MemCon 2008レポート
|
2009年のMemConを告知するパネル |
会期:7月21~24日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンタクララ
Hyatt Regency Santa Clara
フラッシュメモリ応用製品の大手ベンダーであるSanDiskは、NANDフラッシュメモリを利用した外部記憶装置「SSD(Solid State Drive)」の寿命を定義する共通指標を考案し、半導体メモリに関する講演会「MemCon 2008」で公表した。
SSDに関する動きが最近は活発だ。ノートPCのハイエンド機に相次いで搭載されたり、フラッシュメモリベンダーやPC周辺機器ベンダーによるSSDの新製品発表が続出したりしている。台湾ASUSTeK Computerが日本国内で7月12日に発売したネットブック「Eee PC 901」のSSD搭載機が、家電量販店では予約入荷待ち(筆者が店頭を訪れた7月20日時点では2週間待ちとのこと)となるなど、ユーザーの期待は高い。
ところで心配なのが、SSDの寿命である。NANDフラッシュメモリは書き換え回数の保証値が最大でも10万回、多くの品種では1万回、製品によっては1,000回となっている。使い方によってはNANDフラッシュメモリの応用製品は、途中で書き換え寿命が尽きてしまうのではないか。そんな心配がある。
SSDの場合はNANDフラッシュメモリのほかに、少なくともメモリコントローラLSIとバッファメモリ(NANDフラッシュメモリの書き換え速度が低いことを補うため)が存在する。内蔵NANDフラッシュメモリの書き換え寿命が尽きてしまわないようにコントローラのアルゴリズムによって普通は補償をかけるし、このアルゴリズムがSSDの重要なノウハウでもある。
ただし問題は、この記事でPCベンダーのNECパーソナルプロダクツが指摘していたように、「寿命の定義がSSDベンダーによって異なる」ことである。寿命の定義がいくつも混在していては、ユーザーが製品を比較評価できない。「5年間は大丈夫」とSSDベンダーが表明しても、その中身(使い方)が分からないのである。そもそも、HDDにしても普段、どのくらい書き換えているかをユーザーのほとんどは意識していないし、把握もしていないだろう。
SanDiskはMemCon 2008の講演で、現状認識としてSSD製品の寿命が抱える問題を指摘するところから始めた。講演者はSanDiskのSenior Director of Marketingを務めるDon Barnetson氏である。
これまでにSSDベンダーが表明してきた寿命は、例えば「1日20GBの書き換えで5年間の寿命を保証する」といったものだった。しかしSSDの記憶容量を1日20GBの書き換えに当てはめようとすると、現実と合わない事態が生じる。最も簡単な寿命の定義は。SSDの記憶容量を、ホストによるデータ書き込み容量で割って書き換えサイクル数を算出することだが、ホストのファイルシステムによるセクタサイズ512Byteと、NANDフラッシュメモリのブロックサイズ4KB(注:実際には4KBとは限らないが、512Byteよりも大きなブロックサイズになっている)の違いを無視しており、正しくない。
そこでファイルサイズの違いやコントローラによる負荷平準化などを係数化して定義を修正しようとしても、定義式が複雑になってPCユーザーにとって分かりにくくなるだけである。しかも、定義式が正しいかどうかも怪しい。PCユーザーにとって分かりやすい、クルマに搭載した「ガソリンの残量計」のような定義が必要だとSanDiskは主張する。
SanDiskのSenior Director of Marketingを務めるDon Barnetson氏 | SSDの寿命を定義した例。SSDの記憶容量を、ホストによるデータ書き込み容量で割って書き換えサイクル数を算出した。しかしこの定義では、ホストのファイルシステムによるセクタサイズとNANDフラッシュメモリのブロックサイズの違いを無視しており、正しくない |
SanDiskが提唱したのは、データを新たに書き込める容量を、残りの容量として定義することだ。「LDE(Longterm Data Endurance)」と呼称する。単位はBW(Byte Write)である。例えば80TBWとあれば、80T(テラ)Bの書き込み残量があることを意味する。80TBWだと、1日に20GBのデータ書き込みを繰り返しても10年以上の寿命がある。
