AMDは12月15日、デュアルコアCPUの新製品となる「Athlon X2 7000シリーズ」を発表した。このCPUは、従来のデュアルコア製品と同様にAthlonブランドを冠しているが、デュアルコア製品では初めてPhenomブランドの製品で採用されているK10アーキテクチャを採用したCPUとなる。ここでは上位モデルとなる「Athlon X2 7750 Black Edition」を使用し、パフォーマンスをチェックしてみたい。 ●クアッドコア製品を上回る2.7GHzモデルをラインナップ 今回発表された、Athlon X2 7000シリーズは、「Athlon X2 7750 Black Edition」と「Athlon X2 7550」の2製品。BOX製品としては上位モデルのAthlon X2 7750 Black Editionのみが発売され、下位モデルはシステムビルダーなどに向けて提供されることになると見られる。主な仕様は表1に示した通りで、上位モデルの動作クロックが2.7GHzと、Phenom X4 9950 Black Editionの2.6GHzを上回る速度になっている。また、Black Editionの名が示す通り、倍率ロックも解除されている。 【表1】Athlon X2 7000シリーズの主な仕様
Athlon X2 7000シリーズの大きな特徴は、Phenomブランドで展開されているクアッドコア製品と同じK10アーキテクチャを採用している点である。コアを再設計したわけではなく、クアッドコア製品と同じ65nm SOIプロセスで製造された285平方mmのダイを使っており、このうち2コアを無効にする形で使用されている。よって、内蔵メモリコントローラやHT Link 3.0の仕様なども、そっくりPhenomシリーズと同じだ。 一般論でいえば、デュアルコア製品がコストの低いセグメントに降りている現在、ダイサイズのシュリンクを行なうことなく製品化している点は気になる点だ。これは、クアッドコア用のダイのうち、4コアすべてが完全動作しないものから作られていると想像される。この製品の発想としてはトリプルコアのPhenom X3シリーズに近く、クアッドコア用ダイの歩留まりを向上させるべく有効活用したものと考えていいだろう。 今回テストするのは、上位モデルのAthlon X2 7750 Black Editionである(写真1、画面1)。CPU-Zの結果からも分かる通り、Phenomシリーズの最新リビジョンと同じ、B3リビジョンのコアが使われていることが分かる。また、CPUの表面に記載されたOPNも従来のAthlon X2シリーズから大きく変化しており、Phenomシリーズに近い文字列になった。「AD775ZWCJ2BGH」となっているOPNを、Phenomシリーズのルールに当てはめると、 A:ブランド=Athlon といった具合になる。今後の製品識別のためにも、理解しておくといいだろう。
●同クロックのK8製品を上回るパフォーマンス それでは、ベンチマーク結果を紹介したい。テスト環境は表2に示した通りで、ここではK8アーキテクチャのAthlon 64 X2と、K10アーキテクチャのPhenom X4を比較対象とする。マザーボードはAMD 790GXを搭載する、GIGABYTEの「GA-MA790GP-DS4H」を使用。こちらのBIOSバージョン「F2」で正しく認識できることを確認できている。 なお、今回用意した比較対象はいずれも2.6GHz動作の製品であるため、Athlon X2 7750 Black Editionの倍率を13倍に指定して、2.6GHz動作させたものもテストに加えている。あくまで、同一クロックで動作させてアーキテクチャの性能差を見るためのもので、製品のパフォーマンスとしては2.7GHz動作時の結果を参考にしてほしい。 【表2】テスト環境
では、順に結果を紹介していく。まずは、CPU性能を見るために実施した、Sandra XIIのProcessor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2~3)の結果だ。 動作クロックが2.7GHzとはいえ、マルチスレッドに対応したSandraやPCMark05のマルチタスクテストでは、Phenom X4 9950 Black Editionに対して分が悪いところを見せているものの、PCMark05でもシングルタスクのシチュエーションではクロック相応に良好な結果を見せている。 また、同一クロックでのK8アーキテクチャと比較すると、全体にパフォーマンスが伸びていることが分かる。大きいところで60%程度のスコアの伸びを示しており、演算能力の面で期待できることが分かる。
