1カ月集中講座

NASとクラウドを併用して目指すストレージ充 第2回

~クラウドストレージとNASの使い分け

 クラウドストレージとNAS(Network Attached Storage)は、どちらもストレージと名付けられている通り、機能も役割もデータを保管することで共通している。ただし、できること、得意なことはそれぞれ違う。

今回は、クラウドストレージとNASの違いと使い分け方法や、クラウドストレージとNASを使う上で重要な「フォルダ」について解説する。

クラウドストレージとNASは速度と容量の自由度が違う

クラウドストレージは、ユーザーインターフェイスがWindowsのエクスプローラーなどによく似ている。アイコンのデザインなどは異なるが、ドラッグ&ドロップでファイルのコピーや移動ができたり、ダブルクリックなどの操作でプレビュー表示ができたりと、普段からPCを使っている人であれば“いつも通り”使えてしまう。

クラウドストレージ「BitCasa」のフォルダ例。左ペインがテキスト主体のコンパクトなリスト形式で、右ペインに選択しているフォルダ内が表示される
クラウドストレージ「box」のフォルダ例。同期用のフォルダはアイコンの右下に青いマークの付いた「Default Sync Folder」で、そのほかのフォルダはローカル側に反映されない
Dropboxのフォルダ例。左ペインにリスト、右ペインに選択フォルダを表示。右クリックメニューが利用可能
Google ドライブのルートフォルダ例。左ペインがリスト、右ペインが選択フォルダ表示。対応しているファイルであれば、アイコンがサムネイルになる
OneDriveのフォルダ例。左ペインがテキストのみのリスト、右ペインが選択フォルダ表示で、Windows 8以降で採用されたModern UI系のデザインになっている
クラウドストレージ「Yahoo! ボックス」のフォルダ例。左ペインにリスト、右ペインに選択フォルダ表示。広告表示があるのが特徴的

 しかし、クラウドストレージは何kmも離れた場所で提供されているサービスであり、PCの内蔵ストレージやNASとは違って、当たり前だがデータの転送速度は遅い。インターネット接続サービスは、一般向けの手頃のなもので速度上限が100Mbpsあるいは200Mbpsで、そのインターネット接続サービスを経由するクラウドストレージサービスの実効速度は数Mbps~数十Mbps程度だ。

【表1】クラウドストレージとNASのアップロード速度(Mbps)
DropboxGoogle ドライブOneDriveNAS例PC内蔵SSD例
67.751.834.4838.94,194.3

 それに対して、PC内蔵のSSDなら500MB/sec(≒4,194Mbps)、HDDを使用するNASの場合で100MB/sec(≒839Mbps)だ。つまり、クラウドとローカルで数百倍、場合によっては数千倍の速度差があることになる。この速度差がクラウドストレージとNASの機能面での最大の違いだ。その速度差をうまく隠蔽しているのがオンラインストレージの「同期アプリ」で、クラウドとローカルの間のファイルのコピー作業を自動化し、バックグラウンドで処理を進めることで、ユーザーに遅さを感じさせないようにしている。

 もう1つクラウドストレージとNASが機能面で違う点として、クラウドストレージは容量をあまり細かく設定できないことが挙げられる。10GB、100GB、200GB、500GBという具合に500GBくらいまでは比較的細かく容量別に価格設定がされているが、1TBを超えると次は10TBと一気に容量と価格が上がる。その点NASは必要な容量分のHDDを用意してコストを調節できる。クラウドストレージの多くは、将来を見据えても1TB以上欲しいが、2TBも必要ないという人には踏み出しにくい価格設定だ。

【表2】クラウドストレージが対応している容量
2GB5GB15GB20GB50GB100GB200GB500GB1TB10TB20TB30TB
Amazon Cloud Drive
Bitcasa
box
Dropbox
Google ドライブ
OneDrive
Yahoo! ボックス
(105GB)

 さらに、クラウドストレージは1日に使える容量に制限があることが挙げられる。これはインターネット接続サービスの制限に由来するもので、定額料金でも、転送量に制限がかけられている。その上限を超えてクラウド-ローカル間のファイルの移動ができないのだ。上限容量はサービスによって異なるが、15GBあるいは30GBに設定されているところが多いようだ。

クラウドストレージの同期フォルダとNASのフォルダがある場所

 Webベースのクラウドストレージは当然として、NASもWebブラウザベースのユーザーインターフェイスと無縁ではない。ストレージのフォーマットやファームウェアのアップデートなど初期設定に加え、ファイルの送受信をブラウザ上できる製品もある。さらに、インターネット経由で場所を選ばず利用できるのがクラウドストレージの利点だが、同様にインターネット経由での外部からのアクセスに対応しているNASも少なくない。

GUIのデスクトップを実現するSynologyのNAS製品。エクスプローラーからドラッグしたフォルダをドロップすることでファイルのアップロードもできる

 反対に、Webベースのクラウドストレージをエクスプローラーのようなファイル操作アプリで扱えるようにしてくれるのがPC用の同期アプリだ。同期アプリはクラウド側のファイルに変更があれば、それをローカル側に反映し、ローカル側に変更があれば、それをクラウド側に反映する。クラウド側とローカル側の双方に同じだけの容量を消費するので、一見無駄なようだがバックアップになるメリットもある。

