●注目を集めるSSD
当初はデジタルカメラやMP3プレイヤーの記録媒体として考えられていたNANDフラッシュメモリだが、ここにきてPC用の記憶装置として脚光を集め始めた。 ReadyBoost/ReadyDrive/SuperFetchなどWindows Vistaが性能向上を図る「キャッシュ」としてNANDフラッシュメモリをサポートしたこと、このVistaのアクセラレーション技術に対応するデバイスとして、IntelがNANDフラッシュメモリによる内蔵デバイスをTurboMemoryの名前で製品化したことはよく知られた事実だ。 さらには、HDDを丸ごとNANDフラッシュメモリによるストレージデバイス、SSD(Solid State Drive)で置き換えることさえ視界に入ってきた。5万円を切る価格で注目され、商品としてもヒットしたASUS「Eee PC」は、HDDを搭載せず、内蔵ストレージを4GBのSSDで済ませている。 Eee PC以前に、東芝などが先行して発売したSSD搭載機種は高価で、一般のユーザーにはまだ手の届かない存在だと思われていた。そこに小容量とはいえ、低価格なEee PCに搭載されたことによって、一気に身近に感じられるようになったのである。また、秋葉原の店頭に2.5インチHDD互換のSSDユニットが登場し始めたことも、SSD人気をあおるのに一役買っている。
この分野で注目される企業の1つがSanDiskだ。先週開催されたCOMPUTEX TAIPEIで、低価格ノートPC(ULCPC)向けのストレージデバイスである「pSSD」を発表した同社は、NANDフラッシュメモリチップの製造(東芝との合弁)、コントローラとファームウェアの開発、最終製品の開発/販売のすべてを自社で行なうというユニークな立ち位置にある。そのSanDiskでSSD事業のジェネラル・マネージャーをつとめるRichard Heye上級副社長が来日し、短時間ではあるが話をうかがることができた。ここでは、その話も含めて、SanDiskのSSD事業について紹介することにする。 ●ノートPCとサーバーがSSDを引っ張る 冒頭でも述べたように、これまでNANDフラッシュメモリの市場は、SDカードのようなリムーバブルストレージや、iPodに代表されるデジタル音楽プレイヤーに牽引されてきた。しかし、デジタルカメラ市場、デジタル音楽プレイヤー市場ともに成長は鈍化しつつある。これらに代わって、NANDフラッシュメモリの市場を牽引するものとして期待されているのがSSDだ。
SanDiskによると、SSD市場で最も大きな伸びが期待されているのが、ノートPCに代表されるポータブルPC、次いでサーバーだという。サーバーというのは少し意外かもしれないが、すでにIBMのブレードサーバーにブートデバイスとして採用されているほか、メモリとHDDの間に位置づけられるストレージとして、注目を集めつつある。PCに比べてコスト吸収余力が大きいことも、高価な大容量SSDの市場としてサーバーが期待されている理由だ。
最も大きな市場になることが期待されているポータブルPC市場のうち、SanDiskが普及が進むと期待している順番は次の通り。
企業向けPCにSSDの普及が期待されているのは、SSDの特徴である信頼性やデータの安全性といった特質が、企業に好まれると思われるからだ。消費電力の低さもグリーンITを標榜する企業ユーザーに、好ましく受け止められるだろう。 加えて、企業向けPCであれば、大容量は求められない。音楽やムービーといったかさばるメディアファイルとは無縁な上、大量のデータを持ち出されることを経営者は決して望まないからだ。実際、企業ユーザーの多くは64GB以下のHDDを利用しており、SanDiskの社内調査によると72%が32GB以下のHDDを利用しているということであった。
このクラスの容量であれば、現時点でもSSDでカバーできる。今後もムーアの法則により記録密度が向上するSSDは、そう遠くない将来に、容量で1.8インチHDDに完全に肩を並べると考えられており、今後仮にマルチメディアファイルを利用したプレゼンテーションが爆発的に普及したとしても、企業のノートPCに求められる容量は十分まかなうことができるハズだ。 ●コンシューマ向けはULCPCが牽引 一方、コンシューマ向けのPCだが、バイト単価、ドライブとしての絶対価格、容量の点から、普及は遅れると見られている。その例外が「ULCPC」だ。ULCPCというのはMicrosoftの呼称であり、UMPCあるいはNetbookと読み替えてもらっても構わない。Eee PCに代表されるミニノートPCの総称だ。 COMPUTEX TAIPEIで発表されたpSSDは、ULCPCを前提にしたSSDである。接続インターフェイスは、1.8インチHDDに採用されているものと同じZIFソケットによるパラレルATA。SATAではなく、あえてPATAにしたのは、ULCPCのSouthBridgeチップが必ずしも最新の製品とは限らない状況を受けたものだろう。
