法林岳之のTelecom Watch
第3回:1997年4月編
「PHSデータ通信サービス開始」ほか


PHSデータ通信サービス開始

 2月、3月のTelecom Watchでも紹介してきたが、4月1日からいよいよPHSによるデータ通信サービスが本格的にスタートした。各社から3月末までに端末やPCカードなどが次々と発表されていたが、4月はプロバイダやパソコン通信サービスのPIAFS対応アクセスポイント設置、周辺機器のPIAFS対応の発表が相次いだ。

 まず、アクセスポイント設置では3月末のNIFTY-Serveに続き、BIGLOBEが全国11カ所に設置することをアナウンスした。その後も各社からPIAFS対応アクセスポイント設置が発表されたが、なかにはシャープのように、対応ハードウェアを販売するメーカー自身が体験アクセスポイントを設置する例もあった。予想以上にPIAFSの接続環境が整うことになったが、端末の発売状況などを見ると、ほぼNTTパーソナルのみが先行という状態。5月に入り、ようやくDDIポケット電話やアステルなども対応端末を出荷したので、本格的な競争はこれからということになりそうだ。

 一方、周辺機器ではサン電子が同社製ISDNターミナルアダプタ「TS128GA2/M」をPIAFS対応にするβ版ファームウェアを公開した。PIAFSと言うと、インターネット接続ばかりが注目されがちだが、このファームウェアを使えば、外出先から自分のパソコンにリモートアクセスをすることが可能になる。しかもPHSはサブアドレスを使うことができるので、PIAFS対応TAにサブアドレスを割り当てておけば、ダイヤルインサービスを利用しなくても済むわけだ。今回、サン電子がTS128GA2/M用に公開したファームウェアはデータ圧縮プロトコルのV.42bisを実装していないため、インターネット接続時ほどのパフォーマンスは得られないが、リモートアクセスのように実働時間が短い環境なら十分実用になる。何よりも既存の資産が応用できるのは非常にうれしいことだ。サン電子の努力に拍手を送るとともに、ぜひ他メーカーもPIAFS対応ファームウェアの公開を期待したい。

 ちなみに、PIAFSではデータ圧縮プロトコルのV.42bisが併用されているが、これはオプション規格であり、必須項目ではない。当然、PIAFS対応端末やPCカードには実装されているが、TS128GA2のようなISDNターミナルアダプタではV.42bisの処理で負荷が掛かるため、対応していないというわけだ。

 また、セイコー電子工業からαDATA32対応のPCカードとRS-232C経由の据え置きアダプタが、カシオからは待ち受け1,000時間のαDATA32対応端末が発表された。セイコー電子のPCカードは従来製品にPIAFS対応を加えたものだが、据え置きアダプタはPCカードスロットを持たない携帯情報端末で利用することを目的としている。PHSの利用環境を幅広くする製品として注目したい。ただ、4月18日に東芝がPHS内蔵の携帯情報端末「Genio」の発売を延期したニュースからもわかるように、どうもDDIポケット電話陣営はあらゆる面で遅れが目につく。余談だが、前回触れたαDATA32対応端末もつい最近になって、ビクター製のものが入手できるようになった程度(しかも品薄)。この調子では、αDATA対応機器が自由に選べるのは夏のボーナス商戦前まで待たなければいけないかもしれない。サービス内容は充実しているだけに惜しまれる。

【関連記事】
□NEC、BIGLOBEとmeshでPIAFS専用アクセスポイントを全国11ヶ所に設置
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970402/biglobe.htm
□シャープ、ザウルス用PIAFS対応アダプタを発売、おためしアクセスポイントも開設
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970402/sharp.htm
□サン電子、ターミナルアダプタ用PIAFS対応ファームウェアのβ版を無償配布開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970402/sharp.htm
□セイコー電子、αDATA32対応のPCカードと、RS-232C経由の据え置き型アダプタ発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970415/sii.htm
□カシオ、待ち受け1,000時間のαDATA32対応のPHS電話機を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970421/casio.htm
□東芝、32kbpsデータ通信対応PHS内蔵携帯情報端末「GENIO」の発売を延期
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970418/toshiba.htm


56kbps対応モデムの発表が相次ぐ

 PHSと並び、通信機器関連で注目が高いものと言えば、やはり56kbpsモデムだ。アナログ回線のままでISDN回線に迫る速度を実現できるのは、アナログ回線ユーザーにとって大きな魅力だが、x2とK56flexという2つの規格が存在するため、なかなか手を出しにくいのが実状だ。3月までは主に海外での動きが中心だったが、4月はいよいよ国内市場での動きが出てきた。

