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東工大、世界初のGPU採用スパコンに進化した「TSUBAME 1.2」を解説
〜NVIDIA CEOフアン氏は特別講演を実施

東京工業大学 大岡山キャンパス

12月2日 開催



 米NVIDIAの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるジェンスン・フアン氏が2日来日し、東京工業大学の講堂で学生に向けて「エンジニアの未来を語ろう」と題した講演を行なった。

 今回、フアン氏が講演したのは、同校が運営するスーパーコンピュータ「TSUBAME」がこの11月に、世界最大規模となる680基のTeslaを組み込こむことアップグレードされ、77.48TFLOPSというピーク性能を実現するに至ったことが関係している。講演に先立って、Tesla採用の経緯についての記者説明会が行なわれたので、まずはその内容からお伝えする。

●GPUによるアクセラレーションを用いた初のスパコン

松岡聡教授

 2006年4月に運用が始まったTSUBAMEは、デュアルコアOpteronを8基内蔵するノードを655台接続し、2006年6月時点でピーク性能は38.18TFLOPS、TOP500におけるアジアでのランキングは1位、世界では7位となっていた。世界における性能競争が激化する中、その順位は次第に下がっていったものの、その後も、分子動力学シミュレーション加速装置基板群「ClearSpeed」や、90ノード/720コアのXeonシステムを追加するなどし、性能を向上させ、4期連続で国内1位の地位を堅持した。

 現在スーパーコンピュータの世界では、すでに1PFLOPSが実現されており、今後も年に数倍〜数十倍の勢いでその性能は伸びていくものと思われる。TSUBAMEでも、それらと競争できるだけの性能向上を果たしていくことを目指しているが、同校学術国際情報センター教授の松岡聡氏によると、現在約1MWというTSUBAMEの消費電力は、これ以上増やすことができないのだという。

 しかし、CPUの今後のロードマップを見た時、数年で消費電力を増やさず、性能を10倍に伸ばすのは無理だと判断。そこで松岡教授らが着目したのが、高いピーク性能と、メモリバンド幅を有するGPUだった。

 いくつかの技術的制限などがあったが、TSUBAMEで実際に使われている3次元FFTというアプリケーションをGPUで動かしてみたところ、クアッドコアのPhenomやCore 2 Quadが10GFLOPS程度なのに対し、GeForce 8800 GTXでは約90GFLOPS、GTX280では約140GFLOPSという非常に高い性能を示すことが分かった。

 これらの検証結果を踏まえ、今回ここに170ノードのTesla(GTX280ベース)が加えられた。このノードは1Uのラックに4枚のTeslaを搭載し、計680基のGPUとなる。NVIDIAは過去数年、HPC分野へパラレルコンピューティングプロセッサとしてのGPUの売り込みに励んでいるが、今回の東工大のTeslaの導入は世界最大規模であり、TOP500に入ったスーパーコンピュータとしては世界初のものだという。

初期のTSUBAMEの内容 HPCの観点から見たGPUの特徴
東工大で実際に使っているアプリケーションにおける性能比較 XeonノードやTeslaノードが加わった今のTSUBAME 1.2の姿

TSUBAMEのロードマップ

 松岡教授は、現在のTSUBAMEを「バージョン1.2」と表現している。2008年6月時点では、ピーク性能が67.70TFLOPSで、国内ランクは3位に落ちたものの、バージョン1.2となり11月の最新結果ではピーク性能が77.48TFLOPSに向上し、国内2位にまで地位を戻した。

 今後、2010年を目処にTSUBAMEをバージョン2.0へとアップグレードし、1PFLOPSを目指していく。松岡教授によると、その時点でもCPU+GPUというヘテロジニアスな構成は続くが、GPUの占める割合はさらに増える見込みだという。

 質疑応答で、将来のGPUに求めるものを問われ松岡教授は、「今後GPUは、仮想化や、ECCなどの信頼性、フォールトトレランスなどの機能を拡張していく必要があるのは確かだろう。どこまでCPUに近づくのかは、IntelとNVIDIAでは見解が異なる。私は技術的見地からはNVIDIAと考えを同じにしている。GPUは構造をシンプルにして、バンド幅をかせぐやり方で進化してきており、この方が開発コストが低く、開発サイクルも短くて済む。あまりCPUに近づけさせ過ぎずに、このGPUの良い特性を今後も維持した方が良いだろう」と答えた。

