大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Vistaは成功したか!? Windows本部ジェイミソン本部長に聞く




ジェイ・ジェイミソン本部長
 1月30日にWindows Vistaが発売されてから、約3カ月を経過した。

 マイクロソフトでは、Vista発売以降、低迷していたPC市況がプラスに転じたこと、PCの平均単価が上昇したこと、Premiumエディションの搭載比率が予想を上回ったことなどをあげ、好調ぶりを訴えるが、さらに高い成長を期待していた業界関係者からは、力不足との厳しい指摘も聞かれる。

 果たして、Vista発売の成果はどうだったのか。また、同社が、今年7月以降の施策として掲げた「Windows Vista 2nd Wave」とは何か。マイクロソフト株式会社Windows本部のジェイ・ジェイミソン本部長に聞いた。




--Windows Vista発売3カ月の成果を、どう自己評価していますか。

ジェイミソン 4月23日の会見でもお話ししましたが、Windows Vistaのローンチは大成功であったと認識しています。PCの平均単価を引き上げ、UltimateやHome Premium、BusinessといったPremiumエディションと呼ばれる製品が予想を超える構成比で売れています。また、ソフトや周辺機器の互換性についても、Windows XPの登場時に比べて、多くの製品が対応している。Vistaの発売は、大きなインパクトを業界に与えることができたと考えています。

--しかし、業界関係者に話を聞くと、むしろ、期待はずれとの声が多いですね。販売店におけるPCの販売実績を見ても、2月はプラスに転じましたが、業界筋では前年同月比2桁以上の伸びを期待していたわけですし、3月はマイナス成長に陥った。この4月も前年割れで推移しています。

ジェイミソン Vistaのローンチそのものは強力なものでした。マイクロソフトをはじめ、PCベンダー、周辺機器メーカー、ソフトメーカー、そして、販売店といった多くの業界関係者が、発売前から現在まで、大変な努力をしてきた。また、報道関係者の方々にも大変多くのVista関連報道をしていただいた。この3カ月間に渡るVistaに関する記事は約千本に達し、米国での記事件数を大きく上回っています。

 しかし、その一方で、ご指摘のように、ローンチのあとに、PC販売の急激な増加につながらなかったという事実があったことも確かです。これからも業界全体が、継続的な努力を続けていくことの必要性を示したともいえるでしょう。

--要因はなんでしょうか。

ジェイ・ジェイミソン本部長
ジェイミソン いま、Windows Vistaを購入しているのは、アーリーアダプターと呼ばれる人たちです。最新の技術に高い関心を持っている人、高い技術力を持っている人たちに、購入していただいている。Premiumエディションの販売比率が高いこと、平均購入単価が高いことなどを見ても、それが証明されるでしょう。こうした人たちに対しては、Vistaに関する情報が、しっかりと伝わっていると思います。しかし、その一方で、一般ユーザーは、「なぜ、いま持っているPCを、Vistaに買い換えなくてはならないのか」という点で疑問を持っている。この状況については、よく理解しています。

 ここではいくつかの要因をあげることができます。

 現在、日本の家庭におけるPC普及率は6割を超えています。つまり、買い換えを促進することがポイントとなるわけですから、新たなOSを搭載したPCが、既存のPCよりも、新たな価値があるのかどうかという点が重要になる。かつてのWindows 95の時には、家庭への普及率が10%程度に留まっていましたから、初めて購入するものに対する魅力を訴えることが可能でしたし、それは多くの人に納得してもらいやすいものでもあったわけです。個人の出費負担があったとしても、購入へと動かすことは可能でした。しかし、いまあるものをマイグレーションしてもらうには、より大きな価値を提供しなくてはならない。

 一方で、Premiumエディションが中心となったことで、Vista搭載PCのプライスポイントが、当初の想定よりも上昇したことも、一般ユーザーの需要を抑える要因になったといえるでしょう。店頭ではVistaのローンチ前に、スペックが低い製品が、バーゲン価格で販売されていましたから、この差を大きく感じたのかもしれません。

--一般ユーザーにVistaのメリットが伝わっていなかったと。

ジェイミソン マイクロソフトでは、Vistaの価値を「デジタルライフスタイル」という形で、コンシューマユーザーに提案しました。Vistaに買い換えたユーザーからは、「その価値がよく理解できた」、あるいは「もうWindows XPには戻れない」という声を聞きます。使っていただいた方、あるいは触れていただいた方には理解されているのです。しかし、その一方で、Vistaに触ったことがない人たちには、それが伝わりきっていなかったことは感じています。

--量販店店頭でも、Windows XPと、Windows Vistaの展示方法には、なんら変化がありませんね。Vistaの特徴を一般ユーザーに広げる努力が足りなかったのではないですか。