 まず、先陣を切ったのはx2対応のUSロボティックスとK56flex対応の日本モトローラだ。USロボティックスは海外でも販売している「スポーツスターボイスSP560V-P」と「クーリエCR560」を4月15日に発表し、4月25日から出荷を開始した。スポーツスターボイスは予定通り出荷されたが、クーリエの方は出荷が遅れており、5月中旬以降にずれ込むことになりそうだ。同日、日本モトローラもゴールデンウィーク中に発売するとアナウンスしたが、実際に出荷されたのは5月第2週だった。この海外2メーカーに続いたのが松下電子応用機器だ。松下電子応用機器はK56flex対応の「TO-BXF56K」を5月中旬から発売すると発表した。価格も標準小売価格で31,500円と手頃だ。 そして、4月末にはダイアモンド・マルチメディアからもK56flex対応の「SupraExpress56e/i」を5月末に発売することがアナウンスされた。おそらく5月中は56kbpsモデムの新製品ラッシュになり、6月に発表される各PCメーカーの内蔵モデムも56kbps対応ということになるだろう。

 当初の予想通り、K56flex陣営が次々と製品を発表したが、気になるのはプロバイダーの対応状況だ。まず、x2陣営はアスキーインターネット接続サービスがいち早く対応をアナウンスし、サービスを4月25日から開始した。28.8kbpsのときもそうだが、アスキーは新しいテクノロジーに対応するのが早い。一方、K56flex陣営はまだ正式なアナウンスがどのプロバイダからも出ていない。おそらく5月中には何らかの発表があるはずだが、製品出荷時には何らかのアナウンスをしておいて欲しいところだ。

 さて、海外の動きに目を向けると、相変わらず訴訟合戦が続くなど、かなり混沌としている。訴訟の動向などについては詳しく述べないが、筆者がアメリカの知人にたずねたところによれば、ロサンゼルスのPCショップなどではx2陣営のU.S.Robotics製やCardinal Technologies製のモデムが並んでいるのに対し、K56flex陣営はMotorola製のみがわずかに並んでいる程度だと言う。おそらく5月中には他のK56flex対応製品も並ぶだろうが、このままだと、アメリカではかなりK56flex陣営が苦戦することになるかもしれない。

【関連記事】
□USロボティクス、日本モトローラが56kbps対応モデムを国内発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970415/robotics.htm
□松下、国内メーカーで初の56kbpsモデムを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970423/pana56k.htm
□x2規格の56kbpsモデム発売される。実売価格は22,800円
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970425/p_usr56k.htm
□ダイアモンド・マルチメディアが56kbpsモデムを5月末に発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970430/diamond.htm
□米U.S. Roboticsが、Motorolaからの提訴に対して反訴で応戦
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970422/usr.htm


まとめ

 4月も相変わらず「PHS」と「56kbpsモデム」がTelecom Watchが主役となった。ISDNターミナルアダプタやルータには新しい動きがあまりなかったが、ファームウェアのバージョンアップなどが行なわれているので、おまけとして情報を追加しておこう。

 まず、NEC AtermITシリーズはファームウェアのバージョンアップをアナウンスした。まず、IT55ではBOD(Bandwidth On Demand)機能が利用できるようになっている。IT45/55の両機種ではBIGLOBEを使った電子メール到着通知サービスが利用できるようになった。個人的にもβテストに参加したが、なかなか便利な機能だった。また、日成電機製作所の128 de INTDは外付けターミナルアダプタながらISDNアクセラレータパックに対応させ、64/128kbpsを接続中に切り替えられる機能を追加している。PCWatchの読者にはすでにISDNターミナルアダプタを購入し、ネットサーフィンを楽しんでいる人も多いだろうが、ぜひ一度、各メーカーのホームページをチェックし、こうした機能追加やユーティリティのバージョンアップが行なわれていないかをチェックして欲しい。なお、各メーカーのページへのリンクについては、筆者のホームページを参照していただければ幸いだ。

【参考】
□筆者のホームページ(いずれも内容は同じ)
・RIM-Net
http://www.st.rim.or.jp/~mikey/
・C&C mesh
http://www2a.meshnet.or.jp/~t-hourin/

[Text by 法林岳之]


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