西川和久の不定期コラム

デュアルコアAtom 330で遊ぶ!
その2:Vista 32 vs Vista 64




購入したパーツ

 その1では、デュアルコアAtom 330で遊ぶため、CPU付きマザーボード「Intel BOXD945GCLF2」をベースにPCを一台組み上げた。まずは、ネットブック/ネットトップで一般的なWindows XPをインストールし、ベンチマークテストなどを軽く行なったところ、シングルコアのAtomより明らかに快適に動くことが判明!

 そこで今回はAtomプロセッサでは鬼門(は大げさか)とされているWindows Vistaを試してみる。もしある程度動けば、Intel 64(旧EM64T)にも対応しているので64bit版Windows Vistaにもトライしたい。

Text by Kazuhisa Nishikawa


●ノースブリッジのファン交換

 Windows Vistaをインストールする前にその1で指摘した、ノースブリッジのファン交換を行なう。ケースが小型でモニタの横へマシンを置く関係で、耳障りでとても遊ぶ気にもなれないからだ。BOXD945GCLF2に使われているファンは40×40×10mmのタイプ。サイズと静音性だけは注意したものの特に何も考えずに下記のものを購入した。ただこの「特に何も考えずに」が、取り付け時にハマることに……。詳細はキャプションをご覧頂きたいが、購入したファンは固定するネジ穴がオリジナルより大きく、ネジがスカスカで止まらないのだ。放熱板側を加工しネジ穴を大きくすれば対応できるがそれも面倒。と言って、ファンだけのためにまた秋葉原へも行きたくない。とりあえず間に合わせの仮付けで、ファンを取り付け難を逃れた。

静音ファン40×40×10mm
静音ファン40×40×10mm。4200回転、ノイズレベル14.0dB以下なので、もう気にならない音となる。久々にファン単体を購入したが“簡易”流体軸受けの“簡易”とは何を示しているのだろう。とは言え静かなら何でもOKなので気にしないことにする。ノースブリッジはいろいろなデバイスがぶら下がっているので負荷がかかると意外と熱くなる

購入したファンとマザーボードのファン
購入したファン(左)とマザーボードのファン(右)。サイズ的には同じなので、全く問題は無い。ただ、よく見るとネジ穴のサイズが違うのだ。購入したものは、広いネジ穴のまま下まで同じサイズ、オリジナルは、上は広いネジ穴だが、途中で穴が狭くなっている。この関係でオリジナルを取り付けていたネジはスカスカで新しいファンは固定できない

取り付けネジが合わず、少しアクロバットに
当然新しいファンに付属するネジでは太すぎて放熱板側が通らない。事務所内をゴソゴソ探してみたものの丁度いいネジが無く、ご覧のように放熱板の上側にネジとナットで固定した。もう少し短いネジを探してオリジナル同様、放熱板の下に付けたいところ。ネジなら秋葉原ではなく東急ハンズでも買えるので渋谷へ行くついでに探してこよう


 さて、ノースブリッジのファンが静かになってわかったのは、電源のファンも負荷がかかると結構うるさい。本体側にあるファンは別途費用はかかるが後から交換するのも容易。しかし、電源内のものは、ユニットごと交換するか、中を開けてファンだけ交換となる。卓上に置くPC用のケース付属の電源ユニットは、もう少しファンのノイズを気にして欲しい。

●32bit版Windows Vistaをインストール

 Windows Vistaのインストールは非常に簡単だ。インストール終了後、後述するマザーボード付属のドライバCDを入れれば、必要なものが一発で全て入る。グラフィックエンジンはGMA950なのでAeroもON。しばらくネットや動画を見て遊んでいたが、驚くほど普通に使える。「これはいけるかも」とWindows エクスペリエンス インデックスなど、ちょっとしたベンチマークテストを行なった。結果をご覧頂きたいが、ゲーム用グラフィックス以外の値は、ノートPCなどで割と普通に見かける数値だ。

32bit版VistaのWindows エクスペリエンス インデックス 32bit版Vistaのタスクマネージャ/パフォーマンス 32bit版VistaのCrystalDiskMark 2.2
プロセッサ:4.3、メモリ:4.5、グラフィックス:4.1、ゲーム用グラフィックス:2.8、HDD:5.9。このグラフィックスの4.1、2008/11/20以前のGMA950ドライバだとゲームと同様に2点台だった。何かチューニングを行なったのだろうか Hyper-Threading ONで4CPU相当となっている。ただ物理1CPUなのでHome Premiumの制限にはひっかからない。以前筆者は物理的に2CPU構成のPCをVista化したのでBusiness以上のエディションしか選択する余地がなかった WD WD10EADS 1TB SATAのCrystalDiskMark 2.2のスコア。最近SSDの値をよく見かけるが、このHDDは比較的頑張っている方だろう。シーケンシャル/ランダム共、読込みより、書込みが速い


