多和田新也のニューアイテム診断室

インテル製統合型チップセットの最新モデル
「Intel G45 Express」




 インテルが6月に発表したIntel 4シリーズチップセット。発表はされたものの登場が遅れていた、グラフィック統合型の上位モデル「Intel G45 Express」(Intel G45)もようやく製品数が増えつつある。すでに手にされているユーザーもおられるだろう。遅ればせながら、筆者もこのチップセットを搭載したマザーボードを試す機会を得たので、ここでベンチマーク結果をお伝えしたい。

●HD動画再生支援機能を持ったIntel GMA X4500HDを内蔵

【写真1】Intel G45 Expressを搭載する「Intel DG45ID」

 Intel G45は、Intel 4シリーズチップセットのラインナップ中、グラフィック統合型モデルの上位版に位置付けられる製品となる。Intel G35 Express(Intel G35)の後継モデルとなる製品でもあるが、Intel G35はIntel 965Gと同一のコアを使い、ドライバレベルでDirectX 10への対応を行なったものだった。

 Intel G35が2世代前のチップを使っていることは、サウスブリッジ(ICH)側にも影響が出ていた。Intel 3シリーズではICH9シリーズが投入されたにも関わらず、Intel 965世代のチップを使ったIntel G35はICH8シリーズのまま。Intel G45は、ほかのIntel 4シリーズチップセットと同じくICH10シリーズを組み合わせてリリースされる。

 つまり、Intel G45は、この製品ラインにおいて、2年ぶりにアーキテクチャが一新された点で大きな意味を持つのである。

 統合されているグラフィック機能は「Intel GMA X4500HD」と呼ばれるもの。Intel G35に統合されていたGMA X3500と比較して、統合シェーダユニットが8個から10個に増やされているほか、動画再生支援機能のIntel Clear Video Technologyもアップデートされており、動画のスケール変更機能や、HD動画のGPUアクセラレーション機能を備えるようになった。

 昨今のビデオカードにおいて、HD動画再生アクセラレーションの搭載は当たり前になっている。3Dグラフィック性能が高くない統合型チップセットやローエンドビデオカードでも、こうした動画再生支援機能を充実させるのが現在のトレンドになっており、Intel製統合型チップセットもようやくこの流れに追いついたといえる。

 さて、今回テストに利用するのは、PC Watch上でも速報レビューが掲載されている、インテルの「DG45ID」である(写真1)。microATXフォームファクターに準拠した製品で、IOリアパネル部の映像出力にDVIとHDMIを装備(写真2)。IOリアパネルに関連しては、PS/2などを持たないレガシーフリーの構成である一方、eSATAやIEEE 1394の装備といった点が目を引く。

 比較対象には、Intel G35を搭載した「DG35EC」を使用(写真3、4)。DG45IDに比べるとシンプルなデザインになっているが、こちらもmicroATXフォームファクターに準拠した製品となっている。

 そのほかのテスト環境は表に示したとおりで、グラフィックドライバは、テスト時点においてインテルのサイトからダウンロードできた最新版を利用。いずれも内蔵グラフィックを使用した場合のみのテストとし、ビデオメモリは両製品ともBIOS上から256MBに指定している。

【写真2】DG45IDのIOリアパネル部。HDMIとDVIを搭載。DVI端子はD-Sub15ピンへ変換してのアナログ出力も可能 【写真3】Intel G35 Expressを搭載する「Intel DG35EC」 【写真4】DG35ECのIOリアパネル部。DG45IDに比べ、PS/2やD-Sub15ピンを装備するなど保守的な利用にも適応できる構成だ

【表1】テスト環境
チップセットIntel G45 ExpressIntel G35 Express
マザーボードIntel DG45IDIntel DG35EC
グラフィック機能Intel GMA X4500HDIntel GMA X3500
(Driver Version:15.11.1.1537)
CPUIntel Core 2 Duo E8500
メモリDDR2-800(1GB×2,5-5-5-15)
HDDSeagete Barracuda 7200.11(ST3500320AS)
OSWindows Vista Ultimate Service Pack 1

