AV機能を持つPCを、宅内におけるTVを窓口とするAVシステムの一部として利用しようという切り口。ただしPCをAVシステムの一部としてしまうと、デスクトップPCとしても利用したい場合は使いにくい部分も出てくる。デスクトップPCとして使うなら、机の上でPC用ディスプレイで使った方が楽だからだ。 もちろん、ホームサーバPCをデスクトップで使ってもいいとは思うが、主な接続相手はHDMI付きのTVだろう。ではデスクトップPCとしての能力を完全に引き出せない、もったいないPCなのか? というと、ちょっと違う。 PCリモーターと名付けられた専用の小型端末向けに、Luiの持つ豊富なAVコンテンツをサービスするサーバとして機能させればいい。ホームサーバPCで各種メディアを一元管理し、それをネットワーク経由でさまざまな場所において楽しもうというわけだ。 加えてLuiには、ユニークな画面共有機能もある。Windowsでの画面共有と言えばリモートデスクトップがあるが、Luiの画面共有(ホームサーバPCのリモート操作)はちょっと趣向が異なる。リモートデスクトップは描画情報をネットワークでやりとりし、クライアント側で描画を行なう。ところがLuiは画面全体を動画として送信し、PCリモーターでは画面を動画として見る(もちろん、キーボードやマウスなどの入力を中継する必要があるため、単なる動画サーバではないが)という形態を採用している。 ホームサーバPCには独自の画面共有を行なうためのLSIが搭載されており、画面を圧縮して動画で送信する。このLSIは動画をPCリモーターに配信する際に使うものと同じだ。では、なぜここまでする必要があったのか。たとえば、リモートデスクトップと同様の手順(RDP)を用いて、動画だけは別のストリームで配信するという手もあったのではないか? と疑問がわき起こってくる。
●内部技術を統合したLuiの狙い
このあたりについて、Luiの開発責任者であるNECパーソナルプロダクツ ユビキタス事業開発本部長の栗山浩一氏に話を伺ってみた。 「NECは黎明期からずっとPC事業をやってきて、以前は独自アーキテクチャでその時々にさまざまな取り組みを自由に行なうことが、他社との差異化になっていました。しかし、その後はオープンアーキテクチャになり、あらゆる用途がデファクトスタンダード化されてきました。PCは多機能化してきて、NECも積極的に新しい技術を取り込んできましたが、結局、同じことは他社でもやっていますから差異化にはならない。この流れの中で、どう独自性を出していくかがテーマでした」と栗山氏。 そこで栗山氏が考えたのが「家族にひとりぐらいはPCを使う人もいるでしょうけど、中にはPCという切り口ではホームネットワークの世界に入ってこれない人もいる。彼らにどのようにしてPCを活用してもらうか」という切り口だ。 放送のデジタル化があって、ストレージの大容量化、各種製品のネットワーク化、多チャンネル録画といったトレンドがあって、多様なデジタルメディアをいつでもどこでも楽しめる環境はできあがってきている。足りないのは、ユーザーにもっと積極的に使いこなしてもらうための仕掛けだと考えたわけだ。 「こうした切り口でNEC内部の技術を見直してみると、以前、レコーダを開発していたAXシリーズのチームが、放送のデジタル化を行なう中で多チャンネルの同時ストリーム配信の研究開発を行なっていました。そこで、いつでもどこでもというユビキタスコンピューティングの技術と、AXチームのやろうとしていたマルチビデオストリーム配信技術を組み合わせ、1つのコンセプトにまとめたのがLuiなんです(栗山氏)」 ということで、PCリモーターはPCの機能をリモートで使うことが主ではなく、リビングPCの中にあるメディアをリモートで楽しむことが主眼だったわけだ。そもそもLui ServerをリビングPCと読んでるが、その中身はLinuxベースで構築したビデオレコーダ+Windows PCで、内部はGigabit Ethernetで接続されている。ビデオレコーダとPCを1つにして、外から見た時には1台のように振る舞うというところが、Luiを特徴づけており、単なるMedia Center PCではないところだろうか。 