実際に稼働しているTSUBAMEの一部 4Uのシルバーの筐体がOpteronのノードで、2つに挟まれた黒い1UのものがTeslaのノード システムの背面
中央にある縦に伸びている黒いケーブルはPCI Express接続用のもので、2つのOpteronノードから1つのTeslaノードに伸びており、2基ずつのGPUを使っている Opteronノードの内部。CPUとメモリを搭載したカードを8枚内蔵 こちらはストレージ部分。全体での容量は1.6PB

●自分の信じたものをやり通せば結果はついてくる

NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏

 フアン氏の講演には同校の学生および関係者が多数聴講に訪れた。フアン氏がエンジニアの卵である学生達に向けたメッセージに込めた1つのキーワードは「自分が正しいと信じたものを貫いてやり通せ」ということだ。

 フアン氏がNVIDIAを設立した'93年頃は、まだPCは基本的にオフィスオートメーションのための道具としてしか見られておらず、エンターテイメントに用いられるなどとは思われていなかった。しかし、同氏は今後ビデオゲームがPCのキラーアプリになると直感したという。

 奇しくも当時、ゲーム業界にはセガの「バーチャファイター」というポリゴンを用いた格闘ゲームが登場。それまで、2次元で表現されていたゲームのキャラクタが3次元で表現されることに感動し、フアン氏はPCでも同じものを実現しようと、来日してセガを訪れたのだという。その成果が同社最初のGPUである「NV1」だ。

 果たして、GPUは順調に進化し、表現力を増し、ゲームはPCのキラーアプリの1つになった。だが、それだけでは終わらなかった。

 もう1つフアン氏が、何度か語った経験談が「今より2倍、3倍と高性能、あるいは安価なものを作ったとする。すると、誰かがそれを予想もしなかった方法で使い始める」ということだ。

 実際、GPUは、ゲームのみならず、情報機器、放送、マーケティング、製造など多種多様な用途で用いられている。フアン氏はそれらの具体例を多数、紹介していったが、GPUにとって最大の変化は、GeForce 8シリーズ以降でプログラマビリティを得たことだ。

 その後CUDAが提供されたことで、GPU上で容易に大規模並列計算を行なうための土壌が整い、今日のように、複雑なシミュレーションや予測などのGPUにとっての新たな道が開拓された。

 その例として、学術国際情報センター教授の青木尊之氏がいくつかのデモを披露した。いずれも複雑な計算を行ない、それを可視化して表現するもので、GPUがいかにCPUより速く処理できるかを示した。

 その1つは地震による津波の影響をシミュレーションするもの。現在の気象庁の津波の予測は、過去のデータをもとに予測した精度低いものだが、青木教授が開発したシステムでは、GPU 3個で地球半分をカバーする精度の高いシミュレーションをリアルタイムで行なえるのだという。

青木尊之教授 津波シミュレーションのデモ。どのように海面が動き、陸地にどのように侵入していくかがリアルタイムで把握できる

 今回のTSUBAMEの例も表わしているとおり、今HPC業界でGPUはCPUよりも遙かに注目されている。と同時に、その取り組みはまだ始まったばかりで、パラレルプログラミングの理解度や習熟度は低い。しかし、フアン氏は、それこそが学生達にとっての好機でもあると述べ、それを活かして欲しいとエールを送った。

 なお東工大では、10月よりCUDAを使ったGPU上の並列プログラミングに関する授業を開始しており、NVIDIAもこれに対し、支援をしていくことを表明している。

□NVIDIAのホームページ
http://www.nvidia.co.jp/
□東京工業大学のホームページ
http://www.titech.ac.jp/home-j.html
□関連記事
【11月18日】IBMのRoadrunnerが2期連続スパコン性能ランキング1位
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1118/top500.htm
【2006年7月4日】東工大、世界7位のスパコン「TSUBAME」を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0704/titech.htm
【2005年11月30日】東工大、1万コアのOpteron搭載グリッドは「みんなのスパコン」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1130/titech.htm

(2008年12月3日)

[Reported by wakasugi@impress.co.jp]

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