一昨年、昨年と大幅な低コスト化が進んだことで、モバイルPC用ストレージとしての存在感を増しているSSD。いくら安価になったとは言え、さすがに絶対的な記憶容量や容量あたりの単価ではHDDにかなわないSSDが、これほど注目を集めるのは、高性能、低消費電力、小型、耐衝撃性といった要素を備えているからだ。 特に1.8インチHDDを前提とした小型ノートPCの場合、本来はSSDが不利な記憶容量の面でも同等レベルになってきており、消費電力低減や軽量化といった要素も含め、トータルでSSD搭載モデルの方が魅力的なのは当然のことだ。 しかし同時に、ノートPC向けSSDが徐々に一般化する中で、SSDのセルはMLCへと主流が移り変わり、セルの書き換え可能回数はSLCより減ってしまった。本当にSSDでも大丈夫なのかという疑問から、なかなかSSDに手を出せないという人もいると思う。 そこで1月のInternational CESで512GBの大容量SSDを展示し、TVの内蔵ストレージといった提案も行なった東芝に、SSDに対するさまざまな疑問や今後の計画などについて話を聞いた。 取材を受けて頂いたのは、東芝セミコンダクター社のメモリ事業部SSD応用技術部・部長の西川哲人氏と、ファイルメモリ営業部ファイルメモリ営業第二担当・課長の江島克郎氏の2人だ。 ●SSDの高速化は搭載するSATAの性能次第
まず1月に参考展示したSSDについて、簡単におさらいしておこう。512GBを実現するのは2.5インチHDD相当のケースに収められた「THNS512GG8BB」で、同社の43nmプロセスを用いた多値NANDを用いている。1.8インチサイズでは256GBで、こちらは現在使われているPC用1.8インチHDDの容量を超える。 搭載するコントローラも新たに開発したもので、4チャネル・インターリーブ(16チャンネル並列動作相当)によるNANDへのアクセスと、SATA 3Gbpsのホストインターフェイスを持つ。読み出し速度は最大で240MB/sec、書き込み速度は最大200MB/secで、SATA 3Gbpsの性能上限(理論値で最大300MB/sec)に近付いている。 1世代前の東芝製SSDは、それぞれ120MB/secと70MB/secの性能で2008年末に量産が始まったばかり。この次世代SSDは間もなくサンプル出荷が開始される予定となっており、第2四半期(今年の前半まで)には量産出荷が始まる。予定通りに次世代SSDが量産されれば、わずか半年の間に読み出し速度で2倍、書き込み速度では3倍近い性能向上を果たすことになる。 当初は「高価なので512GB構成の製品は少量の出荷に留まるだろう(江島氏)」というが、SSDの出荷量が依然として増加傾向であることを考えれば、主流の128GBあたりの容量は、大幅な性能向上と低価格化が同時に実現されることが予想される。今年秋から年末にかけてのノートPCには、こうしたSATA 3Gbpsの性能を限界まで活かした高速SSDが各製品に搭載されるようになるはずだ。 ただし、SATA 3Gbpsの実行転送速度上限に近い転送速度に達してしまっているということや、これまでの高速化のペースを考えると、SATA 3Gbpsがボトルネックになる日はそう遠くはない。今後の大幅な性能向上に関して「チップセットのストレージ用インターフェイスとして、どのタイミングでSATA3が乗るかによって変わる。SSDの速度は今後も向上させることができるが、ホストインターフェイスのトレンドばかりはIntel次第(西川氏)」だと話す。 PC用途以外を考えるならば、PCI Expressに直結するSSDコントローラを開発するという手もあるが、その場合もシステムバスの帯域が不足しがちな中で「何レーンをSSDに割り当てられるかといった事を考えると、あまり期待できない。加えてHDDも残ることを考えれば、当面はHDDとSSDの両方をサポートできるSATAの進化に頼ることになる(江島氏)」と、積極的ではないようだ。 ●MLC SSDの信頼性は、すでにHDDを超えている 性能面での注目度が高いSSDだが、MLCには信頼性という問題が常につきまとっている。一部、品質の低いSSDでのトラブルがSSDに対する不安を助長させたという面もあるかもしれない。「もしもの事を考えると、MLCのSSDはできれば避けたい」という読者も多いのではないだろうか。筆者も同じように考えていた。 しかし両氏は「SSDの信頼性が低いというのは、もう過去の話だ」と口を揃える。「MLCの書き換え可能回数がSLCに比べ、1桁少ないことを問題として見ているようだが、実情は異なる。充分に対策が施されたSSDコントローラならば、SLCは通常のPC用途としてオーバークオリティ。MLCの場合でも、欠陥セルが増加し始めるまで使い続けるのは、よほどのヘビーユーザーでも、まず無いと言えるレベル」(西川氏)という。 SSDの寿命は、同一セルへの書き込み回数で決まる。微細化が進んだ事やMLC化によって回数は以前より減っているのが現状だが、それでも現在、3千回が保証されている。 注意したいのは、この3千回というのは“3千回書き換えると必ず壊れる”のではなく、“ごく低い確率でセルの欠損が始まる”回数を示しているということだ。3千回に達したからといって、SSDのセル欠損が激増するというわけではない。加えて欠損したセルは無効にされるので、使用可能容量が僅かに減ることはあっても、急にSSDが動かなくなることはないということだ(もちろん、コントローラの故障があれば話は別だが)。 その上で3千回という書き換え可能回数を評価すると、128GB SSDの場合、次のような計算式で“書き込み可能なデータ量”が導かれる。