続いてはメモリ周りの性能を見るために実施した、Sandra 2009のCache & Memory Benchmark(グラフ4)と、PCMark05のMemory Latency Test(グラフ5)である。ややバラつきも見られほか、Sandraはマルチスレッドが効いているためPhenomに有利なスコアが出ている。ただ、デュアルコア同士の比較であれば、L1/L2キャッシュはAthlon 64 X2の同一クロック動作よりもかなり高速で、倍以上の性能を見せる。 また、メインメモリのアクセス速度、レイテンシともにAthlon 64 X2 5200+に比べて大幅に高速化していることが分かる。K8アーキテクチャではメモリクロックがCPUクロックの整数分の1でしか動作しない。今回の場合,2,600MHz÷7で約371MHzでの動作となる。こうした根本的な違いもK10アーキテクチャのメリットといえるし、レイテンシの抑制はメモリコントローラの素行の良さを示すものだろう。メモリ周りの性能もK10アーキテクチャの優位性が明確に出ている結果だ。
次はアプリケーションを用いたベンチマークテストである。テストはSYSmark 2007 Preview(グラフ6)、PCMark Vantage(グラフ7)、CineBench R10(グラフ8)、動画エンコードテスト(グラフ9)だ。 これまで見てきた通り、CPU、メモリともにK10アーキテクチャによって高速化されており、Athlon 64 X2 5200+と、2.6GHz動作時のAthlon X2 7750の差が明確に出ている。定格クロックである2.7GHzでも、当然のようにスコアを伸ばしており、このアドバンテージは非常に大きなものとなっている。 一方で、マルチスレッドアプリケーションが多いテスト群でもあるため、クアッドコアのPhenom X4 9950 Black Editionに対しては分の悪さを見せている。が、SYSmark 2007のe-learningテストや、CineBench R10のシングルスレッドおよび2スレッドテストでは、クロックの高さが活きている。アプリケーションによっては期待できる結果といえるだろう。
続いては3D関連のベンチマークテストだ。テストは3DMark 06/VantageのCPU Test(グラフ10)、3DMark VantageのGraphics Test(グラフ11)、3DMark06のSM2.0 TestとHDR/SM3.0 Test(グラフ12)、Crysis(グラフ13)、LOST PLANET COLONIES(グラフ14)である。CrysisはWarheadではない旧バージョンだが、こちらに含まれるCPU/GPU BenchmarkはCPU性能の比較には有用と考え、あえて使用している。 CPUの重要度が大きい、両3DMarkのCPUテストや、CrysisのCPU Benchmark、LOST PLANETのArea 1はクアッドコアの能力が目立っている一方、そのほかのグラフィック描画が中心のテストではAthlon X2 7750 Black Editionの良さが出ている。クロックの高さが活きている結果だ。もちろん、Athlon 64 X2 5200+との差も小さくない。 最後に消費電力の測定結果である(グラフ15)。この結果は非常に特徴がはっきり出ている。まず、アイドル時はAthlon 64 X2 5200+に比べて電力が抑制されており、K10アーキテクチャの良さがよく出ている。 一方、負荷が高い状態では、クアッドコア製品に比べると低く収まっているものの、Athlon 64 X2よりも消費電力は増している。やや残念な結果という印象も受けるが、これまでに紹介したパフォーマンスの伸びを考えれば納得できるレベルではないだろうか。
●性能面の魅力が大きいK10アーキテクチャの採用 以上の通り、K10アーキテクチャを採用した初めてのデュアルコア製品をチェックしてきた。同一クロックのK8アーキテクチャに比べて、消費電力を抑制しつつ、パフォーマンスを大きく向上させた点で、K10アーキテクチャを採用したメリットが色濃く出た結果となった。 ちなみにシステムビルダー向けには8,900円前後が提案されているそうで、BOX製品ではそれに少し色が付いて9,000円台半ばになると見られる。時期が経てば少し落ち着く可能性はあるが、最近のAthlon X2の相場からすれば、やや高価な印象は受ける。倍率ロックフリーなども加味して、そこに価値を感じられる人向けの製品にはなるだろう。 すでに45nmプロセスのクアッドコアを「Phenom II」として投入することを表明していることで来年早々にも一世代進歩することが分かっている点や、上記結果のうち差が小さいところでは3GHzを超えているK8に対して明確に優位であるとは言い切れないなど、登場が当初の予定よりも遅れてしまったために、インパクトが薄れている面は否めない。 とはいえ、AMDのデュアルコア製品では久々のアーキテクチャ更新。そして、それによってクロック当たりの性能向上がはっきり得られていることは、この先の製品に多いに期待ができるものだ。この進化を歓迎したい。 □関連記事 (2008年12月15日) [Text by 多和田新也]
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