開通式でインテル代表取締役社長の吉田和正氏が話したように、2012年末までに人口カバー率93%を目指す、というほど積極的に投資しているのは、日本のUQコミュニケーションズ以外にはない。先行してサービスが始まった国においても、限られたエリア内のみの高速通信サービスという位置付けに留まっている。 開通式に出席した顔ぶれを見ても、モバイルWiMAXの早急な普及を目指そうと、官民一体となった事業の立ち上げだったことが伺える。もし計画通りにUQコミュニケーションズがカバーエリアの拡大と品質(速度などだけでなく、ビルの影や地下、屋内などでの電波状況も含む)の向上を実現できたなら、日本は世界で最もインターネットにアクセスしやすい国になるに違いない。 ●求められるのはWiMAXの性能やカバーエリアだけではない モバイルWiMAXに対するインテルの力の入れ方は、Centrinoブランド立ち上げ時のWiFiに対する力の入れ方よりも、ずっと大きいように見える。無論、Centrinoブランド立ち上げ時にも相当な投資をしていたのだが、ここでの力の入れ方とは投資額そのものではない。何が何でも「WiMAXを使えるのが当たり前」の世の中を作ろうと、製品開発だけでなく、マーケティングやPR、それに公衆サービスの運営にまで踏み込んでいる。
インテル自身、あるいはOEM各社からの話を総合すると、WiFiとWiMAXの両方をサポートするワイヤレスチップEcho Peakを内蔵する、PCベンダーが開発中のWiMAX内蔵ノートPCとの相互接続試験なども順調で、あとはどのタイミングで発売するかが焦点だと話していた。Echo Peak自身、昨年のプロダクトなのだから、それも当然といったところだろうか。 モバイルWiMAX内蔵ノートPCは7月から順次登場する予定になっているが、この春や夏に一気に登場というのではなく、7月から年末商戦に向けて少しずつ増えていくという状況になるようだ。Windows 7のリリース時に一気に新製品を、と考えている国内メーカーや、状況を見極めてから検討する、あるいは可能な限り早く投入しようとするメーカーなど、モバイルWiMAXに対する考え方には少々バラツキがあるからだ。 インテル関係者によると、すべての主要な国内PCベンダーからサポートの約束はもらっているというから、いずれはどのメーカーもモバイルWiMAX内蔵機種を展開することにはなるが、一気に内蔵機種を立ち上げて盛り上げられるかどうかは、これからの調整にかかっていそうだ。 慎重な姿勢を見せるPCメーカーには、実使用上のカバーエリアや実効速度、ユーザーの使い方を見極めたいという意図もあるのだろうが、モバイルWiMAXのサービス自身に、まだ未知数の部分も残されているため、動向を見据えたいという気持ちがあるのだろう。 たとえば複数端末を保有するユーザーに、どのように対処するか、といった点だ。 ●正式サービスに向けてUQ WiMAXは大きく変化していく 現時点でのUQ WiMAXは、契約者の認証をWiMAX通信モジュールが持つMACアドレスによって行なっている(MACアドレスはEthernetや無線LANなどネットワークインターフェイスに割り当てられている個々の機材ごとにユニークなID)。 つまり利用時の認証は端末ごとに行なわれるということで、ダイヤルアップやWebブラウザを用いたログインなどが必要ないという使い勝手の良さを実現できるかわりに、各端末ごとに個別の接続サービスの契約を結ばなければならない。 たとえばUSB型の通信モジュールならば、通信モジュールを差し替えた先々のコンピュータで即座にモバイルWiMAXを利用できるという利点はあるが、内蔵型のWiMAX通信モジュールになると、コンピュータごとに契約を行なうことになる。 これはUQコミュニケーションズのインフラを用いてMVNOサービスを行うニフティやBIGLOBEも同じだ。 UQコミュニケーションズの担当者によると、商用サービスが開始される7月までには、複数端末を1つの契約にまとめる仕組みをシステムに導入することを検討しているとのことだ。