もう少し詳しく述べると、書き込みパターンにはBapco Write ParetoによるビジネスPCユーザーの利用パターンを使う。データ保持に関しては、LDEがゼロになった後も、1年間はデータを保持する。
PCユーザーの使用イメージはこんな光景になる。SSDを購入した時点ではLDEが最大値であり、使っていくとLDEがどんどん減少する。LDEが空(ゼロ)になったら、データの書き込みはできない。ゼロになった時点から1年以内は、データのバックアップを取ることができる。
ここで気になるのはPCユーザーがどのようにしてSSDの残量を知るかなのだが、今回の講演ではその点について触れていなかった。ただ、原理的にはSSDへのデータ書き込み履歴を残しておくことは難しくない。SanDiskはしかるべき団体にLDEの標準規格仕様の策定を働きかけていくとしているので、しばらくは様子をみたい。
LDEは、ネットブックではすでに必要とされているとSanDiskは強調した。ネットブックのベンダーはエントリモデル向けにMLC NANDフラッシュメモリ内蔵の4GB SSD、3年保証品を欲しがっているが、SSDベンダーは3年間の保証を嫌がっているとする。SSDベンダーは、保証が楽になる8GB SSDを薦めるという図式である。
ノートPCでもLDEは重要な指標になるとの予想をSanDiskのBarnetson氏は述べていた。SLC NANDフラッシュメモリ、MLC(2bit/セル) NANDフラッシュメモリ、×3(3bit/セル)フラッシュメモリでそれぞれ、書き換え可能回数が異なるからだ。この3種類の中では、SLCの書き換え可能回数が最も多く、×3の書き換え可能回数が最も少ない。
Barnetson氏は例えばこのようなデータを示した。データ転送速度が250MB/sec、記憶容量32GBのSLC NANDフラッシュメモリ使用SSDのLDEは400TBWある。これが同じ速度で記憶容量が2倍に増えた64GBのMLC(2bit/セル) NANDフラッシュメモリ使用のSSDだとLDEが100TBWに下がる。LDEは4分の1に下がるものの、コストは32GBのSLC NAND品の数十%増しで2倍の容量をユーザーは享受できる。
そして速度が200MB/secとやや下がるものの64GBの×3(3bit/セル)フラッシュメモリ使用SSDだと、LDEは40TBWとさらに低下する。ただし、コストは64GBのMLC(2bit/セル)品よりも低い。価格は安く、その代わりに寿命は短く、というSSD製品になる。
こうして考えてみると、LDEはかなり分かりやすい。仮に1日に20GBを書き込むのであれば、5年間で合計37TBくらいになるので、40TBWでも5年間はもつ。自分がPCのヘビーユーザーではなかったり、あるいは、セカンドマシンとして使うのであれば、40TBWでも大丈夫かな、と思わせるところがある。そしてノートPCにSSDの書き込み残量計が表示されていれば、残量に応じて使い方を変えられる。
LDEがSSDの寿命を定義する指標として本当に適切かどうかはともかく、SSDの寿命を評価する共通の指標が必要とされており、必要性が今後さらに高まることは間違いない。その意味では、SanDiskの試みは高く評価できる。
ネットブックではパーソナル(Personal)のユーザーモデル、Windows XPの使用環境で3年間の寿命を保証したい。LDEがすでに必要となっている | ノートPCでは、SSDの品質を比較する上でLDEが有用な指標となる |
□MemCon 2008のホームページ(英文)
http://www.denali.com/en/memcon/2008/
□SanDiskのホームページ
http://www.sandisk.co.jp/
□Bapcoのホームページ(英文)
http://www.bapco.com/index.html
□関連記事
【7月11日】ASUS、Atom/8.9型液晶を搭載した「Eee PC 901-X」を国内発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0711/asus.htm
【6月10日】【元麻布】SanDiskにSSD事業戦略を聞く
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0610/hot551.htm
【4月23日】日本HDD協会2008年4月セミナーレポート~HDD対SSD、その行方を議論
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0423/idema.htm
(2008年7月25日)
[Reported by 福田昭]