第102回:長時間駆動は当たり前?
~ポータブルノートPC夏の陣はなかなか熱い



 先週の記事を書き終えてから、液晶パネルについてさまざまな情報を得ることができた。あまり公になっていないところでは、東芝が12.1インチの1,600×1,200ドット(UXGA)パネルをOEM先にオファーしているという。ご存じのように、東芝はp-Si(低温ポリシリコン)液晶パネルの大型化ではトップクラスの技術力を持っている。p-Si液晶パネルは開口率を上げやすく、ピクセル間ピッチを狭めても明るさを確保しやすい。

 もっとも、12.1インチでUXGAとなると1インチあたりのピクセル(ppi)は165にもなる。XGAの場合が約106ppiだから、精細度が上がって字が小さくなりすぎる。本来なら、精細度の向上を表示品質の高さに転嫁したいところだが、Windowsプラットフォームの中でそれが難しいのは先週も書いたとおりだ。

 1,280×960ピクセルだと約132ppiとなり、15インチUXGAとほぼ同じ精細度。このあたりがWindowsの表示装置としては限界といったところだろう。ソフトウェアが追いつかないうちに、本当にピクセルが見えなくなっては使いにくくなってしまう。

 来年以降、B5ファイルサイズのノートPCで、このあたりの解像度を持つパネルの採用を検討しているところもあるようだが、実はXGAとUXGAの中間にあるべきSXGAクラスの候補は今のところないのだとか。14.1インチ以上のノートPC液晶パネルがSXGA+以上になるのは時間の問題だと思われるが、12.1インチクラスがどうなるのかはまだまだ流動的だ。


●迷えることが嬉しいこの夏のノートPC

 消費電力が下がれば製品の多様化が起こり、より個性的な製品が登場すると書いたのは1年近く前のこと。昨年末は、Crusoe機は出たものの「まだまだ個性的とまではいかないのでは?」、「これまでとあまり変わっていない」といった意見をメールでいただいたこともあった。

 しかし、Crusoeが登場し、その後Intelも低電圧版、超低電圧版のロードマップを示すようになったことで徐々に変化は訪れていた。普通の製品もあれば、尖った製品もある。善し悪しよりも、選べる、迷えることが嬉しいではないか。これまでは、どれもが同じように見えていたのだから。

 数多く発売された製品すべてに触れることが出来たわけではないが、各カテゴリで気になった新製品をピックアップし、触れたものに関しては簡単なインプレッションを記したい。今週はB5ファイルサイズクラスについて。

【B5ファイルサイズクラス】

 「B5ファイルサイズとは何か? A4ではないのか?」という質問をいただいたことがある。B5ファイルサイズとは、B5用紙を綴じるファイルの大きさを規定したJISの規格に準拠したサイズと考えればいいと思う。以前、連載で紹介した日立のFLORA 220FXは、ジャストB5ファイルサイズ。IBMのThinkPad X20やヒューレットパッカードのOmnibook 500など、ほとんどの製品はこれより少しだけ大きい。VAIOノートR505などは、この枠をかなりはみ出す。A4用紙と比較すると、横幅は狭く、奥行きは大きい。もっとも、ここで言うクラス分けはだいたいこんな大きさ、程度に考えておくのがいい。

 個人的に気になった製品は以下の4つ。

・シャープ Mebius MT1

 なにより目を疑うような薄さに驚く。発表会時、海外に出張中だったため、ビジネスショウ会場まで見に行ったのだが、はじめて三菱電機のPedionを見た時よりも強い衝撃を受けた。キーボードがせり上がる機構や、薄いにもかかわらず剛性感のあるボディはすばらしい。ペイントではなく染めてあるという色も、渋めで仕事に使うにはちょうどいい感じだ。液晶の美しさはさすがだし、PCカードに加えてType2 CFカードが使える点もポイントが高い。

 クロック周波数が500MHzでは物足りないという人もいるようだが、超低電圧版Pentium IIIは、600MHz版もバッテリオプティマイズモードでは300MHzになる。一方、熱設計電力は確実に上がるわけで、500MHzでこの時期に出してきたのは悪くない選択だと思う。おそらく、9~10月と言われるTualatin(0.13μmプロセス版のPentium III)の超低電圧版を見据えて熱設計を行なっているのではないか。

 一方で欠点もある。標準の128MBメモリはいいのだが、それが上限というのは、購入する側の視点で見たときにかなり辛い。経験上、ノートPCを買い換えなければならなくなる原因は、プロセッサのパワー不足よりもメモリ上限による場合が多い。この秋に登場のWindows XPは128MBのメモリが推奨になっているが、1~2年先を見れば、上限256MBでもギリギリだと思う。

