NVIDIAが9月15日(米国時間)、Intelプラットフォーム向けの統合型チップセット「GeForce 9400」および「GeForce 9300」を発表した。同社にとっては、2007年9月に初投入したIntelプラットフォーム向け統合型チップセットの後継モデルという位置付けになる。ここでは、下位モデルとなるGeForce 9300を搭載したマザーボードを使い、そのパフォーマンスを見てみることにしたい。 ●16基のSPを持つDirectX 10世代のグラフィックコアを統合 今回発表されたGeForce 9400/9300は、「MCP7A」のコードネームを持つチップセットである。その存在が正式に確認されたのは2008年3月にドイツで行なわれたCeBitの会場で、J&W Technologyが展示を行なったのが最初である。これまでにも発表が近いという情報が何度か入ったりもしたのだが、結局10月まで延びてしまった。ちなみに、CeBitの段階では、GeForce 8200という製品名も検討されていたようだが、最終的にはGeForce 9000番台のブランドを冠することになった。 NVIDIAのIntelプラットフォーム向け統合型チップセットの歴史は非常に浅く、本製品が2世代目になる。前モデルは2007年9月に発表された「GeForce 7 Series mGPUs for Intel」で、これはブランド名からも分かる通り、DirectX 9世代のグラフィックコアを統合したもの。今回はDirectX 10世代のグラフィックコアを統合しており、1年強のブランクではあるものの明確な世代交代を行なってきた。
そのスペックであるが、図1に示したGeForce 9300のブロックダイヤグラムを基に紹介したい。ちなみに、GeForce 9400と同9300の違いであるが、これはグラフィックコアの動作クロックが異なるのみである。前者がコア580MHz、シェーダ1,400MHz、後者がコア450MHz、シェーダ1,200MHzで動作する(画面1)。 そのほかの機能的な違いはなく、全体的なイメージとしては、すでに今年の春には市場に登場しているAMDプラットフォーム向け製品であるGeForce 8300/8200に近い仕様になっている。 グラフィック機能の共通仕様としては、16基のStreaming Processorを搭載するほか、第2世代のPureVideo HDをサポート。PureVideo HDはVC1アクセラレーションもサポートしており、HDのアクセラレーションそのものを持たなかったGeForce 7 Series mGPUから大きく進化したポイントとなっている。 ディスプレイ出力はアナログRGB、DVIのほか、HDMIやDisplayPortもサポート。チップ内にHDCPキーを搭載している。イメージとしては、GeForce 9400 GTのSP数を絞って、統合型チップセット向けにリファインしたものと考えれば、製品の性格は掴みやすいだろう。
また、AMDプラットフォーム向けのGeForce 8300/8200と同じく、外付けビデオカードと内蔵グラフィックの連携機能であるHybrid SLIもサポート(画面2)。本製品では主にGeForce Boostでの活用が期待される。 チップセットの機能では、CPUは最高で1,333MHz FSBに対応。サポートする具体的なFSBは不明だが、対応CPUにPentium4やCeleronの名前もあることから、1,066/800MHzまでは正式サポート、533MHzは微妙といったところだろう。 メモリはDDR2-800またはDDR3-1333をサポートしており、この点はライバルとなるIntel G45 Expressと同じ仕様である。製品セグメントを考えると、当面はDDR2を採用したマザーボードが多いだろう。 ちなみに、前世代のGeForce 7 Series mGPUは、シングルチャネルメモリインターフェイスでWindows Vista Premiumの要件を満たすことを売りとしていたが、GeForce 9400/9300は現在一般的なデュアルチャネルメモリインターフェイスを採用している。メモリ価格の低下という要因もあるだろうが、GeForce 9400/9300ではCUDAを利用できることもアピールしており、そのパフォーマンスにも関係があるかも知れない。 そのほかI/Oポート周りは、AMD向けのGeForce 8300などと近く、SATA×6、USB 2.0×12、8chのLPCMストリームにも対応したHD Audio、PCI Express X16×1、x1×4などを特徴とする。GeForce 7 Series mGPUとの比較では、SATA、USB、PCI Express x1がそれぞれ2基ずつ増やされる格好となっている。 今回テストに利用するのは、GeForce 9300を搭載するMSIの「P7NGM-Digital」である(写真1)。CPU周りのVRMが4フェーズである点はややリッチだが、全体的には標準的な構成のmircoATXマザーである。最近の統合型チップセットでは当たり前になってきたが、チップセットクーラーはヒートシンクのみのファンレスタイプになっている。I/Oリアパネル部には、ミニD-Sub15ピン、DVI-Dのほか、HDMI端子を装備している(写真2)。