内蔵デバイスとしてマザーボード上に実装されることを考慮して、基板がむき出しのデザインとなっており、HDDと互換性のある形状にはなっていない。容量は4GB/8GB/16GBの3種類で、16GB以下のSSDというMicrosoftによるULCPCの定義にならった格好だ。 使用するNANDフラッシュチップは大半がMLC(マルチレベルセル)で、一部SLC(シングルレベルセル)を併用する。SLCの方が高性能で書き換え可能回数も多いが、コストが高く、大容量かつ安価が求められるULCPCのストレージをSLCだけで製造することは難しい。 pSSDの価格は公表されていないが、250~300ドル程度のULCPCに採用されることを想定していることから考えて、数十ドルからせいぜい100ドル程度だと思われる。こうした低価格を実現する一方で、一定の性能(pSSDの公称性能はRead 39MB/sec、Write 17MB/sec)を確保するには、MLCを中心にするしかない。 幸いSanDiskは、製造面やコントローラを含めて、MLCに対する豊富な技術的蓄積を持つという。pSSDは、十分な代替セクタを確保することで長い製品寿命を確保しており、一般的な利用であれば10年近い利用が可能とのことである。加えて、S.M.A.R.T.機能もサポートしており、故障を事前に予想することが可能だ。 このpSSDでも明らかなように、SanDiskではSSD製品を当面OEM向けにのみ出荷する計画だ。これはまだ市場が十分な規模に成長していない早期の段階にあるため、リテール販売を急ぐとサポート等のコストで製品が割高になってしまうことを防ぐためである。ただ、PCに内蔵されてしまうと、どこのSSDであろうと、区別はつかない。言い換えれば、SanDiskは消費者に対して製品の差別化を訴えることができないことになる。 これを克服する1つのアイデアとして、Intel InsideならぬSSD InsideのロゴをPCにつけてもらう、といったことも検討しているらしい。が、まだ市場はこれから立ち上がるところ。今は自社のシェアを気にしてロゴを押しつけることより、SSD市場というパイ全体を大きくすることを優先したい、ということであった。 ●MicrosoftにSSDのOSサポートを提案 現在、SSD市場の拡大を阻害する最大の要因は価格だが、もう1つの問題がOSのサポートにあるという。現時点で最新のOSであるWindows Vistaでさえ、そのファイルシステムはHDDを念頭に開発されており、SSDに対して最適化されているわけではない。OSからのアクセスは4KBというHDDのセクタサイズ(512Bytes)を踏まえたもので、決してSSD向きではない。デフラグ、インデクシング、SuperFetchなどの動作についても同様だ。HDD用のベンチマークテストでは、SSDの真価を語ることもできない。 SanDiskではMicrosoftにファイルシステムをSSDに対し、最適化はされないまでも、負荷の少ないものにするよう、働きかけを行なっているという(ただし4KBブロックを変えるのは難しいようだ)。と同時に、数MBあるメディアファイルの記録に最適化された既存のNANDフラッシュメモリコントローラを、SSD向けにPCのファイルシステム用途に最適化されたコントローラに改良していく努力も行なっているとのことであった。 現在市販されているSSDは、多くがまだ第一世代とでも呼ぶべき製品だ。製品化に際しては、どうしても確実な動作、既存の環境に適用して不具合が生じないことを優先する必要がある。SSDがそのポテンシャルを完全に発揮できるようになるまでには、SSDそのものの改良だけでなく、OSやホスト側のコントローラも含めた環境の整備が欠かせない。注目を集めている市場だけに、順調な立ち上がりを期待したい。 □SanDiskのホームページ(英文) (2008年6月10日) [Reported by 元麻布春男]
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