大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

2.5インチ手のひらサイズNASに、バッファローが踏み出す理由




 バッファローが3月27日から発売した、手のひらサイズのNAS製品である“LinkStation Mini”「LS-WS1.0TGL/R1」が、順調な出足を見せている。

 一見すると、2.5インチの小型化と1TBの大容量化、NASならではの機能性という組み合わせは、これまでのPC用データストレージとしての用途から考えると、違和感を感じざるを得ないものだ。なぜバッファローは、手のひらサイズの大容量NAS製品を投入したのだろうか。

●製品化の発端は単純な発想から

 この疑問に対して、「製品化の発端は、2.5インチの500GBディスクを2つ組み合わせれば、1TBという大容量HDD製品ができる、という単純なきっかけからはじまったもの」と答えるのは、バッファローの市場開発事業部NASマーケティンググループリーダー・松崎真也氏。また、開発を担当する市場開発事業部次長の大屋誠エンジニアも、「具体的に想定した使い方があったわけではなかった。ただ1TBという容量であれば、新たな価値が出るだろうという気持ちはあった」と異口同音に、綿密なマーケティングを元にした製品開発ではなかったことを明かす。

バッファロー 市場開発事業部NASマーケティンググループリーダー 松崎真也氏 バッファロー 市場開発事業部次長 大屋誠エンジニア

 1TBの容量を実現したHDDは、すでに3.5インチドライブでは多くの出荷実績がある。だが、2.5インチではまだ商品化されたものがない。「いまの500GBディスクの容量単価であれば、3.5インチで構成した製品に比べても、それほど遜色がない価格設定ができる。さらに、手のひらに乗せられるという驚くような小型化が実現できる。商品化した時に、インパクトを与えられると判断した」と松崎氏は語る。

 LinkStation Miniの本体サイズは40×135×80mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約500g。まさに手のひらに乗せられるHDDだ。

 実際、小型化には徹底的にこだわった。通常ならば設計段階では、あまりモックアップを作ることがない同社だが、2.5インチHDDが2基入るギリギリのサイズをベースに、縦置きや横置き、平べったい形状のモックアップをいくつか作り、コンパクト化に向けた議論を重ねていった。

 「手のひらに乗せられるこのサイズならば、1TBという大容量とあいまって、注目を集めることができると考えた。仮に、これよりも大きなサイズになると、2.5インチを採用したメリットが活かせないと判断し、このサイズには徹底してこだわった」(松崎氏)。

LinkStation Miniの内部。メイン基板を挟むように2.5インチHDDを配置 インターフェイス部分などを含めても薄型化されている
インターフェイス部分とHDDのアップ LinkStation Miniの筐体

 確かに、手のひらサイズで、1TBのインパクトは大きい。だが、NASの性格上、必ずLANケーブルで接続され、さらに、ACアダプタでの電源確保が必要となる。付属しているUSB 2.0も、PCに接続してデータの入出力をするといった使い方はできずに、あくまでもデジカメなどからのデータ入力用でしかない。つまり、小型化の最大のメリットとなる、持ち運んで利用する用途には適さない製品だともいえる。

 それであるにも関わらず、バッファローは小型化にこだわった。では、2.5インチの採用による小型化によって、どんなメリットを提案しようとしたのだろうか。

パッケージでも東芝「REGZA」との連動をアピール

 これの疑問に対して、松崎氏が提示した1つの回答が、「薄型TVとの連動」である。LinkStation Miniでは、東芝の液晶TV「REGZA」との連動が可能となっており、それが同製品の1つの特徴といえる。

 「小型化したメリットを生かして、薄型TVとラックの間に、違和感がない形で設置することができる。薄型TVの周辺機器の1つとしての利用を想定した」と語る。

 LinkStation Miniで映像を録りため、また、その映像をREGZAで視聴するという用途である。

 実は、LinkStation Miniでは、フロントパネルのLEDの光が明るすぎないように調整している。これは、このようなリビングでの使い方を想定して、視聴する人たちに光が邪魔にならないようにという配慮からだ。また、横置きに設置することで、存在感を最低限に抑えるといったことも狙った。これらデザインの工夫は、PC向けデータストレージとしての利用とは別のところから発想されたものだ。

 そして、小型化へのこだわりについては、単に最小化だけを追求したわけではない。

 例えば、ACアダプタのケーブルが抜けないように工夫した同社特許のフックは、利便性を追求し、外に飛び出さないように、筐体内に埋め込んでいる。また、2.5インチHDDの搭載により発熱を抑えることができ、ファンレスを実現した。これもTVの周辺機器の1つとして捉えた場合、大きな威力を発揮することになる。

 「当社の3.5インチドライブの製品も静音性で高い評価を得ているものの、やはりファンの回転音が気になるという人たちがいる。だが、こうした要望に対して、ファンレスであるLinkStation Miniは、1つの回答を提示できたと考えている」(大屋次長)。

