AMDは9月30日、ビデオカードの新製品「Radeon HD 4550」および「Radeon HD 4350」を発表。Radeon HD 4000シリーズとしては初めてとなるバリュー向け製品となる。この製品の登場により、ハイエンドからバリューセグメントまでRadeon HD 4000シリーズをベースにしたGPUで統一されることになった。定評あるRadeon HD 4000シリーズのアーキテクチャを採用したバリュー向け製品の代表ということで、ここではRadeon HD 4550のパフォーマンスをチェックしていきたい。 ●SPは80基、基本設計はRadeon HD 4600シリーズを踏襲 今回発表されたRadeon HD 4000ベースのバリュー向け製品は「Radeon HD 4550」と「Radeon HD 4350」の2製品。Radeon HD 3400シリーズも当面は併売されるようで、それぞれのプライスレンジは、45~55ドル、39ドル以下、29~39ドルという値が示されている。 その主な仕様は表1、ブロックダイヤグラムは図に示した通り。基本的な設計はRadeon HD 4600シリーズに近く、この5-wayのコア8個を1SIMDアレイとする設計だ。Radeon HD 4550では、これを2基並べる格好とし、SPは合計で80基という計算になる。これに伴い各SIMDアレイ当たり4基を備えるテクスチャユニットは計8個となる。 【表1】Radeon HD 4550の主な仕様
また、図でも分かる通りレンダバックエンド部は1基となっており、4基のレンダバックエンドユニットと、64bit幅のメモリインターフェイスを持つ設計へ変更。トランジスタ数はRadeon HD 4600シリーズの5億1,400万個から、2億4,200万個へ削減されている。 メモリ周りの仕様もRadeon HD 4600シリーズと同じで、GDDR3、DDR3、DDR2の3種類をサポート。Radeon HD 4350については、表に256MB DDR2のみを掲載しているが、これはGPUについての詳しい情報がなかったのでAMDが正式に公表しているラインナップに従ったためである。Radeon HD 4350にGDDR3やDDR3を組み合わせることも技術的には可能と思われる。なお、Radeon HD 4670とは異なり、同一ブランド内でメモリ種別によるコアクロックやメモリクロックなどの仕様に差は設けられていない。 さて、今回テストに使用するのは、512MBのGDDR3を搭載するAMDのリファレンスボードである(写真1)。ちなみに今回試用するモデルはロープロファイルに対応する一方ファンが搭載されたデザインになっているが、AMDの資料にはファンレスでロープロファイル非対応デザインも紹介されている(写真2)。 後者のデザインでは、ブラケットにDisplayPortとHDMIを備える豪華な作りになっているが、テストに使ったロープロファイル対応版はDVIとミニD-Sub15ピン、TV出力という旧来の入出力端子を備えている(写真3)。 メモリチップはSamsungの1Gbit GDDR3チップを4枚搭載(写真4)。計512MBという計算になる。ドライバのメモリ種別の欄が「DDR3」となっているのは少々気になるポイントだ(画面1)。 Radeon HD 3400シリーズなどのバリュー向けモデルでは、従来、この欄は「HyperMemory」となり、容量はメインメモリと共有した際の最大値が記されていた。Radeon HD 4550がHyperMemoryに対応するかどうかは不明だ。少なくとも、この表記である以上、本製品がメインメモリ上にフレームバッファを展開する可能性は低い。だが、256MB搭載モデルなどではHyperMemoryを有効にできるのかも知れないし、逆にHyperMemoryをまったくサポートしていない可能性もある。現在の情報だけでは正確なところは不明である。 動作クロックについては、ATI OverDriveから確認することができ、コアクロック、メモリクロックとも定格動作(画面2)。省電力機能であるPowerPlayにより、アイドル時にはコア110MHz、メモリ300MHzまでクロックダウンさせられている。
●性能を伸ばした統合型チップセットや現行のバリュー向けGPUと比較 それでは、ベンチマーク結果の紹介に移りたい。環境は表に示した通りで、AMD 790GX、Radeon HD 3450、GeForce 9400 GTの3製品と比較する。AMD 3製品については、Radeon HD 4550のテスト用にAMDから配布されたテスト用ドライバを使用。GeForce 9400 GTは先週リリースされた最新ドライバを用いている。 なお、今回のテストはバリュー向けGPUのテストということもあり、各3Dゲームの描画クオリティを下げた設定でテストしているので、ほかの記事との比較はできない。また、テスト条件については、解像度別に3~4パターンとし、負荷が高くなるアンチエイリアスや異方性フィルタを適用した状態のテストは行なっていない。 【表2】テスト環境