 同期アプリが使用するフォルダは「ユーザー名\サービス名」が一般的だ。例えば、OneDriveであれば「shigeki\OneDrive」、フルパスを正確に書くと「C:\Users\shigeki\OneDrive」のようになる。古い同期アプリではドキュメントフォルダ下に同期フォルダを作成するものもあった。

Google ドライブは同期するサブフォルダを指定できる。画面ではチェックが付いているフォルダのみ同期する設定になっている
OneDriveはクラウド側のファイルを同期しないように設定することでストレージの空き容量を増やすことができる
Dropboxは転送速度に制限をかけることで、通常のインターネット利用に支障が出ないように調節できる。また、同一LAN内の機器は、LAN内で直接やりとりすることで、インターネット回線の負荷を下げ、同期速度を向上させられる
【表3】クラウドストレージのフォルダと機能
DropboxGoogle ドライブOneDriveYahoo! ボックス
同期フォルダ名ユーザー名\Dropboxユーザー名\Google ドライブユーザー名\OneDriveユーザー名\Yahoo! ボックス
ルートフォルダ変更×
フォルダ指定×××
Web プレビュー×
Web 編集××
広告表示×××

 一般的にクラウドストレージアプリの同期フォルダは変更できる。同期フォルダを変更すれば、複数のクラウドストレージにバックアップを取ることも簡単だ。ローカルドライブ以外に同期フォルダを設定できないサービスでなければ、NASからクラウドストレージへのバックアップにも使える。

 同期フォルダの変更は、表3で紹介している中ではGoogle ドライブが対応していない。その代わりと言うわけではないが、Google ドライブの同期アプリは、同期するサブフォルダをフォルダ単位で指定できる。フォルダ指定はクラウドストレージの同期アプリでは珍しい。バックアップ用途には不要な機能だが、フォルダ単位で同期指定をできることには、容量を節約できるメリットがある。ほかに容量節約に特化した機能があるのがOneDriveの同期アプリで、ローカル側にクラウド側のコピー(バックアップ)を持たないように設定できる。

同期フォルダは初期設定ではユーザーフォルダのルートに作成されることが多い
同期フォルダはドライブ名からの表記だと「C:\Useres\ユーザー名\サービス名」のようになることが多い
クラウドストレージは使用するフォルダを変更できるものが多い。変更方法はフォルダのプロパティで「場所」タブを開き、ディレクトリを書き換えて「OK」ボタンをクリック

 NASのフォルダ名は、Windowsであれば「\\NASのコンピューター名\フォルダ名」となる。エクスプローラーのアドレスバーに入力すれば直接フォルダを開ける。NASに割り当てられているコンピューター名が分からなければIPアドレスを使っても良い。IPアドレスも分からなければ「ネットワーク」フォルダを開いて探すのが簡単だ。

 一度開いたNASのフォルダは、右クリックメニューの「ネットワークの場所を追加する」を使えば、次回以降は「PC」フォルダに表示されるようになりアクセスが容易になる。

NASのルートフォルダはエクスプローラーの場合「\\NASのコンピューター名」のように入力すれば開ける
コンピューター名が分からない場合はIPアドレスを使って開くこともできる
コンピューター名もIPアドレスも分からない場合は「ネットワーク」フォルダからたどっていくのが簡単だろう
「ネットワークの場所」で追加したフォルダは「PC」フォルダに表示されるようになるので、アドレスの入力やフォルダをたどる手間を省ける

アプリにもなるクラウドストレージとNASの使い分け

 文書作成、表計算、作図など、いわゆるOfficeアプリでできることは、今ではWebブラウザ上でもかなりのことができる。クラウドストレージにはブラウザ上で動くアプリと連携しているものがあり、その代表格がGoogle ドライブとOneDriveだ。どちらもクラウドストレージに置いたファイルを直接開いて編集して保存できる。

Googleドキュメント。メニューから作図アプリを呼び出して、できた図をそのまま文書に挿入することもできる。編集内容はGoogleドライブに保存される
OneDriveから呼び出せるWord Online。見た目はほぼ「Word」だ。編集内容はOneDriveに保存される
box最近提供を始めたBox Note。ちょっとしたメモを作成できる。編集内容はboxのフォルダに保存される

 ここまで来るとむしろローカル側の方がバックアップ環境になっている状態だが、先に述べたようにクラウドストレージには速度の壁がある。大きめの画像や動画、音楽の編集はまだクラウドでは速度的には難しいし、従来からあるアプリとの連携やプラグインの使い回しがやりにくいなど不便さもある。容量の大きいファイルや、処理に負荷がかかるファイルはまだローカルに置いておく方が便利だ。

 ざっくり言ってしまうと、“軽め”の文書作成程度ならアプリごとクラウドストレージ側に移行可能だが、“重い”処理が必要なものはクラウドストレージよりもNASの方がおすすめだ。クラウドストレージのアプリは、スマートフォンやタブレットなど携帯端末での閲覧や一部編集に対応しているので、PCを持ち歩いていない時の暇な時間を有効活用できるメリットもある。

 次回は、容量や速度面に優位性があるNASをパーソナルクラウド化して活用する方法を取り上げる予定だ。

(井上 繁樹)