 もちろん、これは薄さを得るための代償だったのだろう。次期モデルでは是非改善してもらいたい。ただ、そうした当たり前の意見を採り入れすぎて、尖った製品でなくなるのも、それはまた良いことだとは思わない。今のレベルを維持したまま、最低限のニーズに応えられるか、シャープのクラフトマン精神に期待したい。

 なお、僕の個人的な感想だが、売り物のキーボードは、タッチが今1つなじめなかった。押し下げきった最後の所で、若干のクリック感を感じるものの、あまり気持ちよくタイプすることができない。キーピッチが18mmとか、ストロークが3mmといった数字はともかく、フィーリングを磨かないと、せっかくのウリもかすんでしまう。

 MT1が薄さだけで話題を取る一時的な製品にならぬよう、注目していきたい。うまく改良が進めば、話題性だけでなく実用性でも良い製品となりそうだ。

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・コンパック Evo N400c

 前作のARMADA M300より、若干サイズが大きくなったものの、22mmの本体厚と19mmフルサイズピッチのキーボードに、12.1インチの液晶パネル、低電圧モバイルPentium III 700MHzなどの組み合わせはなかなか魅力的だ。

 コンパックの製品は家庭向けのPresarioと企業向けのEvo(従来のARMADA)でブランドを分けている。それ故、Evo N400cは遊び心からは無縁の無骨なデザインだが、道具として使うモバイルPCには、こうしたデザインの製品がしっくりと来ると思うのは、僕が30過ぎのおじさんだからだろうか?

 Evo N400cのいいところは、なんと言ってもキーボード。単にピッチが広いというだけでなく、比較的無理のない配列とタッチの良さが魅力だ。好みもあるだろうが、B5ファイルサイズクラスの中では、ThinkPad iシリーズ 1620(X21)と並んで優れている製品だと思う。

 タッチパッドのフィーリングも、アルプス製よりもコンパックが採用しているSynapticsの方がフィーリング的に良いと思う(まぁたいした違いではないのだが、Windows 2000のサポートはSynapticsの方がより早く安定したという理由もある)。なお、米国版はトラックポイントをOEM調達したイージーポイントIV。コンパックのノートPCは、各ディビジョンごとに、仕様を選択できるようになっているとのことだ。

 次に液晶のバックパネルに周辺デバイスを取り付けることが可能なマルチポートも注目したい。無線LANとBluetoothに対応し、PCカードスロットを消費せずに無線ソリューションを利用できる。将来的にはここに指紋認証やICカードリーダなどのセキュリティ装置を取り付けることも検討しているという。

 本体内蔵の4セルバッテリは心許ないが、M300でも使われていたチルトスタンド兼用のバッテリを取り付ければ合計8セルとなり5時間利用可能になる。このほか、SO-DIMMが2枚装着可能なメモリソケットにより、最大512MBまでメモリを増設できるのも心強い。

 本格的に持ち歩きたい人は、バッテリ駆動時間から考えてセカンドバッテリが必須(220グラム)な点が難だが、従来機種の不満点はほとんど解消されていた。ただし、電源コードは従来と同じ240V対応3端子の太くかさばるものが添付されている。100V圏でしか利用しない人は不満に感じるだろう(一応、秋葉原などでは100V用2端子のケーブルも入手可能だが、通常の電気店などでは入手しにくい)。

 また、iPAQでCFカードを用いたソリューションを提案していた同社だけに、この時期、このサイズの製品にCFスロットがないのは少々残念だ。

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・IBM ThinkPad iシリーズ 1620

 全くのブランニューというわけではないが、マイナーチェンジを受けて買い得感が強くなっているのがThinkPad iシリーズ 1620だ。その中身はX21と共通で、本体の色もThinkPadらしい黒になったのを歓迎している人も多いはずだ。

 iシリーズというと、安物ThinkPadというイメージを持っている人が多いだろうが、機能面ではむしろ、IEEE 1394が装備されている分X21を上回っている。最高速度は600MHzと700MHzで100MHzの差があるが、いずれもバッテリオプティマイズモードでは500MHzでの動作になる上、体感上はそれほど違いはない。松下製の6倍速CD-R/RW(USB接続)が添付されていることもあり、なかなか買い得感の強い製品だ。なお、X21よりも若干バッテリ持続時間が短いのはIEEE 1394チップを搭載したためとのことだった。

