルと快適さが高次元でバランス

 Bluetooth接続時にサポートしているコーデックとしては、仕様としては公開されていないもののaptXには対応していないことをゲイジャー氏が表明しているほか、耳で聴く限り、AACへの対応もなく、SBCのみの対応のようだ。Boseというメーカーは、音を聴けば分かると言わんばかりに、ハイレゾ対応を謳うといったことをはじめ、音の良さを言葉で表現することをしない。BoseとしてはQC35の利用シーンを考えた時に、SBCのみの対応で十分だという判断をしたようだ。

 製品発表後のSNS界隈では、この点を残念に思う意見が数多く見られたのだが、実際の音質としては及第点を十分にクリアしているので、迷っているなら実際に聴いてみることをお勧めしたい。個人的にはワイヤレスの便利をとるだろうし、ワイヤードで楽しめばQC25相当となる上に、快適さはこちらが上だ。

 この製品の特徴は、電気的なアクティブノイズキャンセル、イヤーカップやクッションによるパッシブノイズキャンセル、そしてコンフォートという3つの要素を見事なバランスで調和させている点にある。

 例えばぼくはメガネをかけているのだが、QC25ではメガネフレームの耳にあたる部分とイヤーカップが干渉して、10時間近い旅程のフライトでは、ちょっと耳が痛くなってしまっていた。今回、まだ、それほど長いフライトでの利用はできていないが、装着したときの快適さがまったく異なることから、長時間利用の負担も軽減されるに違いないと期待している。

 欲を言えば、ノイズキャンセルをオンにした時、さらにワイヤレスにした時のサウンドに多少の残響音的な要素が感じられる点にちょっとした残念さを感じる。

 早い話が、音楽に少しエコーがかかったような聴感があるのだ。その残留音が音のスキマをうめてしまうことにちょっとした違和感を感じた。これはワイヤードで使った時には感じられないものなので、やはり、ノイズキャンセルやワイヤレス導入の副作用的なものなのだろう。それによって低域の解像感が抑制されているようにも感じる。

 こうした細かい点は今後の進化に期待したいが、現時点でも製品としてはきわめて完成度が高い。QC25の後継として十分に満足できるレベルに仕上がっている。

 この後の秋には、「QuietControl 30 wireless headphones」の発売も予定されている。こちらは「コンフォート」ではなく「コントロール」を称することから分かるように、ノイズキャンセルのコンセプトがかなり異なる製品となるようだ。まだ、海のものとも山のものともつかぬ状況だが、その登場も楽しみだ。