1カ月集中講座
NASとクラウドを併用して目指すストレージ充 第4回
~プラットフォームになりつつある今どきのNAS
(2014/8/30 06:00)
NAS製品に使われる部品の性能が上がってきたこともあり、最近ではデスクトップPC顔負けのことができるNAS製品が珍しくない。中でも、QNAP、Synology、ASUSTORなど、一部NASメーカーの製品では、ユーザーインターフェイスもデスクトップPCさながらのGUI環境だ。
できることも増え、ブログやCMSを始めとするWebサービスや、動画ファイルのフォーマットを視聴する機器に合わせて変換するトランスコード、さらにHDMI端子を備えトランスコードした動画を他の機器を介することなく再生できる製品もある。
今回はNASというよりある種プラットフォーム化しているNAS製品が「できること」について紹介したい。
NASというよりサーバー?
QNAPやSynologyなど一部NASメーカー製品では、Webブラウザで管理画面を開くとログイン(サインイン)画面が表示され、IDとパスワードを入力すると、タスクバーやアイコン、ウィンドウなど、普段WindowsやMacを使い慣れた人にはお馴染みのアイテムが並ぶデスクトップ画面が開く。
デスクトップ画面は、シングルクリックによる選択や、ダブルクリックによる実行、ドラッグによる範囲選択や移動、右クリックメニューなど細かな部分までWindowsやMacのウィンドウシステムによく似ていて、どちらかに慣れた人であれば迷わず使い始められるだろう。ちなみに、NAS側へのファイルのアップロードは、エクスプローラーから管理画面上に表示されるフォルダにドラッグするだけでできる(残念ながらその反対はできない)。
さらに、メニューに並ぶ「コントロールパネル」で設定の確認や変更ができたり、「File Station」などの名前のエクスプローラーのようなファイル操作アプリがあり、「パッケージセンター」あるいは「App Center」と呼ばれるアプリでプログラムのインストールとアンインストールができる。
インストールできるアプリは、WindowsやMacを始めとする機器とのファイル共有を中心に、DLNA対応機器でファイルの閲覧ができるようになるメディアサーバー、指定したファイルのダウンロードを任せることができるダウンローダ、同期、バックアップなどがオススメアプリとして紹介されている。
さらに、Webサーバーは当然として、ブログや掲示板、CMS、さらにはEコマースサイト、顧客サポートサイトなど、個人用途からビジネス用途にまで使えるWebサービスをインストールして利用できる。メディアサーバーと連携して動画を再生環境に合わせて変換するトランスコーダや、LANやUSB に対応したネットワークカメラアプリも定番だ。中には、仮想PC環境を動かすことができる製品もある。
充実したWebサーバー系機能
NAS製品がインストールできるアプリはWebサーバー系のものが多い。ただし、大切なファイルを保管しているNASで、Webサーバーをインターネットに公開するのは現実的ではない。NAS製品でWebサービスを使う場合は、NASとしてではなく、冗長化やバックアップ設定が簡単なサーバーとして使うのが適切だろう。
NAS製品でインストールできる代表的なWebサービス系アプリは、PROXYサーバーでは「SQUID」、ブログツールでは「WordPress」、CMSでは「Drupal」、「Joomla」、wikiでは「MediaWiki」、「DokuWiki」、Webサーバーでは「nginx」などだ。どれもオープンソース系のソフトだが、登場してしばらく経っていて、比較的初心者でも取り組みやすいものだ。
ただし、インストールこそボタンを押すだけで済んでしまうこともあるが、どれも予備知識なし使うのは難しく、使い方についてある程度勉強する必要がある。マニュアルや解説書が無いこともあるので、検索エンジンや辞書類のお世話になりつつ、分かるまで自分で調べる覚悟が必要だ。
それから、NAS製品のお約束として、特にWebサーバー系の機能では、目的のアプリ以外に、そのアプリと連携して動作するアプリをインストールしなければならないことがある。最初は戸惑うとは思うが、メッセージでその都度対処方法を教えてくれるので、お約束だと思って慣れて欲しい。連携アプリとしてよく使われるのは「MariaDB」、「PostgreSQL」のようなデータベースアプリケーションや、「Python」、「Perl」などのプログラミング言語、「PHP PEAR」のようなライブラリだ。
Webサービス系の機能ではないが、Webサービスを使う場合、あると便利なのがSSH接続だ。テキストコマンドで直接操作したり、設定ファイルを直に編集できる方が手っ取り早いこともある。SSH接続の際、通常SSHクライアントと呼ばれるアプリを使うが、ブラウザをSSHクライアント化する「Shell In A box」のようなWebサービスを使う方法もある。なお、SSHクライアントはブラウザの拡張機能としてインストールできる場合もある(Chromeの「Server Auditorなど」)。
動画視聴に便利なトランスコーダ
トランスコードは文字通り変換のことで、動画ファイルでトランスコードと言えば、環境に合わせて解像度や圧縮率、フォーマットを変換することを指す。動画の容量に対して回線が遅すぎる場合や、再生する側が動画のフォーマットに対応していない、あるいは出力できる解像度が低い場合に行なわれる。無線LAN経由でのアクセスや、低速なモバイル回線経由でのアクセスでは必須とも言える機能だ。
NAS製品でのトランスコードは、ソフトウェア的に処理される場合と、専用のハードウェアで行なわれる場合の2種類ある。一般的には専用のハードウェアで処理する場合の方が高速で、配信と同時にリアルタイムで行なうことができる場合もある。リアルタイムのトランスコードをソフトウェアで処理する場合は負荷が大きすぎて動画の再生が飛び飛びになることがある。トランスコードは事前に行なったり、1度トランスコードした内容をキャッシュできる場合もある。
まとめと注意点
4回に渡ってNASとクラウドストレージについて紹介してきたがいかがだっただろうか。NASは今やオンライン化可能なデバイスであり、少し前までは考えられなかった、NAS(ローカル)とクラウドがお互いをバックアップし合う補完関係が成立するようになった。必要なデータにいつでもアクセスできる態勢が整い、低コストで大規模災害からデータを守ることが可能になっている。
NASの性能と機能は向上していてデスクトップPCとの差は縮まりつつある(役割もかぶりつつある?)。NAS製品の多くはLinuxベースであることから、Linuxの成長と部品の性能の向上の恩恵を受けてなるべくして今のようになったのだろう。ただし、そうは言ってもLinuxの世界は何かあれば自分で調べて対処しなければならない世界だ。NAS製品を使う際、メーカーが標準提供をしていないアプリを使う場合は、その点を忘れないようにしたい。
最後に今回記事執筆にあたって使用したNAS 2機種とHDD 1機種について紹介する。NASはSynologyの「DS415play」とQNAPの「TS-251」だ。DS415playがストレージを4台、TS-251がストレージを2台装着できる。HDDはWestern Digitalの「WD Red」で、こちらは特にNASでの利用を想定したモデルだ。