ジェイミソン マイクロソフトとPCベンダー、販売店が同じ言葉で訴求していた点は大きな成果だったと思っています。ソニーやNECのTV CMを見ても、マイクロソフトの戦略と合致するように、Vistaならではの特徴を打ち出した展開を行なっている。PCベンダー各社が、Premiumエディションの訴求に力が入っている点でも、それがわかるでしょう。ただ、確かに、Windows XPに比べて、どうVistaがユニークであるのかということを、もう少し伝える必要はあるでしょう。これは、これからの大きなチャレンジになります。

--今後は、Vistaの特徴をもっと前面に打ち出したプロモーションが始まると。

ジェイミソン これまでは、バランスという点を考慮していました。Vistaの特徴的な機能ばかりを訴えすぎると、逆に、機能が多すぎて難しいのではないか、という誤解につながる恐れがあります。また、現在、Windows XPを活用しているユーザーが多いわけですから、XPと比較をして、Vistaの良さを訴求することも決して得策とは思えません。Vistaは、まったく別次元の新世代のOSであるということを、改めて、しっかりと訴えることが必要ですね。

--これまでの3カ月間は合格点ですか。

ジェイミソン マイクロソフトは自己批判が足りないのではないか、とも言われますが(笑)、私自身は100点をつけてもいいと思っています。物事には、コントロールできる部分と、コントロールできない部分とがあります。パートナーとの関係を築き、ともに取り組んできたことに関しては、我々がコントロールできる部分であり、これに対しては、100点といえるでしょう。

 互換性という点でも、多くの努力を払い、それが成果に結びついています。ただ、iPodへの対応が遅れているといったとこもありますし、この点では、まだユーザーからの厳しい評価もある。互換性では、90点ぐらいかもしれません。また、Windows XPのユーザーに対して、Vistaの良さを訴求するという点でも、マイナスポイントがあるかもしれませんね。さまざまな要因を足したり、引いたりすると、総合評価は、95点ぐらいでしょうか(笑)

--これから3カ月間の施策はどうなりますか。

ジェイミソン これまでの3カ月間と比べると、プレミアムデジタルライフを、より訴求しやすい環境ができると考えていますから、その点を訴求したい。ビックカメラやヨドバシカメラといったリアルスペースでも、プレミアムデジタルライフの提案が可能になりますし、PCベンダーなどとのコラボレーションによる、利用シナリオの訴求も開始する。PCベンダーのなかには、薄型TVとの連動提案といったクロスプロダクトによる展示を検討しているところもありますから、この点でも、これまでとは異なるアプローチができるようになるでしょう。

23日の会見で明らかにされたWindows Vistaの今後の展開 7月からの予定に「Windows Vista 2nd Wave」と記されている

--その成果はどうやって推し量りますか。

ジェイミソン まずは、大きな意味では、PC本体の売り上げ実績ということになります。また、店頭に訪れる顧客が、どれだけプレミアムデジタルライフに興味を持ったかといった指標の推移を見ることも重要でしょう。Vistaを導入するためのサービスや支援体制がどれぐらい整うのかということも気にしていきたい。また、PCベンダーや販売店とのパートナーシップを強化し、お互いに情報をフィードバックできる体制を整えることにも力を注ぐ考えです。

--5月から、コンシューマ向けPC市場はプラス成長に転じることができますか。

ジェイミソン 残念ながら、私の立場からはそれは確約できないですね。ただ、プラス成長に転じることを、私自身、大変期待していますし、そのための努力は惜しまない。前年の5月と6月は市場が大きく伸長したわけでもありませんから、その分、プラスに転じる可能性があるという見方もできるでしょう。これまでやってきたことは決して無駄にはならないと思いますし、Vistaの良さは、着実に市場に浸透していくことになる。Premiumエディションが売れている比率は、日本が最も高い。これは、見方を変えれば、Vistaの良さが伝わりやすい環境にあるともいえますからね。私自身、これからが楽しみです。

--先日の会見では、7月からの新年度にあわせて、「Windows Vista 2nd Wave」をスタートすると発表しました。詳細には一切触れませんでしたが、これは何を意味しているのですか。

ジェイミソン いくつかのポイントがあります。ひとつは、Windows XPから、Vistaに乗り換えていただくための仕掛けを強化すること、2つめには、Vistaによって提供されるプレミアムデジタルライフの認知度を高めていくことです。パートナーとの連携によって、PCを使った快適な生活シーンを提案し、Vistaによって、どんな価値が享受されるのかを、多くの人に知っていただきたい。そして、3つめには、Windows Liveで提供される新たな体験を、Vistaの上で提供していくことになる。ここでも新たな価値を提案できるはずです。また、日本の家庭へのPC普及率は60%を超えていますが、見方を変えれば、まだ40%の家庭にはPCがないともいえる。こうしたユーザーにも、Vistaを搭載した最新のPCによって、生活が大きく変わることを知っていただきたい。Windows Vista 2nd Waveは、Vistaが日本の社会により深く浸透し、豊かなライフスタイルやビジネススタイルの実現に貢献するものになると思います。

□マイクロソフトのホームページ
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(2007年4月25日)

[Text by 大河原克行]


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