映像の圧縮に関しても、単に動画を圧縮するだけでなく、文字が表示されているPC画面を高画質に圧縮・再生する技術も必要になるが、こちらもNEC内部に存在していたという。これらにシンプルにVPNで自宅に接続する技術や、インターネット越しに自宅のLui Serverの電源を入れるといった技術など、各種の要素技術を集めてコンシューマ向けにアレンジしていった。 リビングPCのリモート利用に狙いを定めた理由は、筆者が類推していたような理由もあるが、一般的なサラリーマンの仕事スタイルでは自宅に帰ってから1~2時間もPCを使えれば良い方で、なかなかPCを使う時間を作れないといった現状への回答という意味合いもあったという。 なお、原理的には手持ちのPCに、PCリモーターのエミュレータをインストールしてLui Serverにアクセスしてもいい。栗山氏は「互換性の確保が完全にできない」ことを理由にしていたが、自宅にアクセスしたいと思うとき、必ずしも端末を持っていないケースもあるだろう。 ●もう少し“パソコン的”に もしActive XコントロールでPCリモーターのエミュレーションができたなら、いざという時に誰かのPCを借りて自宅にアクセスできるのだろうが、栗山氏は「Windowsリモートデスクトップと機能や用途が被るので、そこに力をかけたくない」と否定する。 ただし、PCリモーター機能を実現する技術に関しては「クライアント部分のライセンスは積極的に仕掛けたい(栗山氏)」と話す。NECが提供するPCリモーターだけでは、広がりがないからだ。さまざまな機器にPCリモーター機能を拡げることで、自宅に置かれているLui Serverの価値が高まるからだ。 ただ、個人的にはPCリモーターが、ほぼ純粋にリモーターとしての機能しか持たない点が気になった。もし、発表されていた2つのPCリモーターが、テキストエディタや簡単なメールクライアント、Webブラウザを備えていたなら、ネットワークに繋がらない場所ではHandheld PC的に使える。そうすれば、PCリモーターを持ち歩くモチベーションも上がると思うのだが……。 「その点は社内でも議論しましたが、開発のリソースをどこにかけるか? という取捨選択の中で、優先すべきなのはPCリモーターを単体でも使える商品に仕上げることではないという結論になりました。将来を見渡すとWiMAXによる広域無線WANが普及するでしょうし、ネットワークにつなげない環境は少なくなっていきます。それに、PCリモーターはPCではないので、どんなに機能を強化してもPCにはかないませんから、PCのユーザーからは必ず不満の声が上がります。ならば、そこに力を入れるよりもLui本来のAVPCとレコーダ機能を出先でも楽しめるようにする、という部分に力を入れました」 ここからは個人的な感想となるが、もう少し“パソコン的”使い方に寄っていても良かったのではないか? と、実際に発表したLuiを見て感じた。ネットワーク対応のハイビジョンレコーダとPCを一体化した製品なのだから、レコーダ部の映像を出先で見るだけでなく、PCとしてのLuiを出先で使いたいというニーズも小さくはないと思う。 リビングの主役はあくまでTVとするなら、PCは脇役。しかもネット越しに使うとなると、見えない向こう側にあるサーバが持つ付加価値が見えづらい。 それでも今回、インタビューを行なってみた最初の理由は、ネットワーク透過にさまざまなデータ、ソフトウェア、ハードウェアが繋がることで、新しい使い方が生まれるかもしれないと思ったからだ。たとえばPCの機能を、MIDやスマートフォンからも利用できれば、携帯電話からも自由にアクセスできたら。そして、PC上のメディアデータを携帯機器に最適化してダウンロードできたら、さらにリビングPCの利用価値も高まる。 技術的な問題よりも、見せ方、操作のシンプル化などで、ユーザーの意識を変えることができるかどうかが、Luiのようなコンセプトを活かすためには必要なことかもしれない。 □関連記事 (2008年4月30日) [Text by 本田雅一]
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