●Intel G45との比較テスト それでは、ベンチマークテストの結果を紹介したい。テスト環境は表に示した通り、今回の比較はIntelプラットフォーム向け統合型チップセットのライバルにあたるIntel G45 Expressを対象とした。 ただし、グラフィック関連のテストにおいては、NVIDIA製ローエンドGPUであるGeForce 9400 GTも比較対象に加えている。このGeForce 9400 GTはGeForce 9300環境に接続してテストを実施した。比較対象は、いずれもMSIから借用したものである(写真3、4)。 グラフィック関連のテストは前回紹介したRadeon HD 4550のテストと同じ設定を用いている。環境の統一性がないのでグラフには併記していないが、CPUの違いによる影響が小さいSXGA解像度における結果などは、おおざっぱな比較が可能だ。興味のある方は併せて参照してほしい。ただし、LOST PLANETだけはGeForce 9300環境で前回と同じ解像度が選べない部分があったため、比較のさいには注意されたい。 【表】テスト環境
まずは、各チップセットの環境で、パーツの性能がどのぐらい引き出されているかをざっくりとチェックしておきたい。テストは、Sandra 2009のProcessor Arthmetic BenchmarkとMulti-Media Benchmark(グラフ1)、PCMark05のOverallスコア(グラフ2)、Sandra 2009のCache&Memory Benchmark(グラフ3)、PCMark05のMemory Latencyテスト(グラフ4)、Sandra 2009のFile System Benchmark(グラフ5)である。 まず、CPUの性能であるが、同じCPUを使っているにも関わらず、全般にIntel G45の性能が良好な傾向が伺える。極端な差ではないが、安定して同じ傾向が続くという点では気になる部分ではある。 メモリ周りの性能もPCMark05、Sandra 2009の両方の結果で、Intel G45の方が良好という結果が出ている。Sandra 2009のCache&Memory Benchmarkの結果からは、キャッシュメモリ、メインメモリ両方が、Intel G45の方が良好であることを示しているほか、PCMark05のMemory Latencyテストも同じ傾向である。特にメインメモリのアクセス速度は、Sandra 2009の結果で1GB/secを超える非常に大きな差が付いている。グラフィック機能のフレームバッファとして利用する際の効率に違いがある可能性が高いと考えるが、それにしてもGeForce 9300は大きなビハインドを背負っている印象を受ける。 逆にHDD周りの性能はPCMark05、Sandra 2009の結果ともにGeForce 9300の方が良好な結果が出ている。特にSandra 2009の書き込み性能が飛び抜けた性能を見せておりドライバレベルの素行の良さを感じさせるものだ。ただ、グラフには出していないが、PCMark05では読み込み処理の方が良好で、書き込み性能が伸び悩みを見せる傾向も見せており、「この処理はこちらが速い」という断定的な結論は見えていない。とはいえ、次に紹介するPCMark VantageのHDDテストでも優れた性能を見せており、GeForce 9300はIntel G45を上回るHDDアクセス性能を持っていると見て良いだろう。 続いては、アプリケーション性能のテストとして、PCMark Vantage(グラフ6)、CineBench R10(グラフ7)、動画エンコード(グラフ8)の結果を見てみたい。こうした一般的なアプリケーションにおいては、CPUやメモリ周りの性能が大きく影響することが多く、前述の傾向からも予想できる通り、Intel G45の方が良好な結果を示すシーンが多い。 一方で、HDD周りの性能が活きるような、オフィス処理系の処理(PCMark VantageのProductivityなど)は、明らかにGeForce 9300の方が勝っており、これまで見えてきた傾向から予想できる妥当な結果が出ているといえる。ただ、全般的にいえば、今回の主題であるGeForce 9300は、やや不利である印象は否めない。
