●コードネームは「Snow Leopard」
Steve Jobs CEOによると、Mac、音楽事業、そしてiPhoneがAppleの三本柱だという。 その言葉にもかかわらず、今回のWWDC 2008のキーノートは、ほぼiPhoneで占められていた。おそらくそれは、今後の最も大きな伸びを見ている事業であるからだろう。そのとばっちりというわけでもないが、次期Mac OS Xについては、コードネームが「Snow Leopard(雪豹:ユキヒョウ)」ということ以外、ほとんど何も情報は与えられなかった。 これを補うかのように、午後遅くになってSnow Leopardに関するプレスリリースが出された。が、そのどこにもSnow Leopardの正式バージョンさえ書かれていない。10.6になるのかどうかさえ明らかにされていないのである。10.5 Leopardの次にわざわざSnow Leopardをもってきたということは、これは10.5.xになるのか、という気もしてくるのだが、AppleではSnow Leopardを次の「メジャーバージョン」と呼んでいる。プレスリリース表題の「Mac OS X Snow Leopard」という表記から考えてOS 11(OS XI)ということはないだろうが、10.6になる可能性は高い。 ●新機能より基板技術に注力
このSnow Leopardの特徴としてAppleが挙げているのは、基盤技術の更新。新機能の搭載にフォーカスするのではなく、将来のOS Xの革新に向け基礎を築くことに主眼を置くという。唯一、MicrosoftのExchange 2007との連携が加えられることだけは明らかにされているが、これ以外にエンンドユーザー向けの新機能はないことになる。 機能追加は、一度お休みして、次に備えた土台を整備しますという「理屈」は理解できるのだが、果たして既存のユーザーがお金を払ってまでアップグレードしたくなるものになるのか、という点に疑問が残る。あるいは、開発者はアップグレードする必要があるけれど、エンドユーザーはまで待って構わない、というメッセージなのだろうか。それも考えにくいことだ。 いずれにしてもリリースが約1年後、つまりは2009年にはリリースされるわけだから、そう遠くない将来、答えは得られるハズだ。 なお、基盤整備としてあげられているのは次の5点だ。
マルチコアプロセッサのサポート強化として、「Grand Central」というコードネームの新技術が導入される。Grand Centralと言って連想するのは、なんと言ってもニューヨークのグランドセントラル駅(Grand Central Terminal)。鉄道と地下鉄が発着する駅であり、さまざまなトラフィックが交錯する。要は、数多くのスレッドを効率的に処理する、というイメージだろう。 GPGPUを活用する「OpenCL」は、Open Computing Languageの略。GPUの処理能力をどのアプリケーション(グラフィックス以外のアプリケーション)でも利用可能にするとしている。オープンスタンダードということが、何を意味しているのか(C言語をベースにしたという言語仕様か、それともライブラリのソースコードを公開するのか、等)は分からないが、Appleが採用する複数のGPU(Intel、ATI、NVIDIA)に共通して使えるものになることだけは間違いない。 メモリサポートの拡大ということについてプレスリリースは、システムメモリのソフトウェア制限を16TB(理論値)まで引き上げるとしている。PCユーザーになじみのある言い方をすれば、OSがサポートする仮想アドレス空間を16TBまで拡張する、ということだろう。ちなみに16TBの仮想アドレスは、64bit版のWindowsと同じである。 QuickTime Xについては、iPhoneで取り入れられたメディア技術を使い、最新のオーディオ/ビデオフォーマットに最適化されたサポートを提供する、としているが、具体的に何がどう変わるのかについては、明らかになっていない。また、Snow Leopardは、これまでで最も高速なJavaScriptの実行環境を備えたSafariを搭載し、同じハードウェア(iMac 2.8GHz Core 2 Duo、2GBメモリ)で53%の性能改善が果たされるという。 ●仮想化技術をどのように取り入れるか こうした基盤技術の整備に加えて、Exchangeのサポートが加わる。Snow LeopardではMac OS XのiCal、アドレスブック、メールをExchangeと同期可能になる。現在、Macintoshの売り上げはかなり良好で、頭打ちになっているiPodに代わりAppleの業績の牽引車となっている(特に米国)。この勢いがあるうちに、従来からの強みであるコンシューマ市場に加え、ビジネス市場も攻略したいというのがAppleの狙いだろう。 また可能性として考えられるのは、Appleのサーバーハードウェア上でExchangeを実行することだ。要するに、Xserve上の仮想環境でWindows Serverを動かし、そこでExchangeを実行するというイメージだ。
現在、PCサーバーの世界では仮想化が当たり前のものになりつつあるが、残念ながらそこにLeopard Serverの存在感はない。もちろんその大きな理由は、Appleが自社製ハードウェア以外でMac OSの利用を禁じており、PCサーバー上の仮想環境で利用することができないからだ。 他社のハードウェアで自社OSを動かすことを認めないなら、次善の策として自社のハードウェアで他社のサーバーOSやアプリケーションをサポートするしかないし、今となってはそれを仮想化技術抜きに語ることはできない。これが実現できなければ、本格的にビジネス市場に浸透するのは難しいだろう。OSを販売するMicrosoftにとっては、自社の製品が使われるプラットフォームが増えるわけで、悪い話ではない。 まだ雪豹は、名前が明かされただけで、ぼんやりとした姿さえ見せていないが、かえって想像の余地を与えてくれる。徐々に、その正体が明らかになるであろうことを楽しみにしながら、来年を待ちたいと思う。
□Appleのホームページ(英文) (2008年6月11日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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