|
P4X266搭載マザーボードSHUTTLE AV40
|
その後、IntelがVIA Technologiesを提訴、逆にVIAがIntelを反訴、IntelがさらにVIAを世界3地域で提訴と続き、IntelとVIAの戦いという違った意味でもP4X266の存在は大きな注目を集めている。前回記事においてはVIAのリファレンスマザーボードを利用した速報をお届けしたが、今回は実際の製品であるSHUTTLE Inc.のAV40を利用してP4X266のパフォーマンスに迫っていきたい。
●争点はシステムバスの利用権の有無
冒頭でも述べたように、現在P4X266を取り巻く環境は日々変化している。IntelがVIAを訴えれば、それをVIAが反訴、さらにIntelが世界各地で反訴と、すでに“泥沼”となっている。話を整理しよう。
問題となっているのはP4X266がサポートしているCPUであるPentium 4のシステムバス(CPUとチップセットを接続するバス)に、Intelの特許を所有する電気信号が利用されているためだ。このため、Pentium 4のシステムバスをサポートしたチップセットを利用するためには、Intelから利用許諾(一般的にはライセンスと呼ばれる)を受ける必要がある。
この問題に関するIntelの姿勢は首尾一貫している。「Pentium 4に対応したチップセットを製造するにはバスライセンスが必要で、当社はビジネス的な話し合いに基づいてライセンスしていく」(Intelアーキテクチャグループ ジェネラルマネージャ兼副社長のビル・スー氏:http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010606/comp08.htm )とPentium 4チップセットの製造にはIntelからバスライセンスを入手する必要があると姿勢を貫いている。
Pentium 4用チップセットを出荷する計画があるベンダ、Silicon Integrated Systems(SiS)、Acer Laboratories Inc.(ALi)、ATI TechnologiesなどはいずれもPentium 4システムバス(以下P4バスとする)のライセンスをIntelから付与されている。
Intelとこれらのメーカーの契約内容は公開されていないが、一般的にはそのメーカーが持つ特許の何かと交換(この場合はクロスライセンスと呼ばれる)ないしは、金銭による補償、つまり使用料(ライセンスフィー)の支払が行なわれる。ATIとは前者の契約が、SiS、ALiとは後者の形の契約が結ばれていると言われている。
クロスライセンスの場合はよいのだが、ライセンスフィーの支払が生じる場合は、その額の大小が問題となる。一説には、1製品出荷ごとに数ドル~5ドル程度のライセンスフィーが生じるバイプロダクトの契約になっていると言われており、OEM価格で20~40ドル程度で販売するチップセットメーカーには大きな負担となっているという。払わないで済むのなら、払いたくないというのはチップセットメーカーに共通する本音であるようだ。
VIA Technologiesは、Pentium II、Pentium IIIのシステムバスであるP6バスの時にはIntelと同様のバイプロダクトの契約を結んでいたが、今回はそうした契約を結んではいない。
VIAのマーケティングマネージャのリチャード・ブラウン氏によれば「当社の子会社であるS3 Graphicsが、S3 Graphicsの特許とIntel CPUのシステムバスライセンスを交換するクロスライセンスを結んでいる。このため、もう一度Intelとライセンス契約を結ぶ必要がないのだ」と述べており、VIAは既にP4バスのライセンスを持っているのだという。ここで問題となるのはそのS3 Graphicsが持つというクロスライセンスの内容だ。
旧S3(現SonicBlue)は'98年に、Intelとクロスライセンスを結んでいる。この時に、S3の特許と交換にS3は10年間にわたるIntel CPUのシステムバスの使用権を得たとされている。その後S3のグラフィックス部門が、VIAとS3が共同で設立したS3 Graphicsに譲渡されたため、グラフィックスに関する特許などはすべてS3 Graphicsに移管されたとされている。
ブラウン氏が「当社(の子会社)はP4バスの使用権を持っている」と言っている根拠はここにある。ただ、問題となるのはそのS3とIntelの契約に、「譲渡不許可」とか「事業や会社が買収された場合には無効」などの条項が入っている可能性が高いことだ。優秀さで知られるIntelの法務部門がこれらの条項を入れなかった可能性は低いと見る業界関係者は多く、おそらく法廷でもそこが争点になるものと見られている。
●揺れ動く情勢の中登場したSHUTTLEのAV40
さて、VIAとIntelの激突が続く中、P4X266を搭載したマザーボードが初めて秋葉原に登場した。それがSHUTTLEのAV40だ。VIA Technology Forum 2001のレポート( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010905/vtf01.htm )でも述べたように、大手マザーボードベンダは、Intelとの関係からこのP4X266を搭載したマザーボードのリリースに及び腰になっており、実際VIA Technology ForumでもP4X266搭載マザーボードをリリースしていたのはECS、SHUTTLE、TYAN、Acrop、Chaintechの5社のみで、GIGA-BYTE、ABIT、MSIなどの大手ベンダは展示していなかった。こうしたことからも、(OEMメーカー向けで実績のあるECSは別として)どちらかと言えば中小のマザーボードベンダからP4X266が出荷されると見られていたが、今回はその中の1社であるSHUTTLEからリリースされることになった。
SHUTTLE AV40 | 6ピンの補助電源コネクタ |
SHUTTLEのAV40は標準的なATXマザーボードで、mPGA478(いわゆるSocket478)のCPUソケット、3つの184ピンDIMMスロット、AGPスロット、5つのPCIスロットから構成されており、VIAのオーディオコーデックによりサウンド機能も実現されていると、Pentium 4用マザーボードとしては標準的なマザーボードとなっている。また、6ピンの補助電源コネクタが用意されている。ちょっと試した限りでは特に挿さないでも利用できたが、できれば6ピンのコネクタが用意されている電源を利用した方がいいだろう。