 ここにも、薄型TVとの連動提案において、LinkStation Miniが効果を発揮する理由がある。

LinkStation Miniのフロントパネル。文字の部分がアクセスランプになっている ACアダプタのケーブルを抜けないようにするためのフック 2.5インチHDDのLinkStation Miniと3.5インチHDDのLinkStationの大きさ比較

●省電力化で環境にも配慮

 もちろん、PC用データストレージとしての使い方を視野に入れていないわけではない。

 「あくまでも最も多い利用シーンは、PCとの接続利用。その利用シーンにおいて、小型化によるメリットとともに、信頼性の高い安定的な利用が可能になる」(松崎氏)。

 LinkStation Miniは、RAIDはRAID 0(ストライピング)/1(ミラーリング)に対応。500GBの2.5インチHDDを2台内蔵したことで、1つのドライブをミラーリング用途として活用できる。

 「写真などのデータを2台のHDDに同時に書き込むミラーリング機能によって、自動的にデータのコピーができ、万が一、片方のHDDが故障しても、もう一方のHDDからデータを読み出すことができる」というわけだ。

 また、消費電力の低さも2.5インチドライブのメリットの1つといえる。

 ネットワークにつながっているPCの電源に連動して、LinkStation Miniの電源をOFFにする「PC連動電源機能」により、PC未使用時の無駄な消費電力を削減。同社従来製品に比べ消費電力を約90%削減し、年間の電気代を約1万円節約できる(1日あたり6時間のPC利用で、電源ON時約10W、待機時約4Wとして計算)としている。2.5インチによって、環境配慮といった点でも効果も発揮するというわけだ。

パッケージ表面。消費電力を約90%カットとアピール 裏面には「地球にも家計にも優しい」と表記。1万円の電気代の節約も強調

●発売にあわせた価格改定の狙いは何か

 同社では、LinkStation Miniの出荷日にあわせて、同製品の価格を改訂した。当初発表していたのは89,250円。27日の出荷時点では、いきなり、ここから11,550円も値下げした77,700円としたのだ。

 「ドライブの調達価格が安くなったための措置ではない。2.5インチHDDを多くの人に活用してもらうための戦略的価格設定。赤字ではないが、利益が出ない価格設定」(松崎氏)とする。

 一般的に業界では、HDDやメモリ製品においては、今後の調達価格の動向を捉えて、発売時点では収益性が低くても、あらかじめ戦略的価格を設定する場合がある。今回の製品もその要素が多分に含まれたものであり、戦略的価格による市場への普及戦略と、それに伴う販売目標数の引き上げとともに、将来の2.5インチのドライブの調達価格の引き下げを見越した設定としたのだ。

 だが、HDD新製品で、発売日に価格引き下げを発表するのは、やはり異例のこと。それだけ、同社の経営トップもこれを戦略的製品と位置づけていることがわかる。

 「NASはこんな使い方ができるんだ、こんな楽しいことができるんだ、ということを知っていただく機会にしたい」と、同社では語る。

 例えば、祖父の家のTVに接続する形でLinkStation Miniを設置。それを、自宅のPCからネットワークを通じて、祖父の家にあるLinkStation Miniに孫の写真をアップロードすれば、祖父の家では、いつも最新の孫の写真が閲覧できるという環境が整う。しかも、同社のビデオプレーヤー「LinkTheater(リンク・シアター)」と連動させれば、指定されたボタンだけで閲覧できるため、デジタル機器の操作に不慣れな高齢者でも、簡単に画像を再生できる。

 また、iTunesサーバー機能による楽曲管理や、DLNAサーバー機能による映像の一元管理、FTPサーバー機能によって、デジカメで撮影した画像を友人と共有したいといった使い方が可能もなる。

 同社では、NASの新たな利用方法として、こうした利用提案をしたいという。

 「小型化することで、NASの利用シーンが拡大することになるだろう。いろいろな形で利用提案をしていきたい」(松崎氏)という。

●今後のラインアップ強化にも注目

 同社では、今後、2.5インチドライブを搭載したHDD製品を、LinkStation Miniシリーズとして、ラインアップ強化する方針だ。

 まだ、「具体的なプランがあるわけではない」とするが、「HDD容量を小さくして、より低価格で購入できるような製品の投入、あるいは無線LAN機能を搭載して、より利便性を高めた製品の投入などを検討したい」とする。

 今回のLinkStation Miniの第1号製品を投入したことで、購入者や量販店担当者の間から、小型軽量化の特徴を活かした新たな製品に対する要望もあがっているという。同社では、それらの声を取り入れて、製品を進化させていく考えだ。

 今後、同社では、2.5インチHDDによるNAS製品を、新たな利用提案を含めながら、事業を拡大させていくことになりそうだ。どんな進化を遂げるのか、注目したい。

□バッファローのホームページ
http://buffalo.jp/
□製品情報
http://buffalo.jp/products/catalog/storage/ls-wsgl_r1/
□関連記事
【4月2日】【槻ノ木】バッファロー「LinkStation Mini」を試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0402/pclabo44.htm
【3月5日】バッファロー、手のひらサイズの小型1TB NAS「LinkStation Mini」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0305/buffalo.htm

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(2008年4月8日)

[Text by 大河原克行]


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