大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

いよいよVistaの巻き返しがはじまる?
マイクロソフトが打ち出す「決めるなら、この夏。」とは




 いよいよVistaの巻き返しが始まりそうだ。

 マイクロソフトは、4月以降、PCメーカーから順次発売されるPC夏モデルをきっかけに、Vistaの販売促進に本腰を入れる考えだ。

 そのキーワードは、「決めるなら、この夏。」。

 まるで女性向け化粧品か、夏の航空会社の旅行キャンペーンのようなフレーズだが、「とにかく、わかりやすいメッセージを、業界内に浸透させ、統一感を出すのが狙い。あえて、ベタなキャッチフレーズを用いたのも、そのため」と、マイクロソフトWindows本部コンシューママーケティング部の藤本恭史マネージャは語る。

 しかも、この夏商戦の訴求ポイントを、TV機能に集中させてきた。これまで、Vistaでは5つの用途シナリオを用いて、さまざまな利用シーンを提案してきた。もちろん、これらは継続的に展開されることになる。

 だが、この夏は、PCメーカー各社もTV機能で足並みを揃え、個室でのTV視聴にPCが最適であること、リビングの薄型TVにPCを接続した利用が可能であることに提案を集中したプロモーションを実施することになる。

ユーザー調査結果

 「昨年8月のユーザー調査では、『今持っているPCでは、今はやっていないが、今後やってみたいこと』という設問に対して、『TV番組の視聴をしたい』、『TV番組の録画をしたい』という回答が最も多かった。既にPCにはTVチューナーが搭載され、HDDに録画できるようになっているにも関わらず、こうした答えが多いということは、PCでTVを見る、録画するという使い方が浸透していないことの証。ここに大きな反省があるとともに、需要拡大のチャンスがあると判断した」(藤本マネージャ)という。

 毎回、オリンピック需要では、デジタルAV機器に需要を奪われ、苦汁を飲まされて続けてきたPC陣営が、あえて、TVという切り口から、リベンジを狙うという構図だ。

●低迷続くPC市場に回復の兆しか?

 昨年1月のWindows Vista発売以降、PC本体の市場環境は厳しいままだ。

 BCNの調べによると、2007年度(2007年4月から2008年3月まで)における量販店店頭でのPC販売実績は、前年比3.1%減とマイナス成長となっている。月別の推移を見ても、12カ月中8カ月が前年割れの実績となっている。

2007年度のPC販売実績推移

講演するマイクロソフトの大場章弘氏

 ここからも、Vistaが市場を喚起しなかったことがわかる。

 このままPC業界が苦手とするオリンピック商戦に突入すれば、PC市場の停滞感があまりも深刻なものになる。これを打破するためにも、業界を巻き込んだ販売促進策が必要なのだ。

  幸いにも、3月のPC店頭市場は、過去1年間で最大の成長率となる前年同月比8.4%増を記録している。この勢いをオリンピック商戦に向けて維持したいところだ。

 マイクロソフトの業務執行役員Windows本部長の大場章弘氏は、「3月にはコンシューマ市場が回復基調にあることは、我々の市場調査からも実感している。Vistaによって市場に弾みをつけ、4〜6月もPC市場全体で、1桁台の成長率を維持したい」と意欲を見せる。

●Vista SP1も需要拡大のきっかけに

 実は、マイクロソフトには、Vistaの発売以降、Vista搭載PCの購入を、促進するきっかけが作れなかった反省がある。さらに、マイクロソフトのメッセージが、ユーザーに伝わりにくいという状況すら生み出してきた。

 その最たる例が、互換性の問題だ。

 マイクロソフトは、これまでWindows Vistaにおいて、Windows XPに比べて短期間で高い互換性を達成したとコメントしてきた。

 「出荷開始後150日後のXPの6年分の製品対応数を達成している」、「店頭で販売される一般製品上位90%以上を網羅している」というような事例も出して見せた。

 だが、Vista発売初期の段階で、iTunesやAcrobat Readerといった主要ソフトが動作しないとの情報が広まったこと、オンラインゲームの動作確認が遅れたことなどで、ユーザーの間ではVistaの互換性の低さが取り沙汰される結果となっていた。

