1カ月集中講座

NASとクラウドを併用して目指すストレージ充 第1回

〜クラウド、プライベートそれぞれの利点を理解する

 クラウドストレージが話題に上ることが多い昨今。バックアップやデータ管理用途にとても便利だが、実は料金と容量が見合わず、アップしたいのにクラウド側にアップしていないファイルを、やむを得ず「見なかったことにしている」人はいないだろうか。もしくは将来の容量不足に対する不安にやきもきしている人はいないだろうか。

 そんな人にお勧めなのがNAS(Network Attached Storage)だ。NASと聞くと難しそうに感じる人もいるかもしれないが、今やセットアップは自作PC(OSインストール込み)よりも簡単だ。スマートフォンよりも簡単なセットアップに、(必要に応じて)HDDの装着が加わる程度だ。

 今月の1カ月集中講座は、クラウドストレージとNASを用いた、ストレージの活用方法をまとめていきたい。初回となる今回は、それぞれの長所、短所、使い勝手を概観し、まとめていく。

ファイル保管方法の選択肢としてのNAS

 PC普及元年とも呼ばれる1995年以来19年。その間に個人が持つカメラや音楽プレーヤーはデジタル化の一途をたどり、それらの機能は携帯電話やスマートフォンにも入った。今や写真もビデオも音楽も、ファイルとして持っているのが当たり前だ。写真も動画も色褪せることなく、音質も低下を気にかける必要がなくなったが、悩みの種なのが増える一方のデータ容量。そして、そのファイルの保管方法だ。

NAS製品例。3.5インチのHDDを1〜8台程度搭載できる製品が家庭向けとして販売されている。業務用のものでは20台以上ストレージを搭載できる製品もある。二重化、冗長化するには最低2台以上ストレージを搭載できる必要がある
NASは、製品や使用するストレージにもよるが、10TBを超える大容量を冗長化しつつ利用可能だ。これだけ大容量だと、容量が足りないからと言って、複数のドライブにデータを分割保存する必要がない

 量が少ないうちはクラウドストレージを使うのが簡単だ。インターネットに繋がってブラウザなり専用アプリが動く環境があればいつでもどこでも使えるメリットもある。一方、量が増えてきたときに候補となるのがUSBなどで接続する外付けストレージだ。クラウドストレージよりも高速で容量単価が安く、IDやパスワードを登録する手間がない分手軽に使える。

 量が増えてきた時のもう1つの候補がNASだ。NASと言っても色々あるが、ここではRAIDなどのデータの二重化や冗長化の機能を持つ製品を中心に話を進める。デジタルデータが失われるリスクはゼロではない。開こうとしたファイルが壊れてたというトラブルは残念ながら起こり得る。そのリスクは二重化や冗長化で下げることが可能だ。

 もっとも、NASを使えば安心とも言い切れない。しかも、最悪RAID環境にトラブルが起きた時の復旧は難しい。二重化や冗長化はクラウドストレージでもやっていることだし、USBの外付けストレージや内蔵ストレージも信頼できないわけではない。確実に言えるのは、バックアップ手段を増やすことでデータが失われるリスクの確率を下げられるということだ。

 下記に、主要なファイル保管方法先(ストレージ)の長所/短所を、ポイント別に3段階にまとめてみた。

【表1】内蔵/外付け/クラウドストレージとNASの比較
内蔵ストレージ 外付けストレージ クラウドストレージ NAS
コスト
使い易さ
速度
プライバシー
セキュリティ
データの保全
OSとの親和性
互換性
リモートアクセス

ローカルに存在するNASのメリット

 信頼性以外の点で、ファイル保管方法と比べてNASが優れている点として、物理的に独立しているので、外的要因によるトラブルに巻き込まれにくいことが挙げられる。

 内蔵ストレージや外付けストレージは、接続している本体が故障した時、その道連れになってしまう可能性がある。また、外付けストレージは持ち運びが簡単なだけに、移動時の事故の可能性がある。クラウドストレージはメンテナンス時や災害時などインターネット接続に障害が起きたり、速度が低下したりした場合、その影響を受けるほか、アカウント詐取というリスクもある。

 その点NASは、LAN経由で接続され、ハードウェア的に分かれているので、PCやデバイスにトラブルが起きてもその影響は小さく、インターネット接続の状況には左右されない。ルーターやLAN HubなどLAN環境のトラブルの影響は受けるが、LAN環境のトラブルはほかのトラブルと比べて起きにくい。速度も十分に高速だ。クラウドストレージでは100Mbpsすら出ることはないが、NASであれば100MB/sec(≒839Mbps)を日常的に出すことも可能だ。例えばノートPCを落として壊してしまった、というような破滅的トラブルが起きても、データは独立してNASに残っているので、クライアント側の代替ハードウェアがあれば復旧は早い。

 もっとも外的要因に強いと言っても、地震など規模の大きな災害時はその限りではない。大規模災害時のデータ保全を考えるなら、世界中の複数の地域に分散保存されるクラウドストレージに優位性がある。もしかすると、最も安全でアクセスが保証されているのはポケットに入ったスマートフォンなどのモバイル端末かもしれない。

クラウドと連携するNAS

 クラウドストレージは下準備不要で無償でも使い始められ、データ量が少ないならこれだけでも十分と思えるが、バックアップの手間まで省くのはお勧めできない。単純なデータ損失以外に、アカウント詐取によるデータの喪失もあり得る。普段使用するPCなりに必要最低限のファイルくらいはバックアップしておきたい。クラウドストレージのバックアップは、PC用の同期アプリをインストールするのが簡単だ。多くの同期アプリはデフォルト設定でクラウドストレージに保存しているファイルを全てバックアップするようになっている。