「3DMark Vantage」(グラフ1)は、PerformanceプリセットとEntryプリセットに加え、Entryプリセットをベースに、解像度のみを800×600ドットに下げた条件を追加している。ただ、Radeon勢でFeature Testが不安定(完走しない、スコアが明らかに異常など)になる現象が見られたので、今回は結果を割愛している。 結果を見ると、Radeon HD 4550とGeForce 9400 GTの一騎打ちの様相を呈しており、Radeon HD 4550が一歩抜き出た格好となっている。また、Radeon HD 3450に対しては、800×600ドットで2倍、Performanceプリセットは4倍を超える性能を見せており、解像度が高くなるほど差を広げる点を含めて、ひとまず世代の違いを見せつける結果になっている。
「3DMark06」(グラフ2~4)の結果は、SM2.0でスコアのバラツキが目立っているが、GeForce 9400 GTとの比較を大局的に見ると、SM2.0では拮抗、HDR/SM3.0テストでRadeon優位といった格好。高負荷なテストほど優位に立つ傾向が色濃く出ている。また、Feature TestではピクセルシェーダはRadeon HD 4550、バーテックスシェーダではGeForce 9400 GTが、それぞれ強さを見せており、この傾向の違いは興味深いところだ。 Radeon勢同士の比較でいえば、HDR/SM3.0テストよりもSM2.0テストの方が差が大きい結果を見せており、負荷が高いほどRadeon HD 4550の優位性が強まるとも言い切れない結果になっている。
「3DMark05」(グラフ5)も、Radeon HD 4550とGeForce 9400 GTの2つが突出しているが、解像度を上げるほどRadeon HD 4550が差を広げる傾向になっている。その点で非常に分かりやすい数値が出ている。フィルタなどはかけていないのでフレームバッファへの転送の面で、Radeon HD 4550が良さを持っている可能性が高そうだ。
「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ6)はテクスチャクオリティをNormalをベースに設定にしてテストを行なっている。800×600~1,024×768ドット程度であれば実用レベルにある。Radeon HD 3400シリーズでは800×600ドットでも辛い印象を受けるレベルであり、この差は非常に大きな意味を持っている。 GeForce 9400 GTとの差でも、20%前後の差で解像度が高いほど、その差の度合いは大きくなる傾向はほかと変わらない。一方の旧Radeon勢との比較では、2倍を超える差を安定して出せており、テストしたソフトウェアの中でもRadeon HD 4550の優位性が目立っている。また、旧Radeon勢との比較でも高解像度ほど差を広げる傾向を見せている。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ7)は、Highをベースとした設定でテスト。ほかのソフトウェアに比べると、GeForce 9400 GT、旧Radeon勢との比較でも、差の度合いは小さめであるが結果は悪くない。ほかのアプリケーション同様、Radeon HD 4550が好結果を残している点では変わらず、やはり高解像度ほど、ほかのGPUよりも好結果を見せる傾向にある。
「Crysis」(グラフ8)はMedium設定でテストを実施。非常に高い負荷がかかるテストのため、800×600ドットでも平均30fpsを超えるのがやっとという結果で、プレイできなくはないが、実用は厳しだろう。ただ、他GPUとの比較という面では、このクラスでは突出した結果になっており、好印象は残せている。
「Enemy Territory: Quake Wars」(グラフ9)はMediumベースの設定でテストを実施。800×600ドットで平均60fpsを切る程度で、ギリギリ使えるレベルという印象だ。Radeon HD 4550の強さは光るが、全体の傾向としては、ほかのアプリケーションとはやや異なる傾向が出ている。 GeForce 9400 GTとの比較においては、ほかのアプリケーションと似たように解像度が上がるほどRadeon HD 4550が優れた結果を見せるが、旧Radeon勢とは解像度による傾向の変化に統一性がない。ただ、その差は非常に大きなものとなっており、旧Radeon勢が何らかの理由で性能の頭打ちを見せているような結果になっている。