 マイクロソフトでは、その後の修正モジュールの公開によって、既に、こうした課題は解決されているとしたものの、なかなかそのイメージは払拭されないまま。依然として、互換性が低いという印象が先行する状況だった。

 だが、マイクロソフトは、この夏モデル発売のタイミングで、こうしたイメージを払拭することができそうだ。

 というのも、Vista Service Pack 1(SP1)が3月19日から公開され、4月中旬からの自動更新の実施。そして、夏モデルへのSP1の搭載というように、Vista SP1による新たな訴求が可能だからだ。

 かつてのWindows XP SP2では、自動更新をしているユーザーも、サービスパックをインストールする必要があり、これによってセキュリティ環境が大きく改善された経緯がある。それに比べると、SP1のインパクトは本来ならば小さい。

 だが、SP1をきっかけにして、Vistaの互換性が向上していることを、改めて訴求することが可能になるともいえるのだ。その点でもVistaへの関心を高め、誤解を払拭する機会を得たともいえる。

 また、SP1によって、ファイル検索、起動、ファイル圧縮、DVD-Rへの書き込みといった点で高速化が図られている。これも、訴求できる要素の1つとなる。

 このように、SP1は、機能的な進化だけでなく、マーケティングの観点からも、大きな意味を持つといえよう。

 「いまこそ、Vistaを購入していただくのに、最高のタイミング」(藤本マネージャー)というのも、SP1の進化が、需要拡大に向けた訴求チャンスになると考えているからだ。

 実は、マイクロソフトが、今回のSP1の訴求において、VistaにSP1が当てられていない環境と、性能を比較するのではなく、XPの環境と比較している。これは、XPユーザーに対して、いよいよVistaへの買い換えのタイミングである、ということを訴求する意味が込められているためと見ることができる。

●業界全体を巻き込んだWDLCの取り組み

66社が参加したWDLCコンソーシアム

 そして、もう1つ見逃せない動きが、WDLC(Windows Degital Lifestyle Consortium)によって、業界全体を巻き込んだ仕掛けに取り組んでいることだ。

 66社が参加したこのコンソーシアムでは、PCメーカー、周辺機器メーカー、ソフトメーカーだけでなく、量販店や放送局、コンテンツホルダーなども参加。異業種を巻き込んだ形で、PCの利用拡大に向けた提案を模索している。

 ここでは、シナリオ分科会を設け、その中に、デジタルライフスタイルの拡大によるPC利用用途と利用者層の拡大を目指すPCライフ分科会(座長・NECパーソナルプロダクツ、参加企業25社)、PCをプラットフォームとするケームユーザーの拡大を狙うゲーム分科会(座長・MCJ、参加企業11社)、家電とPCを組み合わせることでより快適で便利なソリューションを提案するデジタル家電連携分科会(座長・ソニー、参加企業22社)、PCのユビキタス利用の促進を図るユビキタス利用分科会(座長・富士通、参加企業20社)の4つの分科会を設置。それぞれの分野において、利用シナリオ提案を行なっている。さらに、放送局などが参加する業界間連携協議会を通じた、非PC業界企業との連携によって、これまでにはないPC利用の促進を狙っている。

Windows Vista対応ガジェット

 この成果は、これから順次発売される夏モデルの中に組み込まれることになる。具体的には、NHKおよび在京民放キー局全局が、Windwos Vista対応ガジェットを開発し、NEC、東芝、富士通、MCJのPC夏モデルにこれを搭載して発売。このガシェットから、TV局が配信する最新ニュースを視聴できるなど、各局から提供されるコンテンツが利用できる。

 「WDLCによる成果が、いよいよ夏モデルから現実的になる。この勢いを、年末商戦向けの秋冬モデルに向けてさらに加速させたい」。

 これも、マイクロソフトが、「決めるなら、この夏」という理由の1つといえる。

●移行を促進させる価格戦略も

 そして、マイクロソフトは、Vistaへの移行を促進させるため、価格の面からもアプローチを行なっている。

 4月25日から出荷するWindows Vista SP1の市場参考価格は、Ultimate通常版で1万円引き下げた38,800円に、同アップクレード版で5,000円引き下げた26,800円に、Vista Home Premiumアップグレード版は、2,000円引きの17,800円とする。