この数値はLDE(Longterm Data Endurance)と言い、このところいくつかのSSDメーカーが使い始めているもので、計算の方法はJEDECで標準化されている。なお、読み込みは何度やっても寿命には影響しない。 3,000×128GB÷1.5(書き込み効率。エラー時のリトライなどを含めた係数で、NANDフラッシュメーカーごとに異なる。1.5は現在の東芝製NANDフラッシュのスペック)=256TBW(Tera Byte Write) つまり、256TB以上の書き込みを行なうと、徐々に容量が減り始める可能性が出てくるということになる(これは保証値なので、実際にはもっと劣化は緩やかだと考えられる)。もし、毎日10GBの書き込みを手持ちのPCで行なった場合で70年、50GBの書き込みを行なったとしても14年も使える計算になる。現在のSSDコントローラは、セル書き換えの均一化技術がすべてに導入されているため、1つのセルが集中的に使われることはない。 また、上記の値はSSDの容量が増えるほどに増加する。256GB SSDなら寿命はさらに2倍。512GB SSDならば4倍だ。 しかし、これではSSDの空き容量が少なくなってくると平準化する場所がなくなり、予定より遙かに寿命が短くなるのではと思う方もいるだろう。しかし、書き換えの平準化を行なう機能には、すでに記録されているセルの位置を移動させる機能も含まれているのだという。つまり、情報が保持されたままになっているフレッシュなセルの情報を古くなったセルに移し替え、空いた新しいセルを書き換えに使うといった制御も含め、書き込み頻度の平準化は行なわれている。 こうした計算に加えて、衝撃への強さといった要素も加味すれば、SSDの信頼性は現時点でも「HDDは超えている(両氏)」と口を揃えるのも、決してブラフやセールストークではなく、確たる自信なのだとわかるだろう。 ●微細化による電荷リークの問題は克服しつつある 43nmプロセスのMLC NANDフラッシュが値を保持できる期間についても尋ねたが「40℃の高温下で、多数の書き換えを行なって劣化したセルでも5年以上。書き換え回数が少ないフレッシュなセルなら数十年、おそらく100年以上ではないか。劣化したセルでも常温なら10年以上は確実に値を失わない。5年以上の値保持を確実に保証することを前提に開発している」(西川氏)と、問題ないことを強調する。 もっとも、さらに微細化が進めばセルはさらに小さくなり、電荷のリークも起こりやすくなる。東芝では35nm世代の準備を進めており、さらに25nm世代も量産プロセスに向けた最終段階に入っているとのことで「フラッシュメモリの構造上、微細化が進むほど厳しくなっていくが、絶縁材料や構造の工夫で信頼性を確保できる目処は立っている。問題は克服しつつあるところと言っていい」(西川氏)。 こうした情報は製品のスペックとしては出てくるものの、製品化前の製造プロセスの段階ではほとんど出てこない。理由は汎用ロジック向けの半導体プロセスとは異なり、製造プロセスや利用材料そのものに、最終製品であるNAND型フラッシュの性能(値保持の保証期間や書き換え可能回数など)を改善するノウハウが存在するため、学会などで製造プロセスに関する報告がほとんど行なわれないためだろうと両氏は指摘する。 「我々も43nmであることは公開していますが、プロセスの細かなスペックや使用している材料は公開していません。他社も同じです。言い換えれば、そこに差別化要因があります。DRAMと同じく設備産業で不安定な事業と言われますが、DRAMよりも差別化できる要素は多く、また技術を持っている会社も少ないため、DRAMよりはずっとビジネスとして安定しています」(西川氏)。 ●今後は大容量化とエンタープライズ向けに注力 東芝は今後、大容量化を重視したMLC NANDフラッシュの開発へと軸足を移すという。今後、汎用NANDフラッシュは35nm、25nmと微細化による大容量化が大きなテーマになる(もちろん速度も向上していくが、比重が変わってくるという意味だ)。ビット単価を積極的に下げることで、応用分野を増やすのが目的だ。 またPC分野に限ると、これまでSSDにも汎用のNANDフラッシュを用いてきたが、SSDに特化したNANDフラッシュの開発もスタートさせているという。こちらは汎用NANDフラッシュとは異なり、速度とビット単価引き下げのバランスを取ったものになるという。 「微細化を進めたとしても、HDDのビット単価に追いつくのは、現在のペースでは難しい。そこでパフォーマンスで勝負できるようにする。HDDに対して5~10倍の性能をキープできるよう開発を進めていく」(江島氏)。 またMLC NANDフラッシュを用いたSSDの開発に注力してきた東芝だが、今後はエンタープライズ向けにSLC NANDフラッシュを用いたSSDの開発も進めていく。MLC SSDでもサーバー用途に充分な寿命を確保できているという認識は、ユーザー(サーバーベンダー)の間にも広がっているようだが、書き込み速度の違いは依然としてある。 サーバー向けSSDは、高速書き換えが必要な用途にSLC、読み込み中心のアプリケーション向けにMLCといった具合に、使い分けが今後は進んでいくと東芝は予想する。SSDはパフォーマンスだけでなく、消費電力やスペースファクタ、RAIDのリビルド時に再故障が発生する確率がHDDよりも低いなどの利点もあり、サーバー用途は今後、大きく消費が伸びるだろう。 「他にもカーナビやカムコーダなど、SSDが活躍する分野は数多くあります。ストレージが存在するところ、すべてにSSDを普及させるよう努力していきます」と江島氏は締めくくった。 □関連記事 (2009年2月25日) [Text by 本田雅一]
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