 秋のX22では無線LANモデルが用意されるとの噂もあるが、これだけ内容が充実し、X21との機能差がないのだから、Xシリーズを狙っていた人には悪くない選択だと思う。もっとも大きな差はサポート面だろう。iシリーズではThinkPadシリーズに用意されているEMS(Enhanced Maintenance Service)への加入ができない。

 EMSはあらゆる修理を無料で行なえるほか、盗難や過失による破損にも対応できるサービス。iシリーズには別途PC Careというサービスが提供されるが、EMSと比較すると修理代金が10万円を超えるときに差額の自己負担が発生する、盗難や全損時に5万円の免責金額が設定されているなどの違いがある。X21との価格差も含め、検討してみるといい。

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・松下電器 Let's NOTE PRO A2

 果たしてB5ファイルなのかB5なのか、微妙なところではあるが、Let's NOTE PRO A2も、ここでコメントしておきたい。あえてPROを指定したのは、出来うる限りWindows 2000をプリロードした製品が望ましいと思うからだ。

 10.4インチの液晶パネルがあまりに小さすぎる、しかし、12.1インチは重いからイヤだ。そんな風に考えているなら、11.3インチで6セルのバッテリを詰め込んだことは拍手で迎えたい。H"inは良し悪しだ。確かに便利ではあるが、H"inはAir H"などの最新機能に対応できない、TWOLINK DATA契約が行なえないなどのデメリットが生じる。せめて、H"in利用者で音声にもH"を利用している人は、基本料金が格安になるなどの優待があればいいのだが……。

 それはともかくとして、本体の方はなかなか軽量に仕上がっており期待が持てるものだった。6セル内蔵、11.3インチで1.4キロなら納得できる軽さだ。松下電器はCrusoe採用の方向で開発を進めていたと聞いていたが、この筐体ならCrusoeほど低いTDPは必要ないため、超低電圧Pentium IIIがベストの選択だろう。2,000mA時の最新セルを使ったバッテリによる駆動時間はスペック上で6時間と魅力的な数字だ。

 本体の印象は、同社のLet's NOTE A1の奥行きを伸ばし、液晶パネルを積み替えた感じ。キーボードのタッチは、ほとんど変わっていない。17mmピッチながら、しっかりした打鍵感があり、手の大きな僕でもストレスなくタイプすることができる。(試すわけにいかないのだが)耐衝撃設計という点も期待感を煽る。

 ただオンボードで実装されるメモリが64MBであり、メモリの最大容量も192MBなこと、CFスロットなどPCカードプラスアルファの拡張性がないといった点がネガティブな要素として考えられる。Mebiusのところでも述べたが、メモリの最大容量はノートPCの寿命を決定づける要因ともなるので、熟考したいポイントだ。

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●注目のB5クラスは来週、詳細を

 今週はB5ファイルクラスの製品を並べてみたが、B5サイズクラスの製品も注目製品が登場している。本日、執筆中にはThinkPad iシリーズ S30の評価機が届いた。無線LAN内蔵もさることながら、さまざまな点で挑戦的な要素が組み込まれた製品だ。

 市場の反応はさまざまなようだが、写真などを見ると異様に大きなキーボードやツヤのある塗装に違和感を感じるものの、実物を目にするとなかなか好印象だ。バッテリの持ちも、数時間触れた感じではなかなかいい。

 バッテリセルもLet's NOTE Pro A2と同じ最新の3.7V 2,000mA時のものが採用されていた。コストを抑えるため、ノートPC用には1世代前の価格的にこなれたものが使われることが多い。現在なら1,800mA時のセルか、1,650~1,700mA時のセルが使われることもある。バッテリ技術者の説明によると、バッテリの生産ラインは一度立ち上げると大幅な変更が難しいため、商品性が大幅に低くなるまで生産し続けるため、世代の古いものはバーゲン価格で出荷されるのだそうだ。

 そしてバッテリと言えば、はずせないのがNECの新型Lavie MXだろう。東芝が開発した微透過型液晶をいち早く採用し、従来の反射型が持つバッテリ性能と、暗い場所での視認性を両立させた。従来機と比較すると、ピクセルピッチが狭くなった上、80%の光しか反射しなくなったわけだが、従来機並みの明るさは確保できているとか。

 一方、バックライトを付けると15cd/平方メートルまで明るくなるという。反射型として利用できない暗い空間では十分な輝度だと思うが、こちらはまだ実物を評価していない。以前、この連載でも紹介したように、僕は反射型のMXをボロボロになるほど使っている。

 両製品を含むB5クラスに関しては、来週くわしいインプレッションをお届けしたい。

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[Text by 本田雅一]


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