 さらに、特別優待パッケージとして、1万本限定で、Vista Home Premiumアップグレードを15,800円で、Vista Home Basicアップグレード版を9,980円で販売する(いずれも税別)。

 これも、Vistaに「決める」要素にしていく考えだ。

写真はマイクロソフト 藤本マネージャー Windows Vistの特別優待パッケージ 1万本限定で、Vista Home Premiumアップグレードを15,800円で、Vista Home Basicアップグレード版を9,980円で販売

●Ultimateユーザーを対象にした取り組みも

 これらの動きは、一般コンシューマユーザーを対象とした取り組みといえる。その一方で、パワーユーザー向けの施策にも余念がない。

 その1つとして同社が開始するのが、Ultimate STYLEだ。

森洋孝シニアプロダクトマネージャ

 「Ultimate STYLEは、Ultimateを購入したユーザーに対して特別な情報を提供するサイト。米国では、3月7日からUltimatePC.comとしてサービスを開始し、Ultimateユーザーから高い評価を得ている。日本でもこれを開始し、Ultimate版ならではの機能を生かした利用提案を行なう」(マイクロソフトWindows本部 コンシューママーケティング部の森洋孝シニアプロダクトマネージャ)とする。

 Ultimate STYLEでは、PCの機能にフォーカスするのではなく、むしろ、利用シーンに則した内容となる。米国のUltimatePC.com著名なカメラマンがどんな機器を利用しているのか、どんな使い方をしているのかといったことを紹介。写真を撮影することを趣味にしている人が、どうPCを活用すべきかといった提案をしている。

 日本で展開するUltimate STYLEでは、まずはオーディオなどにフォーカスした使い方などを提案していくほか、Ultimateユーザーに限定した特別価格での製品提供を通じて行なっていく。

 Ultimate STYLEは4月25日からオープンする予定だ。

●PC市場の回復を「決める! 」ことができるか

 この夏商戦では、25歳から60歳までをターゲットにVistaの訴求活動を展開していくとマイクロソフトでは語る。そして、WDLCでは、訴求の切り口として、「TVも、ネット動画もサクサクきれい! PC de TV」を掲げ、33社が参加して店頭やオンラインを活用して、TVおよびネット動画を楽しむための施策を展開する。店頭では、5月9日から14社26店舗で、PC de TV体験コーナーが開設される。

 ここでの切り口の1つは、「大画面TVにつなげて家族みんなで楽しむ」提案。HDMIで大画面TVに接続して、メディアオンラインやインターネットコンテンツ、Windows Media Center、WindowsLiveメッセンジャーなどを利用しようというもの。2つ目は、「自分の時間を、より充実させる」として、TV機能、HDDレコーダー機能、インターネットのオールインワンデバイスであること、作業をしながらTVやインターネットを「ながら見」すること、携帯電話との連動、ガジェットを活用した取り組みなどの提案だ。そして、最後に、「外に持ち出して、モバイルを楽しむ」として、外出先で動画や静止画を楽しむという提案である。

「PC de TV」を訴求 量販店店頭では、今後夏モデルに展示が変更されることになる

 夏商戦において、PC業界は、成長を「決める!」ことができるのか。その第一歩は、まず量販店店頭のPC売り場に顧客を呼ぶことにある。これまでのオリンピック商戦では、デジタルAV機器売り場の賑わいとは裏腹に、PC売り場が閑散としていたことを思い出す。

 どれだけPC売り場に顧客を呼ぶことができるか。そこに、市場の成長を「決める!」要素がある。

□関連記事
【2007年4月25日】【大河原】Vistaは成功したか!? Windows本部ジェイミソン本部長に聞く
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0425/gyokai203.htm
【2007年4月23日】マイクロソフト、Vistaリリース後のPC販売台数に課題
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0423/ms2.htm
【2007年2月15日】Vista発売2週目に早くも失速
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0215/bcn.htm

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(2008年4月14日)

[Text by 大河原克行]


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