D945GCLF2付属のドライバ郡。64bitにも対応している

 右の画面キャプチャがBOXD945GCLF2に付属する「Intel Express Installer」。日本語にも対応している。ネットブックも含め付属するドライバ(リカバリー)CDから、1つずつドライバをインストールしなければならず面倒なものが多い中、このセットアップ・プログラムは一気に全てのドライバをインストールするため、簡単で入れ忘れもない。チップセット、グラフィックス、Ethernet、オーディオのドライバが対象となる。

 ベンチマークテストを動かし、少し触っただけでは実際の体感速度がわからないため、一日この環境で軽い作業をした。画面解像度は1,680×1,050ドット。冒頭でAtomプロセッサにVistaは鬼門と書いたが、少なくともデュアルコアAtom 330には当てはまらないようだ。普段使っている筆者の旧式マシン(Dual Xeon 2.8GHz/Socket 603+RIMM2GB+GeForce 7600GS/AGP4x)とあまり差がない。参考までにWindows エクスペリエンス インデックスを比較すると、プロセッサ:4.3(4.8)、メモリ:4.5(4.3)、グラフィックス:4.1(4.2)、ゲーム用グラフィックス:2.8(4.5)、HDD:5.9(5.7)。ゲームは全くやらないので、これを除けば結構似通った値だ。Photoshopなどは試さなかったのでプロセッサの-0.5の差はわからず、Aeroの切れが若干悪い程度だ。更に普段もっとハイエンドのマシンを使っている友人にも触ってもらったが、「これAtomで合計3万円なの!?」と驚いている様子だった。プロセッサが4.3と言うことは「Core 2 Duo 1.06GHz」と同程度のパワーなのだろう。

 これで気を良くした筆者は64bit版のWindows Vistaに挑戦することにした。とは言え、このマザーボードの最大メモリ容量は2GB。64bit版を動かしても(多分)何もメリットはない。Intel 64(旧EM64T)が使えるのでAtomプロセッサで動かしたらどうなるか。単なる好奇心からの実験だ。

●64bit版Windows Vistaをインストール

 少なくとも筆者はこれまで64bit版Windows Vistaは触ったことが無く、今回、どんな感じなのか結構ワクワクしながらのインストールとなった。が、期待に反して32bit版と何も変わらない。コントロールパネル→システムで「システムの種類」を見ない限り、64bit版とは気が付かない。表から見たVistaは全く同じなのだ。当たり前と言えば当たり前の話であるものの、ちょっと拍子抜けしてしまった。

64bit版Windows Vista Home Premium 左側の写真が「64bit版Windows Vista Home Premium」のDSP版となる。写真を拡大すると「本ディスクは64bit版のみを収録しています」と書かれているが、それ以外の部分は32bit版と同じで見分けが付かない。値段も同じだ。ショップでの確認も店員が「ここに64bitと書いてあります」と、先のメディアに書かれている部分を示していた。マイクロソフトも本気で64bitを普及させたいのなら、同じメディアに32bit版と64bit版を入れ、起動時のメニューで「どちらをインストールしますか」と聞いて、同一ライセンスでどちらでも選択できるようにすれば、もっと使われるのではないだろうか。現状では、パッケージ版のUltimateに両方入っているだけで、ほかのエディションでは別途DVD-ROMの取り寄せが必要だし、DSP版は32bit版と64bit版が別パッケージとなっている。

 インストール自体は32bit版と全く同じ。OSを入れた後、「Intel Express Installer」でドライバをインストールする。記憶が定かでないのだが、確か32bit版ではディスプレイ・ドライバはSVGAが組み込まれAeroはOFFになっていたと思う。対して64bit版では始めからGMA950ドライバが組み込まれ、AeroがONの状態で起動した。ただこの点は、32bit版はオリジナルのVista(後でSP1を導入)、64bit版はVista SP1と、もしかするとこの差なのかも知れない。

 一通りドライバも組み込まれ、動きに問題無いことを確認し、早速ベンチマークテスト開始。事前に「少しAeroの切れが悪いかも」と思っていたが、当たりだった。Windows エクスペリエンス インデックスのグラフィックスの値が芳しくないのだ。この2.3は、先のキャプションに書いたが32bit版の2008/11/20以前のドライバと同じ値となっている。どちらも同じパッケージ(version 15.8.5.64.1587)なので、64bit版ではロジック的に無理なのか、単にまだインプリメントしていないのか原因はわからないものの、できれば32bit版並の値に改善して欲しいと思う。 > Intel

64bit版VistaのWindows エクスペリエンス インデックス 64bit版Vistaのタスクマネージャ/パフォーマンス 64bit版VistaのCrystalDiskMark 2.2
64bit版VistaのWindows エクスペリエンス インデックス。グラフィックス以外はほぼ同じ値となった。このグラフィックスの差は体感でわかるほど違うので、ディスプレイ・ドライバを改善して欲しい部分だ 64bit版の方が少しだけメモリを食っている。とは言え、GB級のメモリを搭載しているマシンから見れば誤差の範囲だろう 64bit版VistaのCrystalDiskMark 2.2。意外にもディスクのアクセスにかなりの違いが出た。全般的に64bit版Vistaの方が速くなっている