●メモリ性能にIntel G45の優位性がある

 まずは、グラフィック性能を除く、システム全般の性能をざっくりと見ていきたい。Sandra XIIのProcessor Arthmetic BenchmarkとMulti-Media Benchmark(グラフ1)では、両製品ともCPU性能は同等レベルに引き出されていることが分かる。PCMark05(グラフ2)もCPUスコアは同じようなものだ。ただ、メモリ、グラフィック、HDDの各項目について若干の差が付いている。グラフィックに関しては後述するとして、メモリ、HDDの両項目について、もう少し細かく見てみたい。

【グラフ1】Sandra XII Processor Arthmetic BenchmarkとMulti-Media Benchmark

【グラフ2】PCMark05

 メモリ周りのテストはSandra XIIのCache & Memory Benchmark(グラフ3)、PCMark05のMemory Test(グラフ4、5)の結果をチェックする。この結果を見ると、キャッシュメモリからメインメモリの全体に渡って、Intel G45環境の優位性を見て取ることができる。2つのアプリケーションによるアクセステストだけでなく、レイテンシも軽減していることが分かる。

【グラフ3】Sandra XII Cache & Memory Benchmark

【グラフ4】PCMark05 Memory Test

【グラフ5】PCMark05 Memory Latency Test

 統合型チップセットではメインメモリ上にフレームバッファを展開するぶんメモリアクセス速度はシビアになるわけだが、Intel G45では、Intel G35に比べて、この点を改善した可能性がありそうだ。マザーボードにもよる可能性はあるものの、この結果は好印象だ。

 HDD周りのテストはSandra XIIのFile Systems Benchmark(グラフ6)、PCMark05のHDD Test(グラフ7)、PCMark VantageのHDD Test(グラフ8)の結果をチェックする。ICH10シリーズに対応したのが大きな特徴でもあるIntel G45であるが、今回の結果を見る限り、そのメリットはないどころか、ICH8を搭載したIntel G35のほうが全般に良い結果を見せている。

【グラフ6】Sandra XII File Systems Benchmark

【グラフ7】PCMark05 HDD Test

【グラフ8】PCMark Vantage HDD Test

 とくに書き込みに関する性能が伸び悩む傾向があり、今後、ドライバ周りの調整でパフォーマンスが向上することに期待したい。

 ここで、一般アプリケーション利用時におけるパフォーマンスの参考として、PCMark Vantage(グラフ9)、動画エンコード(グラフ10)、3DMark Vantageおよび3DMark06のCPUテスト(グラフ11)の結果を紹介しておく。

【グラフ9】PCMark Vantage

【グラフ10】動画エンコード

【グラフ11】3DMark Vantage & 3DMark06 CPUテスト

 HDD周りでは不利があるIntel G45環境であるが、全般にはIntel G35に対して好スコアをマークする傾向が出た。グラフ2で示したPCMark05の結果では、HDD周り以外はIntel G45のほうが良い結果を出している。PCMark VantageのProductivityのようにHDDアクセスが頻繁に発生するようなテスト以外では、同等以上の結果を出せるのもうなずける。普通に使う上で、性能向上を期待できるのは嬉しい傾向といえるだろう。

●実用レベルになったグラフィック性能

 続いては、グラフィック性能の性能を調べていきたい。まずは3D性能のチェックとして、「3DMark Vantage」(グラフ12)、「3DMark06」(グラフ13~14)、「3DMark05」(グラフ15)、「F.E.A.R.」(グラフ16)、「Call of Duty 4」(グラフ17)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ18)、「Unreal Tournament 3」(グラフ19)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION(DX10)」(グラフ20)の各結果を紹介する。

【グラフ12】3DMark Vantage

【グラフ13】3DMark06 SM2.0

【グラフ14】3DMark06 HDR/SM3.0

【グラフ15】3DMark05

【グラフ16】F.E.A.R.

【グラフ17】Call of Duty 4

【グラフ18】モンスターハンター フロンティア オンライン

【グラフ19】Unreal Tournament 3

【グラフ20】LOST PLANET EXTREME CONDITION(DX10)

 ここでは、統合型チップセットの性能に合わせてクオリティをかなり低くした設定にしているので、本コラムのほかの記事との比較はできないので注意されたい。

 Intel G35との比較において、Intel G45は1.2~2.5倍程度のスコアをマークしている。とくに解像度が高くなったときや、新しいアプリケーションで大きな差を付ける傾向にあり、世代交代を感じさせる結果ではある。