なお、本製品にはAV40RというIDE RAIDコントローラをオンボード搭載したモデルが用意されているようで、RAIDコントローラ用のパターンが用意されている。
●パフォーマンスはIntel850とIntel845の中間
今回は、製品版のP4X266マザーボードであるAV40とIntel 850、Intel 845搭載マザーボードの性能差を見るために、IntelのマザーボードであるD850MD、D845WNを利用してベンチマークによる比較テストを行なった。環境は以下の表の通りで、基本的に、マザーボード、メモリ以外は全く同じパーツを使用しており、差はチップセットとメモリに起因する差であると考えることができる。
【動作環境】
Intel 845 | P4X266 | Intel 850 | |
---|---|---|---|
CPU | Pentium 4 2GHz | ||
マザーボード | D845WN | VT5580A | Intel D850GB |
メモリ | PC133 SDRAM(133MHz、CL=3) | DDR SDRAM(266MHz、CL=2.5) | Direct RDRAM |
容量 | 256MB | ||
ビデオカード | GeForce3(64MB) | ||
ハードディスク | IBM DTLA-307030 | ||
OS | Windows 2000+ServicePack2 |
結果はグラフの通りだ。見てわかるように、ほとんどのベンチマーク結果は、Intel 850>P4X266>Intel 845という結果を示しており、例えばSYSmark2001では、P4X266はIntel 850に比べて5%の性能低下が見られるのに対して、Intel 845は12%の性能低下が見られている。
【SYSmark2001】
|
Intel 850 P4X266 Intel 845 |
【3DMark2001】
|
Intel 850 P4X266 Intel 845 |
【Quake III Arena】
|
Intel 850 P4X266 Intel 845 |
【Pentium 4 Application Launcher】
|
Intel 850 P4X266 Intel 845 |
この他のテストでもP4X266はIntel 850に比べて概ね5~10%程度の性能低下に留まっているのに対して、Intel 845は10%~30%も性能が低下しており、Intel 845がサポートするPC133 SDRAM(1.06GB/Sec)に比べて倍の帯域幅(2.1GB/Sec)をもつPC2100をサポートするP4X266は、Intel 845に比べて高い性能を実現していると考えてよい。
ただし、2チャネルのDirect RDRAM(3.2GB/Sec)を利用しているIntel 850と比べて5~10%程度の性能低下が見られるのは事実だ。VIAのP4X266リファレンスマザーボードを利用した場合では、ほとんど性能低下が見られなかったのに比べると、やや状況は異なっている。これはVIAのP4X266リファレンスマザーボードがチップセットを作っているベンダ自らBIOSをチューニングしたものであり、マザーボードベンダが作っているボードに比べればチューニングが進んでいると考えることができるだろう。なお、VIAはP4X266のリファレンスマザーボード用に、より改善されたドライバを添付していたのだが、本パッケージに付属していたのはVIAがホームページなどで配布していた4 In 1のv4.32だった。
P4X266用のものより改善されたドライバがOEMメーカーには配布されているはずなのだが、それも性能がリファレンスマザーボードほどでていないことの一因といえるだろう。そうした意味ではAV40にはまだチューニングの余地があると考えることも可能であり、今後の改良などに期待したいところだ。
●Intel 845に比べても安価でコストパフォーマンスは抜群
以上のように、P4X266を搭載したAV40はパフォーマンスではIntel 850搭載マザーボードに劣ることは事実だが、少なくともIntel 845は上回っている。また、マザーボードの価格もIntel 845搭載マザーボードが1万円台の後半~2万円台の前半で有るのに対して、初登場の時点から15,000円を切っており、今後より価格下落も期待できるだろう。DDR SDRAMもSDRAMとほぼ変わらないレベルまで価格が下がっている現状を考えると、コストパフォーマンスにおいてもP4X266のアドバンテージは小さくないだろう。
ただ、現状ではSHUTTLEしか選択肢が無く、今後もECSなど、どちらかといえばコストパフォーマンス追求型のメーカーからしか登場しそうにないのが残念なところだ。IntelとVIAの争いが拡大していっている現在、大手マザーボードメーカーがP4X266を搭載したマザーボードをリリースする可能性は限りなく低いと言わざるを得ず、ここがP4X266の問題点といえるだろう。
最近ではマザーボードを、サポートやマニュアルなどのクオリティで選ぶユーザーも増えているし、何よりもBIOSやドライバなどの最適化という意味でもAV40にはまだ改善の余地があるのは既に述べたとおりだ。そうした意味では、そうした点で定評がある大手マザーボードメーカーがリリースしそうにないというのはP4X266の弱点といっていいだろう。VIA(そしてIntel)には、この問題を早期に解決して欲しいものだ。
しかし、別に大手マザーボードメーカーの製品でなくてもが気にならない、とにかくコストパフォーマンスが高いPentium 4マシンを作りたい! というのであれば、P4X266搭載マザーボードはよい選択肢となるだろう。
□関連記事
【9月27日】Intel、特許侵害でVIAをドイツ、英国、香港の3地域で提訴
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010927/intel.htm
【9月21日】VIA、特許侵害でIntelを提訴
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010921/via.htm
【8月16日】VIA製Pentium 4用チップセットP4X266速報レビュー
~P4X266は選択肢となり得るか?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010816/hotrev120.htm
(2001年9月28日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]