「F.E.A.R.」(グラフ10)はMediumを中心とした設定を利用。このテストでは、GeForce 9400 GTが巻き返しを見せている。しかも、解像度が高くなるほどRadeon HD 4550に対して差を広げる結果となっている。 このテストは描画エンジンのアーキテクチャは古いが負荷はそれなりという性格のものだ。先の3DMark06のSM2.0テストでGeForce 9400 GTがまずまずの結果を見せた通り、やや古めの描画エンジンにおいてはGeForce 9400 GTに対するRadeon HD 4550のアドバンテージが薄れるようである。
「Half-Life 2: Episode Two」(グラフ11)は高クオリティを中心に組んだ設定を利用している。800×600ドットでGeForce 9400 GTが優位に立つという結果はあるものの、大局的にいえばほかのアプリケーションと大きな違いのない結果だ。 ただ、旧Radeon勢との比較では、ET:Quake Warsと似たように解像度の変化による統一した傾向が出ないという結果を見せた。アプリケーションによっては、こうした結果になることがあるという点で留意しておくべきだろう。
「World in Conflict」(グラフ12)はMediumプリセットを利用している。GPU側が負荷になるときはメモリ周りの性能がパフォーマンスが左右する傾向が色濃い本アプリケーション。こうした傾向から予想できる通り、他のGPUに対するアドバンテージが非常に大きい結果なった。ここまでの結果でも見えてきた通り、比較対象の各GPUに対して、解像度が高くなるほど良い結果を見せるということは、メモリアクセス性能の良さを示すものでもある。これは妥当な結果だ。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ13)は低設定を中心にした描画設定をテストに利用。GeForceシリーズに最適化されたアプリケーションということもあって、GeForce 9400 GTが非常に強い結果を見せている。 1,600×1,200ドットの結果ではRadeon HD 4550のポテンシャルを感じさせるものにはなっているが、絶対値は非常に小さいところでの優位性に過ぎない。このアプリケーションについては、実用上、GeForceの方が向いていることは動かない。
「Unreal Tournament 3」(グラフ14)はテクスチャクオリティなどを3に設定してテストを行なっている。全般にRadeon HD 4550が良い結果ではあるが、描画エンジン的にはGeForce 9400 GTにとっても悪くないようで、高解像度になるほど差を詰めるという希有な例になっている。こうしたアプリケーションもあるという参考にはなりそうだ。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ15)。電源はクーラーマスターのRealPower Pro 1000Wを使用している。旧Radeon勢に比べると消費電力は増えているが、差は小さい。また、GeForce 9400 GTとは似たようなレベルであるがアイドル時にかなり抑制されているのが特徴となっている。 いずれもGPUとしてはバリュー向けセグメントに位置付けられることもあって、消費電力の差は非常に小さな差になっている。ということは、純粋にパフォーマンスや機能面を中心に製品を選択していけるということもいえるのではないだろうか。
●名実ともに新世代のバリュー向けGPU 以上の結果を見てくると、旧Radeonからの性能の伸びがとにかく目立つ結果といえる。AMD 790GX、Radeon HD 3450の2倍を超えるアプリケーションも多く、同一セグメントに位置付けられる製品の伸びとしては極めて優秀だ。 GeForce 9400 GTに対しても、多くのテストで優位性のある結果を見せている。価格帯では競合が予想される製品ではあるが、絶対的なパフォーマンスはもとより、消費電力とパフォーマンスの観点から見ても魅力的な製品といえる。 正直なところ筆者は、AMD 790GXが登場した時点で、今後バリュー向けGPUの価値が下がるのではないかと考えていた。実際、今回のテストでもRadeon HD 3450よりもAMD 790GXの方が性能が高くて総合価格は安いので魅力は高い。 だが、このようなパフォーマンスを見せつけられると、多少考えを改めざるを得ない。日本円では高くても8千円台のラインに収まるミッドレンジと統合型チップセットの隙間を埋めるセグメントだが、パフォーマンスの面では強いインパクトを持ったものといえる。 また、Radeon HD 4000シリーズは、旧ATI/AMDらしく、初の製品から約3カ月という短期間で全セグメントを一新。しかも、ラインナップすべてにおいて飛躍的に性能を伸ばした名GPUと呼んで差し支えない製品といえるだろう。統合型チップセットへの実装や、現行製品の隙間を埋める製品などなど、さらなるラインナップの展開にも期待したい。 □関連記事 (2008年9月30日) [Text by 多和田新也]
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