 しかしながら、低いクオリティであるにも関わらず、絶対的なフレームレートとしては明らかに不足している。環境が大きく異なるとはいえ、AMD 790GXなどは解像度が低い状態であれば現実的にゲームを楽しめるだけの能力を持っていた。それに比べると、かなり残念な結果といえるのも事実である。

 次に、Intel G45の目玉でもあるHD動画再生支援のテスト結果を紹介する。テストはMPEG-2(イノセンス/チャプター10)、MPEG-4 AVC(007・カジノロワイヤル/チャプター2)、VC-1(デジャヴ/チャプター12)の3つのBlu-ray Discコンテンツを使用。各チャプターの冒頭から3分間のCPU使用率を1秒ごとにトレースして、平均を出している。

 再生ソフトであるが、Intel G45の動画再生支援を正式にサポートするアプリケーションの情報がなかったため、ここではPowerDVD 8 Ultraと、WinDVD 9 Plusの2本を用意した。

 PowerDVDは8月25日版のパッチが最新であるが、ここではAMDプラットフォームへの対応が明記されているだけで、Intel G45に関する情報は何もない。

 WinDVD 9はパッチ14.91が最新版となり、こちらはパッチの情報ページにIntel G45への対応が明記されている点で期待が持てる。

【グラフ21】Blu-ray disc再生時のCPU使用率

 グラフ21の結果を見ると、確かにIntel G35よりもCPU使用率は大きく抑制されていることが分かる。Power DVDでも効果が出ているだけでなく、MPEG-2に関してはWinDVDよりもCPU使用率が抑制される結果となった。ただ、WinDVDでVC-1を使用したときには劇的な改善効果が出ているのに対して、ほかの結果は今ひとつインパクトに欠ける印象を受ける。

 このテストではCore 2 Duo E8500を使っているので、Intel G35でも普通に再生できるレベルになってしまっているということもあるのだが、とくに負荷が高いMPEG-4 AVCはIntel G45を使用した場合でも40%を超えるCPU使用率になってしまっており、過去にテストしたHD動画再生支援に比べると明らかに効果が弱い。

 WinDVDのVC-1再生のような素晴らしい効果を見せる結果があるので、MPEG-4 AVCなどの結果も、これがIntel G45の動画再生支援の本来の威力とは思えない。アプリケーション側が支援機能のすべてを使い切れていない、ドライバ側に問題がある、などの理由も考えられるので、この結果は1つの参考として捉えておいたほうが良さそうである。

【グラフ22】消費電力

 最後に消費電力のテスト結果(グラフ22)である。この結果を見ると、Intel G45がアイドル時、ロード時ともに消費電力がうまく抑制されている印象を受ける。Intel G35は90nmプロセス、Intel G45は65nmプロセスで製造されるチップで、この当たりが好影響を及ぼしている可能性は高い。

 同じmicroATXフォームファクターのマザーで、むしろIntel G45搭載製品のほうがオンボード機能はリッチな印象を受けるほどだが、それでも消費電力が10W程度低いというのは好ましい傾向だ。

●まだ未完成の印象は受けるが、とりあえず定番の製品へ

 以上の結果を見てくると、HDD性能が奮わなかったり、HD動画再生支援も十分に機能しているとは言いがたい部分が見られ、まだまだドライバ、アプリケーション周りのチューニングの余地を感じさせる結果にはなった。

 ただ、メモリ周りの性能や、3D性能の着実な進化は見られるし、性能を伸ばしつつ消費電力が低いという理想的な傾向も出ている。これから導入するうえで、Intel 3シリーズ以前の統合型チップセットを選択する理由はないだろう。

 もちろん、絶対的な3D性能の面ではAMDプラットフォームの統合型チップセットには劣るという残念な部分もあり、ゲーム用途を少しでも意識するならば選択すべき製品ではない。従来の概念で、統合型チップセットで十分であったニーズに応えつつ、HD動画再生支援などの新しいトレンドを盛り込んだ製品、という認識に留めておくべきだ。例えば、CPU性能としては定評のあるCore 2 Quadなどと組み合わせた一般アプリケーションユースの環境を、少しでも安価に構築したいといったニーズに適したチップセットといえる。

□インテルのホームページ
http://www.intel.co.jp/
□製品情報
http://www.intel.com/jp/products/chipsets/G45/
□関連記事
【8月25日】Intel G45 Expressチップセットのグラフィック性能を検証
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0825/g45.htm

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(2008年9月9日

[Text by 多和田新也]


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