では、次に3D関連のベンチマーク結果を見ていくことにする。テストは「3DMark Vantage(CPUテスト)」(グラフ9)、「3DMark06(CPUテスト)」(グラフ10)、「3DMark Vantage」(グラフ11)、「3DMark06」(グラフ12~13)、「3DMark05」(グラフ14)、「Call of Duty 4」(グラフ15)、「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ16)、「Crysis」(グラフ17)、「F.E.A.R.」(グラフ18)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ19)、「Unreal Tournament 3」(グラフ20)各結果を紹介する。 Radeon HD 4550で実施したテストのうち、「Enemy Territory: Quake Wars」と「World in Conflict」は統合型チップセットにとっては非常に重いアプリケーションであるので割愛。「Half-Life 2: Episode Two」はIntel G45においてエラーが発生してテストができなかったため、同じくテストを割愛している。 さて、Intel G45よりもGeForce 9300の方が優れた3D性能を持っていることは疑いようのない結果である。CrysisやLOST PLANETのようにGeForceに最適化されたアプリケーションでは2.5~3.5倍程度の大きな差が付いているほか、ほかのアプリケーションでも1.5~2倍程度のスコア差であり、明確なポテンシャルの違いを見せつけている。 外付けビデオカードとの比較では、さすがに不利な結果が出ており、GeForce 9400 GTとの差は多くのアプリケーションで3倍前後。GeForce 9300の上位にGeForce 9400が控えていることを差し引いても、外付けビデオカードを置き換えるような存在感は示せていない。 また、Intel G45との比較でも細かく見ると気になるところはあって、多くのテストで解像度が高くなるほどGeForce 9300とIntel G45の差が詰まる傾向にある。もちろんアドバンテージが大きいのでGeForce 9300の3D性能が霞んでしまうような差ではないのだが、先に示したメモリ性能差がここでも影響していると考えるのが妥当だろう。 例えば、3DMark VantageのEntryプリセットにおけるテスト結果は、GeForce 9300のスコアが大きく落ち込んでいる。何度テストしても同じ傾向が出たので異常値とは考えられない。ドライバのせいという可能性は捨てきれないが、メモリ周りの性能がボトルネックになった結果である可能性もある。 Intelプラットフォーム向け統合型チップセットとして高い性能を示しているものの、強いインパクトはない、というのが率直な感想だ。 最後に消費電力の比較である(グラフ21)。GeForce 9400 GTを使った環境については、3DMark06実行時のみ測定している。結果はアイドル時はIntel G45が若干ながら低消費電力で、ロード時は逆にGeForce 9300が低消費電力になるという結果になった。 もちろんマザーボードの違いもあるわけだが、似た構成の製品にとってロード時10W以上の差は小さなものとはいいがたいほか、特にGeForce 9300が得意とする3Dアプリケーション実行中の差が非常に大きなものになっているあたりは好印象を持てるものになっている。
●Intelプラットフォームを支える大きな枝 以上の通り結果を見てくると、少なくとも3D性能に関してはまずまずのものを持っており、統合型チップセットとしては高いレベルにある。 ただ、性能が伸び悩むポイントも多く、手放しで褒められる製品とは言い難いのも事実だ。また、前回記事で取り上げたAMD 790GXとの差も、SXGAのスコアが大きいところで半分程度のスコアに留まっている。逆にわずかな差という部分もあって、これは上位モデルのGeForce 9400で克服できるかも知れないが、全般にはAMD 790GXほどの性能は持っていないと判断して良さそうである。 その意味では、やや中途半端な印象が残ってしまう製品ではある。だが、Intel製プラットフォームの統合型チップセットは、3D性能が弱点であることを考えれば、この製品の存在意義は大きいと思う。AMDプラットフォームの総合的な性能に対して、大きな味方になり得る存在だろう。これは、Intelがどう思ってるかという話ではなく、ユーザーにとっては、同じ価格であればより高い性能であるに越したことはないわけで、Intel製CPUを使ってコスト重視の環境を手に入れたいならば検討に値する製品であることは間違いない。 また、Havendaleに代表されるGPU機能を統合した次世代CPUの延期が伝えられていることも重要なファクターだ。GPU機能がCPUに統合された後に、統合型チップセットというマーケットが壊滅状態になることは想像に難くない。それが先に伸び、統合型チップセットが求められる期間が延びたということも、この製品の存在意義を大きくしている。 □関連記事 (2008年10月16日) [Text by 多和田新也]
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