64bit版Firefox
 ご覧のようにディスクアクセスが32bit版Vistaと比較して速くなっているので、これでグラフィックスも同程度なら、あえてAtom 330プロセッサで64bit版Vistaを選ぶ理由にもなりえるのだが、Windows エクスペリエンス インデックス/グラフィックスの4.1と2.3の差は体感的にもかなり大きく残念なところだ。

 さて、システムはともかくとして、アプリケーションで64bitに対応したものがないか、ネットを検索したところ、有名どころではiTunes for WindowsとFirefoxの64bit版「Minefield」(Community Edition 301 Win64 K8Q/64-X06)を見つけたので試してみた。iTunesに関しては64bit Windowsで使うときはiTunesも64bit版でないとマズイようだ。MinefieldはテーマはFirefoxのがそのまま使え、レンダリングも少し速い。「これは行ける」と、しばらく触っていたところ、最大の問題に当たってしまった。「Flash Player」がまだ64bitに未対応。Flashのコンテンツを見たい場合は、32bitのブラウザを使わなければならない。まさかこんなところで32bitと64bitが引っかかるとは思ってもいなかった。

 IE7ではFlashが動いていたので不思議に思っていたところ、スタートメニューに「Internet Explorer」と「Internet Explorer(64bit)」と、2つのバージョンがあることに気が付いた。どうやら32bit版のIE7が動いていたようだ。なるほど、64bit版Windowsがまだあまり一般化していないのも肯ける。Windows Vistaの次期バージョン、Windows 7も32bit版と64bit版共に用意するようなので、Windowsの64bit版が一般化するのはまだまだ先の話なのだろう。メモリはガンガン安くなり、4GB搭載しても数千円の時代なのに困ったものだ。

 下の表は、32bit版と64bit版のWindows エクスペリエンス インデックスとCrystalDiskMark 2.2のスコアをわかりやすいようにまとめたもの。背景に色が付いているのが勝っている方となる。ご覧のようにほとんどの部分で64bit版の方が速いが、肝心のグラフィックスは遅く、全体の足を引っ張っている。普通なら力技でグラフィックス・ボードを交換する方法もあるのだが、PCIバスしか搭載していないマザーボードなのでどうにもならない。

 32bit版の“()”内の値は、たまたま友人が所有している「VAIO VGN-TZ93S」のWindows エクスペリエンス インデックスの値が結構近かったので参考までに掲載した。スペック的には、「Core 2 Duo U7700(1.33GHz/2MB/533MHz)、945GMS Express/GMA950」となり、チップセット的にも非常に似ている。グラフィックスの2.1は多分古いバージョンのIntelドライバがベースになっているので、今後のアップデートで4点台になる可能性を含んでいる。

Score 32bit版Vista
(参考VAIO VGN-TZ93S)
64bit版Vista
プロセッサ 4.3(4.5)
メモリ 4.5(4.2) 4.2
グラフィックス 4.1(2.1) 2.3
ゲーム用グラフィックス 2.8(2.7) 2.9
HDD 5.9(4.9)
Seq Read 61.79 74.67
Seq Write 78.31 86.58
512K Read 38.43 39.68
512K Write 68.69 70.56
4K Read 0.604 0.575
4K Write 1.543 1.746

 少し気になり、このD945GCLF2を構成しているチップセット、Intel 945GC Expressの仕様を調べたところ、最大メモリ2GB(Dual Channel)、PCI Express x1/x16、SATA ×4に対応している。この仕様を満たし(+GMA950の出力もDVI対応)Atom 330プロセッサを搭載したマザーボードが出れば結構売れると思うのだが、どこのメーカーも予定は無いのだろうか。筆者はチップセットに詳しくないのだが、Pentium D辺りに対応している965系でAtomプロセッサが動けば更に面白いと思うのだが。


●総論

Windows VistaもAtom 330プロセッサならそれなりに動く!
Windows VistaもAtom 330プロセッサならそれなりに動く!

 もともと「Atom 330マシンへVistaを入れたらやっぱり重い」という話になると思ったのだが、結果はその逆の答えになり、Atom 330プロセッサそして、Windows Vistaへの援護射撃となった。これだけエコで安価で面白いCPUを作っているにも関わらず、他のCPUでは当たり前のバスやメモリの構成など、ちょっとした部分がまだ未実装なのは非常に惜しい。是非、フルファンクションのAtom 330プロセッサ搭載マザーボードを使ってみたい。

 次回はWindows Home ServerとCentOSのサーバー対決を行なう予定だ。特に前者は一回も触ったことのないOS。筆者自身非常に楽しみにしている。(つづく)



□Windows Vista 64bit版製品情報
http://www.microsoft.com/japan/windows/products/windowsvista/editions/64bit.mspx
□関連記事
【12月2日】【西川】デュアルコアAtom 330で遊ぶ! その1:ハードウェア編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1202/nishikawa.htm
【10月24日】【元麻布】デュアルコアAtomの位置づけ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1024/hot576.htm
【9月22日】Intel、ネットトップ用デュアルコアAtomを出荷
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0922/intel.htm

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(2008年12月9日)

[Reported by 西川和久]


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