OneDriveの同期設定画面。初期設定ではフォルトでは全てのファイルをローカル側にバックアップする。バックアップ対象の個別設定はできない
Googleドライブの同期アプリの設定画面。初期設定ではOneDrive同様すべてのファイルをバックアップする設定になっているが、バックアップ対象をフォルダ単位で指定できる

 そして、PCなど普段使用するハードウェアに、クラウドストレージのバックアップが入りきらなくなってきた時、NASの導入が選択肢に入ってくる。NAS製品の中にはクラウドストレージのファイルを、PCを経由せずに直接バックアップできるものもある。内蔵ストレージの交換や外付けストレージの追加に比べると、NASは大容量に対応しやすいのがメリットだ。

 特にSSDをメインドライブとして搭載したノートPCを使用している場合、内蔵ストレージを交換するにしても大容量のSSD製品はまだ高価で、外付けストレージは持ち歩きの邪魔になるデメリットがあるので、リモートアクセス機能を持ったNAS製品に分がある。

 ところでNASのバックアップ方法だが、実は最近ではクラウドストレージを使うのが簡単だ。クラウドストレージをNASでバックアップしろと言っておきながら、今度はNASをクラウドストレージでバックアップしろと言うのも変な話だが、ここで言うクラウドストレージは「Amazon S3」や「Amazon Glacier」のような長期保存向きの容量単価の安いクラウドストレージのことだ。書き込みや取り出しに時間がかかるなど不便な点もあるが、NAS用のバックップ機器を揃えるより安価で済む。一般のクラウドストレージサービスを使ってもいいが、1TBを超えたあたりから容量単価が高めになる。

QNAP製NAS製品のバックアップアプリ。Amazon S3にファイルをバックアップする。利用にあたってはAmazon AWSのユーザーアカウントの取得と、アクセスキー及びシークレットキーの入力が必要
Synology製品のバックアップアプリ。容量単価がAmazon S3よりも安いAmazon Glacierにファイルをバックアップする。AWSアカウントやキーが必要なのはQNAP製NAS製品のバックアプアプリ同様
代表的クラウドストレージサービス「Dropbox」のログイン画面。メニュー一覧が画面下に表示されているあたり、Webサービスらしいデザインだ
OneDriveはMicrosoftアカウントに紐付けられているので、ストアアプリから使う場合はログイン手続きが必要ない。ブラウザ上から使う場合は改めてログイン手続きが必要になる
【表2】クラウドストレージの容量別月額料金
100GB 200GB 1TB 10TB
Amazon Glacier 1.14ドル 2.28ドル 11.4ドル 114ドル
Amazon S3 3.30ドル 6.60ドル 33.0ドル 330ドル
Dropbox 9.99ドル - - -
OneDrive 190円 380円 - -
Google Drive 1.99ドル - 9.99ドル 99.99ドル
※Amazonのサービスはともに東京リージョンの場合で別途リクエストや転送ごとに料金が発生

クラウドストレージもNASもブラウザで操作

 クラウドストレージもNASも基本的な操作はブラウザ上で行なう。PCやタブレット、スマートフォンなど、ハードウェアやOSごとに用意された専用アプリでできることもあるが、全ての機能にアクセスできるのはWeb UIの管理画面なのが一般的だ。

 管理画面はID、パスワードを使ってサインイン(あるいはログイン)する。NAS製品の場合、ルーター同様ローカルIPアドレスを使って管理画面を開くことになるが、リモートアクセスをサポートしている場合、専用のURLでLAN内だけでなく、インターネット経由でLANの外からアクセスできる場合もある。こうなってくると、見た目も感覚もクラウドストレージとNASも変わらない。

 Web UIについてだが、最近のNASでは、Windowsのようなウィンドウシステムがブラウザ上でそのまま動くものが登場している。ブラウザ上で、音楽、動画、写真の再生アプリが動き、ウィンドウのドラッグやリサイズができ、アイコン上で右クリックしてメニューを開く、などの操作ができる。ここまで来るとWeb UIというより、感覚としてはリモートデスクトップに近い。

 NASとしてそこまでの機能が必要かどうかはともかく、ブラウザ上でここまでいろいろできるようになると、新しいPCを購入した時や、OSを再インストールした時でも、ブラウザさえあれば以前と変わらない操作できるのはメリットだろう。NAS側のフォルダをネットワークドライブとしてマウントでもしない限り、メディアファイルのデータベース構築にその都度付き合わされる手間も回避できる。

QNAPのNAS製品のログイン画面。管理画面のログイン画面というより、Webサービスのログイン画面に近い印象だ
Synology社のNAS製品「Disk Station」シリーズのサインイン画面。こちらは、PCなどのログイン画面に近い印象
QNAP製NASの管理画面。音楽プレーターやリソースメーターがリアルタイムで動くあたり、WindowsやMacなどPCのウィンドウシステムと変わらない
Synology製NASの管理画面。こちらも管理画面というより、どこかのPCのデスクトップを見ている印象だ。テキストエディタまであって日本語入力も可能だ

 速度や容量単価、信頼性の違いなどで棲み分けしているクラウドストレージとNASだが、相互に補完する関係にもある。本記事中で紹介した「クラウドストレージをNASにバックアップし、NASのファイルを(少し違う種類の)クラウドストレージにバックアップする」実際の利用方法がいい例だ。

 どちらか1つにまとめたいというのが人間の自然な心理かもしれないが、安全のために大切なものを複数の場所に隠すというのが(おそらく)遠い昔から受け継がれてきた単純にして効果的なテクニックだ。次回の記事では、より具体的にクラウドストレージとNASの実際と活用方法に触れる予定だ。

(井上 繁樹)