元麻布春男の週刊PCホットライン

iPhone 3Gに終始した「WWDC 08」




●記録的な入場者を集めた“開発者向けイベント”

 今回の「WWDC 08」は、事前からiPhone 3Gの発表が確実視されていたせいか、記録的な入場者数となったようだ。初日のキーノートスピーチにおいてSteve Jobs CEOは、5,200人の開発者が参加する過去最大規模のWWDCになったことを告げた。

 そして開発者向けという本来は地味であるハズのイベントが「売り切れ」となり、希望者のすべてが参加できなかった事態を詫びた。「これ以上、大きな会場が見つからなかったんだ」と。

 確かに会場とそれをとりまく熱気はなかなかのものだ。例によってキーノートを聞こうとする参加者は、夜中から会場のMoscone Westを取り囲んだ。キーノートが始まる3時間前、朝の7時には列はMoscone Westをほぼ半周していた(もちろん1列で並んでいるわけではない)。間口はともかく、Moscone Westの奥行きの深さを考えると、驚異的なことだ。

Moscone Westを取り囲む参加者。入り口は建物の左手、角を曲がったところにある 参加者の列は入り口とは反対側、建物の右手の角を曲がり、奥行き方面へと延々と続く

セッション数ではMacの方が多いが、主役は完全にiPhone

 イベントとしては間違いなく大成功のWWDC 08だが、キーノートの中身も大満足だったかというと、筆者的には必ずしもそうではなかった。冒頭、Jobs CEOは、Appleの三本柱として、Mac、音楽事業、iPhoneを挙げた。だが、Mobile Meのようなプラットフォーム共通の話題をのぞくと、ほぼ100%がiPhone 3Gの話題で占められている。

 次期Mac OS XとなるSnow Leopardについては午後のセッションで、というアナウンスはあったものの、キーノート以外がNDAのこのイベントでは、話題にならない(できない、か)のも無理はない。

 WWDC 08に用意された147のセッションのうち、85がMac関連、62がiPhone関連とJobs CEOは紹介した(実際にはプラットフォームに共通の話題もあるから、こうきれいには分けられないのだが)が、キーノートにこのバランスは反映されていない。それだけiPhoneに力を入れている、ということなのかもしれないが、これ以上大きな会場が見つからず、参加者が入りきらないというのであれば、コンピューター(Mac)のイベントと携帯電話(iPhone)のイベントを分けざるを得ないのではないかと思う。おそらく北カリフォルニアにはMosconeより大きなコンベンション会場はない(しいて探せば球場やスタジアム/アリーナになる)。

 もう1つ疑問を感じたのは、iPhoneというテーマの中でとりあげる話題という切り口から見てもバランス的にどうか、ということである。キーノートのタイムテーブルは、おおよそ次のようなものだった。

5分間イントロ/アジェンダSteve Jobs
3分間iPhone法人ユーザー紹介ビデオ
45分間iPhone 2.0 SDKと階発中のサードパーティ紹介Scott Forstall
10分間AppStoreとエンタープライズサポートSteve Jobs
15分間Mobile Meの紹介Philip Schiller
20分間iPhone 3Gの紹介Steve Jobs

 問題は、最多の45分間を費やしたScott Forstall氏のパートだ。この45分間のうち約30分がサードパーティの紹介にあてられた。しかし、ここで紹介されたサードパーティの数は13社。1社あたり2~3分間というあわただしさで、顔見せ以上の意味が感じられなかった。Scott Forstall氏は、iPhone Software担当の上級副社長(シニアバイスプレジデント)という肩書きを持つ。以前はMac OS Xのユーザーインターフェイスを担当していたこともある人物で、サードパーティの呼び出し役以上に語るべきことがあるのではと思ってしまう。このパートのおかげで、中身が薄く感じたのは筆者だけではないハズだ。

紹介されたiPhone対応アプリには医療用イメージに間するものなど、バーチカルなものも多く含まれる iPhone Softwareを担当するシニアバイスプレジデントのScott Forstall氏 Mobile Meの紹介を行なったPhilip Schiller氏はWorld Wide Marketing担当のシニアバイスプレジデント

●Jobs CEOの出演時間は約35分

 さて、こうやってキーノートの時間配分を数字にして並べてみると、Steve Jobs CEOが登壇していた時間が35分程度であること、製品としてのiPhone 3Gに触れたのが最後の20分間に過ぎないことが分かる。

 Appleは、必ずWWDCの1カ月ほど前に基調講演の予定に関するプレスリリースを出す。今年は5月13日付で、今回のWWDCについて、「ステーブ・ジョブズを始めとするアップルのエグゼクティブたちによる基調講演で開幕する」と発表している。ちなみにこの5年間で、事前発表のキーノートスピーチ担当者がどうなっているかというと、次のようになっている(日本語プレスリリースの見出しにおける表記)。

  • 2004年 スティーブ・ジョブズ
  • 2005年 スティーブ・ジョブズ
  • 2006年 アップルのエグゼクティブ
  • 2007年 スティーブ・ジョブズ
  • 2008年 アップルエグゼクティブ

 少なくとも1カ月前には、今回のキーノートの構成は決まっていたのだろう。

 これを調べる前は、ポストJobs時代に向けて、徐々にエグゼクティブチームによるキーノートに切り替えようとしているのではないかと思っていたが、予想は外れた。昨年のキーノートを行ったのもSteve Jobs氏である。

 が、WWDCに限らず、以前はキーノートというと、自分でプレゼンテーションをあやつり、デモを操作するJobs氏の姿を見てきただけに、登壇時間が全部で35分間しかなかったこと、それも連続ではなく休み休みだったことに懸念も感じる。見た目でもちょっとやつれたような印象もあり、海外のメディアでは、Jobs氏が再び体調を崩しているのではないか、という観測まで囁かれている。

 もちろんこれは単なる憶測にすぎないものだが、以前、ガンであることを公表するのに時間がかかった「前科」から、こうした憶測が絶えないのだろう。と同時に、株主を含め、ポストJobsに不安を持っている人がそれだけ多い証でもある。この点に関しては、創業者であるBill Gates会長の引退をつつがなく執り行ないつつあるMicrosoftの方が上手なようだ。

□Appleのホームページ(英文)
http://www.apple.com/
□関連記事
【6月10日】【WWDC】【基調講演速報】iPhone 3Gを7月11日に世界同時発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0610/wwdc01.htm

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(2008年6月12日)

[Reported by 元麻布春男]


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