その場合、1つの契約で複数端末が同時にWiMAXを使えてしまうと不正利用の問題が発生するため、一契約にまとめたWiMAX端末は同時に1台しかネットワークに繋がらないといった対策が施されると考えられる。 サービスエリア以外にも、こうした実利用事の使い勝手なども含め、7月までのテスト期間中に判断していくことは、まだたくさんあるとのことなので、テスト期間中にはあまり突っ込んだサービスの評価は行なえない。 筆者はUQ WiMAXのモニター応募の選から漏れたため、報道向けの貸出機でテストするのを待っているところだが、モニター当選した知人のWiMAXモジュールで確認する限り、サービスエリア内でも場所によって電波の状態は大きく異なる。また、地下や大きなビルの中といった場所では使えなかったり、あるいは接続していても通信速度が極端に遅いといった問題があった。 ちょうど、PHSの試験サービスが開始された頃のことを思い出す。当初のPHSは使えない場所が多く、またビルの影や屋内に入ると急に使えなくなるといった問題もあった。今はまだWiMAXもその段階。PHSがそうであったように、WiMAXも正式サービス開始時には、価格に見合うだけの品質を出してくるだろう。その後、さらに品質を向上させるには時間が必要だ。サービスエリアや品質の評価は、実際に商用サービスとして稼働開始してからにしたい。 ●モバイルWiMAX発展の鍵はアプリケーション
2012年までの90%を超える人口カバー率を目指しているUQ WiMAXだが、普及していくか否かはアプリケーション次第という側面もある。 自宅に引き込むインターネット回線ならば、ADSLや光ファイバーなどの方が、明らかにお得だ。従って外出先でのインターネット接続に使うことになる。しかし、屋内でも屋外でも電波の届く場所が多い携帯電話に比べ、WiMAXは屋内からの接続に弱い。 将来は現在の携帯電話並にサービスエリアを拡大するのだろうが、当面は無線LANとWiMAXの併用が主流になるだろう。それぞれ得手不得手がハッキリと分かれ、しかも特性が正反対なため組み合わせやすい。ただし、ユーザーログインなどを別途行なわなければならないようなら、使い勝手は良くない。 たとえばWiMAXとWiFiの両方において、IEEE 802.1xを用いた認証を行なうことで、1つのアカウントで2つのワイヤレスインターネットサービスを自動的に切り替えるといったツールも、いずれは必要になってくる。PCの電源をONにすれば、屋外でも屋内でも、ほぼインターネットに繋がっていられる環境でなければ、技術的なことに興味のない利用者が置き去りにされる。 もう1つは、モバイルWiMAXの特徴をどのように活かすべきか? という問題だ。せっかく広帯域のワイヤレスWANが現実のものになっても、アプリケーションが何らかの発展をしなければ、せっかく世界で最もカバーエリアが広いモバイルWiMAXサービスを現実のものとしたところで、“単に高速なWAN”以上でも以下でもない存在になる。 出先でPCやPDAを使う場面を想定した時、WiMAXはどんな新しい使い方を生み出すのか。 たとえば、PCでの利用だけを考えるなら、歩きながら使うケースは希だと考えられるので、どこか座れる場所で使うことになる。が、そうした環境ならば、無線LANでも3Gネットワークでも構わない。特にメールの送受信だけなら、わざわざWiMAXは必要ない。ではなぜWiMAXが優れているのか。 世界で最も進んだワイヤレスインターネットの環境は、将来、確かに生まれるのだろう。その点に関して現時点で疑いは持たないが、その世界一のインフラをどのように競争力へと活かしていくのか、アプリケーション(ソフトウェアという意味ではなく、ハードウェアやサービスも含めた応用分野という意味)の開発という視点での整備を、サービスエリア拡大の次に考えていかなければならない。 □関連記事 (2009年2月27日) [Text by 本田雅一]
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